●対アジア太平洋政策
オバマとロムニーについて、私は対日政策、対アジア太平洋政策の違いを重視する。単に自国と米国の関係ゆえ関心が強いだけでなく、アジア太平洋地域は、21世紀の世界で最も重要な地域になっているからである。人口、生産力、消費力、発展可能性、政治的・軍事的緊張関係等、アジア太平洋地域の動向は、世界の将来を左右する。米国の指導者がアジア太平洋地域でどういう政策を選ぶかは、この地域の安全と世界の平和に極めて大きな影響を与える。
オバマが日本及びアジア太平洋重視の方針を続けることは明白である。オバマは、日本について、「同盟国として外交政策のコーナーストーン(礎石)」だと述べている。これに対し、ロムニーは日本に関する見解がはっきりしない。これまで報道される限り、日本への関心は薄く、否定的な文脈でしか日本に触れていない。前回の大統領選挙で共和党候補だったマケインとは対照的である。
2008年の選挙でマケインは日本を重視し、オバマは日本を軽視する姿勢だった。勝利したオバマは当初、中国を重視する一方、日本については、ほとんど意識さえしていないようだった。私はその点が不満だったが、21年(2009)9月政権に就いた民主党・鳩山首相が沖縄の普天間基地移転問題で、日米合意と異なる動きを示すと、オバマは、日本の重要性に気付いたのだろう。同年11月のアジア歴訪の際、最初にわが国を訪れ、鳩山と会談して、共同声明を発表した。首脳会談において、オバマは「最初のアジア訪問に日本を選んだことは米国の日米同盟重視を表すものだ」「米国と日本の同盟関係は両国だけでなく、アジア・太平洋地域の安定と繁栄の基軸だ」と語った。またアジア太平洋地域に関して、「アジアに積極的に関与していく。米国はこの地域における重要なプレイヤーだ」と述べた。
オバマは11月14日に行った東京演説でも、「日米同盟が発展し未来に適応する中で、対等かつ相互理解のパートナーシップの精神を維持するよう常に努力していく」「米軍が世界で二つの戦争に従事している中にあっても、日本とアジアの安全保障へのわれわれの肩入れは揺るぎない」と強調した。その後、シンガポールで米・ASEAN首脳会議に参加したオバマは、経済成長を続けるASEANの重視と連携強化の姿勢を明確にした。以後、基本的にオバマは、アジア太平洋重視の方針を取っている。
一方、ロムニーは、外交・安全保障政策の詳細がまだ明確ではない。基本的には、日本が米国の同盟国であるとの認識に立ち、日本、オーストラリア、韓国という民主国家を北大西洋条約機構(NATO)のパートナーに加え、地球規模の安全保障の枠組みをつくるべきだと提唱してはいる。しかし、オバマがアジア太平洋地域を最重視する戦略を打ち出し、対中シフトを強めつつあるのに対し、ロムニーのアジア太平洋地域における具体的な戦略はまだ明らかではない。
●対中国・対北朝鮮政策
オバマは、始めのうち中国にひどく低姿勢だった。中国が米国債の最大の保有者となり、ドルの価値を中国に大きく依存する関係となり、また中国が軍事力を増強し、ますます侮れなくなっていることが原因だった。
平成21年(2009)11月のオバマのアジア歴訪の時点では、中国封じ込めの放棄と軍事交流の推進が示された。歴代の米政権は中国に対して接触と封じ込めを併用してきたが、オバマ氏は東京演説で「中国を封じ込める意図はない」と述べ、封じ込めの放棄を宣言した。また米中首脳会談では、米中は軍事交流を推進し、軍指導者の相互訪問の日程を決めた。この時期のアメリカは、共産中国に対して非常に低姿勢だった。
だが、その後、中国との外交を続ける中で、オバマは中国に対する姿勢を改めた。そして、23年(2011)秋には、「アジア太平洋シフト」外交に転じ、在日米軍再編など日米同盟を通じた対中抑止強化に踏み出した。ただし、柔軟な対話路線を取り、軍拡・海洋問題では牽制しながら、対北朝鮮・対イランでは協力を要請するという複雑な外交を展開している。
一方、ロムニーは、オバマの対中外交を融和的と非難し、大統領に就任すれば即日、人民元問題で中国を制裁対象の「為替操作国」と認定すると公言している。また、貿易での制裁を強化したり、人権抑圧や知的財産権の侵犯等には厳しい姿勢を取ろうとしている。わが国との共同によるミサイル防衛の強化、台湾への武器輸出の拡大、米海軍の建艦能力拡大を訴えており、海洋覇権を目指す中国に対抗する方針を示している。北朝鮮に対して、ロムニーは、中国への圧力を増し、核開発を停止させる考えを述べ、食糧支援は現状では行わないことを明言している。
