ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

安倍「自民」VS小池「希望」の衆院総選挙へ

2017-09-30 09:22:27 | 尖閣
 政治は、権力の獲得・配分・拡大をめぐる運動です。権力をめぐる戦いには、敵・味方の区別が生じます。カール・シュミットは、政治とは友・敵の区別が生じるところに始めて成立するものだとします。言い換えれば、友・敵の区別の生じるところに権力をめぐる戦いが生まれる、というとらえ方です。
 いずれにしても政治の本質が最もよく表れるのが、選挙です。選挙は、権力の獲得・配分・拡大をめざし、敵・味方に分かれて、有権者の票を集めるために戦う活動です。

 安倍首相が衆院選を決断したのは、来年米朝戦争となる可能性が高く、解散総選挙をやるならいましかない、民進党は支持率が下がり、小池新党は準備不足と見てのこと。しかし、これをチャンスと見た小池都知事は、国政政党の立ち上げを一気に進め、「希望の党」を旗揚げし、自分が代表に。民進党・前原代表は実質的合流でこれに応じ、そこに小沢自由党も参加。にわかに「寛容な改革保守」を標榜する新党が出現しました。
 希望の党は、自公与党との政策や理念の違いが明確ではありません。小池氏個人は、憲法改正、安保関連法維持、原発ゼロ、消費税凍結などを掲げていますが、同じ考えは自民党内にもあります。唯一はっきりしているのは、反安倍。安倍政権から権力を奪うという目的のみ。しかも実態は、個々の政治家が自分の議席を獲得するための集合。そのために寄り集まる者が、思想や信条の違いに関わりなく、友となり、味方となっているという感じです。選挙で落ちて、無職や無収入になりたくない。税金で歳費をもらって生活していくために、生き残るにはどうするか。そこで、選挙のたびに繰り返されてきたのが、選挙互助会。希望の党もその性格を強くしつつあります。
 北朝鮮の核・ミサイルによる危機が迫っている中で、本来、国政を担う政治家がすべきことは、この危機に対処するための国民的な団結でしょう。それがどこかに行ってしまって、ただの権力闘争、しかも私権闘争になってきています。

 報道やネットから注目すべき発言・情報をもとに、メモします。

・前原誠司民進党代表「どんな知恵を絞ってでも安倍晋三政権を終わらせる。野党がばらばらでは選挙に勝てない」
・安倍晋三首相「新党ブームからは決して希望は生まれない」「若い皆さんが仕事に就ける、未来をつかむことができることこそ希望ある日本だ」「選挙のためだけに看板を替える政党に日本の安全を、子供たちの未来を任せるわけにはいきません」
・伊吹文明元衆院議長「民進党はかつて政権を取った政党だ。それをたかだか10人くらいの『バブル企業』(希望の党)に身売りするのは理解できない。選挙で生き残る希望の党になっている」
・和田正宗参院議員「政党とは国家観や理念が一致してまとまるもの。しかし小池新党は国家観も理念もバラバラ。『国民の希望の党』ではなく『新党参加者にとってのみの希望の党』であり小池氏の『野望の党』」・小池百合子都知事「私がまた国政に出るのではないかとにぎわっているが、今の国政が変わらない限り、都政でしっかり頑張る。(選挙後の首相指名は)今後考えていきたい」
・小池都知事は、自身の公式サイトから「日本も核武装の選択肢は充分ある」と明記していた発言を削除。http://www.yukawanet.com/96184/archives/5272862.html
・小池都知事は、憲法改正と安保関連法維持を受け入れの基準とする。希望の党の公認を申請した民進党の前職61人は、安保関連法案の採決で反対のプラカード掲げていた。小池氏は、きっちり選別するのか。
・民進党の希望の党への実質的合流は、民進党内の左翼・リベラル勢力の切り捨てにはなる。菅・枝野・蓮舫・辻元らや旧社会党系・新左翼系は、どう動くか。
・民進党の金庫には150億円前後の金(*政党助成金)が眠っている。正式に解党すると、国庫に返却しなければならないので、解党はしない。一方、希望の党はほぼすっからかん。この資金をめぐり、前原、小池らによる争奪戦が始まる。権力の争いは、カネの争いでもある。


