テロ特措法は11月1日に期限が切れる。与党はこれに替わる法新案を成立させて、インド洋上での海上補給活動を継続しようとしている。これに対して、民主党小沢代表は、特異な論理を用いて与党案に反対している。小沢氏はインド洋での海自の活動が憲法違反であると主張する。それと同時に、自衛隊の支援活動を根拠づける国連安保理決議がないことが一番の問題だと主張している。
小沢氏は、憲法第9条が禁止しているのは国権の発動としての戦争や武力行使だけだから、国連軍としてなら自衛隊の武力行使も可能という見解である。つまり、国連安保理決議に基づく海外派遣であれば、自衛隊が武力を行使することは、憲法に違反しないということになる。小沢氏が、国連決議に基づく活動であれば、アフガニスタン本土のISAF(国際治安支援部隊)に参加したいという意見を公表しているのは、こういう憲法解釈による。
しかし、小沢氏の憲法解釈は、特異な見解である。民主党の内部でも、合意を得られていないだろう。わが国が武力行使を目的として自衛隊を国連に派遣することには、憲法解釈上、問題がある。第9条が許す武力行使は、自衛権の行使のみである。政府は、集団的自衛権は保有するが、憲法上行使できないという解釈をとり、武力行使は個別的自衛権の行使の場合のみとするのが、現状である。小沢氏の主張のように自衛権を離れて「武力の行使」を可能にするには、憲法改正が必要である。
私は、憲法を改正して、国防軍を持ち、自らの意思で国を守るとともに、国連の平和維持活動に参加して、国際社会において責任ある役割を積極的に果たすべきだという意見である。だから、小沢氏が憲法を改正し、集団的自衛権を行使できるようにし、国連の平和維持活動に参加しようというのなら、その点は同意する。
しかし、小沢氏は一方では、従来のテロ特措法は憲法違反ゆえ延長に反対、与党の新法案にも反対だと言うのだから、支離滅裂と言わざるを得ない。結局、小沢氏の言動から透けて見えてくるのは、いかなる策略を使っても政権をとりたいという権力欲ばかりのように思う。小沢氏においては、国家の根幹をなす憲法問題も、国家の安全保障も、国際社会での日本の信用も、二の次のように見える。テロ対策特別措置新法案については、憲法解釈、国連政策等で、民主党の内部でも意見が四分五裂し、収拾がつかなくなるだろう。
以下は、テロ特措法に関して、注目すべき有識者の見解のクリップ。
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●産経新聞 平成19年10月17日号
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071017/plc0710170341002-n1.htm
【正論】テロ特措法 衆議院議員、弁護士・稲田朋美 海自給油は合憲の国際貢献
2007.10.17 03:40
■キテレツな小沢民主の主権放棄
≪海自給油が違憲なら≫
11月1日に期限が切れるテロ対策特別措置法に代わる新法が閣議決定される。目的を、海上でテロリストの動きを監視(海上阻止活動)する各国艦船への海上自衛隊による補給活動に限定し、期限は1年。
周知の通り民主党の小沢一郎代表は新法案についても反対の立場をとり、与党側からの協議の呼びかけにも応じないというが、問題はその理由である。
小沢氏はインド洋での海自の活動が憲法違反であると主張する。もし、そうなら、平成13年12月以来、米英独仏パキスタンなど11カ国と交換公文を結び、海上阻止活動(OEF-MIO)への給油活動という違憲行為を6年間も続けてきたことになり、さらにその根拠となる現行のテロ特措法自体が違憲立法だった、ということになってしまう。
そうなれば、民主党が主張し続ける「国会の事前承認」の要否など無用の議論となる。さらに海自のインド洋での補給活動が違憲という論をとれば、新法案の内容がどうであれ、テロ特措法と同様新法も違憲立法ということになるから、反対の立場を貫くというのはわかりやすい行動である。
しかし、そう単純な話でもないらしい。小沢氏は憲法違反を主張すると同時に、自衛隊の支援活動を根拠づける国連安保理決議がないことが一番の問題だと主張しているからだ。
小沢氏のこれら主張を矛盾なく説明するとすれば、「自衛隊の海外派遣が『武力の行使』であっても、国連安保理決議があれば憲法違反にならない」「違憲である『武力の行使』も国連安保理決議があれば許される」といえなければならない。
≪特異で奇怪な9条解釈≫
現に小沢氏は、民主党が政権を取れば、アフガニスタン本土での国際治安支援部隊(ISAF)への参加を実現すると公言する。アフガンでの同活動を具体的に承認する安保理決議1386があるからだ。
