経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本経済の緊縮システム

2013年02月02日 | 経済
 2013年度予算を一言で評せば、「緊縮システムは頑として続ける」ということだろう。政権が交代しようと、日本の財政当局のやることに変わりはない。「緊縮システム」とは、前年度の補正後の予算額より、圧倒的に少ない当初予算を組んで、秋の補正などで何もしなければ、強力な財政デフレが作用するように仕込むことである。

 あわよくば財政を節約できるという仕込みは、財政当局には嬉しいかもしれないが、経済にとっては、たまったものではない。成長は、投資増と所得・消費増が相互に作用して、徐々に高まっていくものである。これを財政が邪魔をしてしまうと、いつまで経っても、成長が高まらなくなる。「緊縮システム」をやめない限り、日本のデフレ脱出は難しいだろう。

………
 補正後の2012年度予算は100.5兆円であり、2013年度予算は92.6兆円だから、何もしなければ約8兆円、GDP比で1.5%ものデフレ圧力がかかる。インフレでもないのに、日本の潜在成長率を軽く吹っ飛ばすような規模の緊縮財政をするなんて、常識的にあり得ない経済運営である。それがまったく不審に思われないところに、日本の不思議さがある。

 もちろん、復興予算は別立てであるとか、前年度補正が遅れたために2013年度内の執行額は例年より膨らむはずだとか、今年の秋も当然に補正があるだろうとか、そういった要素もあるから、先の比較は単純という見方もあろう。しかし、「緊縮システム」を意識した上で、各要素を勘案し、適切な需要管理に努めているとは、とても言えないはずだ。

 例えば、昨年、野田政権は、「緊縮システム」の下で、夏には景気の陰りが見えたのに、補正予算を追加できなかった。総選挙近しと思われていたのに、次第に緊縮色が強まる予算を、特に考えもなく組んでいたわけで、戦略的に愚かだったとしか言いようがあるまい。それで解散が決まれば、期待が反転するのは当然で、負けるべくしての惨敗だ。まあ、当事者は、「死んでもなお分かっていない」かもしれんが。

 民主党政権は、2010年にも同じことをしており、「緊縮システム」によって、リーマンショック対策が急速に抜け落ちた結果、デフレ色が強まり、円高を呼び込んでいる。当時、本コラムは、W杯サッカーに引っ掛け、「油断していると、逆転ゴールを決められるぞ」と予言していたが、そのとおりになってしまった。一度失敗しているのに、懲りずに繰り返すのだから、もはや喜劇の領域である。

………
 日本は巨額の財政赤字にあるのだから、節約を心がけて当初予算を組むこと自体は、間違ってはいない。問題なのは、経済が苦しくなってから、ようやく需要を戻してやる運営にある。苦しさが出て、成長への「期待」が壊れてしまったら、設備投資は止まってしまう。巡航速度を考えず、ブレーキとアクセルを繰り返す運営は、せっかくの財政出動をムダにしてしまう。

 それでは、どうすれば良いのか。例えば、最初から補正予算並みの予備費を積んでおいてはどうか。経済財政諮問会議が予算の執行状況と見通しを監視し、順次、予備費を解放していく。むろん、何に使うかで政治的に難しい調整になるのは百も承知だが、そうした荒療治だってあり得る。そこまでしなくても、景気の如何にかかわらず、秋には一定規模以上の補正予算を確約するくらいはしたい。

 「成長は、投資増と所得・消費増の相互作用から」と指摘したが、現在の日本は、それが働きにくい体質になっている。一つは税収がリーマン以来の復元過程にあって伸びやすいことと、社会保険料率の高まりで所得が吸い上げられがちになっていることだ。それだけに、税収をいつも過少に見積るのは大きな問題だ。知らずしらずのうちに、景気拡大の循環を堰き止めることになるからだ。

 財政当局は「2012年度当初予算の税収見込み42.3兆円から、2013年度年度の43.1兆円へ7500億円増える」と説明するが、これはまったく用をなさない。前年の2011年度決算額でも42.8兆円に達しており、2012年度決算額は、租税調から考えて、43.5兆円くらいにはなるはすだ。さらに、2013年度になると、政府見通しの名目2.7%成長で伸ばしただけで、44.7兆円にもなる。

