経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

それぞれのウォームハート

2013年06月16日 | 経済
 仏教の観点では、世の中を良くしようというのも煩悩の一つらしい。そうした志は立派だが、なぜ、そうしたくなったのか、時折、自分に問いかけてみることも大切だ。4月に出版された「市場と権力」は、元日経記者でフリージャーナリストの佐々木実さんが世に問うた力作である。一般的には「竹中平蔵批判本」ということになろうが、昔の出来事も思い出しつつ、それにとどまらない読み方もあろうと感じた。

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 佐々木さんは、本の中で、牧原出先生の「内閣政治と大蔵省支配」を引いている(p.56)。これは、1950年代の予算編成過程が確立されていなかった時代、十分な統制力を発揮できずじまいの主計局に代わり、大蔵省内の官房型官僚が調整に力を尽くした様子を描くものだ。筆者には、「竹中」的存在とは、主計局はおろか省全体が権力を失った局面で、それを埋めたものであるように思える。 

 実は、竹中氏の出自は、本が詳しく記しているように、大蔵省官房調査企画課にある。その財政金融研究室における30代前半の5年に渡るキャリアが、のちの政治活動のスタイルを確立させることになった。竹中氏は経済学者であるが、官房型官僚のバリエーションと見なす方が歴史的な位置付けの理解には早いように思う。そして、かつての官房型の官僚が省を超えて官邸と結んだように、つながりは更に広く米国に及ぶことになった。
 
 竹中氏が政治の舞台で活躍したのは、大蔵省が1997年に無謀な緊縮財政で墓穴を掘り、脆弱だった金融機関を危機に陥れた頃である。大蔵省の威信は失墜し、その権力の空白を埋めたのが「竹中」的存在である。政策というのはヒトもカネもヒマも要る。竹中氏を批判するのはたやすいが、日本では唯一とも言える政策の作り手だった官僚機構の抜けた穴を、どうすべきだったのかという観点も必要であろう。

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 1997年を境に日本は変わったように思う。経済構造で言えば、消費のGDP比率は70%を遥かに超えるに至った。戦後日本経済を特徴づけていた高貯蓄・高投資の構造は壊されてしまう。これは1950年代のレベルへの逆戻りである。もし、1997年の愚行がなければ、消費率は70%を天井に反転し、景気回復とともに緩やかに低下しただろう。戦後、2度繰り返された長期の波の3度目の循環がスタートしていたはずだ。

 政治的変化も著しい。それまでは何だかんだ言われても官僚は信頼されていた。今の若い人には想像の外だろうが、「官僚は凄い」といった本も、結構、売れていたのである。不況になったら、公共事業を打って時機を待つという穏健な政策は、財政の急速な悪化もあり、評判は極めて悪くなった。何かを改革をしなければならない、しかし、何を改革すれば良いのか分からない。そんな時代へと変わったのである。

 いわゆる「構造改革」は、需要安定以外のあらゆる試みと言えるかもしれない。小泉政権下では、金融機関の整理、郵政民営化という構造改革が行われたが、成長を支えたのは、金融緩和による円安、それが育てた米国バブルによる輸出の急増だった。かつての日本なら、外需を起点に景気を拡大していただろうが、「小さな政府」思想は緊縮財政と結びつき、好循環を断ち切り、絶好機を緩慢な成長で終わらせたのだった。

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 正義というのは様々なもので、立場によって違う。金融業にとっては、金融緩和と緊縮財政の組み合わせが最善の経済政策である。法人減税と規制緩和も彼らの商品の価値を高めてくれる。それらは、金融業の成長戦略としては疑問の余地なく正しいし、多少は設備投資も促すから、経済成長にも役立つと主張はできる。金融業とこれに関連するIT産業の膨張は、労働生産性を高めるのに効果的ですらある。金融立国のアメリカ的正義かもしれない。

 問題は、経済成長の原動力である設備投資は、もっぱら需要によって促されるということである。緊縮財政を余分にしたり、法人減税の見合いに消費増税をしたり、規制緩和で短期的にでも雇用を悪化させたりすれば、たちどころに経済成長を落としてしまう。金融緩和は、設備投資には効果が薄く、住宅投資と輸出増を通しての間接的な力しか持っていない。結局、経済成長という、より大きな正義のためには、節度が必要だ。

 新自由主義の人たちと対話をするためには、彼らの価値観を否定してみても始まらない。欲張らないことが長い目でお得だよと話し、消費増税さえできればという前時代的な財政再建論の勢力から引き離す方が先決である。筆者は、社会保障を多くの人々の幸せにとって必要なものと考えているが、幸せのために充実せよと叫ぶのではなく、それは成長のためにも良いものだと語るようにしている。その意味で、経済的利益は共通言語なのである。

(昨日の日経)
 企業の課税回避防止。REIT購入拡大・日銀。米中会談・秋田浩之。成長戦略に失望の書き込み。税制改正は今年度の適用も。証明書コンビニ4万店で。しまむら春夏物で苦戦。5年債落ち着く、当座3月比1.75倍。余るクロマグロ。男職場でタフに咲く。

※乱獲をまだ続けるのか。不合理と分かっていても枯渇するまでやめられないようだ。

(今日の日経)
 家電量産に3D。円上昇、新興国通貨から資金流入。前提が揺らいだのは5/22のバーナンキ発言・滝田洋一。

※円キャリの巻き戻しだな。米国の緊縮財政が成長を緩慢にし、新興国の成長の勢いまで殺いでいる。これでは金融緩和をしても資金が戻ってくる。

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