京都大学大学院教授の藤井聡氏は、大規模災害に備える「国土強靭化」を提唱する一方、経済政策についても多くの提言をしている。藤井氏は現在、日刊ゲンダイに「日本経済の『虚』と『実』~新聞報道に騙されるな!」を連載しているが、気軽に読める記事に、日本経済をめぐる虚実を暴き、端的に表現している。
私の日記では、7月15日に「増税は止められる」、8月9日「消費増税のウソ」都題して、その連載記事を紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7283c6e5d3eb9aa832e184a5835792f2
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b87c09a626dc1ed012026154bad97aa7
藤井氏は、10月12日には、「プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の『責任放棄』だ」という記事を書いた。プライマリー・バランス(PB)とは、基礎的財政収支のことである。わが国はデフレ大不況に苛まれ、巨大地震の危機に直面している。藤井氏は、「今日、PBの改善を過剰に重視する『維新の会』に典型的に見られる態度は,大量の国民を見殺しにする巨大な『国家的犯罪』に等しいのだ」と厳しく批判している。
「大量の国民を見殺しにする巨大な『国家的犯罪』」という言葉は、過剰な表現と感じる人がいるだろうが、わが国はデフレ不況下で、14年連続で年間3万人以上の自殺者が出ている。働き盛りの男性が多い。東日本大震災は、1万5千人超の犠牲者を生んだが、自殺者はその数を上回る。今後、予測される首都直下地震、南海トラフ地震は、東日本大震災を超える被害をもたらす恐れがある。南海トラフ地震は最大死者32万3千人という予測が発表されている。わが国の現状及び将来予測に鑑みれば、政府の財政均衡にとらわれて、有効な施策を打たないでいることは、国家的犯罪に等しいと私も思う。政治家は危機に覚醒し、非常にふさわしい政策を立案・断行しなければ国を救えないことに気付くべきである。
財政政策について誤った考えの一つが、藤井氏の指摘するプライマリー・バランスの過剰重視だが、経済学者の菊池英博氏は、次のように言っている。「世界中で、プライマリー・バランスの均衡化目標を定めている国はどこにもない。10年ほど前に、アルゼンチンがプライマリー・バランス均衡化政策をとって緊縮デフレ政策を行った。その結果、国内は大不況になり、ついに対外的に債務不履行(デフォルト)に陥り、まさに国家が崩壊してしまったのだ」と。
また菊池氏は次のように説く。「日本は常に貯蓄が投資を大幅に上回っており、貯蓄超過分を政府が公共投資などの形で使用しないと、資金が順調に回らない」。これがわが国の経済体質である。「まして、デフレのときには、この傾向が顕著である。それゆえ、基礎的財政収支を強引に黒字にする政策は、現実的に妥当な考えではない。黒字にすると、経済が停滞し、財政不況になる。「日本の場合には、黒字にしないで、新規国債(建設国債)、を発行して経済を活性化して、拡大均衡政策をとるべきであり、これが日本の財政を健全化する唯一の道である」と。
この点は非常に重要である。詳しくは拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」を参照願いたい。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13i-2.htm
政治家はもちろん、政治家以上に財務官僚、経済官僚に財政の基本理論を再勉強してもらわねばならない。硬直した財政均衡主義の誤りを認識し、デフレとインフレの状況に応じて政策を変える機能的財政論に切り替えねばならない。機能的財政論は、ケインズの一般理論を継承した弟子のアバ・ラーナーが理論化し、わが国では菊池英博氏の他、丹羽春喜氏や中野剛志氏らがその適切性を論理的かつ実証的に主張している。
以下は、藤井氏の記事。
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●日刊ゲンダイ 平成24年10月12日
日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑮
プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の「責任放棄」だ
京都大学大学院教授 藤井聡
読者各位は「プライマリー・バランス」(以下,PB)という言葉を大手新聞等で目にされる事があろうかと思う.これは中央政府の歳入と歳出のバランスのことで,これが悪化すれば政府の「借金」は増えていく.
