廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

短信 Warner Bro. 1

2018年10月31日 | Jazz LP (Warner Bro.)

Bill Evans / New Conversations  ( 米 Warner Bro. BSK 3177 )



晩年の静かな心象風景が映し出された傑作。 "You Must Believe In Spring" より、こちらの方が好き。

録音も自然な音色で、こちらはアメリカ盤で問題ない。 尤も、これはドイツ盤がないけれど。

冒頭、出だしの1音で、ゾワッ、と鳥肌が。

そして、最後のエリントン、 "Reflections in D" で落涙。



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聴き続けることの意味

2018年10月28日 | Jazz LP (OWL)

Michel Petrucciani / Cold Blues  ( 仏 OWL Records OWL 042 )


この美しい音で彩られた音楽の素晴らしさを一体どう説明すればいいのかがわからず、既に1ヵ月以上が過ぎようとしている。 ただ音が美しい
というだけではないし、何よりその美音が最終的に音楽としての素晴らしさに結実していることを語れなければ意味を為さないではないか。
 
美しい音というのは既にそれだけで完結してしまっているかのように思いがちだが、この音楽を聴いているとそれは少し違っていて、その美しさは
なぜ美しいのか、というよりなぜそうまで美しくあらねばならないのか、という風に意味論から存在論へと疑問が質的転換を起こし始める。 
美しい音が鳴らせるから素晴らしい音楽が出来上がったのではなく、この音楽を成立させるためにその音は美しくなっていった、若しくは
かくも美しくならざるを得なかった、というように。 音と音楽の関係性を根本から問い直す必要に迫られている。

ペトルチアーニの最高傑作は "赤ペト" だと思っていたが、その認識も今では揺らぎ始めている。 冒頭の "Beautidul, But Why?" が流れ始めると、
"赤ペト" の記憶はこちらに取って代わって上書きされる。 どんなに素晴らしいと思っていたものにも、更に上をいく感動があり、自身の音楽体験
というものは常に更新され続けていくのだと思う。 私たちが何千、何万ものレコードやCDを聴いていても、それでもなお未知なる音盤を聴こうと
するのは、そういう記憶の更新、新たな感動の途切れることのない継続を求めているからに他ならない。 
一体どれだけレコードを買えば気が済むの? とあきれ顔で問われても、臆することは何もないのだ。 
このレコードを聴いて、改めてそう思った。

仏OWLの録音は素晴らしい。 ペトルチアーニとこのレーベルの組み合わせは、キースとECMの組み合わせにも負けていない。 

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クルー・カットの青年がデビューした頃

2018年10月27日 | Jazz LP (Debut)

Paul Bley / Introducing  ( 米 Debut DLP-7 )


既存のレコード産業に不満があったチャールズ・ミンガスが妻とマックス・ローチと3人で立ち上げたこのレーベルは、その名の通り、将来有望な新人が世に出るのを
支援するという極めて真っ当な目的でスタートした。 その後の活動を見ても明らかな通り、ミンガスは中々の事業家だと思う。 優秀なブレーンさえいれば、
起業家としても成功したかもしれない。 このレーベルで"デビュー"を飾った面々にはケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、テオ・マセロなど重要人物の
名前が並んでいる。そしてカナダからN.Yに来ていたポール・ブレイもここでレコード・デビューを飾っている。ミンガスが自らベースを弾き、アート・
ブレイキーも招いている。

5歳の時にヴァイオリンを始め、11歳でモントリオールの音楽院の学位を取るような早熟だったらしいが、その頃からベイシーやウディ・ハーマンのレコードを
聴きながらジャズ・ピアノも弾き始めており、早くからジャズを志向していた。 その成果がわかる内容で、その後の活動ぶりが信じられないような純正統派な
バップ・ピアノ・トリオなのが面白い。 如何にも白人の弾くピアノで、いわゆるジャズのフィーリングは希薄であり、そこが当時は新しかったのかもしれない。
"Split Kick" がとてもこなれた感じになっているので、この人もホレス・シルヴァーを懸命にコピーしていたクチかもしれない。

裏ジャケットのライナー・ノートにはこの人の風貌がジャズ・ミュージシャンらしくない(大学教授のようなクルー・カット)ことが色々書かれているが、
彼が60年代以降どういうファッションになっていくのかを知っている我々の眼から見ればこの記述は微笑ましい。 そして風貌の変容ぶり以上に、彼の音楽が
このアルバムの内容からは想像すらできないほど変わっていくのだから、芸術というのはわからないものだ。 そのスタート時点としてこれがある、というのを
知っておくのは重要なことだと思う。


