経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

不公平とパイの分け方

2011年12月04日 | 経済
 この数年、「世代間の不公平」が喧しくなった理由を改めて考えてみると、やはり、成長率の低下があるのだと思う。別段、負担と給付に関係の深い、長寿化に変化があったわけでもなく、少子化と言えば、わずかながら改善しているからだ。社会保障の問題のように見えて、経済運営の問題なのである。

 高齢者への社会保障給付は、2009年度に2.5兆円増えた。もし、日本経済が2.1%成長をするなら、GDPは11.3兆円ほど増えるから、給付増はその22%に当たる。高齢者の人口割合は23%(2009年)ほどであり、人口比に従って増加分の「パイ」を分けると考えれば、それほど「不公平」な感じはしない。

 もちろん、経済成長が0.5%しかなければ、「パイ」のすべてを高齢者に持っていくことになるから、これは「不公平」だということになろう。痛みを分かち合おうというのも理解できる。こうしてみると、世代間の「不公平」論は、経済が成長しないことへの不満の矛先を、世代や社会保障に向けさせるものであることが分かる。

 先ほど、「2.1%成長をするなら」と書いたが、これは、2003年度以降の平均値である。ただし、リーマン・ショックの2年間は除いたものだ。つまり、平時なら、日本は、これだけの成長ができるということだ。成長を果たした年においても、稚拙な緊縮財政で内需を阻害していたから、そんなことをしていなければ、もっと成長率は高かったろう。

 例えば、2010年度は、マイナス14兆円の度外れたデフレ財政が試みられたにも関わらず、外需が好調だったこともあって、2.4%成長を達成した。さすがに、年度後半は、マイナス成長に沈んだが、内需寄与度は1.5%もあり、財政当局のイジメが軽ければ、4%近いV字回復もあり得ただろう。外需の好調時に、隠れて緊縮をし、潜在力を潰すのが、日本の財政当局の得意技である。世代間の損得の勘定より、財政運営の監視の方が遥かに重要だ。

 今週の日経ビジネスの特集の「長寿がひらく未来」では、長野県泰阜村という山村が登場するのだが、高齢化のピークは過ぎて、高齢者の数が減り始めたという。実は、全国でも、高齢者数の急増は、あと3年ほどであり、その後は増加が鈍り、安定し始める。高齢者給付の人口要因による大幅な増加は、まもなく終わるということだ。そうなれば、「パイ」の配分の問題は、更に薄らいでいくだろう。

 むろん、医療・介護に費用がかかる75歳以上の後期高齢者の急増は続くが、年金給付の50兆円に対して、医療給付は1/5、介護給付は1/7である。大半を占める年金給付は、成長して物価が上昇すれば、毎年0.9%の削減がかかることになっている。こういう観点からも、成長というのは大切なのである。

 筆者は、世代間の公平について、国内で消化されていて、家計や企業の貯蓄と裏表の関係になっている政府債務の大きさが、なぜ問題にされて、日本を世界一の債権国にしたことが、なぜ評価されないのかという疑問を持つ。世代ごとの政府との間の負担と給付の多寡より、各世代が経済から得た総消費量や残した総投資量を比較することが良いようにも思う。

 まあ、それは置くとして、世代間の不公平の観点から、負担増や増税を求める人とて、成長を犠牲にしてでも、それを行うことに合理性がないという点では、一致できるのではないか。やはり、パイの分け方より、パイを大きくすることが重要であり、より広い視野から負担増や増税を考えることが必要ではないだろうか。

(今日の日経)
 第一生命が保育所事業、30か所2500人。社説・介護保険は給付抑制と効率化に切り込め。中外・ピンクカラーの殻を破れ・岩田三代。けいざい読解・円キャリからドルキャリへ、米ゼロ金利で構図逆転・清水功哉。政府広報・消費税。品質守る5000人のオタク。地球回覧・ドイツは果実を実感・菅野幹雄。読書・日本政治は立ち直るか・芹沢洋一、北緯10度線、資源食糧エネが変える世界。

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