今のところ参加を民生分野の支援に限ると表明しているが、小沢氏の論理では、アフガンでの陸上自衛隊の支援活動に「武力の行使」も含まれてもよく、「武力の行使」を含む支援活動を行うために積極的に自衛隊を海外に派遣することも可能になる。これも憲法上の問題が安保理決議で不問になるというのだろう。
小沢氏はその著『日本改造計画』以来、国連平和維持活動に協力する国連待機軍を創設して海外での武力活動に参加することは憲法9条に違反せず、むしろ憲法の精神に合致すると主張する。国連を国家主権より上位のもの、国家主権を超越するものと考えているようだ。
しかし憲法9条を、国連の平和活動への協力ならば「武力の行使」ができると読むのは無理な解釈である。現憲法下で許される「武力の行使」は自衛権の行使(集団的自衛権の行使を含むかは議論がある)の場合だけであり、自衛権を離れて「武力の行使」を可能にするには、憲法改正が必要である。
他方、自衛隊の海外支援活動に関する国連決議の内容が十分であったかどうかは、憲法問題ではなく、政治判断の問題である。小沢氏のように国連決議によって「武力の行使」も合憲になるという特別な国連観を持つならば、決議の具体性が憲法解釈に直結する問題となるのだろうが。
≪海上交通確保の国益も≫
従って、国家主権の上位に国連の存在を認める小沢民主党から「国連決議の根拠がない」といわれても、法的問題として神経質に反論すること自体がナンセンスだ。主権国家であるという前提で議論する限り、問題は、「武力の行使」でない自衛隊派遣を決断することが国際情勢や日本の国益からみて政治的に正しいか否かであり、国連決議の内容は判断材料のひとつと考えれば足りる。
9・11テロでは、日本人も24人が犠牲になった。その翌日、全会一致で可決された安保理決議1368は、9・11テロを国際の平和および安全に対する脅威とし、テロ行為を防止し抑止するため一層の努力を国際社会に求めた。先月ロシアを除く賛成多数で可決された同決議1776は、海上阻止活動を含む多くの国の貢献に対する評価を表明、活動継続の必要性を強調している。
海上自衛隊がインド洋上で補給活動を継続することは、日本が国際社会の一員としてテロとの闘いに貢献するという国際的な責任を果たす意味でも、またインド洋の海上交通確保という日本の国益にも合致するという意味でも、政治的に正しい選択である。(いなだ ともみ)
●産経新聞 平成19年10月30日号
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/071030/stt0710300316000-n1.htm
【正論】日本大学教授・百地章 「対案」にならない小沢提言
2007.10.30 03:16
■民主のテロ対策はいまだ固まらず
≪試される政権担当能力≫
テロ対策特別措置法の期限切れを前に、政府は自衛隊による補給支援の対象をインド洋上の外国艦船に限定する新法案を提出した。これに対し、民主党内ではいまだに意見がまとまらず、対案を法案として提出するかどうかさえ決まっていないという。
今のところ、小沢一郎党首の「提言」にあった、アフガニスタン本土のISAF(国際治安支援部隊)関連の民生支援に絞って民間人を派遣する案が有力なようであるが、その警護のため自衛隊を派遣することについては、党内でも反対が強いと聞く。いよいよ本格的審議という段になって、海上自衛隊や守屋武昌前次官をめぐるさまざまな疑惑が噴出してきたが、民主党としてはこれを奇貨として問題を先送りすることなく、対テロ問題に正面から取り組み、責任政党としての役割をきちんと果たすべきであろう。わが国の外交や防衛の基本にかかわるこの問題について、政府案に反対するだけで対案一つ示せないようでは、政権担当能力が疑われても仕方あるまい。
≪国連軍と「主権の委譲」≫
ところで、小沢提言ではISAFへの参加はもちろん、自衛隊による武力行使さえ可能とされており、対案の作成に当たっては、当然この党首提言との整合性も明確にすべきである。
かつて自民党時代に、小沢調査会は次のように提言した。「集団的安全保障と自衛権とは別のものであり、もし国連加盟国が国連に軍隊を提供した場合、軍の提供までは『国権の発動』であるが、発動後の国連軍の行動は『国連の指揮下』にあり、各国の指揮、命令権は及ばなくなる」と。つまり、憲法9条が禁止しているのはあくまで「国権の発動」としての戦争や武力行使だけだから、「国連軍」としてなら自衛隊の武力行使も可能としたわけであった。
今回、小沢氏が「国連の決議でオーソライズされた国連の平和活動に日本が参加することは、ISAFであれ何であれ、何ら憲法に抵触しない」「国連の活動に積極的に参加することは、たとえそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しない」と述べているのは、恐らくこの提言を念頭においてのことであろう。
