これからアメリカの元副大統領アル・ゴアの映画及び著書『不都合な真実』について、書きたいと思う。この映画・書籍は、地球温暖化の危機を伝え、行動を呼びかけるものである。極めて重要なメッセージなので、趣旨を把握して参考にしたいと思う。10回くらいになる。
最初は、前置き。
●人類の地球意識のめざめ
人類が、地球環境の危機を認識し、取り組みを始めたのは、まだそう古いことではない。
人類が、地球というこの惑星を自らの住まいと自覚したのは、宇宙から撮影した一枚の写真による。昭和43年(1968)12月24日、アポロ8号が撮った宇宙に浮かぶ、青く輝く地球の写真だ。この写真が世界中に報道されたことによって、人々は、はじめて「地球意識」とでもいうべき新しい意識を持つようになった。
翌44年(1969)7月20日、人類史上初めて、有人宇宙船が月に着陸し、アメリカのアポロ11号の乗り組み員が、月面に降り立った。まさに歴史的な瞬間だった。私は、その時の衛星中継をテレビで目撃した世代だ。高校1年生、15歳の時だった。
以後、地球環境を考える運動や、宇宙や地球を意識した文化運動、自然回帰の生活運動等が、先進国を中心に叢生した。地球に「ガイア」という名前をつけ、地球を意識を持った存在のようにとらえる考え方も広がった。
アル・ゴアは、昭和23年(1948)生まれ。アポロの月面着陸の時には、21歳だったことになる。昭和40年(1965)にハーハーバード大学に入学し、政治学を専攻した。在学中の昭和43年(1968)、ゴアは、ロジャー・レヴェル教授から、地球の大気中の二酸化炭素の濃度を観測したデータを見せられた。レヴェルの測定は、地球温暖化の原因を解明する先駆的な研究だった。宇宙飛行士が宇宙空間から撮った初めての地球の写真を持ち帰ったその年に、ゴアは、地球の異変を知ったわけである。
●地球環境危機の認識
地球環境の問題、地球規模の環境問題について、人類が最初に国際会議を開いたのは、昭和47年(1972)だった。その年の6月、ストックホルムで、国連人間環境会議が開催された。この会議の報告に基づくテレビ番組が、NHKで放送された。18歳の私はそれを見て、人類がかつてない問題に直面していることを知った。
この会議には、114か国が参加した。キャッチフレーズは、「かけがえのない地球 (Only One Earth)」。バーバラ・ウォードとルネ・デュボスが、地球と人類の文明の危機を伝える報告をした。このかけがえのない地球を守るために「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」が採択された。109項目の行動計画が採択された。会議の初日だった6月5日は、「世界環境デー」と決められた。しかし、その後も人類は、地球環境や人口・エネルギー・食糧等の問題に、十分有効な取り組みをできていない。
国連人間環境会議が開かれた同じ年、ローマ・クラブの依頼により、マサチューセッツ工科大学(MIT)内にドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズ、ヨルゲン・ランダースの3人を中心とする研究プロジェクトが設けられた。彼らは、コンピューターを駆使して、21世紀の世界の人口および産業の成長を予測し、研究発表を行なった。これが、『成長の限界』(ダイヤモンド社)である。
本書は、西洋近代文明が目指すべき価値としてきた「成長」という概念に、反省を投げかけ、大きな反響を呼んだ。私もほどなく翻訳で読んだ。本書は、あらゆる分野からデータを集め、システム思考に基いて総合的に地球の状態を把握し、考えられるいくつかのシナリオを提示していた。具体的な政策と行動を求める問題提起の書だった。
●私の問題関心
10代の終わりころから、人類社会の危機を意識し、苦悩していた私は、昭和51年(1976)に、大塚寛一先生の教えに出会った。それまで、私は、当時影響を受けていた共産主義の総括を中心に、西洋近代文明の克服とそれによる危機の解決の道を模索していた。大塚先生の教えと実証に触れたことで、私は、文明の根本的な転換をなし得る原理があることを知った。
以来、私は、現代の人類にとっての最大の課題は、世界平和の実現と、地球環境の保全だと考えている。その課題を達成するには、日本に重要な役割があるとも認識している。
地球環境を考える人には、国家や民族を否定し、地球市民として生きるという人がいる。そういう人の政治意識は、ほとんど左翼と変わらない。しかし、現実の世界は、さまざまな国家が並存している国際社会である。地球環境の問題も、個人や民間団体の活動は、規模が限られている。地球的な環境危機を改善するには、国際社会の単位である国家が主体とならなければ、大規模な動きはできない。
西洋物質文明の中核をなすアメリカや、唯物的な共産主義の支配している中国が、人類社会を大調和の方向に導けるとは、思えない。日本には、人と人、人と自然が調和して生きる精神が伝わってきている。その精神が、21世紀人類の衰亡か飛躍かの岐路において、大きな役割を果すと私は思う。
日本を再建し、日本文明の持つ潜在力を発揮することが、世界平和の実現と地球環境の保全の鍵となると私は考える。
