ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人権51~権力によって実現する要素

2013-06-30 08:38:51 | 人権
●権力によって実現する要素

 権力を構成する要素として、意思、能力、強制力を挙げた。これらの要素で構成される権力は、他者に能力を付与したり、正当性を保障したり、利益を分配したり、また法を実効あるものとしたりする。次に、権力によって実現する要素について述べたい。それらの要素は、③正当性、④利益、⑤法である。丸文字の番号は、権利の要素に振ったものと同じである。

③正当性
 権利関係とは、一方の意思が他者の意思に対して、事実上または法律上優越する正当性を持つ関係である。権利の正当性が及ぶ対象には、人・もの・カネ・情報がある。人が他者及び他者の所有物を支配・管理する正当性つまり権利を持っている場合、権力を持つということができる。 
権力関係は、一方の意思が他者の意思に優越し、他者の意思に支配的な影響力を振るう関係であれば、支配―服従の関係となる。これを正当性という観点からとらえると、権力関係は権利の正当性に基づく関係であると言える。優位者は自らの権利の正当性を主張し、その正当性をもって劣位者に強制力を振るう。
 権力は、権利関係の存在しないところで、権利を主張する者が闘争または交渉によって権利を獲得し、これを正当化する力でもある。権力は、権利の正当性を実現し、保障する。権利は、その正当性を実現するもの、保障するものがなくては、権利たり得ない。ここで権利を権利足らしめるものが、権力である。

④利益
 権力は、権利を持つ者の利益を実現し、利益を保障する力でもある。利益の実現は、共同的な利益の場合、相互の合力が相互に利益をもたらす。対立的な利益の場合は、優位者に利益、劣位者に損害をもたらす。前者は権利及び権力の共同的側面であり、後者は闘争的側面である。権利の主体の社会的な関係が、共同性と闘争性となって表れる。

⑤法
 権力は、法を法として機能させる力でもある。法は利益を確定し、これを保護する。それを裏付けるものが、力である。
 正当性は、法の形態を取ることによって、一般化される。権利を定める法は正当性の根拠とされ、法に照らして権利の正当性が判断される。法は「権利=法」の客観的な側面であり、意思の客観的な表れである。法は集団の意思を表現する言葉の体系である。法に基づいて、命令や禁止、裁判が行われる。これは法に表現された集団の意思に、成員を従わせる行為である。この法を実際に裏付けるものは、力であり、権力である。
 同時に、権力を制度的に支持するものが、法でもある。権力は、主に優位者の権利の作用を力の観念でとらえたものとされており、権力は法を正当性の根拠とする。物理的実力の行使は、法に定められ、法の規定に基づいて、合法的に権力は行使される。

 権利の6つの要素と関係付けて、権力を構成する要素と権力によって実現する要素について述べた。
 権利と同様に、権力は意思を現実化する能力であり、他者の行為に対する強制力である。その点で、権力は権利の相互作用を力の観念でとらえたものである。そして、権力は、その働きによって、他者に能力を付与したり、正当性を保障したり、利益を分配したり、また法を実効あるものとしたりする。すなわち、権利の他の要素を現実化する。言い換えれば、権利を権利たらしめる力が、権力でもある。
 ここで権利を人権という本稿の主題となる語に置き換えて表現しておくと、権力は人権を人権たらしめ、人権を生み出し、保護し保障する力である。人権は発達する人間的な権利であり、権力に対抗して発達するとともに、権力によって保障され、発達する権利でもある。

 次回に続く。

参院選予測:自民圧勝、ねじれ解消は確実

2013-06-28 08:53:57 | 時事
 「週刊文春」は、7月4日号に「参院選全選挙区&比例区 最終予測」という記事を載せた。政治広報システム研究所代表の久保田正志氏と文春取材班による予測である。
 「週刊文春」は、4月25日号でも同じスタッフによる予測記事を載せた。私は、5月5日の日記で紹介と分析を書いた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1901001436&owner_id=525191
 日記は「参院選予測:自・維・みプラス10で3分の2超へ」と題した。当時、各種世論調査で安倍内閣の支持率は概ね60~70%と非常に高水準、政党支持率も自民党は40%台と高く、他はすべて一桁台だった。久保田氏は、「このまま推移すると仮定すれば、自民が圧勝するのは間違いありません」と述べた。
 自民党は、選挙区で46議席、比例で18議席、合計で64議席。非改選議席と合わせて、113議席。公明は、選挙区で2、比例で6、合計で8。非改選と合わせて、17議席。自公では130議席となり、過半数の122議席を優に確保している、と予測した。
 その記事は、選挙戦のポイントは、すでに3分の2を巡る攻防に移っている、とし、維新が選挙区で11、比例で7の合計18、非改選と合わせて19。みんなが選挙区で6、比例で4の合計10、非改選と合わせて20。自民・維新・みんなを加えると、合計152議席。憲法改正の発議に必要な3分の2以上となる162議席には、10議席足りないと私は推算した。民主党の中の改憲派の動向が注目されると先の日記に書いた。

 ここで今回の記事の紹介と分析に移るが、久保田氏は「自民圧勝の流れはもはや変わりません」と言う。6月23日に行われた都議選で、自民は擁立した59人が全員当選。自公で82議席と、過半数の64議席を大きく上回った。この勢いで、参院選に入る。
 今回の予測では、自民党は選挙区で47、比例で20、合計で67議席。非改選と合わせて、117議席。4月の予想より、4議席多い。公明は、選挙区3、比例6で、合計9.非改選と合わせて、18議席。4月の予想より、1議席多い。自公では135議席となり、過半数を13議席上回る。安倍政権のもと、ねじれ国会は、解消する。
 ただし、憲法改正には、逆に厳しい状況が読み取れる。というのは、改憲勢力に数えられる維新が、選挙区で2、比例で5の合計7。4月の予測値より、11議席減少。都議選で34人擁立しながら、2議席しか取れず惨敗したように、橋下徹共同代表の慰安婦問題発言の影響がかなり大きいと思われる。一方、その発言問題で維新との選挙協力を解消したみんなは、選挙区で4、比例区で4の合計8。こちらも、4月の予測値より、2議席減少。非改選を含む自民・維新・みんなの合計議席数は、143議席。憲法改正の発議に必要な162議席には、及ばない。4月の時点の予測では、10議席不足だったのが、19議席の不足と、差が開いた。自民党が勢いを続伸しているのに対し、維新が大きく後退、みんなも失速しつつあることで、憲法改正の門までの距離が以前より開いている状況と見られる。
 民主党については、選挙区で16、比例区で7、合計23。非改選と合わせても、65議席。現有の86から19議席減らすという予測である。私としては、民主党内の改憲派の動向に引き続き注目したいと思う。

 今後、7月21日の参院選当日までに、どういう動きが起こり、流れが生まれるかはわからない。上記は現時点における一つの予測である。
 私は、日本の再建には憲法改正が急務と訴える者だが、仮に参院選で改憲勢力が3分の2以上になり得ない場合、次の参院選は、3年後となる。その時までに、衆院選があるかどうか、その結果、改憲派が3分の2以上を確保できるかどうかによって、次の参院選の意義は、大きく変わる。安倍政権が順調に政策を実行して国民の支持を維持できれば、3年後の平成28年(2016)に衆参ダブル選挙が行われる可能性もある。
 日本の運命を決めるのは、日本国民自身である。来る7月21日の参院選に向けて、日本のあり方を真剣に考え、貴重な一票を投じよう。

関連掲示
・拙稿「衆院は憲法9条改正に賛成の議員が70%超に」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/6d0f81d13df4c0b966aac51ecd2b7213

