今日の日経では、8月の鉱工業生産が1.3%低下したことを受けて、7-9月期がマイナスになるという観測も出ている。しかし、同時に公表された家計調査は、前年同月比で実質1.8%増という事前の予想を超える伸びとなった。多くのエコノミストは、中国リスクを挙げ、先行きには悲観的だが、果たして、それは正しいだろうか。
多くのエコノミストは、今日の日経が書くように、「日本は製造業の生産動向が景気の動きと一致する」というモデルを持っている。製造業は輸出に左右されるから、中国を気にして悲観的になり、回復は中国次第と考えがちになる。日本の輸出のGDP比は約15%で、対中国はその2割なのだから、気にし過ぎの感はあるが、影響があることに違いはない。
実は、日本経済が輸出次第になったのは、そんなに古いことではなく、1997年のハシモトデフレ以来の特徴である。非常に単純な構図なので、以来、筆者は景気を読み間違ったことがない。これは、輸出で景気が上向くと、すかさず緊縮財政に転じ、内需に景気を波及させないという異様な経済運営を取ってきたためである。
輸出比率が15%というところに表れるように、本来、日本は内需の国である。若手のエコノミストは、異様な経済運営の下の姿しか知らないから、日本の景気は輸出次第と思うのは無理もない。そして、それを延長して将来を考えようとする。筆者のような古手は、昔の頃を懐かしみつつ、モデルには転機もあることを思うわけである。
………
8月の家計調査は、前月比の実質指数で見ると2.2%もの増加であり、おまけにエコカー減税で伸びている自動車購入費が含まれない「除く住居等」が3.0%増と、むしろ、高くなっている。6月、7月と悪かったので、悲観的な見方が広がっていたが、一気に取り戻してくれた。正直に言うと、7-9月期の消費をプラスにするために、もうひと伸びが欲しかったところではある。
この取り戻しぶりが後知恵でないことは、前回の家計調査の発表の後、9/2の本コラムで、「8月は一変する可能性もある」としたとおりだ。大きく上下した消費性向も、今月は並みに戻っている。さて、来月だが、指数が更に伸びるかは、期待はしているものの、まだ、これといった材料がない。また、7-9月期のプラス成長には、それなりにハードルが高くもある。
………
消費を占うには雇用状況が重要なので、今回は、同日に公表された労働力調査も見てみよう。こちらは、完全失業率が4.2%と、前月より0.1ポイント低下し、まずは順調な結果だ。ただし、低下は、就業者の増ではなく、求職者の減によるもので、内容はあまり良くないとされる。こうした分析はセオリーである。
その要因だが、団塊世代が65歳以上となり、労働力市場から退出しているためと思われる。64歳以下の就業率がこのところ上昇していることからも、それは見て取れる。団塊は仕事を次の世代に譲りつつあるわけだ。むろん、消費への影響で言えば、就業者数の減は心配だが、あまり悲観してもいけない。団塊が65歳以上になってフルの年金を得るようになれば、それは消費にはプラスになる。消費は、雇用と年金が支える時代になっているのである。
………
雇用の中身を見てみると、製造業の減が著しい。これが世の悲観の大きな理由だが、一方で、医療福祉の増は、製造業の減を補って余りある大きさだ。さらに、卸売小売が増加に転じ、サービスも前月に続き大きく伸ばした。内需関連は好調である。女性向きの職が増えているから、男性には実態以上に景気を厳しく感じさせているかもしれない。
医療福祉の仕事は、きつくて低賃金のイメージがあり、税や保険料の負担が増すという連想が働き、良く受け取られないかもしれないが、去りゆく製造業を惜しんでばかりでなく、前向きに考えたい。まずは、きつくなくすることだ。今週、「選ばれる介護」で篤田記者がレポートしてくたように、介護リフトなどの導入で資本装備率を高めることが肝要である。
次いで、労働力のハイ&ローのミックスが必要だ。つきそいや掃除を資格職の業務から分離することである。今日の日経では生活保護受給者の就業を進めるとあるが、こうした業務を中間的就労として始めてはどうか。介護士を取って生保から脱出するというのは、定番コースであるだけに、制度間での協力が求められる。
………
今時の成長戦略は、「出て行く」という脅しに負けて法人減税を約束し、とっくに去りつつある製造業を引きとめようと躍起になっている。他方、社会保障を圧縮し、隠れた緊縮と消費増税を行い、雇用と内需を潰すのに嬉々としている。それもこれも、日本の景気は輸出次第というモデルに基づくものである。
現実には、震災からの生産回復が雇用と消費を増やし、ゆっくりと内需が広がりつつある。税と社会保険料の率が高い今は、内需の自律的回復は遅いものにならざるを得ない。税と社会保険料の自然増が財政を良好にする一方でブレーキになるからだ。そこに外需が減って踊り場になっていると見る。おそらく、外需の減少が一服すれば、また、緩やかに内需主導で伸びていくであろう。それは製造業をも潤そう。むろん、減額補正のような「逆噴射」をしなければであるが。
(今日の日経)
対中ビジネス減速、M&A7割減。社説・潜在待機児童。鉱工業生産8月1.3%減、7-9月マイナス成長も。生活保護の自治体の調査権限拡大。厚年基金廃止は2段階で。コメ4年ぶり豊作。大間、建設再開へ。カーシェア広がる使い道。待機児童2年連続減、なお高水準。