ユダヤ108~ベルグソンは哲学者として栄誉を受けた

2017-09-29 10:09:10 | ユダヤ的価値観
●ベルグソンは哲学者として栄誉を受けた

 次に挙げたいのは、アンリ・ベルクソンである。ベルクソンは、1859年にポーランド系ユダヤ人を父、イギリス人を母としてフランスに生まれた。20世紀前半を代表する哲学者の一人であり、また当時の世界的知性の一人として尊敬を集めた。
 ベルクソンは、自分の哲学を意識に直接与えられたものの考察から始めた。ベルクソンは、一般にいう時間とは、空間的な認識を用いた分節化によって生じた観念であると批判した。そして、分割不可能な意識の流れを「持続」(durée)と呼んだ。そして、意識は、異質なものが相互に浸透しつつ、時間的に継起する純粋持続として、自由であることを主張した。
 次に、ベルクソンは心身問題を考察した。実在とは持続であるとする立場から、持続が弛緩した極限は、記憶を含まない瞬間的・同時的な純粋知覚としてのイマージュであり、持続の緊張の極限は、すべての過去のイマージュを保存する持続的な純粋記憶である。前者が物質であり、後者が精神であるとした。身体と精神は、持続の律動を通じて相互に関わり合うことを論証し、デカルトの物心二元論を乗り越えようとした。
 こうして持続の一元論から意識・時間・自由・心身関係を説くベルクソンは、その学説をもって、生命とその進化の歴史を考察した。1907年刊の著書『創造的進化』は、持続は連続的に自らを形づくる絶えなき創造であるという思想に基づく。ベルクソンは、事物を固定して空間化する知性や、限られた対象に癒着した本能では、持続としての実在の把握はできない。自己を意識しつつ実在に共感する直観によらなければならないと説いた。そして、進化を推し進める根源的な力として、「生の躍動」(élan vital、エラン・ヴィタール)を想定し、エラン・ヴィタールによる創造的進化として生命の歴史をとらえた。生命の根源には、超意識がある。超意識に発する生命は、爆発的に進行しながら、物質を貫いていく流れである。その流れは、動物・植物に分かれ、様々な種に分裂してきた。その先端に、自らを意識する人類が立っていると見た。
 さらにベルクソンは、この創造的進化説をもとにして、1932年刊の『道徳と宗教の二源泉』においては、人類の精神的な進化を論じた。道徳と宗教の第一の源泉は、自然発生的な「閉じた社会」における防衛本能である。その社会は、社会的威圧が個人を支配する停滞的・排他的な社会であり、閉じた道徳と迷信的な「静的宗教」に支えられている。道徳と宗教の第二の源泉は、愛である。「閉じた社会」は、実在を直観によって把握する道徳的英雄や宗教的聖者の働きかけによって、「開かれた社会」に飛躍し得る。開かれた道徳は特権的人格のうちに体現され、それを模倣する人々によって実現する。「静的宗教」は、愛を人類に及ぼす「動的宗教」に替わると論じた。
 ベルクソンによると、開かれた魂の出現は、唯一の個体からなる新しい種の創造であり、生命の進化の到達点を示す。彼らの愛は人類を包み込み、動植物や全自然にまで広がる。その愛は、特権的な人々に全面的に伝えられた「生の躍動」であり、彼らは「愛の躍動」(élan d'amour、エラン・ダムール)を全人類に刻印しようとする。われわれが彼らの呼びかけに応える時、人類は被造物である種から、創造する努力に変わり、人類を超えた新たな種が誕生するだろう、とベルクソンは述べた。ベルクソンは、宗教のもとにある神秘主義を評価し、完全な神秘主義は、愛としての神との合一を目指すキリスト教神秘主義であるとした。
 こうしたベルクソンの思想は、機械文明が発達し、世界戦争が繰り返される危機の時代に、人類の精神的な進化を願い求めるものだった。
 ベルクソンの哲学は、一般に「生の哲学」に分類され、反主知主義で実証主義に批判的な形而上学とされる。だが、彼は自然科学の最新の成果に目を向け、それを哲学の立場から検討した。それゆえ、実証主義的・経験主義的形而上学と呼ばれる。
 ベルクソンは、アインシュタインの相対性理論が発表されると、その論文を読み、『持続と同時性』を書いて持論を述べた。アインシュタインは、これを読んで、ベルクソンが相対性理論を理解し、反対はしていないことを確認した。また、ベルクソンは、英国心霊科学研究協会の会長に就任し、開明的な物理学者・心理学者・生理学者等と交流した。『精神のエネルギー』に収められている論文は、物質科学が対象から除外している心霊現象やテレパシー等を考察したものである。ベルグソンは特にテレパシーの事例に注目し、「心は体からはみ出ている」として、身体と霊魂の関係を「ハンガーと洋服」の関係にたとえている。
 ベルクソンは、1922年に国際連盟の知的協力に関する国際委員会の議長に選ばれた。また1927年にノーベル文学賞を受けるなど、ユダヤ人でありながら、知識人としての最高の名誉に恵まれた。1941年に、ドイツが占領するパリで、ユダヤ人への連帯のため、ナチスの提供する特権を拒み、清貧のうちに没した。カトリック教会にユダヤ教の完成形態を認め、死に際しては、カトリックの臨終の儀礼を受けたといわれる。
 ベルクソンは、彼一人で20世紀の哲学の一大学派をなした。また、同時代の哲学者である西田幾多郎、マルチン・ハイデッガー、ウィリアム・ジェームズをはじめ、ユダヤ人作家のマルセル・プルースト、文明学者のトインビーなどを強く触発するとともに、後世のフランスの知性に甚大な影響を与え続けている。
 ベルクソン以外にも、20世紀前半の哲学の学派の多くは、ユダヤ人に拠っている。現象学のエドムント・フッサール、論理実証主義のルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン、科学哲学のカール・ポパー、政治哲学のレオ・シュトラウスらがそうである。これらのユダヤ人哲学者を除くと、20世紀前半以降の哲学史は、まったく違う様相のものとなったことだろう。

 次回に続く。

希望の党と民進党が実質的な合流へ

2017-09-28 09:37:33 | 時事
 小池都知事が「希望の党」の代表に就任。新党の旗揚げをしたと思ったら、民進党と合流する方向で調整中と報じられます。
 まだ流動的ですから最終的にどういう形になるかわかりませんが、小池氏は都知事と国政政党の代表という二足のわらじでやっていけると、本気で考えているのでしょうかね。東京都は、オリンピック、市場移転等の重大課題に取り組んでいるところ。知事職にある人間が国政に手を出しながら、片手間にやれるような仕事ではないでしょう。それとも、小池氏は都知事を辞めて、衆院選に出るつもりか。それは無責任極まりない。彼女に票を投じた有権者への裏切りとなります。そんな無責任な政治家に、国政は任せられません。
 権力の獲得それ自体を目的とするようになってしまった小池氏の権力欲と、彼女の人気にあやかって集まる民進党系の政治家の自己保身欲。私欲が渦巻くばかりで、天下国家の大義が見えません。
http://www.news24.jp/articles/2017/09/27/04373697.html

 民進党の側では、前原代表が、衆院選に出たい者は全員、希望の党から出られるようにし、自身は無所属で立候補する意向と伝えられます。枝野代表代行は、民進党から出たい者がいても公認を出さない方針と伝えられます。そんなやり方は聞いたことがありません。あらゆる手段、狡知を使って、安倍政権を打倒しようという画策でしょう。この権謀術数は小沢一郎的ですね。さらに彼の背後に中国共産党が居て、権力欲、自己保身欲で動く政治家たちが操られているのではないかと想像します。

 今年に入って安倍政権の支持率が下がるように世論を誘導してきた多くのマスメディアは、森友・加計・PKO日報問題に替わって、今度は希望の党を恰好の材料にしているようです。小池氏は、入党希望者を憲法改正・安保関連法維持かどうかで選別する方針を明らかにしていますが、多くのマスメディアにとっては、それでも安倍政権よりはましという考えでしょう。安倍政権打倒をめざし、イメージ戦略で風を起こし、大衆の希望の党への期待を膨らませ、選挙の結果を左右しようとする動きです。無党派層への影響が推測されます。

