廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

4人の巨匠の曲はやはり名曲だった

2023年08月27日 | Jazz LP (Bethlehem)

Sam Most / Plays Bird, Bud, Monk & Miles  ( Bethlehem Records BCP 75 )


私はベツレヘムのレコードにはあまり興味がなく、思い入れもない。白人メインのラインナップで、その影響で退屈なアレンジのものが多く、
ジャズにとって大事な何かが欠けているような演奏が多い。レーベルを興したのがスイスからの移民だったことの影響かもしれない。
レコードのモノとしての品質がいいのはドイツ人のアルフレッド・ライオンなんかと共通しているが、他の本流レーベルが見向きもしなかった
アーティストばかりと契約してレコードをたくさん作った。既に一流どころは別レーベルとの契約で縛られていて、手が出せなかったのだろう。
ただそのおかげでジャズ・レコードの裾野は広がって、50年代のより多くのジャズの記録が残ることになったのはとてもよかったと思う。

そんなアーティストの一人にマルチ・リード奏者のサム・モストがいた。デビューやヴァンガードにも10インチが残ってはいるけど、彼の50年代の
演奏は基本的にこのレーベルに残された。クラリネットやフルートがメインなので音楽は軽くて印象に残るものはないけれど、このアルバムだけは
異色の出来の良さで聴き応えがある。

タイトル通りの4人の巨人が作曲した曲をラージ・アンサンブルで演奏しているが、このアンサンブルが見事にスイングしており、驚かされる。
サックスにマイルスとの共演で知られるデヴィッド・シルドクラウトがいるし、ドラムはポール・モチアンと渋いメンツだが、このバックの
演奏がキレが良くて素晴らしい。その間隙を縫って現れるサム・モストのクラリネットもサックスのようななめらかさで高度な演奏をしている。

この時点で既にパーカーやパウエルの曲は名曲として認知されていたということで、こうして聴くと楽曲の素晴らしさが身に染みてわかるけど、
演奏の良さが曲の良さを最大限に表現している稀有な事例となっている。アレンジも控えめでクセがなく、適切なオブリガートとして機能して
いて、まったく気にならない。また、このレコードは音も素晴らしく、文句をつけるところがどこにもない。隠れた名盤に認定しよう。



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オムニバスと誤解されているアルバム

2023年08月20日 | Jazz LP (Epic)

V.A / Rhythm + 1  ( 米 Epic Records LN 3297 )


エピックはハンク・ジョーンズ、ミルト・ヒントン、オジー・ジョンソン、バリー・ガルブレイスの4名のリズム・セクションを土台にして、
セルダン・パウエル、ジーン・クイル、コンテ・カンドリ、ジミー・クリーヴランドをランダムに配置して録音した。この時のセッションは
3枚のアルバムに分けて編集されており、1枚は管入りのこのアルバム、もう1枚はリズム・セクションだけのアルバム、残りはサヒブ・シハブの
グループやロンネル・ブライト、レイ・ブライアントのセッションも混ぜて "After Hour Jazz" としてリリースされた。リーダーを立てていないが
故にオムニバスと誤解されているが、これは明確なコンセプトに基づいて制作されたアルバムになる。

3枚の中ではこのアルバムが一番聴き応えがある。1曲を除いてワンホーンで、とてもシンプルに演奏されている。選曲もいいし、バックが固定
メンバーであることで全体を通して雰囲気が統一されているから、散漫な印象に終わることがない。このレーベル特有の深みのない軽い音楽では
あるものの、その質感は上質で洗練されている。軽く聞き流すような感じで聴く分には最適である。

リーダーアルバムに恵まれなかったジーン・クイルが聴けるのがうれしい。これだけ優れた演奏をするのになぜリーダー作がほとんどないのかが
よくわからないけれど、その欠落感を少し埋めてくれる。ジミー・クリーヴランドもシブい演奏で聴かせる。みんな肩の力がいい意味で抜けていて、
穏やかな表情の音楽になっているのが印象的だ。頻繁に聴こうとはさすがに思わないけれど、それでもたまにこうしてターンテーブルに載せると
これはこれで悪くないと毎回感じるのだから、まず間違いない内容なのだろうと思う。



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"My Fair Lady" を巡るあれやこれや

2023年08月15日 | Jazz LP (Contemporary)

Shelly Manne & His Friends / Modern Jazz Performances Of Songs From MY FAIR LADY  ( 米 Stereo Records S 7002 )


ジャズも40年間聴いていると日々聴くのは地味なレコードばかりになっていて、定番のアルバムを聴くことはもうほとんどない。
そういうのは耳タコになっていて初めの頃に感じた感動はもはや微塵も感じないからだけど、偶には溝の掃除もしなきゃ、と
本来の目的とは全然違う動機で針を落とす程度だ。

このアルバムも1年生の頃に夢中になって聴いたレコードで、シェリー・マンのドラムの凄さに腰が抜けたものだけど、今聴いても
これは凄いよなと感心する。冒頭の "時間通りに教会へ!" の慌ただしい曲想を上手く表現した風圧を感じるドラミングからして圧巻だが、
その後も全編を通して凄まじい。その風圧で音楽が飛ばされてしまわないようにしっかりと地べたへ繋ぎ止めるアンカーとしての
ヴィネガーの重量級のベースも、そしてクラシカルな素養を敢えて前面に押し出したプレヴィンの傑出したピアノも素晴らしく、
コンテンポラリーの中ではダントツで傑出した作品となっている。

