経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

脱デフレから格差是正まで

2013年05月07日 | 経済
 世の中を良くするのに役立たないことで定評のある経済学だが、長年の懸案に答えが出ているものがある。それは「貧しい国をいかに豊かにするか」である。答えは、輸出型の外資の導入だ。特区を作って安い労働力を提供し、輸出を伸ばすとともに、増えた所得が内需を拡げ、経済を成長させる。もはや常識と化したこの手法だが、まじめに考えると、なぜ成功するのか明らかでなかったりする。

 なぜ「輸出」なのか。成長の源は設備投資にあり、それには需要が決定的に重要という理解があれば、何の疑問もないが、経済学の教科書から一歩も出ずに、「需要の有無と関係なく、低賃金に加え、資本さえ用意できれば経済は成長するはず」と考えると、見えるものもみえなくなってしまう。まあ、理由はよく分からなくても、効く薬は用いられるということなのだがね。

 昨日の日経には、「対内直接投資が北朝鮮より少なく情けない」という話が出てくるが、日本に低賃金はないし、内需が不足ぎみでデフレにある日本には、トヨタが米国に進出するような、内需をあてにする先進国型の直接投資だって望むべくもない。少し景気が上向けば、すぐに緊縮財政を始め、徹底して内需を抜いておいて、期待する方がどうかしている。教科書そのままに「使いやすい労働力と法人減税があれば投資は増える」なんて言われてもねえ。

………
 輸出主導型の成長戦略は、途上国の経済を離陸させるのに大いに力を発揮し、アジアNICs、中国、東南アジア、さらに、バングラデシュからミャンマーへと広がっている。戦後に奇跡の高度成長を実現し、創始者となったのは日本だが、あとに続いた国々にない二つの特徴を備えている。一つは、外国企業の資本、技術、販路に頼らず、自前で克服する一段難しい方法で成功したこと、もう一つは、平等社会を実現したことだ。

 前者は、外資導入は欧米の支配を招くという不安が強かった時代に、おのずと選ばれた道であったが、その自活の精神は誇って良いと思う。そして、後者は、巧まずして得られたもので、ある意味、政策的失敗の産物だ。岩戸景気の終わりには労働力が逼迫し始め、物価上昇率が高まったのに、更なる高投資の経済を追求し、需要圧力の高い経済によって雇用を行き渡らせたことが格差を縮小させたからだ。

 残念ながら、今の途上国で、そこまでできる国はない。中国の例で明らかなように、物価高は政治的不満に結びつきやすく、政権を危うくしかねない。そうかと言って、物価のために、雇用をそこそこに収めれば、底上げは難しく、格差は開いていく。経済学の教科書とは違い、豊かさの均霑は、成り行きで実現できるものではなく、尋常ならざる「高圧」を意図して経済にかける覚悟がいる。

………
 脱デフレは、金融緩和から始まり、輸出増・住宅増・財政増→ 設備投資増→ 所得増・雇用増→ 消費増と来て、ようやく物価が上昇する。そこから人手不足によって格差が縮まるのは更に先のことだ。したがって、「格差を是正して賃金を上げ、脱デフレを」という気持ちは分かるが、それは順序が逆になる。しかも、生産性格差インフレーションによる5%超の物価高も受け入れなければならない。物価目標が低い現在では容認されまい。

 ただし、また古い話になるが、岩戸景気の経験を言えば、新規の労働力がきつくなっただけで物価上昇率が高まっている。アベノミクスも成功すれば、こうした非線形的な動きが見られるだろう。つまり、社会全体の格差が是正される前でも、若手は早めに救われるということだ。高度成長期において雇用問題は中高年のことだった。格差については、成長で解決できないものではないが、社会保障による再分配で対応する方が現実的に思える。

(昨日の日経)
 スパコン世界一奪還へ。外資誘致に見えぬ戦略、対内直接投資の低水準続く。労働力増加、需要減らず・JR東、女性と高齢者の通勤定期が増加。核心・成長率下がり天気の中韓。経済教室・インフラ維持にPFI。

※今日は新聞休刊日。※毎勤でも雇用の改善は見られなかったが、中身は変化しているようで、JR東の観察はなかなかおもしろい。

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