廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ミルト・ジャクソンとワン・ホーン(1)

2024年04月22日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Milt Jackson / In A New Setting  ( 米 Limelight LM 82006 )


繊細で上質でブルージーなミルト・ジャクソンは、意外とワン・ホーンがよく合う。本来であればそういう持ち味を味わうにはシンプルな構成の方が
良さそうなものだが、管楽器が1本入ることでその分音楽に幅ができるからかもしれない。リード楽器でもあり、和音楽器でもあるこの不思議な
音色を持つ楽器はある時は背景として、ある時は相方として管楽器に寄り添う。その理想形の1つがミルト・ジャクソンのアルバム群の中にある。

マッコイ・タイナー、ボブ・クランショウが参加しているところがいかにも60年代だが、メインストリーム・ジャズながら音楽が古臭くないところが
こういうメンバーに依るところなんだろう。でも、音楽が60年代の箍が外れた感じはなく、しっかりとメインストリームに漬かっているのは
ジミー・ヒースという中庸のサックス奏者のおかげだろうと思う。誰一人尖ったことをやろうとはせず、ミルト・ジャクソンという大物を立てながら
足並みを揃えて演奏を進めていく。

静かな楽曲ではマッコイのピアノの音色が美しく、まるでコルトレーンの "Ballads" のような雰囲気があるし、マイナー・キーのアップテンポな
楽曲ではまるでルパン三世のサントラかと思わせるような粋な演奏を聴かせる。そんな風に、このアルバムは何より音楽が素晴らしい。
おそらくはロックの影響か、各楽曲の演奏時間が短く設定されており、途中でフェイド・アウトするような編集を施されたものもあったりして、
もっと聴きたいという気持ちを搔き立てながらもダレることなく小気味よくサクサクと進んでいき、これも悪くない。

頑固な50年代のジャズに固執することなく、もっと軽やかにステップを踏むような感じが何とも爽快で、それでいて注意深く聴くととても高度な
演奏力に支えられていることがよくわかる、素晴らしい内容だ。ライムライトはいいレコードを作った。このレコードは私のお気に入り。



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選曲の良さに見る天才

2024年04月13日 | Jazz LP (RCA)

Bud Powell / Swingin' With Bud  ( 米 RCA Records LPM-1507 )


レッド・ロドニーの演奏する "Shaw Nuff" を聴いていてすぐに思い出したのがこのパウエルの演奏で、私の中ではこの曲の基準はパウエルのこの
レコードになっている。もちろんパーカー&ガレスピーの演奏がマスターピースで、管楽器で演奏するのが正道だろうと思うけど、ピアノで弾く
この曲の良さには独特なものがあるのを証明している。ピアノ奏者が演奏している例は少ないようだけど、ビ・バップを作った面々の一人である
パウエルならではということなのだろう。

バド・パウエルはモダン・ジャズ・ピアノの演奏スタイルを作った人なのでその路線で語られることがほとんどだけど、私はそういう話にはあまり
興味がなくて、この人の音楽センスにシビれて心酔している。このレコードはたくさん残っているパウエルの記録の中でもそういう彼のセンス、
つまり作曲能力や素晴らしい楽曲を選ぶセンス、そして音楽の良さを大事にする演奏という点で筆頭に挙げられるものだと思っている。

彼は素晴らしい曲を書ける人で、ここでは名曲 "Oblivion" や "Midway" が収録されている。"Oblivion" はマーキュリー盤が初演であちらはソロ演奏
だけど、こちらはトリオでより豊かな雰囲気に仕上がっている。いくら演奏力が高くても、楽曲がつまらなければ聴いていても面白くない。

また、演奏する楽曲を選ぶセンスにも長けていて、このアルバムではジョージ・シアリングの "She" やトミー・フラナガンがムーズビル盤で冒頭に
置いた "In The Blue Of The Evening" 、ジョージ・デュヴィヴィエの "Another Dozen" のような名曲を選んでいる。マイルスやキース・ジャレットが
選曲力の良さで知られているけど、その元祖はパウエルだったのだと思う。これらの知られざる名曲があるあかげで、このアルバムは上質な香り
が濃厚に漂う仕上がりになっている。

そして、こういう優れた楽曲たちの原曲が持つ良さを最大限に生かすように旋律を大事にしながら驚異的なアドリブを混ぜて弾くところに
バド・パウエルのバド・パウエルたる所以がある。演奏力の凄さだけではなく、総合的に豊かな音楽を生み出す天才を感じるのだ。

そして、このジャケットの写真はバート・ゴールドブラットが撮影している。写真の構図としては平凡だが、なぜか心に残る写真ではないか。
そういういろんな面を持った素晴らしい1枚となっている。


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数少ない作品の中の1つ

2024年04月08日 | Jazz LP (Argo)

Red Rodney / Returns  ( 米 Argo LP 643 )


40年代からプロとして活動し、パーカーの傍にいることができたという僥倖に恵まれたにも関わらず、ドラッグで身を持ち崩し、50~60年代は
その足跡がまともに残せなかったレッド・ロドニー。アルバムは12インチは3枚しか残っておらず、上手いトランペッターだっただけに何とも
残念なことだ。

シカゴのローカルメンバーをバックに録音されたこのアルバムはハードバップの豊かな香りが立ち込める名作。ビッグバンドや裏方の活動が主で
自己のリーダー作を持たないビリー・ルートを迎えた2管編成の王道で、このレーベルのイメージにはそぐわない程の本格的なハードバップを
聴かせる。パウエルの名演を想い出す "Shaw Nuff" で幕が開き、緩急自在な曲を並べる構成も見事でこのアルバムは非常によくできている。

テナーのビリー・ルートの存在感が大きく、この人抜きにはこのアルバムは語れない。太くマイルドな音色、適切な音量とスピード感、自己主張を
控えた演奏なのにそういう美点が彼の存在を大きく前に押し出す。この優れたテナーを軸に、無名のバックのトリオも堅牢な演奏を聴かせて
音楽を支える。メンバーに恵まれたロドニーも非常によく歌う見事な演奏に終始する。どこからどう聴いても、これは傑作だとわかるだろう。

これほどのアルバムが作れるのに、アルバム数が少ないというのは惜しいことである。「リターンズ」というタイトルが付くアルバムは例外なく
麻薬禍でシーンから一時消えたミュージシャンの復帰作に付けられるもので、本来は不名誉なものだ。アート・ペッパー、デクスター・ゴードン、
ハワード・マギー、と数え始めればキリがないが、ジャズが一番よかった50年代後半に本来であればもっとたくさんのアルバムを出せたはずなのに
と悔やまれる人は多い。貧しく、教養もなく、モラルも低い層がこの音楽をやっていたということだけど、そういうことが信じられないくらいに
残された音楽は素晴らしい。ジャズというのは不思議な音楽だとつくづく思う。



コメント (2)
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