しかし問題は「国連軍」の意味であって、小沢調査会の提言と今回の小沢提言とではその内容が異なる。もしそれが国連憲章42、43条に基づく「正規の国連軍」を指すならば、小沢調査会の言うように、軍を国連に提供した後はその指揮、命令権は国連加盟国の手を離れ、安保理事会に委ねられたものとみることもできないことはない。加盟国は国連との間で特別協定を結ぶことにより、主権の一部を国連に委譲したと解することも可能だからである(ただし、わが国がこのような特別協定を結び、武力行使を目的として自衛隊を国連に派遣することについては、憲法上、疑義がある)。
≪多国籍軍と集団的自衛権≫
だが、このような「正規の国連軍」はいまだ実現しておらず、これまでに編成された「国連軍」はすべて「多国籍軍」にとどまっていた。国連の指揮下にあった湾岸戦争時やイラク派遣の「国連軍」、それにNATO指揮下のISAFも全て多国籍軍である。この種の「多国籍軍」は国連決議によって一定の正当性が担保されてはいても、最終的な指揮、命令権は各国に留保されており、軍隊派遣の根拠も各国の個別的ないし集団的自衛権に基づいている。
例えば、現在イラクに派遣されている「多国籍軍」は、参加国の集団的自衛権の行使として行動しており、対テロ戦争の一環として位置づけられたインド洋上での活動も、テロリストの移動や麻薬、武器などの運搬を阻止することを目的とした参加国の個別的ないし集団的自衛権の行使であるとされている。そのため、政府見解に基づき、集団的自衛権の行使が禁止されているわが国では、多国籍軍への参加は認められず、イラクではあくまで後方での人道・復興支援にとどまっていたし、インド洋上でも、「武力の行使」に当たらない多国籍軍への給油に限定して国際貢献を果たしてきた。
この点、小沢氏は今回の提言の中で、「国連の平和活動は国家の主権である自衛権を超えたものです」と述べているが、これは「正規の国連軍」と「多国籍軍」を混同したものといえよう。小沢氏が、もし本気でISAFに自衛隊を派遣したいのなら、集団的自衛権の行使を容認するよう、政府に対して憲法解釈の変更を求めるのが筋ではないか。「民主党が政権をとったら」などという仮定の話では、特措法の「対案」たりえないと思われる。(ももち あきら)
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小沢氏は、憲法第9条が禁止しているのは国権の発動としての戦争や武力行使だけだから、国連軍としてなら自衛隊の武力行使も可能という見解である。つまり、国連安保理決議に基づく海外派遣であれば、自衛隊が武力を行使することは、憲法に違反しないということになる。小沢氏が、国連決議に基づく活動であれば、アフガニスタン本土のISAF(国際治安支援部隊)に参加したいという意見を公表しているのは、こういう憲法解釈による。
しかし、小沢氏の憲法解釈は、特異な見解である。民主党の内部でも、合意を得られていないだろう。わが国が武力行使を目的として自衛隊を国連に派遣することには、憲法解釈上、問題がある。第9条が許す武力行使は、自衛権の行使のみである。政府は、集団的自衛権は保有するが、憲法上行使できないという解釈をとり、武力行使は個別的自衛権の行使の場合のみとするのが、現状である。小沢氏の主張のように自衛権を離れて「武力の行使」を可能にするには、憲法改正が必要である。
私は、憲法を改正して、国防軍を持ち、自らの意思で国を守るとともに、国連の平和維持活動に参加して、国際社会において責任ある役割を積極的に果たすべきだという意見である。だから、小沢氏が憲法を改正し、集団的自衛権を行使できるようにし、国連の平和維持活動に参加しようというのなら、その点は同意する。
しかし、小沢氏は一方では、従来のテロ特措法は憲法違反ゆえ延長に反対、与党の新法案にも反対だと言うのだから、支離滅裂と言わざるを得ない。結局、小沢氏の言動から透けて見えてくるのは、いかなる策略を使っても政権をとりたいという権力欲ばかりのように思う。小沢氏においては、国家の根幹をなす憲法問題も、国家の安全保障も、国際社会での日本の信用も、二の次のように見える。テロ対策特別措置新法案については、憲法解釈、国連政策等で、民主党の内部でも意見が四分五裂し、収拾がつかなくなるだろう。
以下は、テロ特措法に関して、注目すべき有識者の見解のクリップ。
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●産経新聞 平成19年10月17日号
