●G7は一枚岩ならず、米国はアフガンで大失敗
2021年6月11~13日、主要7カ国首脳会議(G7)が、英国コーンウォールで開かれた。最大のテーマは、軍事と経済の両面で台頭する中国とどう向き合うか、だった。バイデンにとって、専制主義の中国に対して、国際協調主義のもとに民主主義諸国の結束を働きかけることが、今回のG7の最大の狙いだった。
G7会議の直前だった6月初め、バイデン大統領はワシントン・ポスト紙に寄稿した。その記事の中でバイデンは、「民主主義の価値」「民主主義の可能性」「主要民主主義国の結束」など、民主主義という言葉を14回使った。G7の共同宣言では、自由、民主主義、人権、法の支配等の価値が繰り返し強調された。これはバイデンの意向が強く反映されたものだろう。また、共同宣言は中国に対抗する政策で各国が足並みをそろえた内容になった。それによって、先進民主主義国の首脳が結束して、中国の専制主義に立ち向かう決意を表明したものと見える。
ただし、G7は一枚岩ではない。欧州の主要国には中国と経済的に関係の深い国が多い。米国・英国・日本は中国に対して厳しい姿勢を打ち出そうとしたが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は以前から「世界を再び2つに分けることには関心がない」と述べていた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「G7は中国に敵対するようなクラブではない」と語った。独仏も米英日と歩調を合わせてはいるが、中国への対抗において、G7のすべての国が強く結束しているとは言えない。
中国は、バイデンの「民主主義対専制主義」という対立構図に反発している。中国の外交政策を担う共産党中央外事工作委員会の劉建超弁公室副主任は、8月26日、「間違いで有害であり、最終的に国際社会の分断や対抗につながる」と批判した。「世界各国がどのような民主主義を選ぶかは国情、歴史や文化、人民の意思による」とし、「自国の民主主義モデルを他国に押しつけること自体が民主主義の原則に合わない」と主張した。さらに10月中旬、習近平国家主席は「単一の物差しで世界の多彩な政治制度を測ることこそ民主的ではない」と述べ、米国の介入が独善的であると批判した。
繰り返すと、これらの「世界各国がどのような民主主義を選ぶかは国情、歴史や文化、人民の意思による」「自国の民主主義モデルを他国に押しつけること自体が民主主義の原則に合わない」「単一の物差しで世界の多彩な政治制度を測ることこそ民主的ではない」という批判に対して、理論的に有効な反論をすることは容易ではない。かつて旧ソ連や東欧諸国は社会主義的民主主義を正当なものと主張し、いま中国や北朝鮮は人民民主主義を標榜している。民主主義は米国の民主主義を模範とした一元的なものではなく、専制主義の国家も独自の民主主義を打ち出しているように多元的なものとなっているからである。
一方、中国が米国流の民主主義に対抗し得る思想や理論を打ち出せているわけではない。中国は建国以来、マルクス主義的共産主義の国だが、毛沢東の死後、共産主義を世界に輸出する革命の根拠地国家であろうとすることをやめた。鄧小平の下で共産党政府が指導して市場経済を行う国家資本主義の国家に変わり、経済力と軍事力で自国の権益の拡大を図る覇権主義の国家になった。中国を支持し、「一帯一路」構想に参加している国々に、共通する思想や理論はない。ただ、中国の支援で経済発展が出来、利益が得られるから、中国と関係を結んでいるだけである。それゆえ、中国には、米国のように一つの旗印を掲げて、多くの国をそのもとに集合させる力はない。
米国のバイデン政権は、中国に対抗するために、従来重点を置いてきた中東からアジア太平洋へ本格的に軸足を移すことを実行した。具体的には、20年来戦争をつづけてきたアフガニスタンから撤退し、軍事力の多くを中国の包囲に集中することにしたのである。
2021年8月、米軍はアフガニスタンから撤退した。この際、だが、バイデン政権は大失敗をした。バイデン大統領の稚拙な判断の結果、タリバンがアフガニスタンの全土を制圧してしまったのである。2001年に戦争を開始して以来、米国はアフガニスタンで、将来にわたってテロの温床に戻ることがない民主主義的な政府の確立を目指した。それが、徒労に終わった。
米国は、それまでにもイランやイラクで自由、民主主義、人権、法の支配といった価値を植え付けようとしたが、それらの国では受け入れられなかった。アフガニスタンも同じ結果となった。米国流の民主主義は、中東の多くでは広まらないのである。最大の原因は、中東にはイスラーム教という近代西洋文明の価値観とは全く異なる宗教があり、それが文明の原理となっていることである。イスラーム教は、政治思想としては専制主義である。旧ソ連や中国が持つ唯物論的な共産主義とは異なる宗教的な専制主義である。米国流の民主主義は、イスラーム文明を世俗化・脱宗教化し、人々に自由、民主主義、人権、法の支配を普遍的な価値として信奉させることができないのである。米国のアフガニスタンからの不名誉な撤退は、このことを強く確認させる出来事だった。
もっともバイデン大統領の目的は、アフガニスタンから撤退することによって米国の力の多くを中国への対抗に集中することだから、その点では、まがりなりにも目的を達したと見ることは出来る。その上で、バイデンが力を入れたのが、「民主主義サミット」の開催である。
次回に続く。
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
