北朝鮮が、平成6年(1994)4月に「死亡した」と説明している横田めぐみさんは、それ以降に再婚し、男児を出産。わが国政府は、少なくとも平成13年(2001)時点で生存していたとする情報を入手していると報じられた。情報はまったく別の2ルートからもたらされて、細部が一致しているので、かなり信憑性が高い。
北朝鮮は、金日成の指示のもと、工作員が工作船で日本の領土に上陸して、日本国民を強制的に北朝鮮に連れて行った。拉致は、北朝鮮の最高指導者の指示によって行われている組織的な国家犯罪であり、許しがたい国家テロである。日本人を拉致する工作員の活動には、日本国内に存在する朝鮮総連が組織的に加担していた。
わが国は、北朝鮮の国家犯罪を暴き、拉致被害者の救出を加速すべきである。そのためには、朝鮮総連に対し、断固たる措置を取る必要がある。
有効な措置の一つは、司法に基づく厳正な対処である。本年6月27日最高裁は、わが国の政府機関である整理回収機構(RCC)が、朝鮮総連中央本部の土地と建物の差し押さえをできるようにする判決を下した。
平成9~13年(1997=2001)に、わが国各地にある在日朝鮮人系金融機関「朝銀信用組合」が次々に破綻した。朝銀信組では、朝鮮総連幹部の求めに応じて、総連施設や朝鮮学校の敷地を担保にした安易な貸し出しが繰り返され、地上げなどの事業の焦げ付きで破綻に至った。借り主である総連が朝銀信組を支配しており、チェック機能が存在しなかった。
この時、破綻処理のため、約1兆4千億円もの公的資金が投入された。公的資金とは、国民が納めた税金である。どうして、わが国が北朝鮮の金融機関を救済するために、国民の税金を投じなければならないのか。異常な話だった。
朝鮮総連は、朝銀信組から少なくとも627億円を借りて返していない。平成17年(2005)、RCCは総連中央を相手に借金の返還を求める民事訴訟を起こした。小泉政権の安倍晋三官房長官が、強い決意で指導力を発揮したものである。19年(2007)、RCCは勝訴した。だが、総連は借金を返さない。そこで、RCCは総連中央本部の土地建物を差し押さえようとした。
このとき、また異常なことが起こった。元公安調査庁長官の緒方重威氏が、総連側に立って、総連中央本部を形式的に売却しようとしたのである。この売却は失敗に終わった。だが、公安調査庁の元トップが総連側に立って動いたことは、日本の政界と北朝鮮の間に、底知れない闇があることを垣間見せた。
先の最高裁判決は、わが国の司法制度において最終的に、総連中央本部の土地・建物の差し押さえを可能にしたものである。そこで、RCCは、約627億円の債権回収を図るために東京地裁に競売を求める申し立てを行い、地裁は本年7月12日付で手続き開始を決定した。既に総連中央本部の土地・建物が差押えられ、8月11日には、東京地裁の執行官が総連中央本部の立ち入り調査を実施した。調査は、競売物件の構造や占有状況を把握するための手続きで、これらの結果を踏まえ売却基準価格が決まる見通しである。地裁は、入札に向けて本格的な準備に入る。落札者次第で総連が本部から退去を迫られる可能性があるが、総連に有利な落札者が現れる可能性もある。
拉致被害者の救出に尽力している西岡力氏は、次のように書いている。
「バブルの崩壊後、破綻した金融機関には巨額の公的資金が注入された。その際、不良債権の借り手について刑事、民事の両面から厳しい追及がなされた。それに比べると、627億円もの借金を未返済のまま開き直っている総連に対する追及は極めて甘い。事の本質は、北朝鮮の独裁体制が総連を使い、悪意を持って日本の法秩序を破り、多額の資金を得てきた不法送金の全体構造にある。だが、そのことを論じる者は少なく、大きな闇はまだ晴れていない。」
この「事の本質」に、わが国政府が積極的に迫っていかないと、横田めぐみさんをはじめとする拉致被害者の救出は大きく前進し得ない。断固たる取り組みが必要である。
以下、本件を伝える西岡力氏の文章を転載する。
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●産経新聞 平成24年7月5日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120705/plc12070503120003-n1.htm
【正論】
東京基督教大学教授・西岡力 差し押さえで対北送金の闇暴け
2012.7.5 03:11
