経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費増税をするとどうなるか

2013年09月01日 | 経済
 世の中の消費増税の悪影響に対する認識は甘いのではないかと思う。かく言う筆者も1997年までは、そうだった。今日は、消費増税後に何が起こったのか、思い出話とともに、数字をたどってみたい。若干、「オタク」向けかもしれないが、1997年の消費増税の経験は、その是非だけで済ますには、もったいないものである。

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 結論から先に言うと、駆け込みと反動減を潜ると、消費増税の悪影響は、それで抜けたような気になるのだが、実は、そこからが悪影響の本番である。増税による実質的な所得削減の効果が長く消費を低迷させる。これは、増税→消費減→生産減→所得減→消費減という、経済全体への波及が起こるからである。

 ここで、余裕のある方は、ニッセイ研の斎藤太郎さんの「2013~2015年度経済見通し」(8/13)の中にある「消費税率1%引き上げの影響」というマクロモデルの分析も見ていただきたい。注目してほしいのは、増税2年目の影響もかなり大きいという点だ。言われてみれば、そうなのだが、改めて感じ入った次第だ。

 そこで、こういう観点から1997年を眺めることにする。今回は、ちょっと趣向を変え、平成17年基準のGDP確報(実質連鎖)を基に、後方4四半期移動平均を作り、前期比の寄与度で見る形にした。当期のショックと全体への影響度を見やすくするためである。専門的には前年同期比にも言及すべきかもしれないが、記述が煩雑になるのでね。

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 まず、民間消費だ。1996年は0.5、0.3、0.3、0.3と推移した。安定的に成長していたことがうかがえる。明らかな駆け込みが見られたのは、1997年の1-3月期で、0.6へと急伸し、増税のあった4-6月期は0.0となって、反動減が出た。当時は、浅はかにも、これで終わったと期待したのであった。先の数字も、均せばトレンドの0.3になることが分かるだろう。

 問題は、次の7-9月期だ。これが0.1だった。消費増税「無罪派」は、これをもって、消費は回復したとするが、0.3程度のトレンドが0.1に落ちているのだから、強弁に聞こえる。今日の日経で、伊藤隆敏先生は「7-9月期はプラス、反論するなら数字で根拠を示せ」と言うが、胸を張れる数字とは思えない。当時、異変を感じたのは、夏頃だったと記憶する。

 在庫の側から見てみると、駆け込みのあった1997年1-3月期は-0.1、増税の4-6月期は0.0なので、変動期に在庫調整に失敗したわけではない。そして、問題の7-9月期には0.2と急増した。消費と裏腹の結果である。いわば、反動減の後は戻るだろうと生産し、給料を払っていたにもかかわらず、消費増税で実質的に所得を抜かれ、売れなくなった形である。

 筆者は、1997年の実相を知るのに、鈴木淑夫先生が時代並行で書いた「月例景気見通し」を読むことを勧めている。在庫が膨らみ、生産調整が始まり、所得と雇用が悪化していく様子が手に取るように分る。そうした状況をGDPの数字で示したのが前述になる。その後、消費は、1997年10-12月期に-0.1、1998年1-3月期は、前年の駆け込みの裏でもあって、-0.5と大きく落ち、続いて、0.0、0.0、0.1と低迷する。ようやく在庫増がやむのは、1998年の4-6月期になってからだった。

 住宅投資も見ておこう。1996年から増税前までは、0.0、0.1、0.2、0.2、0.1であったものが、1997年4-6月期から、-0.1、-0.3、-0.3、-0.3、-0.2となり、マイナスが止まるのは、そこから1年後の1999年4-6月期である。駆け込みと反動減というには余りに大きく、増税から始まる所得減や雇用減の悪影響としか言いようがなかろう。

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 次に、設備投資を見てみよう。1996年は、0.0、0.0、0.1、0.1と推移し、1997年になって、0.4、0.3、0.2、0.2と伸び、むしろ、増税のショックを補うような形になっている。その背景には、1997年内の輸出の好調さがあったと思われる。それが1998年になると、0.0、-0.1、-0.2、-0.4となって最悪期へと至り、その後はマイナス幅が縮小していく。