多くのエコノミストは、今日の日経が書くように、「日本は製造業の生産動向が景気の動きと一致する」というモデルを持っている。製造業は輸出に左右されるから、中国を気にして悲観的になり、回復は中国次第と考えがちになる。日本の輸出のGDP比は約15%で、対中国はその2割なのだから、気にし過ぎの感はあるが、影響があることに違いはない。
実は、日本経済が輸出次第になったのは、そんなに古いことではなく、1997年のハシモトデフレ以来の特徴である。非常に単純な構図なので、以来、筆者は景気を読み間違ったことがない。これは、輸出で景気が上向くと、すかさず緊縮財政に転じ、内需に景気を波及させないという異様な経済運営を取ってきたためである。
輸出比率が15%というところに表れるように、本来、日本は内需の国である。若手のエコノミストは、異様な経済運営の下の姿しか知らないから、日本の景気は輸出次第と思うのは無理もない。そして、それを延長して将来を考えようとする。筆者のような古手は、昔の頃を懐かしみつつ、モデルには転機もあることを思うわけである。
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8月の家計調査は、前月比の実質指数で見ると2.2%もの増加であり、おまけにエコカー減税で伸びている自動車購入費が含まれない「除く住居等」が3.0%増と、むしろ、高くなっている。6月、7月と悪かったので、悲観的な見方が広がっていたが、一気に取り戻してくれた。正直に言うと、7-9月期の消費をプラスにするために、もうひと伸びが欲しかったところではある。
この取り戻しぶりが後知恵でないことは、前回の家計調査の発表の後、9/2の本コラムで、「8月は一変する可能性もある」としたとおりだ。大きく上下した消費性向も、今月は並みに戻っている。さて、来月だが、指数が更に伸びるかは、期待はしているものの、まだ、これといった材料がない。また、7-9月期のプラス成長には、それなりにハードルが高くもある。
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消費を占うには雇用状況が重要なので、今回は、同日に公表された労働力調査も見てみよう。こちらは、完全失業率が4.2%と、前月より0.1ポイント低下し、まずは順調な結果だ。ただし、低下は、就業者の増ではなく、求職者の減によるもので、内容はあまり良くないとされる。こうした分析はセオリーである。
その要因だが、団塊世代が65歳以上となり、労働力市場から退出しているためと思われる。64歳以下の就業率がこのところ上昇していることからも、それは見て取れる。団塊は仕事を次の世代に譲りつつあるわけだ。むろん、消費への影響で言えば、就業者数の減は心配だが、あまり悲観してもいけない。団塊が65歳以上になってフルの年金を得るようになれば、それは消費にはプラスになる。消費は、雇用と年金が支える時代になっているのである。
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雇用の中身を見てみると、製造業の減が著しい。これが世の悲観の大きな理由だが、一方で、医療福祉の増は、製造業の減を補って余りある大きさだ。さらに、卸売小売が増加に転じ、サービスも前月に続き大きく伸ばした。内需関連は好調である。女性向きの職が増えているから、男性には実態以上に景気を厳しく感じさせているかもしれない。
医療福祉の仕事は、きつくて低賃金のイメージがあり、税や保険料の負担が増すという連想が働き、良く受け取られないかもしれないが、去りゆく製造業を惜しんでばかりでなく、前向きに考えたい。まずは、きつくなくすることだ。今週、「選ばれる介護」で篤田記者がレポートしてくたように、介護リフトなどの導入で資本装備率を高めることが肝要である。
次いで、労働力のハイ&ローのミックスが必要だ。つきそいや掃除を資格職の業務から分離することである。今日の日経では生活保護受給者の就業を進めるとあるが、こうした業務を中間的就労として始めてはどうか。介護士を取って生保から脱出するというのは、定番コースであるだけに、制度間での協力が求められる。
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今時の成長戦略は、「出て行く」という脅しに負けて法人減税を約束し、とっくに去りつつある製造業を引きとめようと躍起になっている。他方、社会保障を圧縮し、隠れた緊縮と消費増税を行い、雇用と内需を潰すのに嬉々としている。それもこれも、日本の景気は輸出次第というモデルに基づくものである。
現実には、震災からの生産回復が雇用と消費を増やし、ゆっくりと内需が広がりつつある。税と社会保険料の率が高い今は、内需の自律的回復は遅いものにならざるを得ない。税と社会保険料の自然増が財政を良好にする一方でブレーキになるからだ。そこに外需が減って踊り場になっていると見る。おそらく、外需の減少が一服すれば、また、緩やかに内需主導で伸びていくであろう。それは製造業をも潤そう。むろん、減額補正のような「逆噴射」をしなければであるが。
(今日の日経)
対中ビジネス減速、M&A7割減。社説・潜在待機児童。鉱工業生産8月1.3%減、7-9月マイナス成長も。生活保護の自治体の調査権限拡大。厚年基金廃止は2段階で。コメ4年ぶり豊作。大間、建設再開へ。カーシェア広がる使い道。待機児童2年連続減、なお高水準。