中国:富裕層6割が海外移民を検討

2013-06-27 08:52:34 | 国際関係
 6月4日の日記に、シナ系日本人評論家の石平氏が、「今、中国で大規模な移民ブームが起きている」「1千万人民元(約1億6千万円)以上の資産を持つ中国国民の6割はすでに海外へ移民してしまったり、あるいは移民を検討している。さらに、個人資産1億元以上の富豪企業家では27%が移民済みで、47%が検討中」だと述べていることを書いた。最大の理由は「財産の安全に対する心配」である。莫大な財産を蓄積してきた富裕層や企業家たちは、究極の「安全対策」として海外移民へと走っているらしい。
 拓殖大学教授の藤村幸義(たかとし)氏が、石氏の主張を裏付けることを書いている。藤村氏は、日本経済新聞社の北京支局長として7年間中国に滞在したジャーナリスト上がりの学者である。藤本氏は、招商銀行とベイン・キャピタルがこのほど共同で発表した「2013年中国私人財富報告」を紹介している。中国では、2011年秋から不動産価格が下がり始め、経済成長率も10%の大台を大きく割り込んできた。このため12年の個人投資資産も、10年比では29%増にまで伸び率が鈍化した。投資目的も、この2年間で「財産をさらに増やす」という積極的な姿勢から「財産を守る」「高レベルの生活実現」「子女教育」といった守りの姿勢に転じている。藤村氏は、「投資先はリスク分散のために、国内での不動産投資を減らし、海外に投資先を求める動きが目立っている。海外投資先で最大の比率だったのは香港。また、米国への投資も加速している。海外投資と同時に子息を移民させるケースも多い。なんと資産家の6割が投資移民制度を活用して、すでに移民させたり、近い将来の移民を検討しているという」と書いている。
 以下、藤村氏の記事。

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●フジサンケイビジネスアイ 平成25年6月12日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130612/chn13061210440002-n1.htm
中国から逃げ出す富裕層 投資先は海外へ 6割が移民を検討
2013.6.12 10:43

 中国の富裕層は、2008年秋のリーマン・ショック後に発生した不動産バブルの中で、資産を一気に拡大させた。ところが過去2年は不動産相場も頭打ちとなり、投資のリスク分散を図らざるを得なくなってきた。とりわけ国内から海外に投資先を移す動きが目立っている。(フジサンケイビジネスアイ)

 招商銀行とベイン・キャピタルがこのほど共同で発表した「2013年中国私人財富報告」によると、12年に投資可能な個人の資産規模は80兆元(約1290兆円)に達した。前回調査(10年)に比べると、2年間で18兆元の増加となっている。
 1000万元以上の資産家は70万人を超えた。10年に比べると、20万人の増加である。このうち、5000万元以上は約10万人、1億元以上は4万人に達した。
 地域別にみると、1000万元以上の資産家が1万人以上いる省・市・自治区は合計20カ所。12年には重慶、黒竜江、山西、陝西、内蒙古といった内陸部が新たに加わっている。一方で、上海や広東といった沿海部の資産比率は減っており、資産が徐々に内陸部に移動していることが分かる。
 だが、資産の伸び率そのものは下がっている。個人の投資資産は、08年段階では38兆元だったが、リーマン・ショック後の不動産バブルの中で、10年には一気に62兆元(08年比63%増)にまで膨れ上がった。ところが11年秋から不動産価格が下がり始め、経済成長率も10%の大台を大きく割り込んできた。このため12年の個人投資資産も、10年比では29%増にまで伸び率が鈍化している。
 例えば不動産や株などへの投資をみると、08年から10年の2年間には資産を55%も増やしてきた。ところがその後の2年間は逆に、資産を2%減らしている。
 投資目的をみても、これまでは「財産をさらに増やす」という積極的な姿勢が目立っていたが、この2年間で「財産を守る」「高レベルの生活実現」「子女教育」といった守りの姿勢に転じている。
 投資先はリスク分散のために、国内での不動産投資を減らし、海外に投資先を求める動きが目立っている。
 海外投資先で最大の比率だったのは香港。また、米国への投資も加速している。海外投資と同時に子息を移民させるケースも多い。なんと資産家の6割が投資移民制度を活用して、すでに移民させたり、近い将来の移民を検討しているという。(拓殖大学国際学部教授・藤村幸義)
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関連掲示
・拙稿「中国から富裕層が海外に大量移民~石平氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/c251466fba74194d7058d2d05204dfe2

安倍・シン両首相による日印連携を歓迎する

2013-06-25 08:44:41 | 国際関係
 5月29日、安倍首相は来日したインドのシン首相と会談し、共同声明を発表した。共同声明は「国際法の諸原則に基づく航行の自由への関与」に言及し、東シナ海や南シナ海で権益拡大の野心をあらわにする中国を牽制した。
 安全保障は、海上自衛隊の救難飛行艇US-2の輸出に向けた合同作業部会の設置や、海自とインド海軍の共同訓練の活発化で合意した。経済協力では、日本の原発輸出の前提となる原子力協定の「早期妥結」で一致した。首脳会談では、インド政府が進めるムンバイ-アーメダバード間の高速鉄道計画について、共同調査を行うことでも合意した。
 インドは自由と民主主義、法の支配といった普遍的価値を日本と共有しており、安倍首相が掲げる「価値観外交」で重要な位置を占める。インドは中国と並ぶ2大新興経済国であり、今世紀半ばには、GDPで中国を抜くという予想もある。何より、有数の親日国である。
 シン首相は、第1次安倍内閣のときにも来日し、平成18年12月安倍首相と共同声明を発表した。その時から日本とインドは、戦略的なパートナーとして、新たな歩みを始めた。この来日の際、シン首相は、衆議院で演説をした。だが、その内容を、日本のマスメディアは、新聞・テレビとも報道していなかった。おそらく中国共産党の反発を恐れて、自粛したものだろう。私は、その演説をマイサイトに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm
 シン首相は、この演説で、重要なことを述べた。ネール首相が日本の近代化と復興に学ぼうとしたこと、日本のODA支援と岸信介元首相への感謝、90年代のインド経済危機への支援への謝意、インドは戦後賠償を放棄したこと、東京裁判でのパル判事の見解、民主主義国同志である日印のパートナーシップの構築、インドのソフト産業と日本のハード産業の相乗効果、シーレーン保護を含めた防衛協力、国連における日印の協力、インドへの日本企業の進出の要請、アジア経済共同体の形成等である。日本とインドの関係においてだけではなく、アジアの安定と繁栄にとっても、世界の平和と協調にとっても、歴史的な意義を持った演説だった。
 それから、6年半。インドはこの間、確実に成長を続け、存在感を増している。その一方、中国はパキスタンやスリランカ、ミャンマーなどで港湾開発に協力することを通じて、インド洋での拠点づくりを着々と進めている。中国の覇権主義的な海洋進出は、日印両国にとって共通の懸念であり、安全保障の協力が必要である。
 シン首相の訪日に先立って、中国の李克強首相が就任後初の外遊先としてインドを訪問した。中印の「相互信頼」を強調した。インドは、李首相の訪印前の4月中旬に、カシミール地方の支配地で中国人民解放軍の侵入と駐留を受けたばかりだった。中国軍は突如、実効支配線からインド側に10キロ以上も侵入した。インドは3年前から国境警備を軍から警察に移し、国境を守る意思の低下というスキを中国に与えていた。そして李首相の訪印を前に、中国軍の撤退の見返りに監視所を撤去し、塹壕など防御要塞を破壊することに合意してしまったという。こうした体験をしているインドは、日本が尖閣や沖縄をめぐって中国から理不尽な圧力をかけられていることを理解できるだろう。膨張する中国に対し、日印が防衛協力を行い、米国や他のアジア諸国とも協力して「アジア協調」体制を築くべきである。また日印の経済協力を拡大し、中国の進出に一部追従し、一部反発している東南アジア諸国を、自由主義の側に引き付け、日本―東南アジアーインドを結ぶ自由と協調の経済圏を築くべきである。
 以下は、共同声明と関連する報道記事。

