経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

ミクロとマクロの消費率の異変

2017年02月26日 | 経済
 「家計における非食料消費の割合は一定」というのは、50年以上の長きにわたり観測されてきた「法則」だ。収入が増せば、消費も増え、消費が落ちれば、景気悪化で収入も伸びないというメカニズムが背景にあり、調整には、物価と単位労働コストが介在する。それが2015~16年に異変を見せた。「異次元」な経済運営をしているのだから、何だって起こるのかもしれないが、どんな意味を持つか、少し探ってみることとしたい。

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 家計調査における勤労者世帯の非食料消費が実収入に占める割合は、図1のとおり、極めて安定している。実は、安定の中で、緩やかな上昇と下降を繰り返しており、これが長期的な景気の変動を表している。他方、食料消費は、日本が豊かになるに連れて、次第に低下し、1997年の大規模な緊縮財政でデフレに転落してから、それは止まっている。つまり、豊かにならなくなったということである。また、税・保険料で圧迫されると、貯蓄ができなくなるという傾向も見られる。

 そんな非食料消費が2015~16年にガクッと落ち、食料消費と貯蓄の比率が上がった。おそらく、理由は二つ。一つは、物価、特に食料の上昇だ。この間、消費増税、円安による値上がり、昨秋の生鮮の高騰と続いた。図では分かりにくいが、食料消費の比率は3年で0.7も上がるという、かつてないものだった。物価高に直面すると、「高い」と思って買うのを先送りし、消費は抑制される。

 もう一つは、定期収入の低下である。2015,16年と、実収入は増しているものの、定期収入が減り、臨時収入・賞与の増加と、配偶者等の収入の追加で確保されている。これでは、日常の消費を増やす気になれず、原油安で光熱費が節約できても、貯蓄に回されるだろう。消費性向で確認すると、両年で2.9ポイントも下がった。ただし、2016年の72.3は、過去最低というほどではなく、原油高の2006年と同程度で、豊かだった1990年代後半はもう少し低かった。

(図1)



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 併せて、マクロでの消費の割合もチェックしよう。名目GDPに占める消費の割合を示すと、図2のとおり。マクロの消費率は、家計調査のミクロの消費率よりも明瞭に中長期の景気変動を示す。消費率の低下は、投資の拡大による成長の加速を意味している。例えば、高度成長期における池田政権時の「踊り場」も明らかだし、オイルショック期からの景気転換がレーガノミックス下の輸出ブームであったことも読み取れよう。

 また、バブル崩壊後は、後退と小康の繰り返しだったことが分かる。1995年に小康を得て、翌年には回復の兆しがあったのに、1997年の大緊縮財政で二番底へと後退し、2001年の構造改革路線で増悪する。2003年に、米中への輸出に出会って一息つくものの、緊縮で内需波及を妨げたことで改善なく推移し、そうするうちに、リーマンショックに見舞われる。今は2013年からの回復局面である。歳のせいか、「走馬灯」のように思い出が巡るよ。

 消費率が2015,16年に低下したことからすると、アベノミクスは、景気回復に成功したとは言えよう。ただし、水準は、未だリーマンショック前の2008年に及ばない程度でしかない。しかも、肝心の設備投資や輸出がほとんど増えておらず、前向きの投資率の向上が実現したわけではない。輸入の大幅減という、いわば、原油安の天恵と、物価高に悩む国民の我慢の賜物なのである。

(図2)



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 エンゲル係数が目安になるように、国民を豊かにしていくためには、食料消費の比率が下がって行くような経済運営をしなければならない。それには、食料を始めとするモノの値段を相対的に低くし、サービス価格、単位労働コストを高めていく必要がある。それが生産性を上げるということでもある。モノの消費比率が下がるに従って、成長率は確保しにくくなるけれども、基本は変わらない。

 デフレ脱却は重要な課題だが、単に物価が上がれば良いというものではない。原油高や円安による物価上昇によって、デフレでなくなったとしても、生活が豊かになるわけではないからである。消費性向の比較的大きな低下は、賞与等が伸びた2006年にもあったことで、翌2007年は、消費がより伸びる形で消費性向が上昇した。今年も、そのような形になってくれればと、願わずにはいられない。
 

(今日までの日経)
 社説・賃金が力強く上がる基盤を築こう。エコノミスト予測、若い世代ほど後ろ向き 高成長の経験有無、影響?

 ※今日の社説は、「現場で頑張れば、マクロが良くなる」という、とても日本人らしいものだったね。いかに企業が努力して付加価値を生み出しても、待ってましたとばかりに財政が緊縮で所得を抜いたら、リスクを取って設備や人材に投資した者ほど痛い目を見る。生産性向上には投資が必要で、それが報われる需要管理が不可欠だ。労働市場改革では、若年層の保険料を軽減して、社会保険の非正規への適用差別を撤廃しないことには、スキルアップもあるまい。社会保障は、資金循環で見る限り既に黒字になっている。今はカネを貯めている場合でなく、年金の前払いで、乳幼児を抱える若者に給付し、未来の人材に投資すべきである。それこそ、緊縮財政に勝る世代間格差の是正だろう。まあ、日本人に戦略的思考を求めてもムダかもしれないが。
 ※「見たことないもん作られへん」なのかな。強気の筆者の歳がバレるね。

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