この6月27日、朝鮮総連中央本部の土地と建物を、日本政府機関である整理回収機構(RCC)が差し押さえることを可能にする決定を最高裁が下した。約20年間にわたり、総連が多額の不法送金をしていると告発してきた専門家の一人として、感慨が深い。
≪対総連融資627億円の行方≫
経緯をおさらいしておきたい。総連は破綻した朝銀信用組合から少なくとも627億円を借りたまま返していない。信組の破綻に伴い約1兆4千億円の公的資金が使われた。その際、各信組からの不良債権を引き受けたRCCが、個人・団体向けの融資の流れについて調査したところ、不良債権1810億円のうち、一部の個人や団体向けとされていた融資約627億円(394件)が、「名義貸し」や「仮名」などによる総連への融資であることが判明した。これらの融資が総連への融資であることは総連も認めている。
2005年、時の安倍晋三官房長官の政治的指導力の下、RCCは総連中央を相手に借金の返還を求める民事訴訟を提起した。それまでの自民党政治家と総連との不明朗な関係からすると、考えられない毅然たる対応だった。安倍氏自身、「サヨクの人だけでなく、信じられないような保守派の大物議員からも『追及はやめろ』と言われた」と述懐している。
07年6月にRCCは勝訴する。それでも、総連は借金を返さず開き直ったので、RCCは総連中央本部の土地建物を差し押さえようとした。その過程で、総連は元公安調査庁長官の緒方重威氏を登場させ、中央本部を形式的に売却しようとして失敗した。公安調査庁は、破壊活動防止法に基づき総連の活動を監視している治安組織だ。そのトップが総連側に立って暗躍するのだから、彼らの政治工作の力は侮りがたい。
その後も、総連は登記上、中央本部の土地建物を所有しているのは合資会社、朝鮮中央会館管理会だとして差し押さえを妨害した。最高裁判決は、中央本部を実質的に総連の資産と認め、差し押さえできるようにしたものだ。
≪北への資金流出今も変わらず≫
だが、総連は、借金を返還せず差し押さえも妨害しながら、いまだに北朝鮮にカネを運んでいる。昨年12月から4月までの5カ月の間に毎月1回以上、副議長らを団長とする訪朝団を送り、届け出ベースだけで、3億7千万円以上を北朝鮮に持ち込んでいる。
総連の不法送金が本格化するのは1970年代からである。北朝鮮は、日本を含む西側諸国から多額のプラント輸入を行って代金を払えなくなり、国家破産に直面する。その時、北朝鮮は政府管轄の社会主義計画経済の枠外に、金正日氏直轄の秘密資金管理部門(朝鮮労働党39号室)を設け、その資金を使って毎年、日成、正日の金父子と特権階層向けの贅沢(ぜいたく)品を輸入する一方、核ミサイル開発、対南政治工作などを続けてきた。
39号室向けの外貨の調達先となった一つが総連だった。筆者らは90年代初め、北朝鮮の核開発を止めるには財源である総連からの不法送金を断てと主張した。当時、内閣調査室が日銀の査察結果などを使って調査したところ、実に年間1800億~2000億円が北朝鮮に送られていた。羽田孜外相が93年12月に、日本記者クラブで確認したところである。
≪組織ぐるみの「脱税」だ≫
総連の不法送金にはいくつかの手口があった。第一が、組織ぐるみの「脱税」だ。紙幅の関係で詳論は拙著『テロ国家・北朝鮮に騙されるな』などに譲るが、総連は国税庁との5項目合意を結んだとして組織ぐるみで「脱税」し、浮いたカネを献金させていた。
76年に社会党の高沢寅男衆院議員の仲介で国税庁幹部と交渉し、「朝鮮商工人との総ての税金問題は、朝鮮商工会と協議して解決する」などとする5項目の合意を結んだとして、税務署で税金を値切ってきた。92年1月14日付朝鮮商工新聞は堂々と、「(朝鮮商工会は昨年)また同胞商工人たちの税金問題を円満に解決し、日本当局との『団体交渉権』をより強固にしました」と書いている。
第二が朝銀信組を使った資金作りである。朝銀信組が地方本部や民族学校などを担保に、ダミーのペーパー会社や個人に対して多額の融資を行い、その資金を北朝鮮に送るなどといった手法だ。その結果として、融資は焦げ付き、朝銀信組は破綻するのだが、善意の預金者を守るという建前によって公的資金が投入され、融資の焦げ付き部分は補填される。
バブルの崩壊後、破綻した金融機関には巨額の公的資金が注入された。その際、不良債権の借り手について刑事、民事の両面から厳しい追及がなされた。それに比べると、627億円もの借金を未返済のまま開き直っている総連に対する追及は極めて甘い。事の本質は、北朝鮮の独裁体制が総連を使い、悪意を持って日本の法秩序を破り、多額の資金を得てきた不法送金の全体構造にある。だが、そのことを論じる者は少なく、大きな闇はまだ晴れていない。(にしおか つとむ)