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●外務省のサイト

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005382.pdf
共同声明 国交樹立60周年を超えた日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化(仮訳)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005380.pdf
安倍晋三総理大臣とマンモハン・シン首相による共同声明(骨子)
~国交樹立60周年を超えた日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化~

1. 2012年の国交樹立 60周年に祝意。「戦略的グローバル・パートナーシップ」の一層の定着・強化を決意。両陛下に国賓としてインドを御訪問いただけるよう調整することで一致。閣僚級経済対話,2+2対話,日米印協議をはじめサイバー,テロ対策,経済連携等に関する対話・交流評価。海洋に関する対話の実施歓迎。
2. 海上自衛隊とインド海軍との間の二国間共同訓練の定期的・より頻繁な実施。US-2飛行艇に関する協力の態様を模索する合同作業部会(JWG)設置。
3. 包括的経済連携協定第2回合同委員会開催等歓迎。社会保障協定署名を歓迎しつつ,早期発効に向けた作業を関係政府当局に指示。
4. シン首相は, ODAの継続に謝意。円借款案件「ムンバイ地下鉄」(710億)の交換公文署名歓迎,「インド工科大ハイデラバード校」(177億)等の供与意図表明。
5. 貨物専用鉄道建設計画(DFC)の進展,デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)及び個別事業の進展,チェンナイ・バンガロール地域開発の包括的な統合マスタープラン策定作業の進展を歓迎。
6. 高速鉄道のムンバイ・アーメダバード路線に関する共同調査の実施を決定。
7. 日インド原子力協定の早期妥結に向け交渉を加速。
8. JENESYS2.0によるインド人青少年日本招待。観光の協力強化を確認。インド工科大学ハイデラバード校,インド情報技術大学ジャバルプル校の協力進展,ナーランダ大学に関する日本の平和研究等の貢献の意図,製造業経営幹部育成(VLFM)計画を評価。
9. 国際法に基づく海洋における航行の自由等を再確認。海上保安庁と沿岸警備隊との間の連携訓練の実施歓迎。
10. 東アジア首脳会議(EAS)に関し,ASEAN海洋フォーラム拡大会合開催等歓迎。
11.核兵器の全面的な廃絶に向けた両国のコミットメントを再確認。安倍総理は,包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性強調。シン首相は,一方的かつ自主的な核実験モラトリアムに対するインドのコミットメントを改めて表明。両首脳は,兵器用核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉即時開始及び早期締結支持。両首脳は,輸出管理レジームへのインド参加の素地を作るために引き続き作業していくことで一致。
12. アフガニスタン,北朝鮮,テロ対策,気候変動,安保理改革等での協力確認。
13.シン首相による年次首脳会談のための訪印招待を安倍総理受諾。

●産経新聞 平成25年5月31日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130531/asi13053122570004-n1.htm
インド各紙がシン首相の訪日で日印関係強化を訴え 「中国を鼻先であしらう好機」
2013.5.31 22:55

 【ニューデリー=岩田智雄】5月30日付のインド主要紙は、シン首相の訪日を1面トップ記事などで手厚く報道し、日印関係の強化を大々的に歓迎した。インドはカシミール地方の支配地で中国人民解放軍の侵入と駐留を受けたばかりで、中国の軍事的脅威に対抗するため、日印の連携強化を訴える論調が目立った。
 ヒンドゥスタン・タイムズは1面トップで「仕事と円を中国からインドに移すのに熱心な日本」との見出しで、「何百もの日本企業が、工場を中国からインドに移し、巨額の投資と大量の仕事をもたらすかもしれない。日本はインドにとり(軍事)技術の魅力的な源として浮上しそうだ」と期待を示し、「共同軍事演習を深化させることは、最近、インド領にずうずうしい侵入をした中国を鼻先であしらう好機となるだろう」と伝えた。
 シン首相が日印の関係強化や海洋の自由での協力を訴えたのは「中国の海洋での拡張路線に抵抗する穏やかな表現だ」と指摘した。中国共産党機関紙、人民日報が最近、日本がインドなど中国周辺国との関係を深めていることに「中国関連問題で押し込み泥棒になっている政治家がいる」と批判した記事についても、「こうした邪悪な警告は命運が尽きた」と断じた。
 タイムズ・オブ・インディアは「日印が真珠の首飾りの破壊で手を携え」との見出しで日印首脳会談の成果を報じ、中国がスリランカやパキスタンなどインド洋周辺国で軍事利用を視野に港湾整備を支援していることに対抗するため日印が協力を強化するとの趣旨の記事を掲載した。
 インディアン・エクスプレスは「トーキョー(日本政府)との団結」と題する社説で、シン首相は中国の顔色をうかがって日本への接近を心配していたようだが、カシミール地方での侵入事件が「いつまでも続く中印関係のもろさをさらけ出し、日本という選択肢を新たに突出させた」と分析している。
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関連掲示
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm

人権50~権力を構成する要素

2013-06-24 09:24:24 | 人権
●権利の要素と権力の関係

 権利について書いた第3章で、私は、次のように述べた。権利は、個人または集団の意思に基づく能力の発揮が相互に承認され、正当性を持ったものである。権利は保有者に利益をもたらし、法によって制度化されることがあり、しばしば強制力に裏付けられる、と。権力とは、こうした権利の相互作用を力の観念でとらえたものである。
 私は、権利には、①能力、②意思、③正当性、④利益、⑤法、⑥強制力の6つの要素があると考える。これらの要素をもとに、権力は間主体的な権利の相互作用を力の観念でとらえたものであることを、ここで具体的に示したいと思う。
 権利の6つの要素のうち、①の能力と⑥の強制力は、漢字がよく表しているように、力に係るものである。能力と強制力をつなぐものとして、②の意思という要素が存在する。能力は意思の働きであり、強制力も意思を強制する力である。権利と同様に、権力は意思を現実化する能力であり、他者の行為に対する強制力である。そして、権力は、その働きによって、他者に①能力を付与したり、③正当性を保障したり、④利益を分配したり、また⑤法を実効あるものとしたりする。すなわち、権利の他の要素を現実化する。言い換えれば、権利を権利たらしめる力が、権力である。

●権力を構成する要素

 次に権利の6つの要素と関係付けながら、権力を構成する要素と権力によって実現する要素を明らかにしたい。権力を構成する要素には、権利の6要素のうち、①能力、②意思、⑥強制力がある。

①能力
 人間に生まれながらに備わっている何かを「する」能力が、権利と権力に共通している要素の一つである。権利とは、何かをすることが「できる」「していい」ことを、承認または許可したものである。西洋ではこの「できる、していい能力」を、力の観念でとらえたのである。権利を主張または行使し、特にその意思を他者に強く働かせる場合、権利は権力と感じられる。こういう意味では、原理的には、あらゆる社会関係において、権利と権力は発生する。フーコーは、あらゆる社会関係において権力は発生するとしたが、発生するのは権力だけでなく、権利と権力である。私は、権利と権力は相関的に機能する人間の能力であると理解すべきと思う。
 能力という点から見ると、個人または集団の能力を、その発揮の正当性や承認に重点を置いてとらえたものが権利であり、その強制性に重点を置いてとらえたものが権力である。

