経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

情報操作と日経の読み方

2011年12月05日 | 経済
 情報操作の手法の一つに、議論の枠組みを作ってしまうというものがある。今日の日経の「国債44兆円以下綱渡り」というのが典型である。日本の財政当局は、自分たちに都合の良い議論の「土俵」作ることで、有利に運ぼうとしている。年末の恒例行事が始まったというところだ。

 日本の財政当局が掲げる「政策経費71兆円、新規国債発行44兆円」という枠組みは、2010年度、2011年度と続けられており、来年の2012年度予算でも、それを守ろうというものだ。財政再建の観点から、経費を抑え、国債を増やさないというのは、真っ当なものに見えるが、一本補助線を引くと、不自然なことが分かる。

 それは税収だ。2010年度には、リーマン・ショックからの回復によって、決算ベースで2.8兆円の税収増があった。2011年度は、四次補正に関する日経の報道によれば、1兆円を超える上ブレがあるとされる。震災や円高で、上場企業は前年度より1割の減益になると予想される中での税収増なのだから、「驚く」べきことだ。そして、2012年度は、震災からの復興によって、2.0%程度の成長が見込まれており、そうであれば、税収も2兆円の増収は期待できるだろう。

 支出である政策経費が71兆円で変わらない一方、収入である税収が3年間で5.8兆円も増えるのに、収入を補う借金の国債発行額44兆円が減らないなんて、おかしいとは思わんかね? このカラクリは、埋蔵金という税外収入のヤリ繰りと、税収の過少見積りによる隠匿でなされている。財政当局の真の狙いは、表向きの枠組みを守ることにはなく、税収増を見えなくして、消費増税の機運を保つことである。

 記者は、毎日が忙しくて、税収の状況を見たり考えたりする余裕がない。財政当局から与えられるエサ資料だけで記事を書くと、まんまと情報操作にはまってしまう。財政当局が上手いのは、「枠組みを守るのに苦しんでいる」といった風を装って、自らにマイナスの情報であるように見せかけていることだ。「財政当局はしっかりしろ」というような「批判」でも書いてもらえると、逆に、ありがたいのだろう。

 むしろ、記事の中で興味を引いたのは、尻尾に、「四次補正に農業対策費を潜り込ませ、44兆円枠を堅守する」という「仕掛け」を書いていることだ。こういう「仕掛け」は、普通は表にしないものである。これは、記者による穿った分析ではなかろう。財政当局の情報操作の一環と見るべきではないか。

 ここからは想像になるが、四次補正で農業対策というのが唐突だったことを踏まえると、TPPの調整の過程で、これが取引材料にされたのではないか。当然、財政当局は、それに不快感を持っているので、「仕掛け」を表に出し、意趣返しをしようというのだろう。筆者が記者なら、この辺りを徹底して取材してみる。スクープというのは、こういう嗅覚を使って見つけるものなんだがね。

 日経は「日経の読み方・ニュース解剖」を始めたが、もっと深い読み方もあるということである。情報はタダではない。提供者がどのような意図を持って出してきたのかを考えながら読むことをお勧めする。それで、このコラムの意図は何かだって? それは基本内容に書いたとおり。趣味とは言え、ホント割に合わんよ。

(今日の日経)
 デフレ経済、実感とズレ。設備投資は国内17.1%増、製造業は減・今年度本紙調査。企業力・セイコーマートという販路、富裕層向け保育所。社説・新興国は景気の減速をしのげるか。公明・年金減額は慎重に。国債44兆円以下綱渡り、歳出圧力収まらず。パートの厚生年金加入拡大に激変緩和を検討。日銀が連鎖式CPI採用。インドネシア中銀・ダルミン総裁。起業後すぐアジア進出。シンガポール高成長のわけ・佐藤大和。経済教室・開発経済学深化の原動力・澤田康幸。社会保障のシンクタンク。経済学の論文ゼロ過半数。

※景気悪化は不動産や趣味性の高いものから始まり、食品のような必需品はインフレが抜けがたい。これが経済運営にとっては厄介だ。中国は典型だが、日本でも類することは見られるわけだ。※設備投資は健闘している。非製造業がこれほどとはね。消費税が増収になっているのも分かる。※セイコもユニクロのような製造小売りなのかも。※少しずつやるのが正解。業界向けには、130万円の壁を下げるべく、長時間パートの保険料を軽減する手もある。※カジノで成長したいとは思わんな。※澤田先生、良い仕事です。

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