それゆえ、環境保全そのものの運動よりも、日本の再建を通じた人類文明の転換に、私の関心の要がある。この点は、30数年来変わらない。現在も同様である。ゴアの『不都合な真実』についても、この観点から書く。
次回に続く。
最初は、前置き。
●人類の地球意識のめざめ
人類が、地球環境の危機を認識し、取り組みを始めたのは、まだそう古いことではない。
人類が、地球というこの惑星を自らの住まいと自覚したのは、宇宙から撮影した一枚の写真による。昭和43年(1968)12月24日、アポロ8号が撮った宇宙に浮かぶ、青く輝く地球の写真だ。この写真が世界中に報道されたことによって、人々は、はじめて「地球意識」とでもいうべき新しい意識を持つようになった。
翌44年(1969)7月20日、人類史上初めて、有人宇宙船が月に着陸し、アメリカのアポロ11号の乗り組み員が、月面に降り立った。まさに歴史的な瞬間だった。私は、その時の衛星中継をテレビで目撃した世代だ。高校1年生、15歳の時だった。
以後、地球環境を考える運動や、宇宙や地球を意識した文化運動、自然回帰の生活運動等が、先進国を中心に叢生した。地球に「ガイア」という名前をつけ、地球を意識を持った存在のようにとらえる考え方も広がった。
アル・ゴアは、昭和23年(1948)生まれ。アポロの月面着陸の時には、21歳だったことになる。昭和40年(1965)にハーハーバード大学に入学し、政治学を専攻した。在学中の昭和43年(1968)、ゴアは、ロジャー・レヴェル教授から、地球の大気中の二酸化炭素の濃度を観測したデータを見せられた。レヴェルの測定は、地球温暖化の原因を解明する先駆的な研究だった。宇宙飛行士が宇宙空間から撮った初めての地球の写真を持ち帰ったその年に、ゴアは、地球の異変を知ったわけである。
●地球環境危機の認識
地球環境の問題、地球規模の環境問題について、人類が最初に国際会議を開いたのは、昭和47年(1972)だった。その年の6月、ストックホルムで、国連人間環境会議が開催された。この会議の報告に基づくテレビ番組が、NHKで放送された。18歳の私はそれを見て、人類がかつてない問題に直面していることを知った。
この会議には、114か国が参加した。キャッチフレーズは、「かけがえのない地球 (Only One Earth)」。バーバラ・ウォードとルネ・デュボスが、地球と人類の文明の危機を伝える報告をした。このかけがえのない地球を守るために「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」が採択された。109項目の行動計画が採択された。会議の初日だった6月5日は、「世界環境デー」と決められた。しかし、その後も人類は、地球環境や人口・エネルギー・食糧等の問題に、十分有効な取り組みをできていない。
国連人間環境会議が開かれた同じ年、ローマ・クラブの依頼により、マサチューセッツ工科大学(MIT)内にドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズ、ヨルゲン・ランダースの3人を中心とする研究プロジェクトが設けられた。彼らは、コンピューターを駆使して、21世紀の世界の人口および産業の成長を予測し、研究発表を行なった。これが、『成長の限界』(ダイヤモンド社)である。
本書は、西洋近代文明が目指すべき価値としてきた「成長」という概念に、反省を投げかけ、大きな反響を呼んだ。私もほどなく翻訳で読んだ。本書は、あらゆる分野からデータを集め、システム思考に基いて総合的に地球の状態を把握し、考えられるいくつかのシナリオを提示していた。具体的な政策と行動を求める問題提起の書だった。
●私の問題関心
10代の終わりころから、人類社会の危機を意識し、苦悩していた私は、昭和51年(1976)に、大塚寛一先生の教えに出会った。それまで、私は、当時影響を受けていた共産主義の総括を中心に、西洋近代文明の克服とそれによる危機の解決の道を模索していた。大塚先生の教えと実証に触れたことで、私は、文明の根本的な転換をなし得る原理があることを知った。
以来、私は、現代の人類にとっての最大の課題は、世界平和の実現と、地球環境の保全だと考えている。その課題を達成するには、日本に重要な役割があるとも認識している。
地球環境を考える人には、国家や民族を否定し、地球市民として生きるという人がいる。そういう人の政治意識は、ほとんど左翼と変わらない。しかし、現実の世界は、さまざまな国家が並存している国際社会である。地球環境の問題も、個人や民間団体の活動は、規模が限られている。地球的な環境危機を改善するには、国際社会の単位である国家が主体とならなければ、大規模な動きはできない。
西洋物質文明の中核をなすアメリカや、唯物的な共産主義の支配している中国が、人類社会を大調和の方向に導けるとは、思えない。日本には、人と人、人と自然が調和して生きる精神が伝わってきている。その精神が、21世紀人類の衰亡か飛躍かの岐路において、大きな役割を果すと私は思う。
日本を再建し、日本文明の持つ潜在力を発揮することが、世界平和の実現と地球環境の保全の鍵となると私は考える。
それゆえ、環境保全そのものの運動よりも、日本の再建を通じた人類文明の転換に、私の関心の要がある。この点は、30数年来変わらない。現在も同様である。ゴアの『不都合な真実』についても、この観点から書く。
次回に続く。