②意思
 意思もまた権利と権力に共通する要素である。権力は、人の意思の働きによって他者に対して行使される能力である。能力を発揮するのは、意思の働きによる。
 個人であれ集団であれ、意思は相手に作用することで実現される。その作用には、精神的・心理的な作用と身体的・物理的な作用がある。前者は影響・感化・権威であり、後者は腕力・武力・実力である。意思は権利の要素である。その意思の作用を力の観念でとらえたものが、権力と言える。
 権力は社会的な力の一種である。社会的な力は、人間の意思の働きによって発動する力である。人間の意思の働きなしに、社会的な力は発動しない。権力は意思の形成によって生まれる力であり、また意思を実現する力である。権力は、他者への意思の作用の強度を力の観念で表現するものである。意思が他者に働く時、それが自分の意思より優位であれば強い力または大きな力と感じられる。逆であれば、弱い力または小さな力と感じられる。
 権力が形成されたり、行使されたりする社会関係を、権力関係という。一般的に権力関係は、一方の意思が他者の意思に優越し、他者の意思に支配的な影響力を振るう関係とされる。すなわち、支配―服従の関係ととらえられてきた。だが、共同体においては、権力は、その集団の意思が合成された合成意思の働きである。合成意思としての力としての権力は、集団の秩序を維持し、集団の権利及び成員の権利を守る働きをする。このような権力関係は、保護―受援の関係である。受援とは、本稿では他者から保護・指導・支援・教育を受けることを意味する。

⑥強制力
 もう一つの権利と権力に共通する要素に強制力がある。意思による能力の発揮は、しばしば相手に意思を強制するものとなる。意思を強制するため、身体的・物理的な力を行使し、相手の身体に直接、苦痛や拘束や傷害を与える場合がある。
 権力が力である理由の一つは、他者に自己の意思を身体的・物理的な力をもって強制する力である点にある。強制力は、強制する意思の働きである。とりわけ、権利の所有者が物理的な実力を行使する組織や装置を持ち、相手がその意思に従わなければ、組織的または機械的な力によって強制するところに、最も典型的な権力が存在する。優位者の権利が強大な力として感じられるのは、この物理的な実力を行使する強制力に裏付けられているからである。
 また権力の行使は、身体的・物理的な力の行使を裏付けとした心理的な圧力という仕方でも行われる。脅迫や威嚇がこれである。この点は、後に述べる権威に通じる作用である。

 次回に続く。

橋下「慰安婦」発言きっかけに国連が事実誤認の勧告

2013-06-21 09:44:13 | 慰安婦
 日本維新の会・共同代表の橋下徹氏の慰安婦問題に関する発言が、国際的な波紋を呼んでいる。
 その発言は、5月13日橋下氏が、記者団に、「銃弾が雨・嵐のごとく飛び交う中で、命を懸けて走っていく時に、猛者集団、精神的に高ぶっている集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる」「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして、女性を拉致したという事実は今のところ証拠で裏付けられていない」「当時慰安婦制度は世界各国の軍は持っていた」「なぜ日本のいわゆる従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか」などと発言。さらに、連休中に米軍普天間飛行場を視察した際、米軍司令官に、性的なエネルギーを合法的に解消できる場所が日本にはあるので、「もっと風俗業を活用してほしい」と求めたことを明らかにした。
 「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして、女性を拉致したという事実は今のところ証拠で裏付けられていない」とい認識は、その通りなのだが、公職にある政治家の発言としては、不用意な発言だった。特に米軍司令官に語ったということに関しては、公の場で言うべきことではない。同盟国の米軍のみならず米国民をも侮辱することになる不適切な表現だった。
 橋下氏は、政治家として、思慮が足りない。これまでにも、政治家としての資質を疑われる発言をしばしばしてきたが、今回はその極みである。慰安婦問題の最重要点は、強制連行の有無である。橋下氏は、慰安婦問題について発言したかったなら、誤解を招き、反発を食らいやすいことは言わずに、その点に限って発言し、河野談話批判に焦点を絞るべきだった。
 わが国内では、橋下氏の発言は、基本的人権を無視し、女性を差別している、女性の尊厳を損ねたなどと、広く批判を受けた。米国を含む海外諸国からも批判を受けた。その波紋は続き、むしろ拡大している。国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は、わが国政府に、慰安婦問題で「政府や公人による事実の否定や被害者を再び傷つける試みに反論」することを求める勧告を出してきた。
 同委員会は、5月21~22日、ジュネーブで対日審査を行い、橋下氏の発言に関し、日本政府の見解を求めた。強制的に慰安婦になったわけではないという主張が日本にあることに言及し、「とうてい受け入れられない」という厳しい指摘があった。日本政府側は、慰安婦問題は大東亜戦争での出来事で、1987年に発効した拷問禁止条約の対象にはならないと主張した上で、「心が痛む問題で、アジア諸国に多大な損害を与えたという事実を謙虚に受け止めている」と説明した。
 だが、拷問禁止委員会は、日本側の主張を聞き入れず、今回の勧告をだしたものだ。勧告は慰安婦を「日本軍の性奴隷」と表現し、元慰安婦への補償が不十分で関係者の訴追が行われていないと指摘して、日本が「法的責任を認め、関係者を処罰」し、すべての歴史教科書に慰安婦を記述するよう求めてもいる。
 これに対し、わが国政府は6月18日、拷問禁止委員会の勧告に関し、「法的拘束力を持つものではなく、締約国に従うことを義務付けているものではない」との答弁書を閣議決定した。菅義偉官房長官は、答弁書の内容について「政府としてあらためて発言することはないという趣旨だ」と説明した。
 私は、この政府の対応は、消極的だと思う。国際人権規約に基づく委員会の勧告は、法的拘束力はないが、勧告的な効果を持っている。上位には国連人権理事会があり、強い影響力を振るっている。人権の定義が不十分のまま、各種の人権条約が結ばれており、実行がされないと、実行が促されるという仕組みが出来上がっている。政府が消極的な対応にとどまっていると、いずれわが国は窮地に陥る。第1次安倍内閣は平成19年3月、「政府が発見した資料中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定している。この機会に、その決定内容を以て、回答すべきである。同時に、河野談話に関し、再検討を急ぎ、官房長官談話を出し直すべきである。
 事の発端となった発言をした橋下氏は、6月15日、テレビ大阪の番組「たかじんNOマネー」に出演し、戦時下の慰安婦について、「日韓の歴史家で共同研究して、(日本の)国家的な意思として拉致や人身売買があったなら、日韓基本条約の対象外として国家補償も考えないといけない」と発言した。橋下氏は「日韓基本条約があるから一切責任がないというのが日本政府の立場」と改めて説明。その上で「日韓共同で研究し、もう1回補償問題を考えるべきだ」と述べたと伝えられる。この発言は、国際法に照らして誤った認識によるものである。橋下氏は、根底にこうした認識を持っているから、慰安婦問題について整理ができておらず、不用意に焦点の拡散した発言をしてしまうのだろう。橋下氏については、有識者の間で、他に例のないほど大きく評価が分かれてきた。私は、橋本氏が国政を目指すなら、過去の自分の言動を恥じ、時間をかけて徳を磨くことが必要と述べてきたが、橋下氏にはほとんど進歩がない。発言の自重を強く求めたい。
 以下は関連する報道記事。

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●CNNニュース 平成25年5月28日

http://www.cnn.co.jp/world/35032606.html
橋下氏「米国民に謝罪する」 慰安婦問題巡る発言も釈明
2013.05.28 Tue posted at 12:35 JST

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は27日、日本外国特派員協会で記者会見し、在日米軍による「風俗業の活用」や慰安婦問題を巡る発言について釈明した。
 橋下氏は会見で配布した文書の中で、在日米軍に風俗業の「活用」を勧めた発言は「米軍のみならず米国民を侮辱することにもつながる不適切な表現だった」と認め、「撤回するとともにおわび申し上げる」と謝罪した。同時に、発言の根底には、一部米軍兵士の犯罪被害に苦しむ沖縄の問題を解決したいとの強い思いがあったと説明した。
 一方、旧日本軍の慰安婦は「必要だった」とした発言については、「私の一つのワードが抜き取られて報じられた」と主張。この部分については謝罪せず、「戦時においては世界各国の軍が女性を必要としていたのではないかと発言したところ、私自身が必要と考える、私が容認していると誤報された」と釈明した。
 橋下氏は、戦時における性の問題は旧日本軍だけにとどまらず、第2次世界大戦中の米軍、英軍、フランス軍、ドイツ軍、旧ソ連軍や、朝鮮戦争、ベトナム戦争中の韓国軍も抱えていたと指摘。「もし、日本だけが非難される理由が、戦時中、国家の意思として女性を拉致した、国家の意思として女性を売買したということにあるのであれば、それは事実と異なります」と主張した。
ただ、慰安婦が「筆舌につくしがたい」苦痛を被ったことは認識していると述べ、「かつて日本兵が女性の人権を蹂躙(じゅうりん)したことについては痛切に反省し、慰安婦の方々には謝罪しなければなりません」と言明した。

