経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費増税への国民の理解

2011年11月21日 | 経済
 今日の日経の「核心」が、芹沢洋一論説委員長の筆とあらば、コメントせねばなるまいな。芹沢さんは政治部出身だから、「逃げずひるまずブレず」に消費税というのは、良く分かる。だから、日本はダメなんだな。増税というのは、政治ではなく経済の問題なのだがね。

 芹沢さんは、今の消費税論議は、社会保障と関連づけ、有権者の理解を得ようとしているのがミソとして、かつて消費税で総選挙に敗れた大平首相の弁を引く。「福祉でなく、大蔵省のいうように赤字の穴埋めに使おうとしたから、国民はダメだと言ったんだよ」。そして、当時の官房副長官だった加藤紘一代議士に「増税はひるんではいけない」と語らせる。

 大平首相が、党内の反発のために消費増税を途中で断念せずに総選挙に臨んでいたら、負けなかったかも知れないというのは、戦後政治史で、よく語られる「伝説」である。増税そのものより、ブレるのが良くないというのが「教訓」だ。果たして、国民は、そんなことでダメを出したのだろうか。

 総選挙のあった1979年は、第二次オイルショックの年だった。日本経済は、最初のオイルショク後の不況から癒えておらず、ジリジリと悪くなるのを、大規模な財政出動で支えている状況だった。選挙の秋までに、インフレ予防のため、強力な金融引き締めが行われ、景気の失速は目に見えていた。そこに増税では、国民の理解を得られるはずがない。

 大平首相の増税策は、前の福田首相の大規模な財政出動の反動でもある。実は、福田が財政赤字という犠牲を払い、何とか日本経済を持ち上げていたことが、第二次オイルショックを軽症で済ませる要因ともなった。諸外国のダメージは日本以上に大きく、福田政権での余熱が引き締めを可能にしていた側面もあるのである。

 日本の財政当局や有識者は、増税に関して、こうした経済的な問題を視野の外に置いている。あたかも、政治が決断し、国民に理解させれば、実現できるかのようだ。現実には、経済的に苦しければ、国民はダメ出しするという、それだけのことである。景気が上向きの1996年に、橋本首相は、消費税を抱えても総選挙に勝ち、その後、消費税に悪乗りした無謀な緊縮財政を敷いて経済を壊し、1998年の参院選で惨敗するのである。

 今日の日経では、「年金債発行へ、消費増税で償還」という見出しが躍っている。「借金」をして、年金積立金という「貯金」をしようという奇妙な経済政策は、11/13に解説したように、年金を人質にとって無理にも消費増税を果たそうとするものだ。財政当局の戦略がいよいよ動き出した。これから、欧州に端を発する経済危機が深まる中で、どこまで国民が理解してくれるか、見物である。

 野田首相は、財政当局のシナリオに乗り、2015年までに10%にしたいようだが、再来年の2013年度の経済見通しは、10/18で説明したように、1.4%成長といったところだ。これでは、1%の増税ですら厳しい。残り2年で10%まで上げるのは、奇跡に類する話だろう。芹沢さんには、こんな経済状況で、どうすれば増税できるのか聞いてみたい。これで無理押しすれば、芹沢さんが言う「政治ドラマ」が勃発するのは確かであるが。

 日本の財政当局は、「どうせ日本は成長しないのだから、景気がどうだろうと増税する」という敗北主義である。教科書に答えがなければ、いとも簡単にあきらめるエリートの甘えを、国民が許すはずがない。「日本のリーダーなら、成長の答えを見つけて来い。大事をあきめて、増税など出来ようか」。それが国民の理解というものであろう。

(今日の日経)
 海外出店数が国内を逆転、小売・外食で加速。年金債発行へ、消費増税で償還。前原氏、年金法案を13年提出。エコノ・配当金の国内還流最高ペース。核心・大平首相「増税」の教訓・芹沢洋一。欧州企業の縮小相次ぐ。冬ボーナス4年ぶり増。景気指標・日本のエンゲル係数なぜ高い・太田泰彦。経済教室・値上げより数量調整・阿倍修人・森口千晶。科研費の年度越え使用を。

※需要のあるところに設備投資するのは当然だが。※13年は総選挙後だよ。※ボーナスで消費を押し上げてほしいね。※年金生活者が多い社会で食料価格が高いのは問題。※仕分けより、会計制度の改善が必要だ。

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1 コメント

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年金債 (通行人)
2011-11-21 19:38:05
これは国債発行44兆円に上乗せするのですね。地獄への一歩と思います。先生のご見解は?
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