ユダヤ107~フランスにおけるユダヤ的知性の輝き

2017-09-27 08:53:46 | ユダヤ的価値観
フランスにおけるユダヤ的知性の輝き

 ここで、フランスにおけるユダヤ人の活躍を書いておきたい。西洋文明のもとはヨーロッパ文明であり、ヨーロッパ文明の文化的中心の一つは、フランスである。そのフランスにおけるユダヤ的知性の輝きについて、少し時代をさかのぼって19世紀末から20世後半までを概観したい。
 19世紀末から、フランスでは、ユダヤ人を人種として差別するアンチ・セミティズムが高まった。だが、その圧力に屈せずに、ユダヤ人が学問・芸術等の分野で高い能力を示し、揺るぎない評価を得ていった。その代表的存在が、デュルケームとベルクソンだった。第2次世界大戦中、ナチスに支配されたフランスでは、ユダヤ人の迫害が行われた。その数年間を耐え忍んだユダヤ的知性は、大戦後、戦前に増す活躍をしてきた。サルトルによる実存主義、レヴィ=ストロースによる構造主義は、その時代の主要な思潮となった。ポスト構造主義の時代にも、ユダヤ人が独創的な知的活動をしている。21世紀の今日は、トッド、アタリなどのユダヤ系フランス人が世界的な知性として活躍している。こうしたユダヤ人の活躍を除くと、19世紀末から21世紀にかけてのフランスの文化的栄光は、なかば以上が失われるほどである。フランス的知性とは、フランス=ユダヤ的な知性と言っても過言ではないだろう。

●デュルケームは社会学の独自性を確立

 さて、こうしたフランスにおけるユダヤ的知性の活躍を振り返る時、まず挙げたいのは、エミール・デュルケームである。デュルケームは、1858年に、代々敬虔な信仰を保持するユダヤ人の家に生まれた。父親と祖父はラビだった。また彼の教え子と友人の多くはユダヤ人であり、血縁者だった。この極めてユダヤ的な環境にあって、デュルケームは、社会学を他の学問にはない独自の対象を扱う独立した学問として発展させた。
 デュルケームの基本的な立場は、実証主義(ポジティヴィズム)である。実証主義とは、経験に与えられる事実のみに基づいて論証を推し進めようとする立場であり、超経験的な実体の想定や、経験に由来しない概念を用いた思考を退ける。
 社会科学における実証主義は、19世紀末のアンリ・ド・サン=シモンに始まる。エンゲルスによって空想的社会主義者に数えられたサン=シモンは、むしろ産業主義の祖であり、産業社会の建設を目指し、自然科学の方法を用いて人間的・社会的諸現象を全体的かつ統一的に説明しようとした。彼の秘書をしたことのあるオーギュスト・コントが、実証主義を体系化した。コントは、人間の知識と行動は、“神学的―形而上学―実証的”の3段階で進むという法則を提示し、社会現象についての実証的理論を社会学と位置付けた。デュルケームは、コントの立場を徹底し、比較法や統計的方法を用いて優れた社会研究を行い、実証主義の経験科学として社会学を確立した。
 彼以前において、社会学の研究は、社会有機体説による生物学的方法や個人の心理現象の研究による心理学的方法によっていた。これに対し、デュルケームは、社会学に固有な客観的・社会学的方法を提唱した。そして、社会現象は感情的評価から離れて、客観的に観察・記述されなければならないとした。
 デュルケームは、社会学の分析対象は「社会的事実」であるとした。社会的事実とは、個人の外にあって個人の行動や考え方を拘束する、集団あるいは社会全体に共有された行動・思考の様式をいう。「集合表象(集合意識)」とも呼ばれる。個人の意識が社会を動かしているのではなく、個人の意識を源としながら、それとはまったく独立した社会の意識が諸個人を束縛し続けているのだ、とデュルケームは主張した。そして、人間の行動や思考は、個人を超越した集団や社会のしきたり、慣習などによって支配されることを示した。自殺、アノミー、道徳等の研究で知られる。
 デュルケームは、社会学の他、教育学、哲学などの分野でも活躍した。彼を中心にデュルケーム学派が形成され、道徳・宗教・経済・法律・言語などの各方面において社会学的研究を展開した。デュルケームは、1917年に死去した。彼の理論は20世紀初頭に活躍した社会学者・民族学者・人類学者等に多大な影響を与えた。
 社会学の歴史におけるデュルケームの位置は、精神医学の歴史におけるフロイトの位置に匹敵する。ともにユダヤ人が、学問・学術のある分野で枢要な役割をはたしてきた顕著な事例である。