●産経新聞 平成25年6月16日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130616/stt13061603290000-n1.htm
【日曜に書く】
論説委員・石川水穂 慰安婦で一方的な国連勧告
2013.6.16 03:17

「日本軍の性奴隷」と表記
 国連の拷問禁止委員会が慰安婦問題で「政府や公人による事実の否定や被害者を再び傷つける試みに反論」することを日本政府に求める勧告を出した。日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の慰安婦をめぐる発言を踏まえたものとみられる。
 勧告は慰安婦を「日本軍の性奴隷」と決めつけ、元慰安婦への補償が不十分で関係者の訴追が行われていないと指摘した。そのうえで、日本が「法的責任を認め、関係者を処罰」し、すべての歴史教科書に慰安婦を記述するよう求めた。
 外務省によれば、日本政府が慰安婦問題を含めて「反省とお詫(わ)び」を繰り返し表明していることや、女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)で元慰安婦1人につき200万円の「償い金」を支払ったことなどを説明したという。
 日本側の主張は、ほとんど聞き入れられなかったようだ。
 1996(平成8)年、国連人権委員会が出した慰安婦問題に関するクマラスワミ報告も、虚偽の多い内容だった。報告書を作成したクマラスワミ氏はスリランカの女性法律家だ。

「詐話師」の証言を採用
 報告は、山口県労務報国会下関動員部長だったという吉田清治氏の「自ら、韓国・済州島で慰安婦狩りを行った」とする証言を取り上げ、日本による強制連行があったと断定した。
吉田氏の加害証言は、朝日新聞などで勇気ある告白として紹介された。
 だが、現代史家、秦郁彦氏の済州島での現地調査により、吉田氏の証言は嘘と分かった。秦氏はクマラスワミ氏と会い、吉田氏を「詐話師」と指摘し注意を喚起したが、無視された。
 クマラスワミ報告から2年後に国連から出された米国の女性法律家、マクドゥーガル氏の報告も、慰安所を「レイプ・センター」と表記し、日本が責任者を捜し出して起訴することを求めるなど一方的な内容だった。
 いずれも、慰安婦を「日本軍の性奴隷」と表記していた。
 もともと、この言葉を国連に持ち込んだのは日本弁護士連合会(日弁連)とされる。
 国連の報告や勧告といえば、権威があると思われがちだが、慰安婦問題に関しては悪意と偏見に満ちた内容が多い。日本政府は言われなき非難には、きちんと反論すべきだ。

河野談話批判に絞れ
 橋下氏が慰安婦問題に絡み、在日米軍幹部に「風俗業を活用してほしい」などと述べた発言は、女性の尊厳を損ない、米軍や米国民をも侮辱した不適切な表現だった。外国人特派員協会で発言を撤回し、謝罪したのは当然である。
 しかし、橋下氏が慰安婦問題に関する平成5年の河野洋平官房長官談話を批判し、「軍が暴行脅迫して拉致して慰安婦にしたということは証拠に裏付けられていない」などと述べた発言は正論である。
 繰り返すまでもないが、河野談話は根拠なしに慰安婦強制連行を認めたものだ。
 当時の宮沢喜一内閣が内外で集めた200点を超える公文書には、強制連行を示す資料はなかった。しかし、談話発表の直前に行った韓国人元慰安婦からの聞き取り調査だけで「強制」を認め、河野氏も会見で「強制連行」があったと明言した。
 橋下氏は昨夏、「河野談話は証拠に基づかない内容で日韓関係をこじらせる最大の元凶だ」と述べた。当時、野党だった自民党の安倍晋三氏は「大変勇気ある発言」と評価していた。
 慰安婦問題の本質は、強制連行の有無だ。今回、橋下氏は誤解を招くことを言わず、河野談話批判に絞るべきだった。
 第1次安倍内閣は平成19年3月、「政府が発見した資料中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定した。第2次内閣では、菅義偉官房長官の下で、有識者ヒアリングを通じて河野談話を再検討する考えを示している。
 「遠くない過去の一時期、国策を誤り」と決めつけ、「植民地支配と侵略」に対する反省とお詫びを表明した平成7年の村山富市首相談話についても、それを破棄しないものの、新たに未来志向の安倍談話を発出したい意向だ。談話の内容や発出時期は、有識者会議を立ち上げて検討するとしている。
 安倍政権は橋下氏の発言が国際社会に与えた影響を考え、慎重に言葉を選びつつ、手順を踏んで歴史認識の見直しを進めてほしい。(いしかわ みずほ)
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関連掲示
・拙稿「慰安婦問題は、虚偽と誤解に満ちている」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12f.htm
・拙稿「橋下徹は国政を担い得る政治家か」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13p.htm

北朝鮮:拉致実行犯の証言と原発テロ2

2013-06-19 08:54:43 | 国際関係
 産経新聞は、拉致実行犯だった元朝鮮人民軍幹部の証言に続いて、5月29日北朝鮮による原発自爆テロ計画に関する報道をした。まず、その記事を転載する。

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●産経新聞 平成25年5月29日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130529/kor13052907160002-n1.htm
北が対日原発自爆テロを計画、訓練も 韓国侵攻前「戦意そぐ」元軍幹部証言
2013.5.29 07:13