だから多くの識者や記者,政治家達は「PBを改善すべし」と声高に叫んでいる.例えば日本維新の会の「維新八策」は,このPBの改善を「最も」重要な財政方針として掲げている.
多くの国民はこのPBの改善方針については,違和感なく理解しているものと思う.筆者もまたPBの改善という目標を,政府が持つべき多様な目標の一つとして掲げる事自体は,当然の事であると考えている.
しかし,「維新の会」の様にPBの改善「だけ」を過剰に重視するのは,政府による巨大なる「責任放棄」を意味していることを,我々は知らねばならない.
そもそも「政府」の目標は,国民国家を守り,国民の安寧と幸福を実現する事である.当たり前だ.そしてPBの改善が,この国家の大目標のために求められる場合もある.その場合はPBの改善を目指すべきだ.しかし残念ながら,PBの改善が国民に巨大な被害をもたらす場合もあるのだ.
典型例が「戦争」だ.侵略された時にPBの悪化を恐れて無為無策を決め込めば,国自体が亡びる.「大震災」も同じだ.今日の様に一千兆円を越える様な巨大地震の危機が間近に迫っているにもかかわらずPBの悪化を恐れて防災/強靱化を怠れば,結局大量の国民が殺められ,巨大な国富が消滅する.今日の「デフレ大不況」も同様だ.大不況を克服するために,高橋是清やルーズベルト大統領の様にPBの改善を一旦さておいて巨大な財政出動を果たさねば(例えばかつての大国アルゼンチンやスペインの様に)永遠に復活できぬ水準までに国力が凋落し,PBの改善それ自体も不可能となる。
つまり,大不況に苛まれ,大震災の危機に直面した今日,PBの改善を過剰に重視する「維新の会」に典型的に見られる態度は,大量の国民を見殺しにする巨大な「国家的犯罪」に等しいのだ.今日我々は危機の時代に生きている.この大局を忘れ去り,局所的なPBにばかり気を取られる政治は国を滅ぼす以外にない.この一点を,国民には是非深くご理解願いたいと思う.
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私の日記では、7月15日に「増税は止められる」、8月9日「消費増税のウソ」都題して、その連載記事を紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7283c6e5d3eb9aa832e184a5835792f2
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b87c09a626dc1ed012026154bad97aa7
藤井氏は、10月12日には、「プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の『責任放棄』だ」という記事を書いた。プライマリー・バランス(PB)とは、基礎的財政収支のことである。わが国はデフレ大不況に苛まれ、巨大地震の危機に直面している。藤井氏は、「今日、PBの改善を過剰に重視する『維新の会』に典型的に見られる態度は,大量の国民を見殺しにする巨大な『国家的犯罪』に等しいのだ」と厳しく批判している。
「大量の国民を見殺しにする巨大な『国家的犯罪』」という言葉は、過剰な表現と感じる人がいるだろうが、わが国はデフレ不況下で、14年連続で年間3万人以上の自殺者が出ている。働き盛りの男性が多い。東日本大震災は、1万5千人超の犠牲者を生んだが、自殺者はその数を上回る。今後、予測される首都直下地震、南海トラフ地震は、東日本大震災を超える被害をもたらす恐れがある。南海トラフ地震は最大死者32万3千人という予測が発表されている。わが国の現状及び将来予測に鑑みれば、政府の財政均衡にとらわれて、有効な施策を打たないでいることは、国家的犯罪に等しいと私も思う。政治家は危機に覚醒し、非常にふさわしい政策を立案・断行しなければ国を救えないことに気付くべきである。
財政政策について誤った考えの一つが、藤井氏の指摘するプライマリー・バランスの過剰重視だが、経済学者の菊池英博氏は、次のように言っている。「世界中で、プライマリー・バランスの均衡化目標を定めている国はどこにもない。10年ほど前に、アルゼンチンがプライマリー・バランス均衡化政策をとって緊縮デフレ政策を行った。その結果、国内は大不況になり、ついに対外的に債務不履行(デフォルト)に陥り、まさに国家が崩壊してしまったのだ」と。
