最終回。
●専門家の見解(続き)
2019年12月に防衛研究所が主催した安全保障国際シンポジウムにおいて、中国マカオ大学教授の由冀氏は、次のように発言した。
「『一帯一路』構想は、大国の戦略地政学的な対立関係が絡み合った引火点が多く存在する重要地域の地理に根差している。従って、軍事的ダイナミクスは『一帯一路』構想の展開に純粋に影響する。このことは、自然地理学と軍事地理学の関係を研究するためのよい事例となっている。両者の関係は、いずれも地理的な性質を備え、地理的に表されるため、国家の行動、武力紛争および軍事化を理解する上で不可欠である。『一帯一路』構想は、その発展の過程全体において、何らかの形で、軍事に関する問題に直面することになる」
「米国政府が戦略的に中国を対等の競争相手として表現していることから、米中対立は既に上昇スパイラルに突入している。『一帯一路』構想をめぐる一進一退の攻防は、今は隠されている軍事的意図が加わると、さらに深刻化するだろう。従って、大国間の関係に与える『一帯一路』構想の戦略地政学的・軍事的影響は、ますます大きくなる。
例えば、『一帯一路』構想とインド太平洋戦略(IPS)の衝突により、インド太平洋の基本的な安全保障構造が実質的に変容する可能性があり、そうなれば当然、『一帯一路』構想に対する諸大国からの反発を引き起こすことになるだろう。
圧力を受けた中国は、関係国から相応の地政学的な支援を得られない限り、『一帯一路』構想の目的を達成できない。その上、中国は、軍事力を行使して自国のグローバルな経済圏を守る等、反対勢力からの圧力を相殺する方策を打ち出すだろう。そうなれば『一帯一路』構想に関する政策決定の裏側で、あるいは『一帯一路』構想を実施する正面において、人民解放軍による『一帯一路』構想への関与は避けられなくなる」
由氏は、中国の学者である。そうした学者が日本に来て、このように述べているのは、中国共産党の戦略と人民解放軍の行動を批判するためではなく、「一帯一路」構想を実現する上で、中国には軍事力を行使する権利があると主張しているのである。
こうした中国の地政学的すなわち帝国主義的な戦略に対抗するものとして、わが国の安倍晋三氏が首相当時に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想がある。冨山氏は、この構想を評価し、次のように提案している。
「新アメリカ安全保障センター(CNAS)の報告書は『一帯一路』のプロジェクトと対比するために、日本の政府開発援助(ODA)によるバヌアツのポートビラ港埠頭整備事業も検証し、この事業には明確な商業的合理性があり、地政学的リスクを含め問題点は一つもないとお墨つきを与えた。
日本政府は安倍晋三首相(註 2019年当時)のインド太平洋構想を『一帯一路』の代替策として途上国に売り込んでいるが、日本のインフラ整備事業が開放性、透明性、経済性、受け入れ国の財政健全性を重視することに説明の力点を置いてきた。今後は、地政学的リスクのなさも『一帯一路』との大きな違いであることを強調し、日本支援プロジェクトの優位性をもっと積極的に広報すべきではないか」
安倍前首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、トランプ大統領が米国の政策に採り入れるところとなった。さらに、豪・印や英・仏等も賛同するものになっている。「自由で開かれたインド太平洋」構想は、中国の地政学的・帝国主義的な行動を牽制し、インド太平洋地域の平和と安定を維持するために必要であり、自由主義諸国の連携によって実現されねばならない。
●結びに~本格的な研究と成果の共有を
本稿の冒頭に、共産中国の「一帯一路」構想は単なる経済政策の構想ではなく、外交・軍事・情報管理を含む総合的な政策として立案されたものであり、この構想の立案において、地政学を取り入れていると推測すると書いた。私見を一通り述べた後に、内外の専門家の中にも同じ見方があることを書いた。「一帯一路」構想を深く理解し、これに対処するには、地政学的な観点に立った研究が必要であると思う。また、多くの分野の専門家が集まって本格的な研究を行い、その成果が政治家、外交・防衛・通商産業政策を担う官僚、財界人、ビジネスマン、国際政治学者、国際関係学者、ジャーナリストなどに共有されることを期待したい。
本稿では今日、わが国が取るべき共産中国への対処については、論じない。拙稿「凄まじい軍拡を続ける中国から日本を守れ」に書いたので、参照願いたい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-15.htm
(了)
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
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●専門家の見解(続き)