 つまり、2012年当初と2013年度の実態との差は2.4兆円もある。消費税1%に匹敵する増収を見込むことさえできる。増収分で復興や企業減税に予定されている部分もあるが、これだけの大きさを認識して財政運営をしなければ、相当なデフレ圧力をかけることは明らかだ。もし、「不確実な増収を当て込んで予算を組むのが心配」というのなら、予備費の計上と両建てにすれば良い。

 また、社会保険料については、企業が人件費を増やすと、その1/4/以上が社会保障基金の懐に収まる状況になっている。むろん、増収になったからといって、保険給付を増やすわけにはいかないので、これがデフレ要因にならないよう、財政で「補う」必要がある。社会保険料の規模は58兆円もあって、堰き止め効果は税収以上だ。これを財政で補うことが、いかに大変か分かろう。

………
 日本経済は、経済対策をしても、なかなか効果が上がらないと言われる。小さい当初予算、税収の過少見積り、社会保障の収支状況の放置、こうした「緊縮システム」があるのだから、それも当然の帰結だ。アベノミクスのように経済対策を思い切ってやって、ようやく前年並みにしかならない現実がある。いつになったら、日本人は現実を直視できるようになるのだろう。「すべての不幸は、現実を見ようとしないために起こる」ものだとしても。

(今日の日経)
 電力事業別に免許制。NY株一時1万4000ドル。株高と金融緩和で5大銀の利益1.8兆円。ユーロ高が円安主導、欧州マネー回帰。シャープ薄氷。厚年基金は廃止が妥当。公務員給与削減は都知事応じず。加藤寛氏死去。安倍予算・苦肉の策で国債抑制・山田宏逸。ロシア経済減速、資源振るわず。規制庁幹部が漏洩。

※税収は見込みどおり上ブレだ。企業収益が国民に均霑するのと、円安が物価高に反映するのとどちらが早いかが問題。※株高の今こそ廃止の好機。※加藤先生にはお褒めの言葉をいただいたこともあるのでね、寂しいのう。※山田さん、こういう分析をもっと。

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アベノミクスと今後の日本経済 (KitaAlps)
2013-02-04 11:02:45
 おひさしぶりです。いつも拝見しています。

 アベノミクスには期待しているのですが、書いておられるように、喧伝されていることと違って実際は財政が緊縮的であるのであれば、ご指摘のように、効果は限定的である可能性があるように見えます。

 その影響は次のように理解しています。

1 国の歳出(補正を加えてみたもの)が前年度比で縮小するなら→「総需要は減少」

   つまり
   ◎ 政府歳出減少
    → 政府支出による需要は減少
    → 一方、替わりに民間需要が増加することはない
      → 総需要の減少

     現在のような長期の重い不況では、政府が使わなければ、その資金を使って、民
    間企業の設備投資や民間消費が伸びるかというと、まったく伸びない(経済学の標
    準的理解では、政府が支出を減らせば、替わりに民間の設備投資や民間消費が伸び
    ることになっていますが、これはヨーロッパの緊縮財政の結末(失業率は現在も増
    え続けている)などの事実によって否定されていると考えられます)。

     現在、設備投資が増えないのは、お金がないからではなくて(実際、企業は既に
    資金余剰状態にあるわけですから、お金はあるのに設備投資はしていないわけです)、
    企業が、需要が伸びないと判断しているために、企業は設備投資をしないからでし
    ょう。
     この結果、総需要は、単純に国の歳出減少分だけ縮小することになります。

1ーB 税収等の増加を国債発行の減額にまわしても、国の歳出が前年比で変わらないなら
   →「第一近似では景気に中立」

    つまり
    ◎ 国債発行が減少する
     → 代わりに民間需要が増加することはない(遊休資金が増えるだけ)
      → しかし、歳出総額が変わらないなら景気には中立