また菊池氏は次のように説く。「日本は常に貯蓄が投資を大幅に上回っており、貯蓄超過分を政府が公共投資などの形で使用しないと、資金が順調に回らない」。これがわが国の経済体質である。「まして、デフレのときには、この傾向が顕著である。それゆえ、基礎的財政収支を強引に黒字にする政策は、現実的に妥当な考えではない。黒字にすると、経済が停滞し、財政不況になる。「日本の場合には、黒字にしないで、新規国債(建設国債)、を発行して経済を活性化して、拡大均衡政策をとるべきであり、これが日本の財政を健全化する唯一の道である」と。
この点は非常に重要である。詳しくは拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」を参照願いたい。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13i-2.htm
政治家はもちろん、政治家以上に財務官僚、経済官僚に財政の基本理論を再勉強してもらわねばならない。硬直した財政均衡主義の誤りを認識し、デフレとインフレの状況に応じて政策を変える機能的財政論に切り替えねばならない。機能的財政論は、ケインズの一般理論を継承した弟子のアバ・ラーナーが理論化し、わが国では菊池英博氏の他、丹羽春喜氏や中野剛志氏らがその適切性を論理的かつ実証的に主張している。
以下は、藤井氏の記事。
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●日刊ゲンダイ 平成24年10月12日
日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑮
プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の「責任放棄」だ
京都大学大学院教授 藤井聡
読者各位は「プライマリー・バランス」(以下,PB)という言葉を大手新聞等で目にされる事があろうかと思う.これは中央政府の歳入と歳出のバランスのことで,これが悪化すれば政府の「借金」は増えていく.
だから多くの識者や記者,政治家達は「PBを改善すべし」と声高に叫んでいる.例えば日本維新の会の「維新八策」は,このPBの改善を「最も」重要な財政方針として掲げている.
多くの国民はこのPBの改善方針については,違和感なく理解しているものと思う.筆者もまたPBの改善という目標を,政府が持つべき多様な目標の一つとして掲げる事自体は,当然の事であると考えている.
しかし,「維新の会」の様にPBの改善「だけ」を過剰に重視するのは,政府による巨大なる「責任放棄」を意味していることを,我々は知らねばならない.
そもそも「政府」の目標は,国民国家を守り,国民の安寧と幸福を実現する事である.当たり前だ.そしてPBの改善が,この国家の大目標のために求められる場合もある.その場合はPBの改善を目指すべきだ.しかし残念ながら,PBの改善が国民に巨大な被害をもたらす場合もあるのだ.
典型例が「戦争」だ.侵略された時にPBの悪化を恐れて無為無策を決め込めば,国自体が亡びる.「大震災」も同じだ.今日の様に一千兆円を越える様な巨大地震の危機が間近に迫っているにもかかわらずPBの悪化を恐れて防災/強靱化を怠れば,結局大量の国民が殺められ,巨大な国富が消滅する.今日の「デフレ大不況」も同様だ.大不況を克服するために,高橋是清やルーズベルト大統領の様にPBの改善を一旦さておいて巨大な財政出動を果たさねば(例えばかつての大国アルゼンチンやスペインの様に)永遠に復活できぬ水準までに国力が凋落し,PBの改善それ自体も不可能となる。
つまり,大不況に苛まれ,大震災の危機に直面した今日,PBの改善を過剰に重視する「維新の会」に典型的に見られる態度は,大量の国民を見殺しにする巨大な「国家的犯罪」に等しいのだ.今日我々は危機の時代に生きている.この大局を忘れ去り,局所的なPBにばかり気を取られる政治は国を滅ぼす以外にない.この一点を,国民には是非深くご理解願いたいと思う.
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