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071017/plc0710170341002-n1.htm
【正論】テロ特措法 衆議院議員、弁護士・稲田朋美 海自給油は合憲の国際貢献
2007.10.17 03:40
■キテレツな小沢民主の主権放棄
≪海自給油が違憲なら≫
11月1日に期限が切れるテロ対策特別措置法に代わる新法が閣議決定される。目的を、海上でテロリストの動きを監視(海上阻止活動)する各国艦船への海上自衛隊による補給活動に限定し、期限は1年。
周知の通り民主党の小沢一郎代表は新法案についても反対の立場をとり、与党側からの協議の呼びかけにも応じないというが、問題はその理由である。
小沢氏はインド洋での海自の活動が憲法違反であると主張する。もし、そうなら、平成13年12月以来、米英独仏パキスタンなど11カ国と交換公文を結び、海上阻止活動(OEF-MIO)への給油活動という違憲行為を6年間も続けてきたことになり、さらにその根拠となる現行のテロ特措法自体が違憲立法だった、ということになってしまう。
そうなれば、民主党が主張し続ける「国会の事前承認」の要否など無用の議論となる。さらに海自のインド洋での補給活動が違憲という論をとれば、新法案の内容がどうであれ、テロ特措法と同様新法も違憲立法ということになるから、反対の立場を貫くというのはわかりやすい行動である。
しかし、そう単純な話でもないらしい。小沢氏は憲法違反を主張すると同時に、自衛隊の支援活動を根拠づける国連安保理決議がないことが一番の問題だと主張しているからだ。
小沢氏のこれら主張を矛盾なく説明するとすれば、「自衛隊の海外派遣が『武力の行使』であっても、国連安保理決議があれば憲法違反にならない」「違憲である『武力の行使』も国連安保理決議があれば許される」といえなければならない。
≪特異で奇怪な9条解釈≫
現に小沢氏は、民主党が政権を取れば、アフガニスタン本土での国際治安支援部隊(ISAF)への参加を実現すると公言する。アフガンでの同活動を具体的に承認する安保理決議1386があるからだ。
今のところ参加を民生分野の支援に限ると表明しているが、小沢氏の論理では、アフガンでの陸上自衛隊の支援活動に「武力の行使」も含まれてもよく、「武力の行使」を含む支援活動を行うために積極的に自衛隊を海外に派遣することも可能になる。これも憲法上の問題が安保理決議で不問になるというのだろう。
小沢氏はその著『日本改造計画』以来、国連平和維持活動に協力する国連待機軍を創設して海外での武力活動に参加することは憲法9条に違反せず、むしろ憲法の精神に合致すると主張する。国連を国家主権より上位のもの、国家主権を超越するものと考えているようだ。
しかし憲法9条を、国連の平和活動への協力ならば「武力の行使」ができると読むのは無理な解釈である。現憲法下で許される「武力の行使」は自衛権の行使(集団的自衛権の行使を含むかは議論がある)の場合だけであり、自衛権を離れて「武力の行使」を可能にするには、憲法改正が必要である。
他方、自衛隊の海外支援活動に関する国連決議の内容が十分であったかどうかは、憲法問題ではなく、政治判断の問題である。小沢氏のように国連決議によって「武力の行使」も合憲になるという特別な国連観を持つならば、決議の具体性が憲法解釈に直結する問題となるのだろうが。
≪海上交通確保の国益も≫
従って、国家主権の上位に国連の存在を認める小沢民主党から「国連決議の根拠がない」といわれても、法的問題として神経質に反論すること自体がナンセンスだ。主権国家であるという前提で議論する限り、問題は、「武力の行使」でない自衛隊派遣を決断することが国際情勢や日本の国益からみて政治的に正しいか否かであり、国連決議の内容は判断材料のひとつと考えれば足りる。
9・11テロでは、日本人も24人が犠牲になった。その翌日、全会一致で可決された安保理決議1368は、9・11テロを国際の平和および安全に対する脅威とし、テロ行為を防止し抑止するため一層の努力を国際社会に求めた。先月ロシアを除く賛成多数で可決された同決議1776は、海上阻止活動を含む多くの国の貢献に対する評価を表明、活動継続の必要性を強調している。
海上自衛隊がインド洋上で補給活動を継続することは、日本が国際社会の一員としてテロとの闘いに貢献するという国際的な責任を果たす意味でも、またインド洋の海上交通確保という日本の国益にも合致するという意味でも、政治的に正しい選択である。(いなだ ともみ)
●産経新聞 平成19年10月30日号
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/071030/stt0710300316000-n1.htm