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2021年6月11~13日、主要7カ国首脳会議(G7)が、英国コーンウォールで開かれた。最大のテーマは、軍事と経済の両面で台頭する中国とどう向き合うか、だった。バイデンにとって、専制主義の中国に対して、国際協調主義のもとに民主主義諸国の結束を働きかけることが、今回のG7の最大の狙いだった。
G7会議の直前だった6月初め、バイデン大統領はワシントン・ポスト紙に寄稿した。その記事の中でバイデンは、「民主主義の価値」「民主主義の可能性」「主要民主主義国の結束」など、民主主義という言葉を14回使った。G7の共同宣言では、自由、民主主義、人権、法の支配等の価値が繰り返し強調された。これはバイデンの意向が強く反映されたものだろう。また、共同宣言は中国に対抗する政策で各国が足並みをそろえた内容になった。それによって、先進民主主義国の首脳が結束して、中国の専制主義に立ち向かう決意を表明したものと見える。
ただし、G7は一枚岩ではない。欧州の主要国には中国と経済的に関係の深い国が多い。米国・英国・日本は中国に対して厳しい姿勢を打ち出そうとしたが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は以前から「世界を再び2つに分けることには関心がない」と述べていた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「G7は中国に敵対するようなクラブではない」と語った。独仏も米英日と歩調を合わせてはいるが、中国への対抗において、G7のすべての国が強く結束しているとは言えない。
中国は、バイデンの「民主主義対専制主義」という対立構図に反発している。中国の外交政策を担う共産党中央外事工作委員会の劉建超弁公室副主任は、8月26日、「間違いで有害であり、最終的に国際社会の分断や対抗につながる」と批判した。「世界各国がどのような民主主義を選ぶかは国情、歴史や文化、人民の意思による」とし、「自国の民主主義モデルを他国に押しつけること自体が民主主義の原則に合わない」と主張した。さらに10月中旬、習近平国家主席は「単一の物差しで世界の多彩な政治制度を測ることこそ民主的ではない」と述べ、米国の介入が独善的であると批判した。
繰り返すと、これらの「世界各国がどのような民主主義を選ぶかは国情、歴史や文化、人民の意思による」「自国の民主主義モデルを他国に押しつけること自体が民主主義の原則に合わない」「単一の物差しで世界の多彩な政治制度を測ることこそ民主的ではない」という批判に対して、理論的に有効な反論をすることは容易ではない。かつて旧ソ連や東欧諸国は社会主義的民主主義を正当なものと主張し、いま中国や北朝鮮は人民民主主義を標榜している。民主主義は米国の民主主義を模範とした一元的なものではなく、専制主義の国家も独自の民主主義を打ち出しているように多元的なものとなっているからである。
一方、中国が米国流の民主主義に対抗し得る思想や理論を打ち出せているわけではない。中国は建国以来、マルクス主義的共産主義の国だが、毛沢東の死後、共産主義を世界に輸出する革命の根拠地国家であろうとすることをやめた。鄧小平の下で共産党政府が指導して市場経済を行う国家資本主義の国家に変わり、経済力と軍事力で自国の権益の拡大を図る覇権主義の国家になった。中国を支持し、「一帯一路」構想に参加している国々に、共通する思想や理論はない。ただ、中国の支援で経済発展が出来、利益が得られるから、中国と関係を結んでいるだけである。それゆえ、中国には、米国のように一つの旗印を掲げて、多くの国をそのもとに集合させる力はない。
米国のバイデン政権は、中国に対抗するために、従来重点を置いてきた中東からアジア太平洋へ本格的に軸足を移すことを実行した。具体的には、20年来戦争をつづけてきたアフガニスタンから撤退し、軍事力の多くを中国の包囲に集中することにしたのである。
2021年8月、米軍はアフガニスタンから撤退した。この際、だが、バイデン政権は大失敗をした。バイデン大統領の稚拙な判断の結果、タリバンがアフガニスタンの全土を制圧してしまったのである。2001年に戦争を開始して以来、米国はアフガニスタンで、将来にわたってテロの温床に戻ることがない民主主義的な政府の確立を目指した。それが、徒労に終わった。
米国は、それまでにもイランやイラクで自由、民主主義、人権、法の支配といった価値を植え付けようとしたが、それらの国では受け入れられなかった。アフガニスタンも同じ結果となった。米国流の民主主義は、中東の多くでは広まらないのである。最大の原因は、中東にはイスラーム教という近代西洋文明の価値観とは全く異なる宗教があり、それが文明の原理となっていることである。イスラーム教は、政治思想としては専制主義である。旧ソ連や中国が持つ唯物論的な共産主義とは異なる宗教的な専制主義である。米国流の民主主義は、イスラーム文明を世俗化・脱宗教化し、人々に自由、民主主義、人権、法の支配を普遍的な価値として信奉させることができないのである。米国のアフガニスタンからの不名誉な撤退は、このことを強く確認させる出来事だった。
もっともバイデン大統領の目的は、アフガニスタンから撤退することによって米国の力の多くを中国への対抗に集中することだから、その点では、まがりなりにも目的を達したと見ることは出来る。その上で、バイデンが力を入れたのが、「民主主義サミット」の開催である。
次回に続く。
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
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