 北朝鮮の朝鮮人民軍が対韓国開戦直前に日本全国にある原子力発電所施設に特殊工作員計約600人を送り込み、米軍施設と同時に自爆テロを起こす計画を策定していたことが28日、軍元幹部ら脱北した複数の関係者の証言で分かった。計画実施に向け工作員を日本に侵入させ、施設の情報収集を重ね、日本近海でひそかに訓練も行っていたという。北朝鮮による原発テロが現実的脅威に浮上した。
 元幹部らによると、計画は、金日成(キム・イルソン)主席の後継者だった金正日(ジョンイル)総書記が「唯一指導体系」として朝鮮労働党と軍双方の工作機関に対する指示系統を掌握した1970年代半ば以降、具体化に動き出し、90年代に入って本格化したという。
 計画には、大別して2つの特殊部隊が編成された。「対南(韓国)」と「対日」部隊で、それぞれ2個大隊約600人ずつが充てられた。1個大隊には3、4人一組の80チームが組まれ、対南侵攻直前に日本と韓国に上陸。それぞれ連携して日韓各地の米軍基地や原発のほか、東京などの重要施設を自爆テロで同時爆破する作戦が策定された。
 原発は福井や新潟など日本海側に加え、太平洋側の施設も自爆テロの対象とされた。
 作戦のため、現地の協力者らが施設周辺を撮影するなどし毎年、情報を更新。特殊工作員が潜水艇で日本に上陸、施設内に忍び込んで情報収集することもあったという。
 情報を基に施設を忠実に再現した模型が作られ、机上演習が重ねられた。
 脱北した別の朝鮮労働党工作機関関係者によると、特殊部隊が潜水艇で日本近海に繰り出し、実戦に向けた訓練も行われた。94年には、日本近海で行った自爆テロ訓練中の事故で死亡し、北朝鮮で最大の栄誉とされる「共和国英雄」の称号を得た工作員もいたという。
 北朝鮮による対南侵攻にとって最大の脅威は沖縄などに駐留する米軍だ。元幹部によると、日本全体を米軍を支える「補給基地」とみなし、米軍に先制するため、開戦前の対南テロに加え、対日同時テロが策定されたという。
 原発が最重要ターゲットとされたのは、爆破すれば、「甚大な損害を与えられ、核兵器を使う必要がなくなる」(元幹部)との思惑からだという。さらには、広域に放射能が拡散することで「日韓両国民の間に戦争に反対する厭戦(えんせん)ムードが広がり、日米韓の戦意をそぐ政治的効果を狙った」と元幹部は説明した。
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 その後の記事では、原発同時自爆テロ計画は、金正日(キムジョンイル)総書記の指示下に策定され、金総書記は「決死隊の同時攻撃で日本に人が住めないようにしろ」とも命じていたという。元幹部らによると、北朝鮮は日本の商業原発稼働前から関心を持ち、「1960年代には、攻撃対象として注目していた」という。自爆テロは「核兵器を使うより威力がある」手っ取り早い手段とみなされた。元幹部によると、潜水艇による日本への侵入が繰り返された。「日本にはスパイを取り締まる法律もないと聞かされており、日本上陸時は銃も携帯しなかった。韓国に比べ浸透は非常にたやすかった」「発見されずに上陸でき、情報収集のための工作員浸透も90年代に最も頻繁に行われた」という。
 元幹部によると、1996年9月に韓国の江陵(カンヌン)市で北朝鮮の潜水艦が座礁し、工作員ら26人が韓国側と銃撃戦を繰り広げた。それ以降は浸透の頻度は低下したが、潜水艇による侵入はその後も続けられたという。「北朝鮮が対南侵攻の意志を捨てることはなく、金正恩(ジョンウン)政権になってもテロ計画は生き続けている」と元幹部は警告しているという。
 この時期、1994年(平成6年)、わが国の細川護煕内閣は、米国のビル・クリントンが政権が北朝鮮に宣戦布告をする瀬戸際にあった時に、対策案を作成した。当時の内閣安全保障室(現在は内閣危機管理室)が取りまとめた極秘文書の内容が一部明らかにされている。その文書は、北朝鮮による原発攻撃を想定していた。
 草案は、国連による対北朝鮮経済制裁は、三段階になると考え、それに対する北朝鮮の対応を想定している。第1段階の経済制裁では、①大量破壊兵器に関係する科学技術や科学者、技術者の交流禁止、②武器及び武器に関連する物資の禁輸 、③文化やスポーツの交流停止もしくは遮断、④北朝鮮外交官や政府関係者の入国縮小措置が行われ、さらに追加的に、⑤パチンコマネーなどを阻止するための送金停止、⑥海外資産の凍結が実行される。これらの制裁に対する北朝鮮の反応としては、①海外にある日本大使館や、日本を代表する大手企業の支店と生産工場を狙ったテロ攻撃、②北朝鮮工作員の日本侵入工作の増加と、化学兵器の日本国内への密かな搬入(人口密集地、日本の重要防護施設、または在日米軍基地への攻撃用として準備)が予想された。
 第2段階の経済制裁では、①陸上、海上、空路における交通や通信と無線の遮断、②海上における貨物検査。いわゆる海上封鎖(強制措置を伴わない)が行われる。これらの制裁に対する北朝鮮の反応として、①重要防護施設等へのゲリラ攻撃が予想され、その施設の一つに原子力発電所が挙げられた。他の施設は、国会、官邸、皇居、石油備蓄基地、劇物備蓄施設である。他に②都市への爆破攻撃と化学兵器使用(ファッションビル、デパート、テーマパーク、遊園地)、③交通機関へのゲリラ及び爆破攻撃(新幹線、旅客船、地下鉄、石油タンカー、日本航空と全日空の航空機)、④暗殺と誘拐及び殺害(狙撃、爆弾、毒物、サリン等の化学兵器使用、大手企業首脳、政界要人)⑤在日米軍と自衛隊の施設へのゲリラ攻撃(基地、通信設備、基地周辺)が予想された。
わが国は現在、経済制裁を実行しており、北朝鮮の核実験後、追加制裁を断行している。当然、北朝鮮の反応を予想し、それに備えねばならない。その中に、改めて原発への自爆テロをしっかり入れておくことが必要である。

関連掲示
・拙稿「北朝鮮による拉致とは何か」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08e.htm
・拙稿「北朝鮮、制裁後のシナリオ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12.htm
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北朝鮮:拉致実行犯の証言と原発テロ1

2013-06-18 10:26:03 | 国際関係
 5月28~31日産経新聞は北朝鮮の対日工作に関する衝撃的な報道を行った。一点は、拉致実行犯の証言、もう一点は原発自爆テロである。
 まず拉致実行犯の証言に関する記事を転載する。

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●産経新聞 平成25年5月28日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130528/kor13052808240000-n1.htm
拉致実行犯を初聴取 政府対策本部 未発覚、数十人規模か
2013.5.28 08:22

80年代「若者連れ去り、残りは船ごと沈めた」

 脱北した朝鮮人民軍元幹部が軍の指令を受けて1980年代に日本海で漁船の日本人乗組員を拉致したと証言していることが判明し、政府の拉致問題対策本部が元幹部から事情聴取したことが27日、分かった。政府当局が拉致実行犯を名乗る脱北者から聴取したのは初めて。元幹部は、軍の工作機関による海上での拉致は60年代から80年代にかけて頻繁にあったとし、「若者だけを連れ去り、残る船員は船ごと沈めた」と証言した。事実なら、拉致・殺害の被害者は数十人規模に上る可能性があり、対策本部は調査を始めた。
 海上での韓国人拉致は知られているが、軍による海での日本人拉致についての具体的証言も初。
 元幹部によれば、青森県沖で80年代、5人前後が乗った漁船を襲い、30代男性を連れ去った。残りの船員らは船ごと沈めたという。
 海上保安庁によると、70年代から80年代にかけて、日本海で行方不明になった漁船は記録が残っているだけで18隻。80年10月には青森県沖で30~70代の6人が乗った漁船が戻らず、遺体で見つかった1人を除く5人と船体が発見されない事案があった。対策本部は、元幹部の証言と、こうした事例との類似点を精査するなど調査を進める。
 元幹部によると、海上での拉致は「対日漁民作戦」と名付けられ、「対南(韓国)漁民作戦」と並行して、62~85年まで繰り返し実行された。日本海側の元山(ウォンサン)近くなどを拠点に計約120人の部隊が編成されていたという。
 作戦に使われた工作船は、船体に漢字で「○○丸」と書かれた日本の中型漁船を装ったもので、十数人の工作員が乗船していた。4月~10月末に青森から九州の日本海側で2~5人ほどが乗った中小漁船を標的にしたという。
 手口は夜、無灯火で日本漁船に近づいて乗り移り、銃を突き付け船員を制圧。10~30代だけを工作船に連行し、高齢だったり、抵抗した乗組員は船倉や船室に閉じ込め、船ごと沈めて証拠隠滅を図ったという。
 元幹部は、「多い時期は年に3回、少ないときは2年に1回実行された」とし、事実なら拉致被害者は10人以上、殺害された人はその数倍に上る可能性がある。
 元幹部は「拉致した若者を教育し日本に再上陸させ情報収集などをさせる計画だった。被害者には大学を出た若者もいた」とも証言。81年に拉致し教育した日本人を日本に再上陸させたこともあったというが、いずれの被害者も消息は不明だという。
 元幹部によれば、拉致被害者を工作活動に従事させる計画は成果を得られず、85年には韓国に再入国させた韓国人被害者が警察に通報したため、対南、対日とも作戦を中止したという。
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 この記事の報道後、5月30日、元幹部が韓国の民間団体を通じ「軍工作機関が1962~85年に漁船の若い日本人を拉致し、残る乗組員を殺害した」と文書で公表し、海上での日本人拉致の疑いを伝えた28日付産経新聞の報道内容を認めたという記事が出た。文書は、元幹部と関係のある団体が都内で開いた講演会で元幹部が書いたものを読む形で公表したという。文書によると、元幹部は直接関与した事件など把握しているだけで被害者は「30人以上」とし、「拉致問題において漁船の拉致は絶対解決しなければならない」と強調したという。
 元幹部によると、北朝鮮は60年代から80年代に米軍基地などの現状を把握するため工作員上陸を数十回行った。漁船の日本人を拉致した理由は「漁民は海の状況をよく知っており、海岸の警備状況などを知るためだった」とした。日本船に偽装した工作船から標的の小型漁船に乗り移った後、「漁民を縛り上げて尋問し、若くしっかりした1人を選び、残りは船とともに沈めた」、船を沈没させるには「エンジンに冷却水を送るホースを切断して船内に水を流し込んだりした」という。
 1960年代については、1963年(昭和38年)5月寺越昭二さん(当時36歳)・外雄さん(24歳)・武志さん(13歳)が石川県沖で行方不明になった。その24年後、1987年(昭和62年)に寺越外雄さんから手紙が来て、北朝鮮にいることがわかった。3人は工作船が侵入しようとしたところを見たので、拉致されたのだった。1977年(昭和52年)9月19日、久米裕(ゆたか)さん(当時52歳)〔東京都〕が拉致されたのが、日本の領土で、北朝鮮工作員及び朝鮮総連系に拉致された始めとされる。以後、77~83年にかけて、日本人拉致が集中的に行われた。横田めぐみさん、地村保志さん、浜本富貴恵さん、蓮村薫さん、奥土祐木子さん、市川修一さん、増元るみ子さん、田口八重子さん、曽我ひとみさん、曽我ミヨシさん、田中実さん、石岡亨さん、松木薫さん、有本恵子さんらである。寺越さんの例は、この時期より、10年以上早い。一体いつから拉致が、どの程度の規模で行われてきたのか、真相は解明されていない。今回の元幹部の証言は、軍の工作機関による海上での拉致は60年代から80年代にかけて頻繁にあったとしており、寺越さんの拉致はいくつもの海上拉致の一つだったことを示している。