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短信 Enja 1

2018年10月24日 | Jazz LP (Enja)

Tommy Flanagan  /  Ballads & Blues   ( 米 Enja 3031 ST )


これ、傑作だったんだなあ、知らなかった。 安レコだけど。 Enjaでは "Eclypso" の世評が高いみたいだけれど、私はあれはダメ。 

通して聴いたけど、このタイトルは内容にそぐわない。 ちょっと適当過ぎるよね、これは。 それに、ジャケットもね。

普段は懐の奥底深くに隠している本気が「ギラリ」と光ったのを見たような気がする。

もっとエンヤ盤をちゃんと聴いてみなきゃ、と思った。


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ミンガスの慧眼

2018年10月21日 | Jazz LP (Debut)

John Dennis / New Piano Expressions  ( 米 Debut DEB-121 )


最近聴いて、ちょっと驚いたこのレコード。 エサ箱では時々見かけるので特に珍しい訳でもなく、マイナー・ピアノトリオにはあまり興味がないのでこれまで
聴こうという気にもなれずにいたが、新品同様の状態で転がっているのを見て、こんなところに置いてたらすぐに傷んでしまうじゃないかと不憫になった。
そういう感心しない動機だったので期待もせずに聴き始めたが、すぐに耳が釘付けになった。

ジャズピアノの基本がとてもしっかりとしているライン上にこの人の新鮮な感覚で作り出すフレーズの洪水が溢れていて、「これは凄い」と1人で小躍りした。
A面は自作のオリジナル曲で固められているが、メロディーが美しく、想像力の自由な飛翔が感じられる楽曲が並んでいる。 それは頭で考えて練られたフレーズ
というよりは、思うがままにピアノを弾いていく中で書き留められたもののような自然さと自由さを感じる。 アドリブラインも今まで聴いたことがないようなもの
ばかりで、それらが美しいタッチで紡がれていくのを唖然としながら見ているような感覚になる。

この人のアルバムはこれ1枚しかないようだ。 後は同じこのレーベルのサド・ジョーンズのリーダー作で弾いているくらいしかなさそうである。 唯一の情報は
裏ジャケットのライナーノートに少しだけ言及された経歴だけ。 4歳からピアノを弾き始めて、16歳までは地元の教会なんかで演奏していた。 その後地方都市を
転々としながらギグに顔を出し、アトランティック・シティーではワイルド・ビル・デイヴィスやチャーリー・パーカーとも共演していたらしい。

その後どういう経緯でミンガスに見出されたのかは不明だが、自身がベースを弾いてちゃんとリーダー作も出してやるなど、かなり気に入られたようだ。
ミンガスもベースソロでは唸り声を発しながら熱演している。 音質もまずまずで、問題なく演奏の素晴らしさを堪能できる。 
さすがはミンガス、その慧眼振りは本物だったのだと思う。


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西海岸で披露された最高級のハードバップ

2018年10月20日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Kenny Dorham & Jackie McLean / Inta Something  ( 米 Pacific Jazz PJ-41 )


傑作 "Matador" を録音する契機になったのは、この西海岸でのライヴだったのかもしれない。 この時期、ドーハムとマクリーンの2人は一緒に活動していたようだ。
マクリーンが重度のジャンキーだったのでドーハムは正式なグループという形には敢えてしなかったようだが、それでも演奏の纏まり具合いは見事だ。
リロイ・ヴィネガー以外は東海岸のミュージシャンなので、どっぷりと深いハードバップ色に染まっている。

あまりに完成度の高い演奏なので、曲が終わって拍手が入るまでこれがライヴ演奏だとは気付かないくらいだ。 ドーハムのラッパが非常によく鳴っていて、
他のアルバムで聴ける彼の演奏とは雰囲気がまるで違う。 ブレイキーとのカフェ・ボヘミアでの演奏を思い出させる素晴らしい演奏をしている。 この人は
ライヴになると人が変わるのかもしれない。 ハンドルを握ると人格が変わる隠れ凶暴ドライバーのように。

マクリーンのアルトも太くて重い音がフルトーンで鳴り響いていて、まるでテナーのようだ。 アルトをこんな重い音で鳴らした人は他にいない。 ライヴの演奏を
こうして聴いていると、何だか殺気立った音に恐ろしくなる。 "Lover Man" もバラードの抒情というよりは、もっと違う何かが雰囲気として漂う。

