経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の教え

アベノミクス・惨敗のマイナス成長へ

2014年10月05日 | 経済(主なもの)
 9/30に公表された8月の経済指標の結果は、経済運営の担当者にとって、血の気が引くような内容だったろう。同じ日、安倍首相は、「経済の好循環が生まれ始めている」と国会で答弁していたが、起ころうとしているのは、デフレへのスパイラルだ。一気の消費増税は、成長をなぎ倒し、惨敗にアベノミクスを引きずり込んだ。もはや、日本経済は、マイナス成長への転落が避けがたい情勢となった。

………
 まず、8月の家計調査から見ていこう。二人以上世帯の季節調整済の実質指数は、前月比-0.3の93.4となり、反動減からの回復どころか、2か月連続しての低下である。2013年度平均の100.4からは7ポイントもの差がつき、昨年水準をいつになったら取り戻せるのか、見当もつかないほどだ。

 その結果、家計調査の7,8月の平均は、増税と反動減で落ち込んだ4-6月期を更に-0.4下回るという、惨憺たる有り様である。財政当局は、低迷を「悪天候」のせいにするが、図で分かるとおり、勤労者世帯の実質実収入とパラレルになっており、「カネがないから買えない」ことが如実に表れている。それとも、収入が足りないのも、お天気のせいなのか。

 ここで、7-9月期のGDPを予想してみる。GDPの消費を占う8月の消費総合指数は未発表だが、家計調査の「除く住居等」が跳ねたことや供給側指標からすると、前月比横バイか、若干のプラスに止まるのではないか。また、9月も、東大物価売上高指数からすると、前月と同様の状況にある。したがって、7-9月GDPの消費は、前期比で+0.3程度と思われる。

 他の需要項目については、今のところの大まかな感じは、民間投資が設備のプラスと住宅のマイナスでゼロ、外需も寄与度なし、公需は寄与度0.2くらいか。これに、消費の寄与度の0.2を合わせ、7-9月期は、前期比0.4、年率1.6%成長のイメージである。すなわち、リバウンドの期待は崩れ、L字型の底バイに終わるということだ。もっとも、「不良」在庫の増加が止まらず、もう少し成長が高くなるかもしれないが。

(図1)


………
 この際だから、2014年度の成長率も展望しておく。10-12月期、1-3月期については、2012、2013暦年の成長率がともに1.5%だったことを踏まえ、前期比0.4で進むと仮定すると、2014年度は、-0.2%成長という結果になる。第一生命の新家さんも、-0.2%成長へ下方修正したようであるから、悲観に過ぎるとは言えないだろう。

 それどころか、4-6月期に背負った「不良」在庫の重荷を勘案すると、この寄与度が0.9もあるため、今後、在庫の解消が始まることによって、10-12月期、1-3月期の成長は、帳消しになってしまう可能性がある。つまり、2014年度の成長率は、-0.2%から、更に下ブレすることも十分にあり得る。

 こうしたマイナス成長への転落が成長の「腰折れ」でなくて何なのか。これも「想定内」として、覚悟の上で消費増税を敢行したとは、さすがに強気の政府でも言えまい。増税決断の折に、その破壊力を甘く見て、「主因でない、軽微である、法人減税となら」とした有識者の責任は重い。常識人の判断なら、「前回は酷かったから、今回は刻もう」となっていたはずである。惨敗は、無知ではなく、教条に因るものなのだ。

………
 現下は、既に、景気後退と判断すべき局面にある。しかも、前述の成長低下の「被害想定」の範囲で済むのか、まだ分からない段階だ。鉱工業生産指数を見る限り、事態が収束してないのは明らかである。生産と出荷は、7月に底入れしたかに見えたが、8月になると、6月の水準さえ下回り、脆くも底が割れた形である。先月の本コラムの不安は的中してしまった。

 8月は、生産を落としたにもかかわらず、出荷減に追いつけず、在庫が1.1も上昇して、112.7となった。とうとう、在庫水準は、2012年の民主党政権下における「ノダ後退」を超えてしまい、この意味でも、アベノミクスは一敗地に塗れた。生産と出荷の水準は、まだノダ後退時を下回ってはいないが、在庫の急増ぶりからすると、時間の問題だろう。

 今後の焦点は、在庫増がいつ止まるかになる。在庫増を止めるため、生産に急ブレーキをかけると、ノダ後退のとき以上に水準が下がってしまい、今度は、雇用と賃金の悪化がもたらされる。これが消費を弱め、更に出荷を落とし、在庫が減らない中で、一層の生産の削減を迫られる。容易に止まらぬ悪循環、デフレへのスパイラルの勃発である。