 次回に続く。

中国潜水艦の行動目的~志方俊之氏

2013-06-16 08:38:46 | 国際関係
 先月の5月は、中国の潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過するという事案が3度発生した。直接的な行動目的としては、日米韓3カ国が九州西方の東シナ海で行う合同演習を監視し情報を収集すること。また米軍の潜水艦探知能力を調査することが考えられる。だが、さらに大きな目的のもとに行動していると見たほうが良い。
 防衛問題の専門家・志方俊之氏は、この度の中国潜水艦の接続水域潜航通過の頻発について、「急膨張する中国海軍の活動が、沖縄から台湾、フィリピンを経てボルネオに至る中国の対米防衛ラインの第1列島線から溢(あふ)れ出したという、純軍事的側面から捉えられよう」と述べている。
 中国の地図を90度回転させ、大陸側を下にして太平洋側を上に見ると、日本列島、沖縄、南西諸島、台湾ですっぽり蓋をされたような状態になっている。軍事的に、これを第1列島線という。中国が太平洋に出ようとする場合、ロシアの存在もあるので、津軽海峡や北方領土の付近からは軍艦を進めることができない。沖縄本島と宮古島の間から出るしかない。そこに中国にとっての尖閣諸島、南西諸島、そして沖縄の軍事的な重要性がある。逆に、日本や米国にとっては、中国が太平洋に覇権を拡大するのを防ぐためにも、尖閣諸島、南西諸島、沖縄は、重要な地域である。
 中国は、第1列島線の内側でアクセス(接近)拒否の能力を確保しようとしてきた。さらに第1列島線を越えて第2列島線との間における、エリア(領域)拒否の能力を広げようとしている。尖閣諸島周辺を含む日本近海での中国海軍の動きがそれを示している。平成22年(2010)8月米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書で、中国軍は沖縄から台湾を結ぶ第1列島線を越え、「小笠原諸島と米領グアムを結ぶ第2列島線を越えた海域まで、作戦行動を拡大する恐れがある」と予測している。
 志方氏は、先の引用で急膨張する中国海軍の活動が第1列島線から「溢れ出した」と言う。氏によると、中国の軍事力増強は国内総生産(GDP)の伸びの約3倍のペースで進んでおり、特に海軍力の増強は著しい。後発の海軍力は、非対称性を持つ潜水艦戦力の増強から着手する。サイバー戦による新しい軍事技術の入手も可能であり、「追う側」に有利である。「中国海軍が、小笠原諸島→グアム・サイパン→パプアニューギニアという第2列島線に出てくるのは、予想よりも早いと考えなければならない」と志方氏は予測する。
 こうした状況において、わが国は、安全保障のために何を為すべきか。志方氏は、言う。「わが国は『防衛計画の大綱』を大幅に見直し、時代を先取りした防衛態勢を築く必要がある。なすべきことは多い。喫緊の課題は南西諸島の島嶼防衛力の強化だ。情報収集衛星の強化、海上保安庁の強化、潜水艦戦力の増強、サイバー戦能力の強化、陸上自衛隊への海兵隊能力付与なども計画より前倒ししなければならない。政府レベルでは、日本版NSC(国家安全保障会議)を設け、潜水艦の領海侵入時に『海上警備行動』を素早く発令できる態勢を整え、官邸の指揮チームの訓練を重ねておくことなどである」と。
 急がねばならない。油断や怠慢、優柔不断は、日本の運命を自ら危うくする。拙稿「『フランス敗れたり』に学ぶ~中国から日本を守るために」に書いたように、ナチスに蹂躙されたフランスの失敗を繰り返してはならない。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08l.htm
 以下は、志方氏の記事。

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●産経新聞 平成25年6月4日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130604/chn13060403520000-n1.htm
【正論】
帝京大学教授・志方俊之 中国軍の第2列島線進出が迫る
2013.6.4 03:52

 5月は立て続けに3度、中国潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過する「看過できない事案」が発生した。尖閣諸島周辺では、中国公船によるわが国の領海の侵犯は常態化し、尖閣近海では中国海軍艦艇が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制レーダーを照射して、中国が警察活動だけでなく軍事的活動にまで踏み切りそうな様相も呈している。

潜水艦出現は海軍膨張示す
 潜水艦の接続水域潜航通過の頻発は、尖閣をめぐる対峙(たいじ)に直接関係するというより、急膨張する中国海軍の活動が、沖縄から台湾、フィリピンを経てボルネオに至る中国の対米防衛ラインの第1列島線から溢(あふ)れ出したという、純軍事的側面から捉えられよう。
 中国艦艇が南西諸島付近の第1列島線を通過し太平洋に出る水道としては、大隅海峡、奄美大島北側、沖縄本島・宮古島間、与那国島・台湾間の4本がある。
 潜水艦の行動は、軍事上の機密保持のため、探知した側が全てを公表するわけではない。中国潜水艦については、浮上通過を含めて過去4回報道されている。
 明級潜水艦の大隅海峡浮上通過(2003年11月)、漢級潜水艦による石垣島・多良間島間の領海侵犯(04年11月)、キロ級潜水艦2隻が洋上艦艇とともに沖縄本島・宮古島間の公海を浮上通過した事案(10年4月)、そして今回の元級潜水艦の4回である。
 潜水艦が他国領海を通過する場合は、国連海洋法条約第20条に基づき、旗を掲げ浮上して航行しなければならない。接続水域は公海に属し、95条で他国の管轄権から免除されるから、今回の接続水域通過は条約違反ではない。
 だが、領海に接していて約22キロの近さに迫る水域を、潜没通過させた背景に何があるのか。
 中国国防省は、中国艦艇が有する公海での自由航行の権利を問題視することで、日本側は中国の軍事的脅威を煽(あお)って緊張状態を作り出していると批判する。海自の潜水艦が逆に、中国沿岸の島嶼(とうしょ)の接続水域を潜航通過したら中国政府はどう論評するだろうか。