それらの素晴らしい演奏を100%堪能するにはこの Stereo Records盤が最適だ。すっかり音がいいという評価が定着した Stereo Records盤だが、
私はこの音場感があまり好きではなくて、アート・ペッパーもロリンズも聴いてがっかりして早々に処分したクチなんだけど、このアルバムは
このステレオ盤のほうがいい。







基本的にコンテンポラリーはモノラルのほうが好きなのでモノラル盤も手元にある。このモノラルは左側のジャケットがファーストだと
されているが、私はそれは違うと思っている。なぜなら、左右どちらのジャケットも1956年に刷られているからだ。

おそらく試験的に2種類のデザインで刷られたが、左側のものは "My Fair Lady" の字体が小さく、見た目でこのアルバムがマイ・フェア・レディ
からのセレクトだということがわかりにくい。そこで左側はボツとなり、右側が正規版として残ったのだろうと思っている。
現にこのアルバムを見て、最初に目に飛び込んでくるのは中央にレタリングされた "MY FAIR LADY" という太い文字だ。
発売当時、ラジオを聴いて気に入った人びとにレコード屋の店頭でこのレコードを買ってもらうためには右側のほうがよかったのだろう。

そんな今となっては確かめようのないあれやこれやを考えながら聴くのも、古いレコードの愉しさである。



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新鮮な感覚が支える傑作

2023年08月12日 | Jazz LP

Clark Terry, Bob Brookmeyer / Tonight  ( 米 Mainstream Records S/6043 )


クラーク・テリーとボブ・ブルックマイヤーというパッとしない2人のフロントでガン無視されるアルバムだが、これは傑作。

クラーク・テリーに限らず、エリントニアン達は楽団から離れてアルバムを作るときは音楽の指向性がはっきりとせず、聴いていて唸るような
ものはほとんどないし、ブルックマイヤーもモダンになり切れず、いつも大抵はもどかしい。そんな2人の弱点を補ったのがロジャー・ケラウェイ、
ビル・クロウ、デイヴ・ベイリーの3人のバックで、非常に新鮮な感覚によるタイトな演奏がこのアルバムの大きな肝になっている。ややもすると
「伝統に回帰した」演奏へとレイドバックしがちなこの2人をグイっと現代に引き戻して、同時代の中に立たせることが出来た。グループの演奏で
バックのトリオが如何に大事かということがこれを聴くと本当によくわかる。

元々演奏家としては超一流の2人が伸びやかで輝かしい音色で吹くアドリブ・ラインはどれも冴えわたっている。フレーズの受け渡しも見事で、
一体感が半端ない。管楽器のジャズの快楽を全身で浴びることができる。

このレコードは音がとてもよく、ビル・クロウのベースの凄さがよくわかる。深いトーンで鋭く切り込んでいく様子がわかって痺れる。
デイヴ・ベイリーの音数を抑えた的確なサポート、ケラウェイのピアノの新しい感覚、すべてが手に取るようにわかる。

ハービー・ハンコックの楽曲を取り上げるなど、アルバム作りの企画としても丁寧に考えられており、きちんと正対して聴くべきアルバムだと思う。



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駄盤の典型

2023年08月06日 | Jazz LP (Jubilee)

Mike Cuozzo / With The Costa Burke Trio  ( 米 Jubilee Records LP 1027 )


サックスのワンホーンはジャズのフォーマットとしては最も理想的で名盤が生まれやすい形式だが、演奏者の力量がストレートに反映されるし、
音楽的な変化をつけるのが難しいことから、名盤と駄盤がクッキリと分かれる。

このアルバムは演奏者の力量の弱さがそのまま映し出された駄盤。マイク・コゾーはリーダー作を2枚残しただけで早々とこの世界からは退いて
いるが、これではそれも仕方ないと思わせる。アドリブラインは凡庸で冴えがなく、音色も個性がなく魅力的とは言えない。エディ・コスタが
ピアノ1本で通しているのはよかったが、精細に欠けて音楽全体がぼんやりとしている。すべてを通して似たようなテンポが続いて1本調子で
とにかく退屈極まりないのが残念だ。褒めたくても、褒めるところがどこにもない。

ただ、このレコードにはレコード道の蘊蓄の面で面白いところがあるから、それだけの理由で手元に残っている。
このレーベルは1946年にR&Bを主力に設立されたマイナー・レーベルで、ジャズは50年代中期にごく気まぐれ程度にしか録音していない。
マイク・コゾーのアルバムは1956年に録音され、この時はブロードウェイ1650に会社があった。この時にプレスされたレコードは青レーベルで、
黒盤でグルーヴガードの形状だった。ただ、おそらくはノベルティーとしてカラー・ワックス盤がごく少量だけプレスされていて、そちらは
フラットディスクなので違うプレス機で作られたようだ。手元にあるのはRED-WAXだが、BLUE-WAX盤もある。






その後、1958年に47番街西315へ会社が移転し、その頃にプレスされたのがこれらの黒レーベルやマルチ・カラーレーベルだ。黒とマルチでは
盤の材質が少し違うのでおそらく別の工場で製作されたのだと思うが、時期は同じ頃だっただろうと思う。デッド・ワックス部の刻印は青も黒も
マルチも手書きで "LP-1027-A, B" とだけ書かれていてすべて同じ。ただ、このレーベルの場合は初版よりもセカンドである黒やマルチのほうが
音がクッキリとして音がいいものが多く、このコゾー盤も例外ではない。正確に言うと、マルチ≧黒>青、の順で音がいい。初版が一番音がいいと
いうのは妄信で全てには当て嵌らず、レコードによっては最初のプレスの瑕疵を後で修正するケースがあって、これは製造業では当たり前のこと。
こういうことは自分の耳でいろいろ聴いてみて初めてわかることなので、噂に左右されてはいけない。



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