 次回に続く。

ユダヤ106~成長するアジアと日本に米欧側が逆襲

2017-09-26 09:26:54 | ユダヤ的価値観
●成長するアジアと日本に米欧側が逆襲

 次に、アジアとヨーロッパについて書く。
 まずアジアの動向についてである。戦後日本は1960年代に高度経済成長を遂げた。それに続き、70年代には日本と関係の深い韓国、台湾、香港、シンガポールなど、NIES(新興工業経済地域)と呼ばれる国々が急速に発展した。80年代にはタイ、マレーシア、インド等も工業化政策を進めて経済開発に成功した。80年代後半以降は、日本の海外投資により東アジアの経済成長はさらに加速し、「東アジアの奇跡」「世界の成長センター」などと称されるまでになった。
 しかし、欧米諸国は、黙ってその成長を許しはしなかった。アジア諸国は、欧米の金融資本に狙われ、1997年(平成9年)、アジア通貨危機が起こった。
 アジア通貨危機を仕掛けたのは、ジョージ・ソロスだと言われる。ソロスは、ハンガリー生まれのユダヤ系アメリカ人である。ロスチャイルド家に育成された投資家といわれ、彼の背後にはロンドン・ロスチャイルド銀行やイギリス王室、西欧諸国の中央銀行・大手銀行等が存在する。それらは莫大な資金をソロスに委託していると見られる。
 ソロスは、ヘッジファンドの代表的な運用者である。ヘッジファンドとは、大口投資家から資金を集め、金融派生商品(デリバティブ)の運用などを柱として世界中に投資する投機的な投資信託をいう。
 1990年代後半、ソロスは、アジア諸国の経済状況と、その国の通貨の評価に開きが出ており、通貨が過大評価されていると見た。そういう通貨に空売りを仕掛け、安くなったところで買い戻せば、差益が出る。ここで狙われたのが、タイの通貨バーツだった。
 1997年7月、ヘッジファンドは、バーツに空売りを仕掛け、タイ政府が買い支える事を出来なくした。それによって、バーツは暴落した。タイ経済は壊滅的な打撃を受けた。通貨暴落の波は、マレーシアやインドネシア、韓国にまで波及する経済危機に発展した。このあおりを受けて、インドネシアでは、長期政権だったスハルト体制が崩壊した。
 各国は経済の建て直しのために、国際通貨基金(IMF)に援助を求めた。この時、IMFは、通貨暴落で苦しむアジアの国々を外から経済的に管理する機関として働いた。IMFの管理下で、強力な経済改革が進められるとともに、外資がどっと参入し、その国の企業・資産を安く買い占めた。アジア諸国では、通貨危機とIMFの管理のため、「世界の成長センター」といわれるほどの経済成長にブレーキがかかることになった。
 アジア通貨危機以後、東アジアでは、欧米外資に対する警戒が高まった。アジア独自にASEAN+3(日本、中国、韓国)による地域経済協力が模索されるようになった。
 アジア通貨危機で暗躍したソロスは、今日の世界におけるユダヤ的価値観の典型的な実践者といえよう。ソロスと同じような投資家が、アメリカを中心に各国に多く出現している。そうした投資家は、ユダヤ人だから情け容赦ない金儲けをするのではない。非ユダヤ人もまたユダヤ的な価値観を体得した投資家として経済活動をしているのである。
 ソロスは、日本経済について、その弱点は、系列による企業間の株の持ち合いにあると見ていた。この点を突けば、日本経済を弱体化させられる、と。こうしたソロスの見方は、米欧企業に周知されていた。
 アジア通貨危機の翌年、巨大国際金融資本は、日本を狙い撃ちしてきた。標的になったのは、旧日本長期信用銀行である。1998年から2000年(平成10~12年)にかけて、外資による旧長銀の買収が進められた。買収に乗り出したのは、リップルウッド・ホールディングスのティモシー・コリンズだった。そのコリンズを投資ビジネスの世界に連れ込んだのは、フェリックス・ロハティンである。ロハティンは、オーストリア出身のユダヤ人であり、ウォール・ストリートを代表する金融業者の一人である。ロスチャイルドの代理人として、19世紀半ばから営業しているラザード・フレール社のトップだった。
 旧長銀に関し、ユダヤ系の投資銀行ゴールドマン・サックスが日本政府のアドヴァイザーになった。ロックフェラー家とロスチャイルド家が相乗りして、旧長銀を買収し、旧長銀は新生銀行として再生された。
 2001年から03年(平成13~15年)にかけて郵政民営化が進められたが、これもまた巨大国際金融資本による日本への攻勢だった。詳しくは、拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」を参照願いたい。

●欧州統合のリージョナリズムと米国主導のグローバリズムの展開
 
 次に、ヨーロッパの動向を書く。ヨーロッパでは、第1次世界大戦後、クーデンホーフ=カレルギーらによる欧州統合運動が起ったが、ナチスによって封じられて、とん挫した。第2次世界大戦後、戦火で疲弊したヨーロッパであらためて欧州統合運動が進められた。1951年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立され、ヨーロッパ統合への第一歩となった。ECSCは、その後、欧州原子力共同体(ユートラム)、欧州経済共同体(EEC)へと発展し、1993年(平成5年)に今日の欧州連合(EU)に至った。
 EUの設立の基本方針は、冷戦終結後の1992年(平成4年)に締結されたマースリヒト条約で定められた。マーストリヒト条約は、通貨統合や共通外交など、加盟国に国家主権の一部移譲を求めるものだった。そして、1999年(平成11年)米ドルの一極支配に対抗する単一通貨ユーロが誕生した。ユーロが作られる前、ヨーロッパの各国は通貨の発行権を持ち、各国の中央銀行が自国の通貨の発行量や金利の調整を行っていた。ところが、ユーロを採用した国では、実質的に、自国の意思だけでは通貨政策・金利政策を決定できなくなった。
 ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限を持ってはいる。だが、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。欧州中央銀行(ECB)に金融政策を委ねている。ECBは、ヨーロッパ規模の中央銀行であり、一元的にユーロを印刷している。それを加盟各国の中央銀行に分配する。こうした通貨制度が駆動している。その背後には西欧諸国の中央銀行を連結するロスチャイルド家等の巨大国際金融資本の意思が働いていると思われる。ECBはドイツ・フランクフルトに本拠を置く。フランクフルトは、ロスチャイルド財閥発祥の地である。
 EUはヨーロッパの地域統合を行うリージョナリズムによるものである。だが、もともとそれにとどまるものではない。ヨーロッパの統合は、世界政府を創設して世界の統合を目指す運動の一階梯ととらえる必要がある。
 グローバリズムは、全世界で単一政府、単一市場、単一銀行、単一通貨をめざす。その重要課題が世界政府の創設である。グローバリズムの推進は、ユダヤ的価値観の世界的な普及・徹底となる。その段階の一つとして、ヨーロッパという地域規模で、EUとユーロが実現されていると思われる。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13d.htm

北朝鮮の核ミサイル攻撃に対する備えを急げ

2017-09-25 08:54:25 | 国際関係
 9月3日、北朝鮮は6回目の核実験を行い、水爆実験に完全に成功したと発表しました。これに対し、11日、国連安全保障理事会は新たな制裁強化決議案を全会一致で採択しました。制裁決議は9回目となりました。北朝鮮はこの決議に激しく反発し、14日国営メディアが国民の間に「取るに足らない日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるべきだ」という声が上がっていると威嚇しました。米国、韓国に対しても怒りと敵意を発しました。
 翌15日朝北朝鮮は、弾道ミサイルを発射し、北海道上空を通過し、襟裳岬東約2200キロの太平洋上に落下しました。飛行距離は約3700キロ、最高高度800キロと見られます。米国に対して、グアムにまで届くことを実証して見せたものでしょう。 9月19日、トランプ大統領は国連で演説し、金正恩朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、「北朝鮮が米国と同盟国に脅威を与えたならば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告しました。これに対し、21日金正恩は「米国の狂ったおいぼれを必ずや、必ずや火で罰する」と応酬しました。わが国は、米国と北朝鮮の激突が起こりうることを想定して、防衛体制を整えねばなりません。
 しかし、現在のわが国は、日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるという最大級の威嚇を受けても、これに軍事的に対抗することはできません。専守防衛政策に縛られ、敵基地攻撃能力を持っておらず、非核三原則によって、防衛のための抑止力としての核兵器を持つことも、自ら禁じています。北朝鮮の暴発を防ぐためには、国連で非軍事的・経済的な制裁を強化するよう、国際社会に協力を呼びかけるしかありません。では、本当に効果のある制裁は可能なのでしょうか。その答えが、今回の弾道ミサイルのさらなる発射です。今後、制裁のレベルを上げても、中国・ロシアは全面的には賛同しないでしょうから、平和的な手段で北朝鮮の核ミサイル開発を止めることは、極めて困難です。
 わが国は、中国に続いて北朝鮮からも国家・民族の存立そのものを揺るがされる脅威を受ける状態になってしまいました。国防を完備することなく平和を求める者は、アヘン患者のように滅亡するばかりです。戦勝国から押し付けられた憲法に呪縛され、これ以上、宙に浮いた理想論にとらわれていたら、日本は亡国に至ります。日本の生存と安全を確保するため、専守防衛政策、非核三原則を見直すべきです。私の意見は、10年ほど前から下記に掲示しています。あらためて、ご参考に供します。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12a.htm
 第3章 日本併合を防ぐ方策
 (5)自衛の手段としての核抑止力の検討
 (6)総合的な国家安全保障の研究を