軍事的必要性から潜航を命令
 中国政府が習近平国家主席の初訪米を前に、人民解放軍に、日本の接続水域での潜水艦潜航通過を直接「命じた」、あるいは「認めた」とは考え難い。軍が単に軍事的必要性から、潜水艦隊に命じたとみるのが妥当であろう。
 日米韓3カ国が九州西方の東シナ海で、米原子力空母ニミッツも展開した合同演習を監視し情報を収集するという軍事目的のため、さらに探知されるのを承知の上で存在感を示し日本の出方を探るための意図的な行動だろう。
 中国軍は当然、米軍の潜水艦探知能力も知りたいと考えている。沖縄周辺海域で訓練中の米空母キティホークを監視していた宋級潜水艦が、米軍により浮上を余儀なくされたと思われる事案(06年10月)もそうした事例だ。
 米国は冷戦期、ソ連潜水艦の動きを探知すべく、アリューシャン列島に沿って音響式監視システム(SOSUS)を設置していた。今も南西諸島沿いに進化したシステムを展開していると考えられ、中国も東シナ海で同様のシステムを使っているとみていい。
 海自の潜水艦探知能力は、冷戦時代に身に付け、国際的にもかなり高度なものである。探知装置だけでなく、P3C対潜哨戒機から音響探知機(ソナー)を落とし、潜水艦から反射されてくる音波を収録して、潜水艦の航跡と同時に各艦固有の「音紋」を解析できるシステムを構築している。

防衛計画大綱の大幅見直しを
 データを長期間、蓄積すれば、潜水艦を特定できるだけでなく、艦長個人特有の操艦癖まで予測できる。これらは全国4カ所に設けられた「対潜水艦作戦センター」(ASWOC)で運用される。4基体制で運用されるわが国の情報収集衛星は、周辺国の潜水艦基地の状況を常に監視している。冷戦時代の遺産といっていい。
 中国の軍事力増強は国内総生産(GDP)の伸びの約3倍のペースで進む。その軍事力、特に海軍力の増強は著しい。後発の海軍力は、非対称性を持つ潜水艦戦力の増強から着手するものだ。サイバー戦による新しい軍事技術の入手も可能だから、「追う側」に有利な時代が続く。中国海軍が、小笠原諸島→グアム・サイパン→パプアニューギニアという第2列島線に出てくるのは、予想よりも早いと考えなければならない。
 わが国は「防衛計画の大綱」を大幅に見直し、時代を先取りした防衛態勢を築く必要がある。なすべきことは多い。喫緊の課題は南西諸島の島嶼防衛力の強化だ。情報収集衛星の強化、海上保安庁の強化、潜水艦戦力の増強、サイバー戦能力の強化、陸上自衛隊への海兵隊能力付与なども計画より前倒ししなければならない。
 政府レベルでは、日本版NSC(国家安全保障会議)を設け、潜水艦の領海侵入時に「海上警備行動」を素早く発令できる態勢を整え、官邸の指揮チームの訓練を重ねておくことなどである。(しかた としゆき)
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関連掲示
・拙稿「尖閣の守りに自衛隊を~志方俊之氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/05258baa4eeb4ff6764f2276e6e1caba
・拙稿「尖閣:警官2人、銃2丁で国境守れるか~志方俊之氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/128bdd5d8c32a4265ab05d433c139bfe

人権49~暴力と政治的なもの

2013-06-15 11:02:39 | 人権
●「暴力」と政治的なもの

 現代のわが国で最も注目すべき権力論を展開しているのが、萱野稔人氏である。『国家とはなにか』(以文社)『カネと暴力の系譜学』(河出書房新社)『権力の読みかた』(青土社)等の著作によって知られる哲学者である。
 萱野氏は、腕力・武力・実力に当たる言葉として、「暴力」を使用している。萱野氏は、「暴力は命令することを可能にする」「命令とは、自らの決定を他人に課すこと」「暴力に基づいた命令とは、暴力的な格差を利用することで自らの決定を他人に課すことである」等と説いている。萱野氏は、著書で暴力を定義しておらず、腕力・武力・実力との比較をしていないようである。その点に注意しながら読むならば、萱野氏の所論は、権力を検討するうえで啓発的なものである。
 萱野氏は「暴力は、秩序と支配を保証するという社会的機能を持つからこそ、単なる破壊とは違った仕方で用いられ、集団的に組織化される」と言う。これは、権力は「秩序と支配を保証するという社会的機能を持つ」というべきところであり、権力の行使の一形態が暴力である。だから、暴力は「単なる破壊とは違った仕方で用いられ、集団的に組織化される」のである。暴力は組織化され得る。組織化された暴力は、無秩序に発揮される力ではない。萱野氏は「暴力の組織化とは、より強い暴力を有効に行使するため、人的・物的資源の集団的な活用にほかならない」と述べている。
 国家は、一個の政治的な集団である。国家と暴力の関係について、萱野氏は次のように書いている。「暴力が手段として組織的に用いられるとき、政治団体が生まれる」。そして、その政治団体のあるものが、「合法的な暴力行使の独占を実効的に要求する」ようになるとき、「国家が成立するのだ」と。そして、カール・シュミットが著書『政治的なものの概念』(未来社)において、「政治的なものを固有に規定するのは敵/友の区別である」と説いていることを挙げる。「敵とは、外部のものであれ内部のものであれ、こちら側の秩序と支配を受け入れない個人や集団のことである。そうした敵に対して闘うために暴力を組織化すること、これによって国家をはじめとする政治団体は実在性を得るのだ」と萱野氏は言う。
 私見を述べるならば、確かにシュミットの政治的なものの概念は、敵/友を固有の指標とする。だが、これは政治を闘争的な側面だけでとらえたものである。政治とは、集団における秩序の形成と解体をめぐる相互的・協同的な行為である。とりわけ権力の獲得と行使に係る現象をいう。その根底にあるのは、集団における意思の決定と発動である。こうした意味での政治は本来、闘争的ではなく、協同的なものである。なぜなら、人間の集団は本来、共同的なものであり、生命を共有するものだからである。私は、家族を私的集団と考えるので、一定の公共性を持つ氏族・部族の段階から政治という現象を見る。これらの共同体では、共通の目的のために、権利を協同的に行使する。組合・団体・社団・国家等でも同様である。集団は、権利を協同的に行使するために意思を決定し発動する。この権利の相互作用を力の観念でとらえたものが、権力である。
 集団の政治の共同性を最もよく表す言葉が、日本語の「まつりごと」である。「まつりごと」は政治であり、また祭事である。政治と祭事は古来、一体のものとして行われていた。祭政一致である。さまざまな共同体は、首長を中心に、祭事を行い、神意に沿った政治を心がけた。こうした祭政一致の共同体が壊れたところに、シュミットのいう敵/友の区別、闘争的な政治が発生する。それは、近代西欧社会に典型的な政治形態である。だが、近代西欧では、集団の共同性を回復しようとする運動も起こった。その一つが、ナショナリズムである。ナショナリズムは、文化的単位と政治的単位の一致を図ろうとする思想・運動である。敵/友に分かれた集団を再編成しようとする政治運動である。
 ナショナリズムは、集団を組織化することで、政治的な権力を求める。他民族の支配に反抗し、独立や解放を目指す。そこにおいて実現される権力は、人民の力の合成であり、新たな共同体の力である。独立や解放は、統治権の奪取であり、自己決定権の獲得である。人民の力の結集が自己の意思決定で統治する権利を実現しようとする。その権利の相互作用を力の観念でとらえれば、権力となる。暴力という訳語は、このような場合の人民の力の行使を肯定的に表現できないという欠点も持っている。

 次回に続く。