【正論】日本大学教授・百地章 「対案」にならない小沢提言
2007.10.30 03:16
■民主のテロ対策はいまだ固まらず
≪試される政権担当能力≫
テロ対策特別措置法の期限切れを前に、政府は自衛隊による補給支援の対象をインド洋上の外国艦船に限定する新法案を提出した。これに対し、民主党内ではいまだに意見がまとまらず、対案を法案として提出するかどうかさえ決まっていないという。
今のところ、小沢一郎党首の「提言」にあった、アフガニスタン本土のISAF(国際治安支援部隊)関連の民生支援に絞って民間人を派遣する案が有力なようであるが、その警護のため自衛隊を派遣することについては、党内でも反対が強いと聞く。いよいよ本格的審議という段になって、海上自衛隊や守屋武昌前次官をめぐるさまざまな疑惑が噴出してきたが、民主党としてはこれを奇貨として問題を先送りすることなく、対テロ問題に正面から取り組み、責任政党としての役割をきちんと果たすべきであろう。わが国の外交や防衛の基本にかかわるこの問題について、政府案に反対するだけで対案一つ示せないようでは、政権担当能力が疑われても仕方あるまい。
≪国連軍と「主権の委譲」≫
ところで、小沢提言ではISAFへの参加はもちろん、自衛隊による武力行使さえ可能とされており、対案の作成に当たっては、当然この党首提言との整合性も明確にすべきである。
かつて自民党時代に、小沢調査会は次のように提言した。「集団的安全保障と自衛権とは別のものであり、もし国連加盟国が国連に軍隊を提供した場合、軍の提供までは『国権の発動』であるが、発動後の国連軍の行動は『国連の指揮下』にあり、各国の指揮、命令権は及ばなくなる」と。つまり、憲法9条が禁止しているのはあくまで「国権の発動」としての戦争や武力行使だけだから、「国連軍」としてなら自衛隊の武力行使も可能としたわけであった。
今回、小沢氏が「国連の決議でオーソライズされた国連の平和活動に日本が参加することは、ISAFであれ何であれ、何ら憲法に抵触しない」「国連の活動に積極的に参加することは、たとえそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しない」と述べているのは、恐らくこの提言を念頭においてのことであろう。
しかし問題は「国連軍」の意味であって、小沢調査会の提言と今回の小沢提言とではその内容が異なる。もしそれが国連憲章42、43条に基づく「正規の国連軍」を指すならば、小沢調査会の言うように、軍を国連に提供した後はその指揮、命令権は国連加盟国の手を離れ、安保理事会に委ねられたものとみることもできないことはない。加盟国は国連との間で特別協定を結ぶことにより、主権の一部を国連に委譲したと解することも可能だからである(ただし、わが国がこのような特別協定を結び、武力行使を目的として自衛隊を国連に派遣することについては、憲法上、疑義がある)。
≪多国籍軍と集団的自衛権≫
だが、このような「正規の国連軍」はいまだ実現しておらず、これまでに編成された「国連軍」はすべて「多国籍軍」にとどまっていた。国連の指揮下にあった湾岸戦争時やイラク派遣の「国連軍」、それにNATO指揮下のISAFも全て多国籍軍である。この種の「多国籍軍」は国連決議によって一定の正当性が担保されてはいても、最終的な指揮、命令権は各国に留保されており、軍隊派遣の根拠も各国の個別的ないし集団的自衛権に基づいている。
例えば、現在イラクに派遣されている「多国籍軍」は、参加国の集団的自衛権の行使として行動しており、対テロ戦争の一環として位置づけられたインド洋上での活動も、テロリストの移動や麻薬、武器などの運搬を阻止することを目的とした参加国の個別的ないし集団的自衛権の行使であるとされている。そのため、政府見解に基づき、集団的自衛権の行使が禁止されているわが国では、多国籍軍への参加は認められず、イラクではあくまで後方での人道・復興支援にとどまっていたし、インド洋上でも、「武力の行使」に当たらない多国籍軍への給油に限定して国際貢献を果たしてきた。
この点、小沢氏は今回の提言の中で、「国連の平和活動は国家の主権である自衛権を超えたものです」と述べているが、これは「正規の国連軍」と「多国籍軍」を混同したものといえよう。小沢氏が、もし本気でISAFに自衛隊を派遣したいのなら、集団的自衛権の行使を容認するよう、政府に対して憲法解釈の変更を求めるのが筋ではないか。「民主党が政権をとったら」などという仮定の話では、特措法の「対案」たりえないと思われる。(ももち あきら)
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