 ところで、核時代において、主要国は核シェルターを設置しています。公共用・家庭用を合わせて、国民を収容できる核シェルターの普及率は、スイス・イスラエル100%、米国82%、ロシア78%、英国67%です。これに対して、日本は0.02%! ほぼゼロに等しい状態です。
政府は核から国民を守る気がなく、国民は核から自分を守る気がない。これが唯一の被爆国日本の現状です。
 10月22日かと伝えられる衆議院総選挙で、自民党は「核シェルターの普及」を公約に挙げ、補助金支出を打ち出してはどうでしょうか。「Jアラート」で警報を発して、地下や窓のない部屋等へ避難を、と呼びかけているだけでは、だめです。
 まず自分や家族を核攻撃から守る意識を高めること。そのための核シェルターの普及運動。次に、非核三原則(特に「持ち込ませず」)の見直し、ニュークリアー・シェアリング等へと、段階的に抑止力を高めるとよいと思います。

ユダヤ105~資本の論理によるグローバリズム

2017-09-23 08:49:59 | ユダヤ的価値観
●資本の論理によるグローバリズム
 
 ここでアメリカを離れて、世界全体を俯瞰しよう。20世紀末の1990年代から、21世紀にかけて、世界的にグローバリゼイションが急速に進んでいる。
 グローバリゼイションは、人・もの・カネ・情報の移動・流通が全地球的な規模で行われるようになる現象である。グローバリゼイションに伴い、技術・金融・法制度等の世界標準が形成されつつある。グローバリゼイションは、アメリカ主導で進められ、アメリカの標準を世界の標準として普及する動きとなっている。この動きは、アメリカの国益を追求する手段として推進された。またアメリカ的な文化、その伝統・習慣・言語・制度等を他国に押し付けるアメリカナイゼイションの動きともなった。アメリカ文化とは、イギリスで発達したアングロ・サクソン=ユダヤ的な文化がアメリカでさらに独自性を加えて発達したものである。その核心には、ユダヤ的価値観がある。それゆえ、グローバリゼイションは、ユダヤ的価値観が世界的に普及していく現象でもある。
 グローバリゼイションを戦略的に進める思想が、グローバリズムである。資本の論理によって国家の論理を超え、全世界で単一政府、単一市場、単一銀行、単一通貨をめざす思想――それが私の理解するところのグローバリズムである。現代の世界では、ロスチャイルド家を中心とするユダヤ系国際金融資本家と、彼らとユダヤ的価値観を共にするロックフェラー家を中心とする非ユダヤ系国際金融資本家が協力して、世界の変造を進めていると思われる。目的は、国民国家の枠組みを壊して広域市場を作り出し、最大限の経済的利益を追求することである。世界資本主義の思想とも言える。このグローバリズムによる世界変造の重要課題が、世界政府の創設である。グローバリズムは、既存の国家を超えた統一世界政府を目指す点において、地球統一主義または地球覇権主義である。また、それは巨大国際金融資本が主体となって、合理主義を地球規模で徹底して実現しようとする思想ある。私は、近代西洋文明が生み出した思想の典型であり、またその頂点だと考える。そして、巨大国際金融資本によるグローバリズムは、21世紀において、ユダヤ的価値観を世界的に普及・徹底する思想・運動となっている。ごく少数の超富裕層が所有者集団の指導部となり、優秀な経営者集団を使って、残りの人類を統治する社会の建設が目指されていると推測される。
 ところで、世界資本主義的なグローバリズムは、その対極であるはずの共産主義を容認し、支援し、育成し、救援しさえする。かつては旧ソ連に対して、現在は共産中国に対して、それを行っている。資本主義と共産主義を全く対立的なものと見ると、このパラドックスは解けない。
 私は、共産主義は資本主義の変形であり、統制主義的資本主義と認識している。共産主義は、帝政ロシアのような前近代的国家において、強力に近代化を進める。政府による上からの近代化であり、その実態は統制主義的資本主義である。巨大国際金融資本は、前近代的国家における共産主義を歓迎する。徹底した合理化によって、急速に近代化を進めるからである。統制主義的資本主義も、一種の資本主義であるから、巨大国際金融資本はその政府と契約することにより、市場と資源を獲得することができる。
 さらに、米ソの冷戦構造においては、無制限核戦争にならない範囲で、各地で戦争が繰り返されれば、軍需産業には大きなビジネス・チャンスとなっていた。その典型がベトナム戦争である。冷戦終結後も、この構造は変わっていない。戦争の種類と場所が変わっただけである。軍需産業は、常に戦争を必要としている。戦争を生み出し、戦争を広げ、戦争を長引かせることによって利益を得るのである。後に述べる9・11以後のアフガニスタン戦争、イラク戦争も、その深刻な事例である。軍需産業の背後には、巨大国際金融資本が存在する。戦争と破壊は、彼らに貨幣の増大をもたらす。各国の諜報機関は、戦争の発生・拡大・延長のために、しばしば謀略的な工作を行う。CIAの歴史は、その工作の数々に満ちている。こうした記述を低俗で妄想的な陰謀論と同じ類と嗤う人は、歴史の深層に迫ることも、世界の深層に達することもできない。
 グローバリズムは、資本主義的な経済活動だけでなく、国家(政府)とその軍隊・諜報機関を使った破壊活動を通じても、その目的を達成しようとしていると考えられるのである。