全編が凄い演奏で、たまたま受け皿がパシフィック・ジャズだったというだけで、内容は最高級のハードバップ。 録音も良くて、リロイ・ヴィネガーのベースが
管楽器に負けない音で録られている。 RVG録音だと言っても信じる人がいるんじゃないだろうか。 そういう粗削りで生々しいサウンドでこの圧巻の演奏が
聴けるから長年探していたわけだが、手頃な値段で拾えたのはラッキーだった。

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ちょっと、休憩

2018年10月17日 | 猫とジャズ



猫と暮らすレコードマニアの必需品は、何はともあれ、ダストカヴァーのついたアナログ・プレーヤーである。

そこは絶対乗っちゃダメだよ、と言えば言うほど、乗りたがるのが猫という生き物なのである。

ダストカヴァーがなければ、今頃うちのレコードはどれも疵だらけになっていたはず。

私に選ぶ権利なんて最初からない。、猫が使っていい機器を選ぶのである。


じゃあ、猫と暮らすのをやめるか、と言うと、そんなことはできない。

なにせ、私は猫と一緒に音楽を聴くのが何より好きだから。


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優れたプロデューサーの下で

2018年10月14日 | Jazz LP (United Artists)

Kenny Dorham / Matador  ( 米 United Artists UAJ 14007 )


ロック畑からは総じて評判の悪いアラン・ダグラスだが、独自の才能があったことは認めざるを得ない。 アンダーカレントもマネー・ジャングルも、この人が
いなければ出来上がらなかった。 ユナイテッド・アーティスツでダグラスがプロデュースした作品は、そのアーティストの作品群の中では独特の高みを極めたもの
という評価を得て残っている。 スノッブな芸術手法に頼らず、結果的に芸術点の高い作品に仕上げているのだから、まあ凄いのは間違いない。

アンダーカレントやマネー・ジャングルに共通するアルバム全体を薄っすらと覆っているある種の暗さがこのアルバムにもある。 ドーハム、マクリーン、ティモンズ
というこの顔ぶれは、他のレーベルであれば凡庸なハードバップ・セッションで終わっていただろう。 ところが、"マタドール" というキー・コンセプトを使って
異国情緒を違和感なく滑り込ませることで、このアルバムは格調の高さを帯びた作品へと持ち上がることになった。

アルバム全面をコンセプチュアルにしなかったのは賢明な判断だったと思う。 そんなことをすればジャズらしさが失われてさぞかし胡散臭い内容になっただろう。
A面の雰囲気がうまくB面にも引きずられていて、普通のハードバップの演奏にも関わらずプラスαの雰囲気が漂っている。 よく計算された設計になっていると思う。

部品1つずつを単眼的に見れば各メンバーの演奏は如何にも彼ららしい演奏をしているが、アルバム全体が普段の彼らの力量以上のものに仕上がっているのは
プロデューサーの手腕によるところが大きかったはずだ。 ただ、それでもA面でのドーハムのラッパは情感のこもった印象深いものだし、マクリーンの
"Beautiful Love" は最良のバラードとなっている。 このアルバムはケニー・ドーハムのアルバムとして見ても、ジャッキー・マクリーンのアルバムとして見ても、
エヴァンスにとってのアンダーカレントと同じような位置付け、つまり他の多くの作品たちとは少し離れたところに孤高の峰としてそびえ立ち続けるだろう。


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行き着いた先の傑作

2018年10月13日 | Jazz LP (Argo)

Sonny Stitt / S/T  ( 米 Argo LP 629 )


ヴァーヴやルーストは一通り聴いたがどれもピンとこず、自分にはスティットは合わないままなのかと諦めかけていたところでこれに行き着いた。
これはとてもいい。

バックのラムゼイ・ルイス・トリオとの融合感が高くて、ゆったりと伸びやかに吹いている。 隅々まで神経が行き届いていて、とても丁寧なプレイだ。
アルトとテナーを持ち替えながらの演奏だけど、テナーになっても技術的に落ちないので、全体に統一感がある。 楽器がよく鳴っていて、音もきれいだ。

それに、他のレーベルでの演奏よりも落ち着きがあるに感じる。 バラードを演奏しているわけではないのに、そういう音楽を聴いているような感覚に
なってくる。 録音時のスティットの心持ちがそういう感じだったのだろう、それが演奏を通して聴き手に伝わってくるようだ。

それに何より、このレコードは音が抜群にいい。 アーゴでこんなに楽器の音が輝かしい張りと音色で鳴るものは他にあまり記憶にない。 程よい残響感が
空間を上手く演出していて、演奏が生々しい。 こういう音で聴けば、ジャズという音楽の良さがより一層よくわかる。

