経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

金利上昇の前に起こるリスク

2013年04月14日 | 経済
 今週の日経で一番の記事は、小栗太さんの「実体なきザ・セイホ」(電子版4/12)だった。その内容は、生保の外債投資は要因になっておらず、異次元緩和後の円安はヘッジファンドの投機であるとするものだ。これは、4/10の「生保マネー、円安後押し 異次元緩和で外債シフトへ」という本紙の記事と矛盾するようだったので、一層、印象深かった。こういう深堀りこそ、編集委員の仕事ですな。

 本紙の記事も、よく読めば、生保そのものが買っているのではなく、それを見越したヘッジファンドの「先回り」の動きだと分かるのだが、いずれにせよ、筆者は、金融緩和による円キャリーが始まり、円安を呼んでいるのだろうと思っていたから、「為替差益狙いの投機」とする小栗さんの指摘は新鮮だった。要するに、利益確定売りによって、円高へと巻き戻るおそれが十分にあるということだ。

 さて、アベノミクスの成果は円安と株高である。円安が戻れば、当然、輸出企業の業績悪化を嫌気して、株高も崩れる。これに加えて、今回の株高は外国人の買いによるものだから、彼らが日本経済の先行きをどう見るかも、先行きを考える上で極めて重要だ。その観点では、足元の為替の動きとともに、もう少し先にもリスクが隠れているように思う。それは、今週の日経ビジネスにある「浮上する消費増税先送り」と密接に関わっている。

………
 円安が戻るかどうかは、ファンドがいつ利益確定に出るかによる。そして、株高の終わりも、来年4月に消費増税が予定され、成長率がゼロ%台に墜落することが目に見えているのだから、その前に訪れるだろう。常識的には、増税の最終判断が行われる10月の時点と思うかもしれないが、これを先読みして動くのがマーケットである。判断の基礎になる4-6月期GDPを占う5月の統計指標が判明する6月末頃には、早くも動きが出るかもしれない。

 新聞各紙は、異次元緩和について、並行して財政再建も進め、財政ファイナンスへの不安から金利上昇が起こらないようにすべきだと心配している。消費増税先送りは、金融緩和を無に帰すというのだが、消費増税の決定は、成長への不安を確定させ、株高を壊す可能性がある。各紙は、先走りしすぎて、当面の問題が見えていない。

 日経ビジネスは、「首相に近いリフレ派や幹部が消費増税の凍結や先送りを口にし始めている」とする。参院選前にも異変が起こりかねないのだから、それは当然とも言える。浜田宏一先生が4/9のロイターで「1年送り」の発言をしたのにも意味があろう。その一方、「消費増税を予定通り実施できなければ、日本売りが始まると財務省は危機感を募らせている」らしいから、状況をまったく分かっていないようだ。

 EUのソブリン危機の教訓は、債務比率の大きさやブライマリーバランスにあるのではなく、当該国の成長率にあるというものだった。税率を引き上げたところで、成長率を墜落させれば、信認は損なわれる。どれだけ借金を背負えるかは、大きさより、収入と成長性にあるのは、企業と同じである。そもそも、成長率を墜落させるような増税の計画自体が稚拙なのであって、成長と税収の両立を図るのが本来の経済運営である。

 今の株高を支えているのは外国人である。自分のお金を賭けている人たちには、「増税しても景気に影響はありません」という日本の財政当局の見解など、何の役にも立たない。リスクがあると思えば、退くだけのことだ。今年半ばには、住宅の駆け込み需要と経済対策の峠も見えてくる。景気推進の材料が出尽くせば、利益確定の好機となってくる。

………
 今週は、梅田雅信先生の「超金融緩和のジレンマ」を読ませてもらった。先週は、史料的な価値のない本を紹介してしまったが、こちらは、筆者好みの、事実関係がぎっしり詰まったものであり、説得力に富んでいる。リフレ派も、日銀出身だからと食わず嫌いをせず、読んでもらいたいものだ。むろん、若手にはお勧めで、時系列データを扱う際には、背景の事実関係の理解が必須であることがよく分かると思う。

 筆者の興味を引いたのは、物価の分析のところで、下落の主な要因は、耐久消費財価格とサービス価格にあること、賃金の低下は、製造業が維持が精一杯の中で、それに引きずられるサービス業の「生産性格差デフレ」にあるというものだ。筆者のデフレ理解は、景気が良くなりかけると緊縮財政に戻ってブレーキをかける、需要管理政策の失敗にあると見ているので、それと整合的である。

 梅田先生は、国債と金融政策の章で、せっかく、SNAベースの財政収支に言及されているのだから、必ずしも拡張的に推移していないことを見ていただきたかった。また、財政の持続可能性について、政府のペーパーを基にすると、税の自然増収を過小評価することになる。金利が上昇すれば、利子課税で税収が増えもする。税収の過小評価は、長期金利の安定のためには、財政再建が必要という考え方に結びきがちなので要注意である。

 オールド・ケインジアンの筆者にとって、「ヒモで押せない」ことは理解できるのだが、デフレ脱却に対する金融政策の無効性を訴える「日銀理論」の最大の問題は、「それなら、どうすれば良いのか」にある。ここで財政再建による長期金利の安定まで訴えると、為すべき政策は、実体不明の構造改革や規制緩和だけになってしまう。長期金利の安定は、成長を阻害しない範囲内の増税はどれくらいかに、論点を転化させなければならない。

………
 日本の財政当局の好きにさせると、消費増税に加えて、経済対策の終了による緊縮財政、年金などの社会保障の削減のトリプルパンチを日本経済に見舞いかねない。KitaAlpsさんのコメントとHPの論考を見て、駆け込み対策の用意では、とても乗り切れないとの意を深くした。やはり、3%アップは荷が重過ぎる。果たして、安倍政権は、株価が崩れる前に決断できるのか、それとも、選挙前に崩れてから慌ててやめるのか。やめるにしても、自然増収で補えることを示す必要もある。アベノミクスのリスクを、今から読める知恵者は政権内にいるのだろうか。

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2 コメント

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認識が浅過ぎです (kafcha)
2013-04-15 08:49:26
貴殿の心配に対抗することの考えを持ったブレーンは現政権に大勢おります。それよりも、このように経済記事なのか感想文なのかわかりませんが、稚拙なブログを掲載するのはいかがなものでしょう。少なからず大衆の目に触れるような論説を記述されるのであればもう少し勉強が必要です。貴殿の経済認識は浅過ぎです。
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Unknown (toshibo)
2013-04-15 14:41:25
>貴殿の心配に対抗することの考えを持った
あなたは人の事をどうこう言う前にWordで入力したら波線を引かれまくるであろう不自由な日本語をまず人並みに扱えるようになるべきです。
どうせ安倍信者のネトウヨなのだろうから馬の耳に念仏なのだろうけれど余りに見苦しいので。
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