廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

セシル・ペインとデューク・ジョーダン

2022年11月27日 | Jazz LP

Duke Jordan and Sadik Hakim / East And West Of Jazz  ( 米 Charlie Parker Records PLP-805 )


セシル・ペインとデューク・ジョーダンは一時期コンビを組んでいた。実力と才能がありながら日陰者としての道を歩いたこの2人が寄り添うように
活動を共にしたのは、ある意味必然だったのかもしれない。そんな彼らの音楽には一貫して慈しむような優しさが満ち溢れていて、そういう所が
この2人の人柄を偲ばせるところがあり、私は昔から大好きだった。

彼らの活動の記録はどれもマイナー・レーベルに残されていて、これまた光が届かない所でひっそりと息づいている。何から何まで恵まれなかった
というか、そういうところすら如何にも彼ららしいと言うべきなのか。2人ともビ・バップ期から活動してチャーリー・パーカーを目の前で見ていた
から、そういう縁でこのレーベルが声をかけたのだろう。すべては繋がっている。

ジョニー・コールズが加わったクインテットという貴重なフォーマットで演奏された5つの楽曲はどれも素晴らしい。ジョアン・モスカテルと言う人が
作曲した美しいバラードで始まり、パーカー、ジョーダンとモスカテルの共作、ペイン、ジョーダンが書いたオリジナル曲が収録されているが、
パーカーの "Dexterity" 以外はリリカルで切ないメロディーの楽曲ばかりで、深い郷愁を誘う音楽に泣けてくる。それらはメジャー・キーで作られて
いて、明るい曲調なのにノスタルジックで切ない、というところがすごい。全体的にデューク・ジョーダン特有のそういう音楽観が支配的で、
他の2名が書いた曲もジョーダンの音楽観に影響を受けている。

セシル・ペインのバリトンもずっしりと重い音で、それでいてメロディーをよく歌っており、情感の表現が見事だ。ただ重低音を出して音楽的効果
をもたらせばそれでいいというバリトンの既定の役割から楽器を解放し、ソロとして美しく歌うことができるのだと証明してみせている。

5人の演奏の纏まりも見事で、美しい旋律を高度な次元で演奏しきっており、最高級の音楽として仕上げている傑作だと思う。
裏面のサディック・ハキムの演奏も見事な内容だが、それが霞んでしまうくらいの出来だ。


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違和感の正体

2022年11月20日 | Jazz LP (Verve)

Bud Powell / Jazz Giant  ( 米 Norgran MG N-1063 )


私はこのレコードの音にずっと違和感を覚えていた。買ったのは10年前だから、10年の間、違和感を抱き続けてきたことになる。

違和感の正体はピアノの音。このレコードから流れてくるピアノの音は潰れていて、平面的だ。まるで壁に投げつけられて潰れたトマトのように。
その音は濁っていて、輪郭も滲んでいる。全体的な音場感自体はSP録音の割にはいい方なのだが、如何せん、ピアノの音がピアノらしくない。

古い録音でもちゃんとピアノらしい音で鳴るものはいくらでもあるので、本来は録音時期はあまり関係ない。このレコードの音には少し人工的な
操作が感じられて、そこがどうも引っ掛かる。

バド・パウエルのような人、つまり、美しいメロディーの曲が書ける感受性があり、体重をかけて打鍵し、煌びやかな運指で速いパッセージを
弾く人がピアノをどんな音で鳴らすかについて、私には大体のところは想像ができる。もちろん楽器は弾く人によってみんな違う音が出るから、
ぴったりと正確にではないとは思うけど、それでもおそらくこういう感じの音を鳴らしていたんだろう、ということは見当がつく。だから、この
レコードから聴こえる音はそのイメージからはほど遠く、私は長らくそのギャップを乗り越えられなかった。

だから、このレコードのことは語る気にはなれなかった。ここに収録された演奏は、パウエルが残したものの中では間違いなく最高の出来である。
"Tempus Fugue-It" や "I'll Keep Loving You" に感じる、激しく溢れて止まらぬ情感とその裏に潜む冷たく何かを見つめる目線が危ういバランスで
均衡を保っている様が恐ろしい。にもかかわらず、このピアノの音への違和感がこの演奏を語ることにこれまでずっとブレーキをかけ続けてきた。

ところが、最近手に入れた10インチの方を聴いて、ようやく霧が晴れて視界がはっきりとしたような気がした。




Bud Powell / Piano  ( 米 Clef MG C-502 )


33回転としては、これは4th プレスくらい。初版はマーキュリー・レーベルの102で、短い時期に何度かプレスし直されている。おそらく当時はまだ
33回転の制作技術が未熟で品質が安定せず、試行錯誤を繰り返していたのだろう。だから10インチのマーキュリー盤は数が少なく、材質も粗悪で
現存するものは劣化が激しい。私はそんなマーキュリー盤が嫌いなので(スカ盤だから)敢えてクレフ盤を探す。クレフはマーキュリーとは違い、
硬質で重い材質で溝が深く切られているので、多少傷があってもノイズが出ない。