次回に続く。
オバマとロムニーについて、私は対日政策、対アジア太平洋政策の違いを重視する。単に自国と米国の関係ゆえ関心が強いだけでなく、アジア太平洋地域は、21世紀の世界で最も重要な地域になっているからである。人口、生産力、消費力、発展可能性、政治的・軍事的緊張関係等、アジア太平洋地域の動向は、世界の将来を左右する。米国の指導者がアジア太平洋地域でどういう政策を選ぶかは、この地域の安全と世界の平和に極めて大きな影響を与える。
オバマが日本及びアジア太平洋重視の方針を続けることは明白である。オバマは、日本について、「同盟国として外交政策のコーナーストーン(礎石)」だと述べている。これに対し、ロムニーは日本に関する見解がはっきりしない。これまで報道される限り、日本への関心は薄く、否定的な文脈でしか日本に触れていない。前回の大統領選挙で共和党候補だったマケインとは対照的である。
2008年の選挙でマケインは日本を重視し、オバマは日本を軽視する姿勢だった。勝利したオバマは当初、中国を重視する一方、日本については、ほとんど意識さえしていないようだった。私はその点が不満だったが、21年(2009)9月政権に就いた民主党・鳩山首相が沖縄の普天間基地移転問題で、日米合意と異なる動きを示すと、オバマは、日本の重要性に気付いたのだろう。同年11月のアジア歴訪の際、最初にわが国を訪れ、鳩山と会談して、共同声明を発表した。首脳会談において、オバマは「最初のアジア訪問に日本を選んだことは米国の日米同盟重視を表すものだ」「米国と日本の同盟関係は両国だけでなく、アジア・太平洋地域の安定と繁栄の基軸だ」と語った。またアジア太平洋地域に関して、「アジアに積極的に関与していく。米国はこの地域における重要なプレイヤーだ」と述べた。
オバマは11月14日に行った東京演説でも、「日米同盟が発展し未来に適応する中で、対等かつ相互理解のパートナーシップの精神を維持するよう常に努力していく」「米軍が世界で二つの戦争に従事している中にあっても、日本とアジアの安全保障へのわれわれの肩入れは揺るぎない」と強調した。その後、シンガポールで米・ASEAN首脳会議に参加したオバマは、経済成長を続けるASEANの重視と連携強化の姿勢を明確にした。以後、基本的にオバマは、アジア太平洋重視の方針を取っている。
一方、ロムニーは、外交・安全保障政策の詳細がまだ明確ではない。基本的には、日本が米国の同盟国であるとの認識に立ち、日本、オーストラリア、韓国という民主国家を北大西洋条約機構(NATO)のパートナーに加え、地球規模の安全保障の枠組みをつくるべきだと提唱してはいる。しかし、オバマがアジア太平洋地域を最重視する戦略を打ち出し、対中シフトを強めつつあるのに対し、ロムニーのアジア太平洋地域における具体的な戦略はまだ明らかではない。
●対中国・対北朝鮮政策
オバマは、始めのうち中国にひどく低姿勢だった。中国が米国債の最大の保有者となり、ドルの価値を中国に大きく依存する関係となり、また中国が軍事力を増強し、ますます侮れなくなっていることが原因だった。
平成21年(2009)11月のオバマのアジア歴訪の時点では、中国封じ込めの放棄と軍事交流の推進が示された。歴代の米政権は中国に対して接触と封じ込めを併用してきたが、オバマ氏は東京演説で「中国を封じ込める意図はない」と述べ、封じ込めの放棄を宣言した。また米中首脳会談では、米中は軍事交流を推進し、軍指導者の相互訪問の日程を決めた。この時期のアメリカは、共産中国に対して非常に低姿勢だった。
だが、その後、中国との外交を続ける中で、オバマは中国に対する姿勢を改めた。そして、23年(2011)秋には、「アジア太平洋シフト」外交に転じ、在日米軍再編など日米同盟を通じた対中抑止強化に踏み出した。ただし、柔軟な対話路線を取り、軍拡・海洋問題では牽制しながら、対北朝鮮・対イランでは協力を要請するという複雑な外交を展開している。
一方、ロムニーは、オバマの対中外交を融和的と非難し、大統領に就任すれば即日、人民元問題で中国を制裁対象の「為替操作国」と認定すると公言している。また、貿易での制裁を強化したり、人権抑圧や知的財産権の侵犯等には厳しい姿勢を取ろうとしている。わが国との共同によるミサイル防衛の強化、台湾への武器輸出の拡大、米海軍の建艦能力拡大を訴えており、海洋覇権を目指す中国に対抗する方針を示している。北朝鮮に対して、ロムニーは、中国への圧力を増し、核開発を停止させる考えを述べ、食糧支援は現状では行わないことを明言している。
次回に続く。