演奏の質自体はルースト時代とは変わってはいないけれど、再生時の音場感が演奏の微妙なニュアンスを浮かび上がらせて聴き手の心を動かすことがあって、
このアーゴ盤にはそういうところが顕著だ。 ルースト盤では音圧はあるけれど平面的で一本調子に聴こえた演奏が、こちらはもっと自然な感じで楽しめる。 
廃盤価格としてはルースト盤の1/4であるアーゴ盤の方が圧倒的に感動が大きいのだから、中古レコードというのはいくつになっても難しい。


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DAWN にも音のいいレコードがある

2018年10月10日 | Jazz LP (Dawn)

Richie Garcia / A Message From Garcia  ( 米 Dawn DLP 1106 )


若い頃に憧れたレコードの1つにズート・シムズの "The Modern Art of Jazz" があった。 当時読んでいた油井先生の名盤100選に載っていたそのアルバムは
当然ながら廃盤で、入手はおろか、現物を見たことすらなかった。 だから何年か過ぎてそのレコードを手に入れた時の嬉しさとガッカリ感はハンパなかった。 
とにかく音がこもっていて、まるで分厚いカーテンの向こうで鳴っているのを聴いているような感じだった。 結構高い値段だったにもかかわらず、すぐに
聴かなくなってしまい、早い段階で処分したように思う。 それ以来、この "DAWN" というレーベルに良い印象が無くなってしまった。

ところが、数年前に同レーベルのアル・コーンの渦巻きアルバムを聴いて、それまでの固定観念は崩壊した。 まあ、恐ろしいくらいの音が鳴るレコードで、
このレーベルにもこういう音が出る盤があるんだ、ということを知った。 誤解が氷解すれば、後はボチボチと聴いて行けばいい。

先のヴィンソン・ヒルと一緒に拾って来たこのリッチー(ディック)・ガルシアもとてもいい音で鳴る。 アル・コーンのようなこちらを脅すような音場ではなく、
もっと品が良く、それでいて豊かな残響が奥行き感と立体感をホログラムのように表出させるような感じだ。 楽器の音も明るく輝いていて、ハーモニーも
音が潰れて濁ったりすることもなく、構成音がきちんと分離して聴こえる。 音圧も高く、見事なモノラルサウンドで部屋を満たしてくれる。

白人の小粒な奏者が集まって演奏しているから、きっとサロン風の退屈な内容なんだろうなというこれまた誤った先入観で手に取ることなく来たのだが、
きちんと聴いてみるとこれが予想を覆す素晴らしい内容で、これまたビックリした。 そもそも、ビル・エヴァンスが数曲弾いているなんて知らなかった。

でも、ここでの聴き所はジーン・クイル。 涼し気で清潔な澄んだ音色が本当に美しく、初めてこの人のアルトに感動した。 今まで聴いていたルースト盤や
プレスティッジ盤は一体なんだったんだろう。 トニー・スコットと楽曲を分担しているのが惜しい。 全編クイルだったら、このアルバムの評価は
おそらく一変していただろうと思う。

どの曲も短いが繊細で清涼な雰囲気があって、それでいて軟弱ではなく聴き応えのある音楽になっているのが素晴らしい。 これは思わぬ拾い物だった。


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ベン・ウェブスター最後の記録

2018年10月08日 | Jazz LP (Steeplechase)

Ben Websteer / My Man ~ Live At Montmartre 1973  ( デンマーク Steeplechase SCS-1008 )


ベン・ウェブスターは1973年9月にアムステルダムで亡くなっているが、これはその半年前に行われたライヴ演奏の様子で、ラスト・レコーディングのようだ。
スティープルチェイスには歴史的に見て重要な録音がたくさん残されているが、これもその1つと言っていいかもしれない。

渡欧後は気が向いたら場所を選ばずに古いスタンダードなどを悠々と吹くという、穏やかで静かな生活を送っていたようだ。 心身共に傷ついて流れていった
というわけではないので、途切れることなく活動は続いていて、レコードもかなりの数が残っている。 一般的にはヴァーヴの作品を何枚か聴いて終わり、
という感じだろうが、それ以降の作品もヴァーヴ期と同じ傾向の内容なので、出逢いがあれば聴いてみるようにしている。

このモンマルトルでの演奏はさすがに衰えは隠せないけれど、そもそも隠そうともしていない、ありのままの姿を聴くことができる。 アップテンポの曲では
しっかりとリズミカルに、バラードでは深いサブトーンを効かせて、しっとりとした演奏をしている。 その姿には立ち枯れたという感じはない。
どちらかと言えば、バックの現地ピアノ・トリオの演奏の方が少し木目が粗いかな、と感じるくらいだ。