こちらの盤から出てくるピアノの音は古いながらもちゃんとグランド・ピアノの音だ。12インチよりもピアノがピアノらしい音で鳴っている。
そのおかげで、"I'll Keep Loving You" のロマン的曲想がより明確になっているし、パウエルがこの曲に込めた想いがもっとはっきりと伝わってくる。
こちらで聴くほうが、私には音楽的に豊かに思える。

この10インチはピアノの音が前面に大きく立ち、ベースとドラムの音は後ろに引っ込んでいてあまり聴こえない。それに比べて、12インチは
ベースとドラムの音を前に出しており、マスタリングがやり直されていることがよくわかる。だから、ピアノ・トリオとしての一体感を聴くので
あれば12インチ、パウエルのピアニズムを聴くのであれば10インチ、ということになるだろう。私がパウエルのレコードを聴くのは、この
孤独なピアニストの奏でるピアノそのものが聴きたいからなので、これからはこの10インチで聴いていくことになるだろう。こちらのほうが、
彼のことをより近くに感じることができるような気がする。



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ブラックホークが産み出す名演

2022年11月13日 | Jazz LP (Verve)

Cal Tjader / Saturday Night Sunday Night At The Blackhawk, San Francisco  ( 米 Verve V6-8459 )


例えばウィントン・ケリーの "Kelly at Midnight" のように毎週セールに出てくるレコードもあれば、安レコであるにも関わらずまったく見かけない
レコードもある。ウィントン・ケリーのレコードを手放す人の気持ちはよくわかるし、このカル・ジェイダーのレコードを手放さない人の気持ちも
よくわかる。何回か聴いてすぐに飽きるものは持っていてもしかたがないんだし、何度聴いてもいいものはやっぱり手許に置いておきたいものだ。

カル・ジェイダーのレコードはクセの強いものが多くてなかなか買うのが難しいと思うけれど、このアルバムは王道ストレートな内容でとてもいい。
バックのピアノ・トリオは完全に無名の人たちだけど演奏に過不足なくジェイダーを下支えしている。その上をなんともなめらかでメロディアスな
ヴィブラフォンが歌うように流れて行く。涼やかで美しい音色が素晴らしい。週末の夜にこんな演奏が聴けるなんて、なんと素晴らしいことだろう。

サン・フランシスコのブラックホークでのライヴだが、ここで録音された演奏には名演が多く、東のヴィレッジ・ヴァンガード、西のブラックホーク
という感じだ。名演を産み出す何かがあったのかもしれないなあと思う。

ベースの音がしっかりと鳴るサウンドが心地よく、音質面も良好。何より、ジャケットの雰囲気がいい。飾っておきたくなる。
凝ったことや難しいことは何もしておらず、ありがちな室内楽みたいな雰囲気もなく、まったくの普段着の演奏だが、そこがいい。
良質なストレート・ジャズが聴ける佳作である。


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チューリッヒのある夜の出来事

2022年11月06日 | Jazz LP

Curtis Fuller / Jazz Conference Abroad  ( 米 Smash SRS 67034 )


1961年3月、カーティス・フラーはクインシー・ジョーンズのビッグバンドと共にスイスへ演奏旅行に出かけた。2週間の滞在は大成功だったが、
チューリッヒでのある晩のコンサートが終わった後にバンドのメンバー数名がコンサート・ホールに残ってレコーティングしたのが、このアルバム
になる。一聴するとライヴ録音のように聴こえるが、観客は帰った後なので、拍手や歓声はなく単なるホール録音ということになるが、収録数が
足りなかったのか、"Stolen Moments" だけはライヴ音源が使われいる。

熱いライヴの余韻が残った中での録音だったせいか、非常に生き生きとして躍動感のある演奏が圧巻。綺羅星のごとく豪華なメンバー10名による
ジャム・セッション形式の演奏で、テーマ部の合奏が終わると順番にソロを回していくが、これが全員素晴らしい演奏に終始していて圧倒される。
中でも、フィル・ウッズ、フレディー・ハバードの演奏が群を抜いている。2人とも音量が豊かで楽器の音がきれいなので、こういう多数の中でも
圧倒的に目立つ。吹きまくっている、という表現が相応しいくらい、思う存分吹いてる。

タイトルに "Ambassadors" という言葉が使われているように、このツアーはジャズ未開の地だった欧州へジャズを紹介する意味もあったのだろう。
メンバーたちにはそういう意識に裏打ちされた自負と熱い想いがあったかのような、素晴らしい演奏だ。カーティス・フラーがリーダー扱いされて
いるのも、当時の彼の業界の中での位置付けを物語っている。このアルバムにはそういういろんな背景が透けて見える。

大きなホールでの録音だったようで、ホールトーンがリッチに響く高音質な録音も素晴らしい。このレコードを聴いて最初にヤラれるのはこの
音の良さだろう。スイスには元々クラシック音楽の環境がきちんと整っているので、おそらくそれがよかったのだろうと思う。

こんなに素晴らしいレコードなのに、盤もジャケットも新品同様で500円で転がっていた。定番の大名盤の値段は青天井で値段が高騰していく一方
で、こういう本当にいいレコードは益々忘れ去られていく。



コメント (2)
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