経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

年金保障と消費税の真実

2012年01月31日 | 経済
 本コラムの「小論」では、「年金制度は、政治が改革すれば何とかなるというものではまったくない」としている。それは、少子化という制約があるからで、負担や給付をいじっても、数理的に解決のしようがないからである。ところが、この数年、「抜本改革」をすれば良くなるような幻想が振りまかれてきた。

 今、民主党が公約違反で苦しんでいるのは、そのためである。7万円の最低保障をする民主党の改革案は、既定方針の消費税10%に加え、更に7%のアップが必要とされ、世間的には「とても無理」という感覚で受け取られている。しかし、保険料率を引き下げて、税方式化の色彩を強めれば、大幅な消費税アップが必要になることは目に見えていた。

 2008年の社会保障国民会議で、権丈善一先生が厚労省に税方式化の試算を出させ、決着はついていたのだが、政治が年金制度を勉強するのに、長い時間が必要だった。随分と遠回りをしてしまったわけだが、それは、政治の責任にとどまらず、日経や読売も大きな責任を負っている。

 日経は、公式には税方式化を求めているので、本当なら、民主党の案を支持しなければならない立場にある。また、読売は、5万円の最低保障と、基礎年金の7万円への引き上げを提案していたのだから、方向性は同じはず。その読売が1/28の社説で「年金改革・民主党は新制度案の棚上げを」としているのは、いかにも冷たい。

 これで、問題について、エリートの理解が深まったのかというと、そうでもない。本当に重要なことは、誰も分かっていないのだ。おそらく、民主党が7万円の最低保障を打ち出したのは、新聞に影響されたためだろう。現在の基礎年金は、フル支給で6.6万円だから、切りの良いところまで5%ほど上げても、財源は何とかなるという感覚だったのではないか。

 今回の民主党案の試算方法は公開されていないから、確たることは申し上げられないが、現行制度より大きな負担増になる最大の理由は、現行制度がマクロ経済スライドによって、基礎年金の水準が15%程度は切り下げられるためだろう。つまり、現行制度の基礎年金は、5.6万円になる予定であり、7万円の保障は25%も大きいことになる。消費税の大幅アップもむべからざるものだ。

 実は、年金の専門家の間では、この基礎年金の切り下げは、生活保障の観点で問題視されている。たぶん、厚労省も、そういう意識はあって、少子化や低成長が続いて、現実に切り下がってきたときに、負担増で回復させることを改めて考えようとしているのではないか。その意味で、民主党案は、年金の将来の問題を先取りしているとも言えるのである。

 そもそも、現行の基礎年金の水準より少し大きい程度の最低保障で大増税が必要になるのなら、現行で保障している年金の水準が相当低いものなのだと悟らなければならない。これは、年金を専門にしていなくても、多少、数字に強い人なら気づけることである。それも分からないのだから、日本の政治や新聞のレベルが知れるというものだ。

 日本では、またぞろ、新党ブームが起きそうな気配だ。「大改革」を掲げる新党は、どんな社会保障や経済運営を打ち出すのであろうか。それらは、とても政治的信念でやれるようなヤワなものではない。専門知識が必要で、国民に説明することすら難しい。でも、そんなことにはお構いなしで、日本人は、よく分からない幻想に、また飛びつくのだろうなあ。

※読売の年金改革案を取り違えていたたため、内容を一部修正しています。(2012/1/31 23:30)

  
(今日の日経)
 欧州、危機下の消費増税。景気再浮揚・製造業、不安抱え反攻。社説・人口推計は貧困な少子化対策への警告だ。年金試算見送り、民主迷走。働き手、50年後に半減。国債利払い費、20兆円に倍増。キャタピラーが映す光と影。経済教室・多国籍人材・一條和生。

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3 コメント

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「改革」 (KitaAlps)
2012-01-31 09:55:21
>ところが、この数年、「抜本改革」をすれば良くなるような幻想が振りまかれてきた。今、民主党が公約違反で苦しんでいるのは、そのためである。
>日本では、またぞろ、新党ブームが起きそうな気配だ。「大改革」を掲げる新党は・・・・・・

 「改革」という美名の下で、無知に基づいた「改革理論」?を振りかざし、「改革」の短期実施を狙う進行予定表に基づいて、「短期での改革実施」や「改革の障害になるような」まともな議論を押し潰して拙速な「大改革」を行い、実行後には、実際にはプラシーボ並みの成果しかないか、マイナスの影響の方が大きかったのに、マスコミや学界への影響力を動員して成果を飾り立て、あたかも大きな成果があったという歴史を作る??・・・・・・
 もう「改革」ということば自体が胡散臭く思えるのですが、世論はそうでもないようで・・・

>そうかと言って、この問題について、エリートの理解が深まったのかというと、そうでもない。本当に重要なことは、誰も分かっていないのだ。

  ・・・・・・・・。
返信する
補足 (KitaAlps)
2012-01-31 10:09:22
 ちなみに、「改革」がだめといってるわけではなくて、「改革を旗印」にすることに疑問を感じるということでした。
 「改革を旗印」にすれば、必然的に「大改革」や「急速な改革」を訴えることになり、それによって生ずる反対勢力を押し潰すためには「自分たちは無謬である」という誇示が必要にもなりますから、自分たちの改革方針の方向に影響を与える、まともな議論を押し潰すことになってしまいます。

 「改革を旗印」にすることは、票を集めるにはよいのでしょうが、もっと真摯な議論を元に着々と進めるべきものを、世論の受けを狙って大改革ありきで進めると、雑な「改革」になり、ほとんどは「改悪」になってしまうと考えます。

 「改革を旗印」にさえすれば何の成果を出していなくても、すべてが許される状況はなんとかならないかと思います。
返信する
社会保障と税の一体改革! (中林澄明)
2012-02-01 21:11:24
社会保障のビジョンを出せない与党と野党にはがっかりします!
消費税は、所得水準の低い世帯には累進課税
率が高いのは明らかです。

何故、今、このタイミングで消費税の議論なのですか?
社会保障のメニューを各政党が国民に説明責任があります!
障がい者や高齢者や子育て世帯や若者に説明責任があります!

21世紀まで、問題を先送りしてきた責任は、
政治にあるのではないでしょうか?
返信する

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