ベン・ウェブスターはこれでいい。 これ以上のことは何も求めない。 変なことをやられたら、逆にシラケてしまう。 本人もそのことは十分わかっていた
のだろうと思う。 60年代後半以降のモンマルトルにはパウエルやデックスも出ていたのだから、まあ凄いことである。 演奏できる場があり、演奏を聴きたいと
願う人がいて、それを記録する手段もあったわけだ。 後世の我々はありがたく聴けばそれでいいのだと思う。


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存在理由があるピアノ・トリオ

2018年10月07日 | Jazz LP (Savoy)

Vinson Hill / And His Trio  ( 米 Savoy MG-12187 )


仕事帰りに拾った安レコ。 何者なのかは不明だが、取り敢えずはサヴォイだし、安レコだし、ということで連れて帰った。 その程度の消極的動機で
聴き始めたのだが、これが予想外の良さでちょっと驚いた。 これだから安レコ漁りは止められない。

スタンダードとオリジナルが半々の構成だが、スタンダードへのアプローチがありきたりのやり方ではなく、現代の方へ向いた当時としては新しい演奏をしている。
オリジナルも思索的な仕上がりで、全体的に聡明さに溢れ、自身の内面と上手く交感し合った音楽を創り上げている。 知的、という意味で言うなら、
例えばドン・フリードマンなんかよりはこちらのほうがずっと優れていると思う。 ただ、知的という言葉で表現されるよりは、もっとしっかりと地に足が着いた
ソリッドな手触り感のある音楽で、これは見事な出来だ。

最近はそうでもないようだが、一時のピアノ・トリオ・ブームは凄くて、CDの新品フロアがピアノ・トリオの作品で埋め尽くされていた時期があった。
ピアノ・トリオは一番平易な音楽で、音楽の素養なんかなくても誰でも楽しめるからだろうけど、供給側の粗製濫造振りには嫌悪感しか持てなかった。
どれだけ耳を凝らして聴いてもどれも皆同じような演奏で、各々の違いなんてさっぱりわからなかったけど、店頭では次から次へと新しい作品が陳列されて、
その回転の速さにはまったくついて行けず、呆然と眺めるしかなかった。

別に昔はよかったというつもりはないけど、こういうレコードが作られていた時代は各レーベルの中でピアノ・トリオの作品が占める比率はさほど多くはなく、
制作は厳選されていた。 だから残されたピアノ・トリオの作品はどれもしっかりと耳に残るものが多く、そういう意味では健全な時代だったのではないか。
このアルバムもなぜ作られたのか、その理由がよくわかる内容だろうと思う。


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レクター博士の箴言

2018年10月02日 | Jazz雑記
台風が秋雨前線を刺激して朝から雨の降る先週土曜日、探していたブツがセールに出るというので、吉祥寺までのんびりと出かけた。

かねてより探していた、この3枚。 HMVにて、ちゃんと仕留めることができた。 最近は休日に出かければ、百発百中、である。





しかし、ここはいつ来ても店内がガランとしている。 この日も、客は私1人だけだった。 天気が悪いとは言え、土曜日である。 よく潰れないなあ。






雨の日のご来店・お買い上げで、ポイントスタンプが2倍に。 でも、これは吉祥寺店だけのサービスらしい。 3枚合計で、13,000円也。






目的は果たしたので帰ればいいものを、よせばいいのに今度はユニオンに立ち寄る。 すると、こういう予定外の買い物をしてしまう。

ライヴの方は柔らかめの軽い素材のRED WAXと硬くて重めの素材のRED WAXの2種類があるが、これは後者。 そうそう、これを探していたのだ。

"Quartet" の方は、もちろんWorld Pacificレーベル。 特にこのアルバムに思い入れがある訳でもないから、これで十分。 2枚合計で、13,000円也。






予定外の出費をしたのでさっさと帰ればいいものを、よせばいいのに新宿ユニオンへ。 すると、やはりこういう予定外の買い物をしてしまう。

ズートはギターとのデュオで、高音質。 サラはブラジルでのみ発売された、ご当地もの。 M.ナシメントも参加している。

2枚合計で、1,900円也。 ここで、きれいさっぱり、お金が無くなった。 当たり前である。


映画「羊たちの沈黙」でハンニバル・レクター博士はクラリスに向かってこう言う。  「人間は見るものを欲しくなる。」

レクター博士、あんたは正しい。 


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