 次回に続く。

北朝鮮が多弾頭・水爆・電磁パルス攻撃の技術を確立か

2017-09-22 08:48:22 | 国際関係
 9月3日、北朝鮮が6回目の核実験を強行し、水爆の実験に完全に成功したと発表しました。本当であれば、格段と脅威が増したことになります。8月29日に北海道上空を飛行したミサイルは、弾頭が3つに分離したと見られ、多弾頭ミサイルの実験だったという見方が有力になっています。米露の多弾頭は10個です。弾頭が3つというのは中国のミサイルの特徴です。中国が背後で北朝鮮に技術提供をしている可能性も指摘されます。北朝鮮が多弾頭搭載の技術と水爆の技術をともに完成させつつあるならば、脅威のレベルはさらにあがることになります。

 北朝鮮は、9月3日に水爆実験の成功を発表した際、核弾頭に搭載する水爆に電磁パルス(EMP)攻撃まで加えられると公言しました。
 電磁パルス攻撃については、8月27日の産経新聞に分かりやすい記事が載っています。
http://www.sankei.com/premium/news/170827/prm1708270021-n1.html
 「電磁パルス攻撃は、高度30~400キロの上空で核爆発を起こして行う。その際に生じたガンマ線が大気を構成する窒素や酸素などの分子に衝突。分子に含まれる電子がはじき飛ばされて雷のような巨大な電流が発生するなどした結果、強力な電波の一撃である電磁パルスが地上に襲いかかる。電磁パルスは送電線を伝ってコンピューターなどの電子機器に侵入。その電圧は5万ボルトに達するため、機器はIC(集積回路)の機能停止で損壊し、同時に大規模な停電も発生すると予測されている。核爆発に伴う熱線や衝撃波は、地上には届かない。影響範囲は爆発の高度や規模によるが、高度100キロで広島型原爆の3分の2に相当する10キロトン(TNT火薬換算)の場合、日本全土をほぼ覆う半径約1100キロにも達する」
 「電磁パルス攻撃によって大規模な停電が発生し、公共インフラを支える電子機器が損壊すれば、都市機能はまひする。電話やインターネットなどの通信やガス、水道の供給が停止。飛行中の航空機が操縦不能になったり、電力を絶たれた原子力発電所が制御不能に陥ったりする恐れも指摘されている」
 「米国の専門家チームが今世紀に入ってまとめたシナリオでは、10キロトンの核爆弾がニューヨーク付近の上空135キロで爆発した場合、被害は首都ワシントンを含む米国東部の全域に及ぶ。損壊した機器を修理する人員や物資が大幅に不足し復旧には数年を要し、経済被害は最悪で数百兆円に達する。電磁パルスは健康に直接影響しないとされるが、食糧不足や病気などで死傷者は数百万人に上ると推定している」
 「電磁パルスが防衛装備品に与える影響に詳しい企業関係者は「日本には、電磁パルス攻撃への備えがまともに存在しない。社会全体が無防備な現状は非常に危険だ」と警鐘を鳴らす」

 わが国では、防衛省が来年度予算の概算要求として、過去最大5兆2551億円を計上しており、そのなかに電子機器を無効化する電磁パルス弾の研究費(14億円)を盛り込んだと伝えられます。NATOの加盟国は国防費をGDPの2%に引き上げることを目標とすると合意しました。わが国は10兆円規模でその水準。北朝鮮の核兵器・ミサイル開発の脅威に応じるため、防衛予算を大幅に増額し、防衛能力を高める必要があると思います。

ユダヤ104~レーガン、ブッシュ父、クリントンの時代

2017-09-21 08:55:56 | ユダヤ的価値観
レーガン政権とブッシュ父政権による冷戦の終焉
 
 アメリカのユダヤ人は、1933年のルーズベルト政権の成立以降、黒人等の少数民族や労働組合と連携してリベラル連合を形成し、民主党を支え続けた。しかし、1960年代後半から、黒人は人種差別を解決するために、「結果の平等」を要求するようになり、白人多数とともに「機会の平等」を主張するユダヤ人とは、対立するようになった。さらに、1970年代に入ると、ユダヤ人を除くリベラル連合は、アジア・アフリカ等の民族解放闘争に共感してパレスチナ難民を支持して、激しいイスラエル批判を開始した。それによって、リベラル連合に大きな亀裂が入った。そして、ユダヤ人の多数がリベラル連合から離脱し、共和党を支持するキリスト教保守派と結合するようになっていった。
 米国の大統領選では、現役大統領は再選する可能性が高い。だが、カーターは現職でありながら、1980年(昭和55年)の選挙で共和党のロナルド・レーガンに負けた。カーターの敗北の原因には、在イラン米大使館人質事件での救出作戦の失敗等が挙げられるが、ユダヤ人のカーター離れも影響したと考えられる。ユダヤ人の多くは、カーターがキャンプ・デイヴィッド合意を仲介し、イスラエルに多大な譲歩を求めて、仇敵との和平を結ばせたことに反発した。彼らはカーターを見限り、共和党のレーガンの支持に転じた。カーターは、ユダヤ票の約40%しか獲得できなかった。民主党大統領候補としては、過去最低の支持率だった。歴代民主党大統領候補の平均値は75%ゆえ、目立って低かった。
 カーターに替わったレーガンは保守強硬派であり、ソ連に軍拡競争を仕掛け、ソ連を経済的な苦境に追い込んだ。
 レーガンは、元ハリウッドの俳優で、若い時から映画業界でユダヤ人の友人を持っていた。ユダヤ人の知識人の中には、ソ連を「悪の帝国」と非難し、対ソ強硬路線を説く者がいた。新保守主義(ネオ・コンサーバティズム)の信奉者、いわゆるネオコンである。ネオコンの源流は、反スターリン主義的なユダヤ系の左翼知識人である。彼らの一部が第2次世界大戦後、民主党に入党し、最左派グループとなった。彼らは、レーガン大統領がソ連に対抗して軍拡を進め、共産主義を力で克服しようとしたことに共感し、共和党に移った。そして、レーガンの外交政策に大きな影響を与えた。
 レーガン政権で、アメリカのイスラエルへの援助は増大し、1981年にはアメリカとイスラエルは正式に軍事協定を結んだ。ここに、アメリカ=イスラエル連合の同盟関係が確立した。
 レーガン政権は、新自由主義・市場原理主義を取り入れた政策を、8年間にわたって行った。 レーガン政権はソ連への対抗のために、軍拡路線を取った。それによって、ソ連を軍拡競争に引き込み、経済力の違いによって、ソ連を崩壊に導いた。だが、軍事費の増大や多国籍企業の活動等により、アメリカは財政赤字と貿易赤字の双子の赤字を抱えるようになった。また、新自由主義・市場原理主義の政策への導入は、やがて自由主義的資本主義の行き過ぎを招くことになった。
 1989年(平成元年)からレーガンに続いて同じ共和党のジョージ・ブッシュことブッシュ父が、米国大統領を1期務めた。ブッシュ父は、ソ連のゴルバチョフと会談し、冷戦を終結に導いた。ソ連が崩壊すると、アメリカは、唯一の超大国の地位を獲得した。アメリカは、湾岸戦争でイラクを破り、圧倒的な力を誇示した。
 ブッシュ父は「史上最もイスラエルに冷たい大統領」と呼ばれた。彼は1991年(平成3年)、イスラエル支持のユダヤ人を「強力な政治的勢力」と呼んだ。この発言は、ニクソン政権からレーガン政権にかけて共和党支持に移っていたユダヤ票を、民主党へ逆流させるきっかけとなった。1992年の再選にあたり、ブッシュ父には湾岸戦争と冷戦に勝利した大統領という自信があったのだろう。そのため、ユダヤ・ロビーとの正面衝突を辞さなかったと見られる。だが、選挙結果は、惨敗だった。前回の選挙に比べ、ユダヤ票は24ポイント低下し、ユダヤ系の資金は民主党のビル・クリントンのもとに集まった。かつてはカーター、今度はブッシュ父と政党は違うが、ユダヤ人の支持を失えば、現職大統領といえども、選挙に敗れるという認識が定着した。それだけ、ユダヤ・ロビーが大きな力を持つようになったということである。ブッシュ父の敗戦の教訓は、ブッシュ子に受け継がれることになる。