 確かに、設備投資には、大型金融破綻やアジア通貨危機の影響があったのかもしれない。しかし、消費や住宅に比べると、悪化の時期が後ろにズレていることが分る。もし、金融破綻や通貨危機が消費や住宅の悪化の原因だとしたら、設備投資に先行して悪影響が出ていたという不自然な話になる。

 当時、金融破綻が一気に消費を冷やしたということが言われたが、筆者は違和感を覚えていた。金融悪化が企業行動を飛ばして、直接、消費に表れるとするのが解せなかったからである。「マインド」では何でも説明できてしまう。拓銀の破綻で最もマインドが悪化したはずの北海道を家計調査で調べたりしたが、1998年は全国で消費が減る中で、むしろ消費が増えているといった具合だった。

 人間は同時に起こった事に因果関係があると思い込みやすい。春の消費増税により、秋冬に消費や住宅の悪化が深まった事象について、秋冬に生起した金融破綻と通貨危機を安易に結びつけたのではないかと考えられる。それが、今に至る「消費増税でなく、金融破綻が主犯」の源流であろう。ちなみに、外需(純輸出)は1997年から1998年にかけ、消費低迷による輸入減もあって、一貫してプラス寄与であった。

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 改めて、1996年から1998年までの民需の動きを眺めてみよう。1996年は、0.6、0.7、0.6、0.8と好調であった。アベノミクスの今よりも強いと言って良い。それが1997年には1.0、0.2、0.3、-0.1まで落ちていく。後尾の10-12月期のとき、設備投資はまだ0.0の寄与だった。金融破綻がなくとも、ゼロ成長への墜落はあったと見るべきだろう。

 最近の民間調査機関の来年度の経済見通しも、外需の寄与を除いてみると、概ね同様の見方になっている。ここで注意しておきたいのは、成長率をかさ上げしている外需の寄与には、駆け込み需要の反動で輸入が急減することによるプラスも含まれていることだ。これが本質的な成長と無縁なことは言うまでもない。

 もちろん、前回の消費増税の際とは異なって、金融破綻まではないだろうから、1998年に民需が-0.5、-0.4、-0.6、-0.7となったような、更なる悪化は避けられるかもしれない。それでも、ゼロ成長に落ちるだけで、日本経済には大きな打撃になる。数字を見るにつけ、「金融が健全だから大丈夫」とは、筆者には、とても思えないところだ。

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 1997年当時、見誤ったのは、駆け込みの反動減に続く、長い消費低迷である。株価は、緊縮財政が決まった1996年末から大きく下落し、これは、ある意味で当然のことだったが、意外にも、年度が変わると持ち直しに転じた。目の前に反動減はあっても、この程度ならば回復へと移るだろうという期待があったように思う。実際には、反動減の後に本格的な低迷が来て、株価も崩れてしまう。

 1998年の経済白書は、反動減が予想以上に大きかったとしたが、実態は、反動減では言い繕えないほどのもので、大規模な所得削減の悪影響が現出したと見るべきであろう。当時の経済企画庁は、金融破綻後にもかかわらず、1998年1月に、実質2.0%成長の経済見通しを出したりと、まったく事態の深刻さを分っていなかった。その点、今回の政府の経済見通しは、かなりまともなので、外需のかさ上げを意識しつつ、真に意味するところを引き出したいものである。 

 増税から消費の低迷まではタイムラグがあるため、今度も、たまたまその間に起こったことが、再び「主犯」とされるかもしれない。もっとも、今度は、金融破綻の代わりに、1年半後の消費増税第二弾が打撃を与える手はずになっているから、そうなると、第一弾の消費増税は「無罪」で、第二弾の消費増税は「有罪」という判決が下るのであろうか。

※KitaAlpsさんの論考(2013.4.3)も併せて参考にしてみてください。

(今日の日経)
 次世代電力計を全国共通に。「予定通り増税7割」・検討会議。米国の貸し借りの政治・吉野直也。シリア攻撃、誤算の連鎖。消費増税どう実行・伊藤隆敏・浜田宏一。リーマン救済に英が待った。堀辰雄・いざ生きめやも。読書・LEAN IN。

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