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北朝鮮は、金日成の指示のもと、工作員が工作船で日本の領土に上陸して、日本国民を強制的に北朝鮮に連れて行った。拉致は、北朝鮮の最高指導者の指示によって行われている組織的な国家犯罪であり、許しがたい国家テロである。日本人を拉致する工作員の活動には、日本国内に存在する朝鮮総連が組織的に加担していた。
わが国は、北朝鮮の国家犯罪を暴き、拉致被害者の救出を加速すべきである。そのためには、朝鮮総連に対し、断固たる措置を取る必要がある。
有効な措置の一つは、司法に基づく厳正な対処である。本年6月27日最高裁は、わが国の政府機関である整理回収機構(RCC)が、朝鮮総連中央本部の土地と建物の差し押さえをできるようにする判決を下した。
平成9~13年(1997=2001)に、わが国各地にある在日朝鮮人系金融機関「朝銀信用組合」が次々に破綻した。朝銀信組では、朝鮮総連幹部の求めに応じて、総連施設や朝鮮学校の敷地を担保にした安易な貸し出しが繰り返され、地上げなどの事業の焦げ付きで破綻に至った。借り主である総連が朝銀信組を支配しており、チェック機能が存在しなかった。
この時、破綻処理のため、約1兆4千億円もの公的資金が投入された。公的資金とは、国民が納めた税金である。どうして、わが国が北朝鮮の金融機関を救済するために、国民の税金を投じなければならないのか。異常な話だった。
朝鮮総連は、朝銀信組から少なくとも627億円を借りて返していない。平成17年(2005)、RCCは総連中央を相手に借金の返還を求める民事訴訟を起こした。小泉政権の安倍晋三官房長官が、強い決意で指導力を発揮したものである。19年(2007)、RCCは勝訴した。だが、総連は借金を返さない。そこで、RCCは総連中央本部の土地建物を差し押さえようとした。
このとき、また異常なことが起こった。元公安調査庁長官の緒方重威氏が、総連側に立って、総連中央本部を形式的に売却しようとしたのである。この売却は失敗に終わった。だが、公安調査庁の元トップが総連側に立って動いたことは、日本の政界と北朝鮮の間に、底知れない闇があることを垣間見せた。
先の最高裁判決は、わが国の司法制度において最終的に、総連中央本部の土地・建物の差し押さえを可能にしたものである。そこで、RCCは、約627億円の債権回収を図るために東京地裁に競売を求める申し立てを行い、地裁は本年7月12日付で手続き開始を決定した。既に総連中央本部の土地・建物が差押えられ、8月11日には、東京地裁の執行官が総連中央本部の立ち入り調査を実施した。調査は、競売物件の構造や占有状況を把握するための手続きで、これらの結果を踏まえ売却基準価格が決まる見通しである。地裁は、入札に向けて本格的な準備に入る。落札者次第で総連が本部から退去を迫られる可能性があるが、総連に有利な落札者が現れる可能性もある。
拉致被害者の救出に尽力している西岡力氏は、次のように書いている。
「バブルの崩壊後、破綻した金融機関には巨額の公的資金が注入された。その際、不良債権の借り手について刑事、民事の両面から厳しい追及がなされた。それに比べると、627億円もの借金を未返済のまま開き直っている総連に対する追及は極めて甘い。事の本質は、北朝鮮の独裁体制が総連を使い、悪意を持って日本の法秩序を破り、多額の資金を得てきた不法送金の全体構造にある。だが、そのことを論じる者は少なく、大きな闇はまだ晴れていない。」
この「事の本質」に、わが国政府が積極的に迫っていかないと、横田めぐみさんをはじめとする拉致被害者の救出は大きく前進し得ない。断固たる取り組みが必要である。
以下、本件を伝える西岡力氏の文章を転載する。
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●産経新聞 平成24年7月5日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120705/plc12070503120003-n1.htm
【正論】
東京基督教大学教授・西岡力 差し押さえで対北送金の闇暴け
2012.7.5 03:11
この6月27日、朝鮮総連中央本部の土地と建物を、日本政府機関である整理回収機構(RCC)が差し押さえることを可能にする決定を最高裁が下した。約20年間にわたり、総連が多額の不法送金をしていると告発してきた専門家の一人として、感慨が深い。