●ビル・クリントン政権とグローバリゼイション
 
 1993年(平成5年)1月、民主党のビル・クリントンが第42代大統領になった。
 ビル・クリントンは、8年間の在任中、それ以前のどの大統領よりも多くのユダヤ人を要職に就けた。それ以前に最もユダヤ人が多かったのは、フランクリン・D・ルーズベルト政権だったが、クリントン政権におけるユダヤ人の多さは、FDR政権とは比較にならない。
 主要閣僚には5人いる。財務長官のロバート・ルービンとその後任のローレンス・サマ-ズ、労働長官ロバート・ライシュ、商務長官ミッキー・カンター、農務長官ダン・グリックマンである。このほか、国務長官のモーディレン・オルブライトは、自分の素性を知らされずにカトリック教徒として育てられたユダヤ人だった。また国防長官のウイリアム・コーエンは父がロシア系ユダヤ移民で、少年時代にユダヤ教育を受けた。
 それ以外の政権幹部では、ドイッチCIA長官、アイゼンスタット国務次官、ホルブルック国連大使、バーシェフスキー通商代表、バーガー国家安全保障担当大統領補佐官、インディク中東担当国務次官補、ロス中東特使、ミラー中東特使らもユダヤ人だった。またクリントンが在任中に任命した連邦最高裁判事は、定員9人のうち2名がユダヤ人だった。これはFDR以来のことだった。ユダヤ人は全米人口の2%弱ゆえ、その比率から見て、2分の9は顕著に多い。
 クリントン政権は、世界戦略として、軍事力の行使よりも、経済と情報の力で世界をリードする方針を取った。
 クリントン政権は、レーガン政権時代に膨らんだ「双子の赤字」を解消し、財政黒字に転じるほどの経済的成果を挙げた。この時の主要経済担当スタッフのうち、財務長官のルービン、同次官で後長官のサマーズに加えて、FRB議長のグリーンスパンの三人ともがユダヤ人だった。彼らは、巨大国際金融資本の意思を受けて、アメリカ財政の建て直しを推進したと思われる。  
 クリントンは、グローバリゼイションを標榜した。グローバリゼイションは、国境を越えた交通・貿易・通信が発達し、人・もの・カネ・情報の移動・流通が全地球的な規模で行われるようになる現象である。グローバリゼイションを推進するアメリカは、ITの情報力と基軸通貨ドルの経済力で他国を圧倒した。
 クリントン政権は、インターネットなどの軍事技術を民間転用することで、IT(情報技術)革命をいち速く進めた。マイクロソフトやインテルといったIT関連企業がアメリカ経済をけん引した。それによってアメリカは、情報通信技術で各国に大きく抜きん出た。
 クリントン政権は、また金融のイノヴェーションを進めて世界経済を支配する仕組みを作った。1980年代まで宇宙開発に従事していた科学者が金融業界に転じ、宇宙工学を応用して金融工学を発展させた。金融工学は、新古典派経済学に基づき、将来の不安定性をリスクという概念でとらえ、確率論的な計算によって、リスクの分散や管理ができるとし、これを商品化した。デリバティブと呼ばれる金融派生商品が続々と作られ、情報金融システムを通じて、世界中で販売されるようになる。アメリカは、ドルが基軸通貨であることを利用し、新たな金融商品を売ることで、ドルがアメリカに還流し、アメリカが繁栄する仕組みを作り上げた。

