ほそかわ・かずひこの BLOG

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明治天皇7~昭憲皇太后の福祉

2012-08-06 10:03:41 | 皇室
 明治天皇の美子(はるこ)妃殿下は、昭憲皇太后と呼ばれています。明治天皇崩御百年に当たり、昭憲皇太后の功績を併せて称えたいと思います。

 昭憲皇太后は、幼少の頃より聡明で心優しい女性でした。明治天皇の妃となるや、天皇とともに、わが国の要として近代国家建設に尽くしました。なにより「昭憲皇太后基金」(The Empress Shoken Fund)を通じ、多くの人々の福祉に貢献したことによって、世界的に知られています。



 明治45年(1912)4月20日、ワシントンで、第9回赤十字国際会議が開かれました。この時、昭憲皇太后は、万国赤十字連合に対して、「平時救護事業奨励基金」として10万円を寄贈しました。現在の貨幣価値で約3億5千万~4億円にあたります。これが、昭憲皇太后基金の始まりです。
 皇太后は寄贈にあたり、次のような言葉をそえました。「赤十字事業の根本が仁愛であって、仁愛の精神は戦時、傷病兵士に対するだけでなく、平時の不幸な被災者をも救済しなければならぬことだと考えます。また、仁愛的事業には国境はありません。平時の救護事業において各国赤十字社が助け合う時は必ず、世界の国民がみな互いに仲良くするようになるでしょう。その心が赤十字の本来の目的を達成することを確信します」。

 「仁愛」は、古代よりわが皇室に伝わる精神です。当時の世界では、バルカン半島に戦雲がうずまき、第1次大戦のきざしが現れていました。こうした情勢のため、平時事業の推進は、赤十字の国際会議の議題にのせることすら難しい状態でした。しかし、昭憲皇太后は、わが国の仁愛の精神をもって、人類の幸せと平和を図ることこそが赤十字社の本命という信念で、基金を寄贈したのです。それはまだ貧しい東洋の一国から、世界に向けて差し出した愛の手でした。

 昭憲皇太后基金は、赤十字国際委員会と赤十字社連盟から指名された人々が共同管理する形で、創設されました。基金の収益は、大正10年(1921)から、世界の発展途上国の平和目的に限って活用されることになりました。これは、今日の開発協力を先取りするもので、極めて画期的なことでした。それ以来、今日まで、世界の多くの国に援助が続けられています。

 国際的な救護事業を始めた昭憲皇太后は、国内でライ病(ハンセン病)に苦しむ人々にも、仁愛の心を注いだ方でした。ライ病は当時、不治の業病とされていました。伝染し進行すると、体中が朽ち、目も見えず息もできないようになる、これ以上恐ろしい病気はないと考えられ、家族からさえ縁切りされた病気でした。そのライ病に苦しむ人々に、援助の手を差し伸べたのが、昭憲皇太后だったのです。

 昭憲皇太后は、明治天皇の後を追うように、大正3年に亡くなりましたが、その遺志は、皇室に継承されました。皇太后の精神を受け継いだ貞明皇后(大正天皇妃)は、ライ病患者への支援を続けました。当時、ライ病の歌人・明石海人は、次の歌を詠みました。

 みめぐみは 言はまくかしこ 日の本の
   癩者(らいしゃ)に生れて われ悔ゆるなし

 国際的な平時救護の事業も、皇室に受け継がれました。昭和9年(1934)、東京で開かれた第15回赤十字国際会議に際し、大正天皇妃・貞明皇后、昭和天皇妃・香淳皇后が、昭憲皇太后の遺志をついで、基金に10万円を加えました。基金の利益収入は、昭和19年だけを除いて、大戦中も続行されました。このことは、わが国の「八紘一宇」(はっこういちう)の精神が、海外諸国への福祉という形で、戦時にも保持されていたことの証です。

 赤十字社社則に天災時救護をはっきり打ち出し、平時活動の先例を世界に示したのも、昭憲皇太后でした。チリの大地震の時、昭憲皇太后基金による生命維持装置は、多くのけが人の生命を救うのに役立ちました。アフリカ諸国やアジアの国々では、車体に “The Empress Shoken Fund”と書かれたミニバスや救急車、血液運搬車が活躍しています。基金によって、大勢の人々が救われ、感謝されています。

 基金の毎年の利子の配分は、合同管理委員会が各国赤十字社からの申請を審査し、昭憲皇太后の命日である4月11日に配分先を発表しています。収益配分は、平成14年で81回を数え、通算 9,497,010 スイスフラン(約7億5千万~8億円)となります。そして、延べ541カ国の国々の福祉に貢献しています。

 昭憲皇太后基金が今なお、世界中を愛で潤し続けているのは、わが皇室が折にふれて基金を増額しているからです。世界の平和と人類すべての幸せを願う、日本の皇室の心が、目に見える形で示されているのが、昭憲皇太后基金なのです。昭憲皇太后基金は日本人として最高の誇りにできることであり、その精神を国民みなが分かちもちたいと思うのです。

 次回に続く。

■追記

 明治天皇・昭憲皇太后に関して連載した拙稿は、下記に掲載しています。
 マイサイト「君と民」のページ
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind10.htm

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