≪対総連融資627億円の行方≫
経緯をおさらいしておきたい。総連は破綻した朝銀信用組合から少なくとも627億円を借りたまま返していない。信組の破綻に伴い約1兆4千億円の公的資金が使われた。その際、各信組からの不良債権を引き受けたRCCが、個人・団体向けの融資の流れについて調査したところ、不良債権1810億円のうち、一部の個人や団体向けとされていた融資約627億円(394件)が、「名義貸し」や「仮名」などによる総連への融資であることが判明した。これらの融資が総連への融資であることは総連も認めている。
2005年、時の安倍晋三官房長官の政治的指導力の下、RCCは総連中央を相手に借金の返還を求める民事訴訟を提起した。それまでの自民党政治家と総連との不明朗な関係からすると、考えられない毅然たる対応だった。安倍氏自身、「サヨクの人だけでなく、信じられないような保守派の大物議員からも『追及はやめろ』と言われた」と述懐している。
07年6月にRCCは勝訴する。それでも、総連は借金を返さず開き直ったので、RCCは総連中央本部の土地建物を差し押さえようとした。その過程で、総連は元公安調査庁長官の緒方重威氏を登場させ、中央本部を形式的に売却しようとして失敗した。公安調査庁は、破壊活動防止法に基づき総連の活動を監視している治安組織だ。そのトップが総連側に立って暗躍するのだから、彼らの政治工作の力は侮りがたい。
その後も、総連は登記上、中央本部の土地建物を所有しているのは合資会社、朝鮮中央会館管理会だとして差し押さえを妨害した。最高裁判決は、中央本部を実質的に総連の資産と認め、差し押さえできるようにしたものだ。
≪北への資金流出今も変わらず≫
だが、総連は、借金を返還せず差し押さえも妨害しながら、いまだに北朝鮮にカネを運んでいる。昨年12月から4月までの5カ月の間に毎月1回以上、副議長らを団長とする訪朝団を送り、届け出ベースだけで、3億7千万円以上を北朝鮮に持ち込んでいる。
総連の不法送金が本格化するのは1970年代からである。北朝鮮は、日本を含む西側諸国から多額のプラント輸入を行って代金を払えなくなり、国家破産に直面する。その時、北朝鮮は政府管轄の社会主義計画経済の枠外に、金正日氏直轄の秘密資金管理部門(朝鮮労働党39号室)を設け、その資金を使って毎年、日成、正日の金父子と特権階層向けの贅沢(ぜいたく)品を輸入する一方、核ミサイル開発、対南政治工作などを続けてきた。
39号室向けの外貨の調達先となった一つが総連だった。筆者らは90年代初め、北朝鮮の核開発を止めるには財源である総連からの不法送金を断てと主張した。当時、内閣調査室が日銀の査察結果などを使って調査したところ、実に年間1800億~2000億円が北朝鮮に送られていた。羽田孜外相が93年12月に、日本記者クラブで確認したところである。
≪組織ぐるみの「脱税」だ≫
総連の不法送金にはいくつかの手口があった。第一が、組織ぐるみの「脱税」だ。紙幅の関係で詳論は拙著『テロ国家・北朝鮮に騙されるな』などに譲るが、総連は国税庁との5項目合意を結んだとして組織ぐるみで「脱税」し、浮いたカネを献金させていた。
76年に社会党の高沢寅男衆院議員の仲介で国税庁幹部と交渉し、「朝鮮商工人との総ての税金問題は、朝鮮商工会と協議して解決する」などとする5項目の合意を結んだとして、税務署で税金を値切ってきた。92年1月14日付朝鮮商工新聞は堂々と、「(朝鮮商工会は昨年)また同胞商工人たちの税金問題を円満に解決し、日本当局との『団体交渉権』をより強固にしました」と書いている。
第二が朝銀信組を使った資金作りである。朝銀信組が地方本部や民族学校などを担保に、ダミーのペーパー会社や個人に対して多額の融資を行い、その資金を北朝鮮に送るなどといった手法だ。その結果として、融資は焦げ付き、朝銀信組は破綻するのだが、善意の預金者を守るという建前によって公的資金が投入され、融資の焦げ付き部分は補填される。
バブルの崩壊後、破綻した金融機関には巨額の公的資金が注入された。その際、不良債権の借り手について刑事、民事の両面から厳しい追及がなされた。それに比べると、627億円もの借金を未返済のまま開き直っている総連に対する追及は極めて甘い。事の本質は、北朝鮮の独裁体制が総連を使い、悪意を持って日本の法秩序を破り、多額の資金を得てきた不法送金の全体構造にある。だが、そのことを論じる者は少なく、大きな闇はまだ晴れていない。(にしおか つとむ)
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