 次回に続く。

中国の対北金融ルートを断て~田村秀男氏

2017-09-19 09:31:24 | 国際関係
 これまでの国連による北朝鮮への経済制裁は、効果が上がっていない。今回の制裁も、実効性は低い。反骨のエコノミスト、田村秀男氏は、制裁効果が上がらない原因は、中国からの対北朝鮮金融ルートが存在するからだと指摘する。そして、そのルートを遮断すれば、確実に制裁の実を挙げられると主張している。
 産経新聞9月10日付の田村氏の記事から要点を抜粋する。
 「北朝鮮の国内総生産(GDP)は年間300億~400億ドルで、軍事支出は約100億ドルに上る。ミサイルや核開発を支えるのは輸出収入による外貨で、中国向けが全体の約9割を占める」
 「従来の経済制裁には致命的な欠陥がある。それを利用する元凶は、北朝鮮にとって最大の貿易相手、朝鮮戦争で「血の友誼(ゆうぎ)」を交わした中国である。北朝鮮は制裁によって輸出が減ると外貨収入が落ち込むので、軍用、民生用を問わず、輸入に支障をきたすはずだ。ところが、中国からの輸入は急増し続けている。なぜ、可能なのか。答えは簡単、中国の大手銀行が中国内外のネットワークを経由して信用供与、つまり金融協力しているからだ」「中国からの対北朝鮮金融ルートを遮断すれば、確実に制裁の実を挙げられる。そのためには、米政府が中国銀行など大手銀行に対し、ドル取引禁止という制裁を加えればよい。世界の基軸通貨ドルを入手できなくなれば、中国の金融機関はたちまち干上がるので、米側の要求に応じざるをえなくなるはずだ。ところが、オバマ前政権はもとより、トランプ政権もまた逡巡(しゅんじゅん)している」
 「大手銀行が国際金融市場から締め出されると、中国で信用不安が起きかねず、もとよりバブルにまみれた金融市場が震撼する。習近平政権は激しく反発し、米企業に報復しかねない」「中国はトランプ政権になって以来、対米輸出と対米黒字増を加速させている。トランプ政権の対中融和路線に便乗して中国は思うがままにドルを稼ぎ、北朝鮮に資金供給できるのだ。今、なすべき経済制裁は中国の対北朝鮮金融ルートを完全に遮断する対中金融制限ではないか。北京が米国だけを逆報復できなくなるよう、日欧も同調すべきだ」
 以下は、記事の全文。

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●産経新聞 平成29年9月10日

http://www.sankei.com/premium/news/170910/prm1709100021-n1.html
2017.9.10 08:00更新
【田村秀男の日曜経済講座】
対北朝鮮制裁不発の元凶 中国の金融ルート遮断を

 北朝鮮の核実験を受け、国連安全保障理事会は11日にも米国の提案による北朝鮮向け石油輸出全面禁止などの新たな制裁決議案を採決する。中国とロシアの反対で調整は難航しているが、これまでの度重なる国連の対北朝鮮制裁は不発続きだ。なぜなのか、有効な制裁案は他にあるのか。
 対北朝鮮に限らず、国際舞台での経済制裁は米ソ冷戦時代から現在に至るまで、頻繁に発動されてきた。目的は問題国の無法行為をやめさせるためだが、武力行使、つまり戦争を避けながら成果を挙げることに意義がある。
 今回の対北朝鮮石油禁輸案はいわば、「最後通告」とも言える劇薬だ。体制崩壊の危機に追い込まれる金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が折れて核・ミサイル開発を断念すれば結構だが、「窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む」となれば禁輸の結果は大災厄だ。トランプ政権はもちろん、その点は留意していて、大統領も関係閣僚も折りあるごとに、体制転覆や戦争の意図を否定している。それでも、石油禁輸にまで踏み込まなければならないほど、これまでの対北朝鮮制裁は正恩氏の高笑いを止められなかった。経済制裁は北朝鮮に経済的打撃を与えられなかったのだ。
 韓国政府の調査などによれば、北朝鮮の国内総生産(GDP)は年間300億~400億ドルで、軍事支出は約100億ドルに上る。ミサイルや核開発を支えるのは輸出収入による外貨で、中国向けが全体の約9割を占める。中国の貿易統計によれば、北朝鮮からの輸入は2016年で27億ドル。このほかに、中国などへの出稼ぎ者からピンハネする分が年間約10億ドルという。
 8月初旬、国連安保理は、北朝鮮からの石炭、鉄鉱石の輸入禁止などを決議した。その時、トランプ氏は「制裁効果は10億ドル相当」とツィッターで上機嫌だったが、金氏の返事は6回目の核実験だ。
 従来の経済制裁には致命的な欠陥がある。それを利用する元凶は、北朝鮮にとって最大の貿易相手、朝鮮戦争で「血の友誼(ゆうぎ)」を交わした中国である。北朝鮮は制裁によって輸出が減ると外貨収入が落ち込むので、軍用、民生用を問わず、輸入に支障をきたすはずだ。ところが、中国からの輸入は急増し続けている。なぜ、可能なのか。答えは簡単、中国の大手銀行が中国内外のネットワークを経由して信用供与、つまり金融協力しているからだ。
 中国銀行など大手国有商業銀行が北朝鮮に協力していることは、米財務省がオバマ政権時代から綿密に調べ上げてきた。国連事務局も実態を把握している。ならば、中国からの対北朝鮮金融ルートを遮断すれば、確実に制裁の実を挙げられる。そのためには、米政府が中国銀行など大手銀行に対し、ドル取引禁止という制裁を加えればよい。世界の基軸通貨ドルを入手できなくなれば、中国の金融機関はたちまち干上がるので、米側の要求に応じざるをえなくなるはずだ。ところが、オバマ前政権はもとより、トランプ政権もまた逡巡(しゅんじゅん)している。
 トランプ氏は3日付のツィッターで「(中国の対北朝鮮圧力は)ほとんど成果を上げなかった」「北朝鮮とビジネスをする全ての国との貿易停止を検討している」とぶち上げた。北朝鮮とビジネス取引する最大の国とは、もちろん中国のことである。ムニューシン財務長官は大統領の指示を受けて「北朝鮮との取引を望む者は米国と取引できないようにする」と言明し、北朝鮮に協力する中国企業リストを作成中だが、ワシントンの関係筋からは「銀行大手は対象外」と聞く。なぜか。
 大手銀行が国際金融市場から締め出されると、中国で信用不安が起きかねず、もとよりバブルにまみれた金融市場が震撼(しんかん)する。習近平政権は激しく反発し、米企業に報復しかねない。アップルなどは中国が最大の市場であり、トランプ政権が6月以来検討中の、通商法301条での対中制裁にも米産業界は困惑している。米企業や消費者も中国からの輸入にかなり依存している。「米経済に打撃を与えることなく中国との貿易を大幅に制限することはほぼ不可能だ」(5日付米ウォールストリート・ジャーナル紙電子版)と専門家はみる。
 ここでグラフを見よう。中国はトランプ政権になって以来、対米輸出と対米黒字増を加速させている。トランプ政権の対中融和路線に便乗して中国は思うがままにドルを稼ぎ、北朝鮮に資金供給できるのだ。今、なすべき経済制裁は中国の対北朝鮮金融ルートを完全に遮断する対中金融制限ではないか。北京が米国だけを逆報復できなくなるよう、日欧も同調すべきだ。(編集委員)
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