2019年12月に防衛研究所が主催した安全保障国際シンポジウムにおいて、中国マカオ大学教授の由冀氏は、次のように発言した。
「『一帯一路』構想は、大国の戦略地政学的な対立関係が絡み合った引火点が多く存在する重要地域の地理に根差している。従って、軍事的ダイナミクスは『一帯一路』構想の展開に純粋に影響する。このことは、自然地理学と軍事地理学の関係を研究するためのよい事例となっている。両者の関係は、いずれも地理的な性質を備え、地理的に表されるため、国家の行動、武力紛争および軍事化を理解する上で不可欠である。『一帯一路』構想は、その発展の過程全体において、何らかの形で、軍事に関する問題に直面することになる」
「米国政府が戦略的に中国を対等の競争相手として表現していることから、米中対立は既に上昇スパイラルに突入している。『一帯一路』構想をめぐる一進一退の攻防は、今は隠されている軍事的意図が加わると、さらに深刻化するだろう。従って、大国間の関係に与える『一帯一路』構想の戦略地政学的・軍事的影響は、ますます大きくなる。
例えば、『一帯一路』構想とインド太平洋戦略(IPS)の衝突により、インド太平洋の基本的な安全保障構造が実質的に変容する可能性があり、そうなれば当然、『一帯一路』構想に対する諸大国からの反発を引き起こすことになるだろう。
圧力を受けた中国は、関係国から相応の地政学的な支援を得られない限り、『一帯一路』構想の目的を達成できない。その上、中国は、軍事力を行使して自国のグローバルな経済圏を守る等、反対勢力からの圧力を相殺する方策を打ち出すだろう。そうなれば『一帯一路』構想に関する政策決定の裏側で、あるいは『一帯一路』構想を実施する正面において、人民解放軍による『一帯一路』構想への関与は避けられなくなる」
由氏は、中国の学者である。そうした学者が日本に来て、このように述べているのは、中国共産党の戦略と人民解放軍の行動を批判するためではなく、「一帯一路」構想を実現する上で、中国には軍事力を行使する権利があると主張しているのである。
こうした中国の地政学的すなわち帝国主義的な戦略に対抗するものとして、わが国の安倍晋三氏が首相当時に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想がある。冨山氏は、この構想を評価し、次のように提案している。
「新アメリカ安全保障センター(CNAS)の報告書は『一帯一路』のプロジェクトと対比するために、日本の政府開発援助(ODA)によるバヌアツのポートビラ港埠頭整備事業も検証し、この事業には明確な商業的合理性があり、地政学的リスクを含め問題点は一つもないとお墨つきを与えた。
日本政府は安倍晋三首相(註 2019年当時)のインド太平洋構想を『一帯一路』の代替策として途上国に売り込んでいるが、日本のインフラ整備事業が開放性、透明性、経済性、受け入れ国の財政健全性を重視することに説明の力点を置いてきた。今後は、地政学的リスクのなさも『一帯一路』との大きな違いであることを強調し、日本支援プロジェクトの優位性をもっと積極的に広報すべきではないか」
安倍前首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、トランプ大統領が米国の政策に採り入れるところとなった。さらに、豪・印や英・仏等も賛同するものになっている。「自由で開かれたインド太平洋」構想は、中国の地政学的・帝国主義的な行動を牽制し、インド太平洋地域の平和と安定を維持するために必要であり、自由主義諸国の連携によって実現されねばならない。
●結びに~本格的な研究と成果の共有を
本稿の冒頭に、共産中国の「一帯一路」構想は単なる経済政策の構想ではなく、外交・軍事・情報管理を含む総合的な政策として立案されたものであり、この構想の立案において、地政学を取り入れていると推測すると書いた。私見を一通り述べた後に、内外の専門家の中にも同じ見方があることを書いた。「一帯一路」構想を深く理解し、これに対処するには、地政学的な観点に立った研究が必要であると思う。また、多くの分野の専門家が集まって本格的な研究を行い、その成果が政治家、外交・防衛・通商産業政策を担う官僚、財界人、ビジネスマン、国際政治学者、国際関係学者、ジャーナリストなどに共有されることを期待したい。
本稿では今日、わが国が取るべき共産中国への対処については、論じない。拙稿「凄まじい軍拡を続ける中国から日本を守れ」に書いたので、参照願いたい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-15.htm
(了)
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
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