     現在は、民間の(使い道のない)遊休資金を国債発行で吸い上げて、政府が使い、
    直接需要を作っているわけですが、政府の歳出が減らないのなら、需要は変化しな
    いと考えられます。

1-C しかし、より具体的には、税収(や社会保険料)増があると →「総需要は減少」

    つまり
    ◎ 税収等増
     → 家計などが消費に使う予定だった資金も強制的に吸い上げられる
      → (それは民間消費等に中立的ではあり得ず)
       → 民間需要は減少  → 総需要は減少

     → したがって、その民間需要の減少分だけは政府は支出増を行う必要がある。

2 (金融緩和に対する期待が大きいですが)国債発行が減少するとマネーストックが伸び
  ない → 金融緩和の効果は内需に関しては小さくなる

    つまり
    過去に量的緩和や金融緩和が効果を示したとされている事例のうち

   ◎ 大恐慌については、リチャード・クー氏が、増えたマネーストックは、ほとんど
    が政府の財政出動増加のための国債発行に費やされていることを明らかにしています。

     これについては、服部茂幸2007『貨幣と銀行』日本経済評論社 でも分析され、
    指摘されています。

     この状況をグラフで示したのが次の頁の図1と図2です。
http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.jp/2011/01/blog-post_14.html

   ◎ また、岩田規久男先生らが、量的緩和政策の効果だとする日本の昭和恐慌時の
    高橋蔵相期の景気回復でも、同じように、銀行の民間貸出も社債投入もほとんど増
    えておらず、増えているのは国債投資(国債保有)だけです。つまり、金融緩和は
    民間設備投資や消費を刺激する効果はなかったと思われます。

     これは、金融緩和は、財政出動とセットで連動して行われなければ効果がないの
    ではないかと思わせます。(財政出動が行われることで、民間へ資金が流れていく)

   ◎ 実際、日本の九〇年代末のゼロ金利政策とそれに続く量的緩和政策では、財政出
    動が行われませんでしたから、金融緩和政策に内需を刺激する効果はありませんで
    した。また、わずかに増加したマネーストックも、その増加を規定していたのは、
    やはり政府の国債発行の動向だったことが当時のデータでわかります。

   ◎ つまり、アベノミクスで、残念ながら政府財政が緊縮的であるのであれば、「大
    胆な金融緩和」の効果もほとんど期待できないと考えられます。


3 しかし、金融緩和による為替レート円安の経路は機能すると考えられます。ただし、
 現在の世界情勢では、その効果は限定的だと考えられます。

   ◎ 金融緩和で自国通貨安となり、輸出の増加で総需要が増加して景気が回復する
    という経路の効果は、広く実証的に確認されています。
     これは、金融緩和で自国の金利が下がって他国の金利との間に内外金利差が生じ
    ると、高金利を求めて海外に資金が流出し、その際の自国通貨売りドル買いで自国
    通貨安が実現し、それが輸出に結びつくわけです。

   ◎ ただし、世界全体が不況という現在の世界同時不況や、過去の三〇年代の世界
    大恐慌では、世界全体が金融緩和でほぼゼロ金利になっていますから、内外金利差
    は、自国がどれだけ金融緩和しても、ほとんど生じません。このため、効果には限
    度があります。ただ、将来もずっと金利が低いままだと市場が判断し、一方、例え
    ば米国が景気回復して金利が上昇すると信ずれば、資金は米国等に流出し自国通貨
    安が生じます。

   ◎ なお、現在円安が進行していますが、これは、これまでユーロ危機などを背景に、
    資金を安定する円に替える動きで(日本の経済の実力以上に)円が買われて生じて
    いた円高の修正局面です。
     企業がこれにだまされて、設備投資を増やしてくれれば景気は回復するのですが、
    これまでの経験から、企業はかなり慎重なはずです。現実に輸出が伸びて、供給力
    が不足することがわかる段階にならないと設備投資は始めないのではないかと思い
    ます(これは、小泉政権期の円安での輸出増加時にも見られました)。現状は、供
    給能力は過剰ですから、当面の輸出増加は、稼働率上昇だけで対応できます。
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