廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

国内盤の底ヂカラ(その17)

2020年11月10日 | Jazz LP (国内盤)

Chet Baker / Chet Baker Sings  ( 日本ビクター SMJ-7183 )


有名な "Chet Baker Sings" にジョー・パスのリズム・ギターをオーヴァー・ダビングして、更にステレオ・サウンドへリマスタリングしたもの
としてよく知られている。曲順も大幅に変えられて、"Plays And Sings" から1曲追加もされて、ジャケットも変更された。
原典主義というか国粋主義というか、そういうのが幅を利かせるこの世界ではこういうのは歓迎されるはずもなく、概ね冷たい視線を
送られて終わっているが、これがなかなか面白い。

これは国内盤になった時に変更がされた訳ではなく、ワールド・パシフィック時代にアメリカでこの版が制作された。
どういう理由からこうなったのかはわからないが、このペラジャケは1964年に出ていて、アメリカでもおそらくは同じ時期に
制作されたのだろう。このレーベルの他のタイトルではこういう改変がされたという話は聞かないので、特別な扱いだったのだろう。

ジョー・パスのリズム・ギターが加わることで音楽はよりリズミックになっていて、新たにフォーク・ソングっぽい雰囲気も漂う。
当時の人々の音楽嗜好を満足させてレコードをよりたくさん売るためには必要な措置だったのかもしれない。
かなり丁寧に手を入れていて、やっつけ仕事ではなかったようだ。オリジナルはドラムの音が奥に引っ込んでいて、リズムパートの
サウンドが弱かったので、その対策を当時レーベルお抱えだったジョー・パスに依頼したということだろう。

サウンドはもちろん疑似ステで、歌声や楽器が左右に無理やり振り分けられているタイプではなく、モノラル音源全体にエコー処理を
かけたような感じ。前者のタイプは不快なサウンドになりがちだが、これはそういう印象はなく、各パートに立体感が出てくることで
奥行きが感じられるようになり、これは悪くない。オリジナルの乾いたサウンドよりこちらのほうがいい、と感じる人もいるのではないか。
この残響付加によりベースの音圧が上がり、重低音感が増してサウンド全体が分厚くなる副次的効果もでている。

これはこれで単純に面白いと思う。人気作品の宿命で、時代ごとにアピール・ポイントを付加しながらアルバムがリリースされる
その軌跡の1つとして、こんな時代もあったんだね、と楽しめばそれでいいのだろう。







3枚目の "Sings" が仲間入りした。やっかいなことに、全部音質が違う。


コメント
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