(図2)


………
 そこで、雇用と賃金もチェックしよう。8月の労働力調査は、雇用者数の季節調整値が7万人減であった。産業別の前年比では、建設業は伸びているが、消費増税の影響が著しい卸・小売業が-22万人と減が拡大し、サービス業も減が目立ちだした。ただ、製造業は、一進一退の状況である。職業紹介状況を見ると、8月の新規求人倍率の季節調整値は0.04の低下だった。これは新規の求職が1.4%増、求人が0.7%減となったにことによる。

 他方、毎月勤労統計によれば、8月の実質賃金指数は、前年比-2.6%となり、ボーナスの剥落で前月より大きくマイナスが拡大した。8月にはボーナスの影響が残っているようで、9月は、更にマイナスが開く可能性が高い。また、常用雇用は、季節調整済指数が前月比-0.2%と低下し、所定外労働時間も-2.3%に落ちている。

 こうした動きは、消費増税の悪影響が雇用や賃金にも及び始めたと見るべきだろう。MURCの片岡剛士さんは、9/30の「ピークアウトの可能性が高まる雇用」において、1997年の増税の際は、10月以降に新規求人の明白な悪化が見られたと指摘している。雇用は、遅行指数であり、これから悪化が本格化するものと予想される。

………
 10/1公表の日銀短観は、いつも注目を集める大企業製造業の業況判断は+1であった。正直、思ったより良い結果だったが、今回は、その代表性に注意が必要だろう。それは、輸出型の企業には、円安が高収益をもたらしており、業況が必ずしも日本国内の状況を映してないおそれがあるからだ。

 むろん、こうした企業では、高収益が着実な設備投資をもたらすだろうが、広がりはどうか。大企業であっても、非製造業は-6と落ち込み、先行きも+1でしかない。当然のように、中堅、中小企業となると、製造業でも、元々低い水準から、-3や-2となる。要するに、消費増税は、日本国内に依存し、円安の恩恵が薄い企業を直撃しているのである。

 問題なのは、2013年度の法人企業統計で分かるように、アベノミクスの設備投資の主役は、非製造業であり、中堅・中小企業だったことだ。製造業の前年度比は2.2%増で、実質成長率を下回る一方、非製造業は8.7%増であったし、資本金10億円以上の大企業は1.7%増だったのに対して、それ未満の階層は、7.2%、11.6%、19.3%増だった。こうした前向きの企業は、増税でハシゴを外された格好である。

 また、今回の短観では、雇用人員の判断で「不足」が強いことが今後に希望を与えたが、筆者は、割り引いて見る必要があると考えている。それは、安い非正規が足りないだけではないかということだ。一部の大企業は人材投資もできるが、それ以外は、増税で国内の売上げが伸び悩む中、賃金を上げて確保するのは厳しい状況だからである。

 いまだ「設備投資は堅調、雇用は大丈夫」という声もあるが、「鉱工業生産が落ちれば、設備投資は後を追って急速に低下する」、「雇用は遅行して悪化する」という、いつものパターンからは逃れられないだろう。少なくとも、「今回は違う」と言って、国際的な大企業の声ばかりを聞き、経済運営の舵取りをするわけには行くまい。

………
 マイナス成長が避けられない情勢に至り、一気の消費増税を許したアベノミクスは惨敗した。しかも、どこまで落ちるか底が知れない段階にある。本コラムは、8/3に敗戦処理に着手せよと警告したが、時間は空費されて、年度末に補正予算の執行が始まるまで、無策のまま過ごすことになる。せいぜい地方振興の心配でもしておれば良かろう。

 仮に、一気の消費増税がやむを得ないものであったとしても、危険性を警戒していれば、こうはならなかったはずだ。前回増税で橋本首相は、12月に緊急の減税の表明に追い込まれ、後に国民に謝罪するはめとなった。「V字回復だ」、「悪天のせい」と言っているうちに、事はここに至り、アベノミクスは失敗の上塗りまでしてしまったのである。


(昨日の日経)
 医師以外も病院トップに。9月米雇用24.8万人増、消費増と好循環。総合スーパー不振、既存店売上減。介護事業で偏る利益、在宅低迷。

※増税で好循環が断ち切られ、減益と売上減になれば、設備投資には出られない。セブンのような最強企業は広告を打って売上げを集めるが、普通の企業には無理である。

(今日の日経)
 中国スマホ向け部品増産。「予定通り再増税」が6割・点検会合の有識者60人に調査。

※有識者は債券相場を心配しているようだが、安倍政権の人気を支える株式はどうか。短観後、先物に売りが出ているのは気になる。債権と違って日銀は支えられまいに。


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