経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

人間に絶滅する自由はあるのか

2014年06月15日 | 社会保障
 今の若い人たちはどうか知らないが、筆者が若い頃は、「人間には自殺する自由があるのか」なんてことを哲学したものである。「他人に迷惑をかけない限り、生きるも死ぬも本人の勝手」という主張を理屈で覆すのは、なかなか難しい。小塩隆士先生の新著『持続可能な社会保障へ』を読みつつ、思い起こしたのは、そんな昔のことだった。

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 新著の内容は、現行の社会保障制度は、世代間の不公平が大きく、規模を縮小する必要があるとするもの。とは言え、具体策は穏当で、①公的年金控除の廃止、②年金のマクロ経済スライドの徹底実施、③年金支給開始年齢の引き上げ、④被用者保険の適用拡大、⑤基礎年金財源への税負担増、⑥子どもの貧困の解消となっている。これらには、筆者も、③を除いて、基本的に賛成だし、制度設計も示している。(基本内容を参照)

 特徴的なのは、具体策の中に、この手の議論では定番の「少子化対策」が入っていないことだろう。それもそのはずで、小塩先生は、「子育て支援への過剰な期待は禁物であり、社会保障改革を遅らせる危険性すら持っている」という評価である。そして、「人口が減少し、少子高齢化が進んでも維持できるように、社会保障制度を見直すというのが政策論の本来の在り方」とするからだ。

 筆者の考え方は、これに真っ向から対立する。少子化は、それを起こした集団をいずれ絶滅させてしまうから、必ず克服しなければならないとする。これは、「命をつなぐことには意味があり、人間が存在するのは、そうしてきたから」という価値観が基になっている。端的に言えば、絶滅に耐える制度づくりより、絶滅の回避を優先すべきということだ。むろん、絶滅の選択も自由とする立場には、この理屈は通じない。

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 果たして、少子化が自由な意思の結果かについては、大いに疑問がある。これは皮肉なことに、どんなに少子化が進んでも維持できる制度を設計してみると分かる。その制度設計は、非常識ではあるが、原理的には簡単だ。少子化に責任のある人、すなわち、子供を持たない人には、社会保障給付を行わなければ良いだけだからだ。

 今や40代となった団塊ジュニア世代は、子世代を自分たちの7割しか残さない極端な少子化を起こした。社会保障は世代間の扶助なので、親世代の年金のために10割の負担をしたとしても、減らした子世代から7割の年金しかもらえないのは、当然ではないか。これに何の不公平があろう。

 この場合、負担と同じ給付を受けたければ、子世代を残さなかった3割の「同世代」を切り捨てれば済む。おそらく、今は幼い子世代が大人になったときには、「育ててくれた親の面倒は見るが、子供はいらないという選択をした人は、自分の面倒は自分で見てください、子育ての負担がなかったのだから、貯金する余裕だってあったでしょう」と言われるだろう。

 小塩先生は、多数派の高齢者が社会保障を牛耳る「シルバー民主主義」を心配しておられるが、そうはならないだろう。起こるのは、それによる社会保障の破綻ではなくて、子供のない人の社会保障からの排除である。小塩先生が必要とする社会保障の規模縮小は、このようにしてなされる公算が高い。

 もし、こうした事態が前もって分かっていたとしたら、それでも子供を持たないという選択をしただろうか。「子供を持とうが持つまいが平等に給付を受けられる」という甘い見通しが安易な選択をさせた懸念がある。つまり、自由な意志で少子化を選んだわけではなく、本質を示さない世代間の不公平論に惑わされ、子育て支援の不備に流されたがために至っただけの悲劇になるのではないか。

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 筆者は、十年前には、「団塊ジュニア世代が適齢期のうちに少子化の克服を」と訴えていたが、もはや、そのチャンスは過ぎ去った。それでも、これから少子化を克服しさえすれば、命が永続することで、団塊ジュニア世代が出した「損」を、多世代で分かち合うことも可能となる。まだ希望が完全に潰えたわけではない。

 社会保障の危機は、実のところ、少子化が起こったからではなく、原理的に支えることができない「子供がない人」にも惰性で給付を与え続けていることにある。そのために、積立金や税負担を投入して「二重の負担」を行い、世代間の不公平なる「損」を出し続けているのだ。それが小塩先生の言うところの「本当に困っている人」に、十分に財源が回らない理由の一つでもある。

 「死にたい」と呻く人には、論理的ではなくとも、「死んで花実が咲くものか」と説得するにしくはない。本当は、死を好んでいるのではなく、苦しさから逃れたいという理由がほとんどである。少子化も、支援策を整え、大変さを軽減すれば克服できると、筆者は信じている。少なくとも、そう信じて戦うだけの価値はある。

(今日の日経)
 外国人持ち株比率が上昇、30%程度に。トヨタや日立が最高。社説・法人減税に続き歳出削減にも取り組め。 

※外国人のために、法人減税と消費増税をしているような気がして来るよ。景気の底入れで、法人減税の方針が決まる前から、今年度の設備投資の見通しは高まっていた。更にしないといけないのかね。

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