経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮財政の愚行を雪ぐ道

2015年05月17日 | 経済(主なもの)
 日本の経済運営にとっては「偉大な飛躍」かもしれないね。足元の税収を考慮して中長期の計画を練ることは、財政学の初歩でしかないが、これまでは、まったく出来ていなかったのだから。財政再建目標までの9.4兆円のギャップを埋めるのに、歳出削減は5~6兆円で十分と、経済財政諮問会議で民間議員が提言したことには、そういう意味がある。そうした事情も分からず、日経は「もっと痛みを」みたいな社説を掲げていて、なんとも情けないものがある。

………
 編集委員の滝田洋一さんが指摘するように、足元では国の税収に大幅な上ブレが生じている。これは、消費増税によって、消費は低迷したものの、円安・株高・原油安を背景に、企業収益が好調に推移したことによる。上ブレの着地点を見極めるには、あと半月ほど待たねばならないが、現時点で1.9兆円程と予測できる。

 国の税収が上ブレすれば、地方も同様である。地方の税収は、規模が国の7割強であり、構造も似ているので、納付年度にズレはあるにせよ、国と地方を合わせた上ブレは、1.9兆円×1.7倍=3.2兆円程になろう。名目GDP比では0.7%程である。そうすると、政府の中長期の経済財政の試算のベースが上がり、その分だけ上方へシフトする。これを示したのが、下図の緑線である。

 見てのとおり、税収の上ブレを考慮すると、基礎的財政収支をゼロにする目標へは、2023年度に到達することが分かる。現在の政府の試算(黄線)は、8年後の2023年度までで止めることで、トレンド上の2025年度に到達することを伏せているが、2014年度の税収の実績を基に計算し直すと、もはや、隠しおおせなくなる。この時、目標年次の2020年度のギャップは、GDP比で0.9%程であるから、歳出削減は5~6兆円で十分なのだ。

 逆に、それを超えて、従来どおりの9.4兆円削減の計画を立ててしまうと、2014年度の国や地方の決算が表に出た段階で、過剰なことが明らかになり、計画が根本から崩れてしまう。一度削ったものをまた戻すという、二度手間の作業を迫られるようなことを、賢いお役人がしたいはずがない。日経は、こうなることを敢えて求めているわけだから、何をか言わんやである。

(図)



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 事は、それで終わらない。2014年度に上ブレがあるなら、2015年度にもあるのではないかと疑うのが普通だろう。まさに、そのとおりで、証券各社が企業収益の2桁増を予想している中で、予算上の税収は、いかにも低い。むろん、2015年度は、過去となった2014年度とは違い、始まったばかりで楽観は禁物だが、順調に行けば、予算から1.2兆円ほどの上ブレが期待できる。

 先の2014年度と同じ理屈で、国と地方の上ブレは2.0兆円、GDP比で0.4%程だろう。これを示したのが先の図の青線である。これは、財政再建の目標へ、更に2年早い2021年度には概ね到達することを示している。もし、2020年度の達成に拘るなら、GDP比であと0.5%程の歳出削減をすれば済む。

 おそらく、そうした努力さえも無用であろう。政府の税収の試算は、名目成長率に対する弾性値が1.0、つまり、成長率と同じだけしか伸びないという堅い想定になっていて、次の2016年度でも税収の上ブレが生じる可能性が高いからだ。結局、順調に成長するたけで、歳出削減なしに、2020年度の目標をクリアしてしまう。敢えて言えば、目標を達成できなくなるのは、余計な緊縮をやって、成長を潰してしまった場合だろう。

………
 正直、中長期試算の再生ケースにおける実質成長率2%強は、高めの想定だと思う。ここで大事なのは、2012、2013暦年に実現した1.6~1.8%程度でも良いから、成長を保つことである。これができれば、年次は遅れても、基礎的財政収支ゼロへと着実に近づける。この見通しが国債の信用を保つことになる。

 逆に言えば、ベースラインケースような1%を割る成長だと、永遠にゼロに近づけないので、発散への不安が起きかねない。無理な緊縮財政を敷き、日本経済が完全に成長力を失ったと見なされたとき、本当の危機が訪れる。考えるべきは、歳出削減を大きくすることではなく、成長を妨げない範囲の削減はどこまでかである。

 言わずもがなだが、歳出削減の努力が要らないわけではない。特に、税収増に伴って、地方の黒字は拡大するので、これが歳出の膨張につながらないよう、地方交付税の出口を適切に管理しなければならない。その意味で、国の歳出の削減計画は、国・地方を通じた収支改善には中立であるにしても、重要である。

 また、税収の弾力性を高めておくことも肝要だ。再生ケースに対しては、成長率の想定が高いという批判が多いが、2.0%成長での弾性値1.0と、1.6%成長での弾性値1.25では、税収の伸びは同じである。弾力性を高めるには、利子配当課税を引き上げたり、安易な法人減税を避けたりして、資産課税の強化に努めることが大切だ。

………
 今後、財政再建で一番の難所となるのは、2017年度の消費増税だろう。これで成長を壊してしまったら、元も子もない。中長期試算では0.8%成長とされているが、タダでは難しい。日銀の展望レポートは0.2%としており、自然体なら、このくらいが妥当である。1%ずつに刻むのがベストだが、それができなければ、需要追加策が必須となる。

 毎度ながら、本コラムのおススメは、低所得層の社会保険料の軽減と、年金からの乳幼児への給付である。前者は物価上昇とともに自然に縮小するし、後者は、社会保障基金からの支出なので、中長期試算の収支に影響しない。収支の管理は、基金も統合してするのが本筋ではあるが、財政しか視野にない日本の甘さに、乗じることにしよう。

 日本は、ようやく、足元の税収を考慮するという、経済運営の第一歩を踏み出した。ど素人に等しく、緊縮を焦って失速させてばかりの日本が、安定的な需要管理ができるようになるまでには、まだ道は遠いが、日経も温かく見守ってほしい。「壮大なる愚行」を犯し、財政再建で本物の財政危機を招いた「黒歴史」を、今度は雪いでもらいたいものである。


(昨日の日経)
 株式配当6%増で初の10兆円。社説・痛み分かち合う歳出削減から逃げるな。ゆうパック23年ぶり値上げ。歳出削減・政府内で綱引き。

(今日の日経)
 後発薬との差額を患者負担。加速感なき回復・設備投資1.2%減、主要200社14%増益。

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2 コメント

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Unknown (基礎固め)
2015-05-17 10:16:38
失礼します。最近の日本に関して。

ここ一二年で、日本の政経の勢熟度が注目されることになるかもしれないですね。特に後程の世代からの再評価のさいですが。

目的と手段だけを見ることから、目的と手段の合致度合いを見るようになれるか!?
デメリットやメリットや変更変更無しリスクの羅列ではなく、それらの判断をするための評価の基準点や指標を見るようになれるか、議論の場で作れるか!?
議論の場自体をもっと作れるか!?

各現実の制度や市場には需給調整や価格生成がありますが、重要なのは政府か民間かではなく、調整や生成のために必要になる指標や基準点造りをどうやって作るか。フィードバックの仕組みと意思決定方をどうするかだとも言えるかと。外国の制度や市場を見るときには仕組みをみるのが重要で、大枠や数値だけを見ても本質的な所を見謝るということです。

例えば、サッカーのフォーメーションや選手配置の数だけを見ても、そのチームの動きは分かりません。選手間やチームとしての動きの決まりごとや仕組み、また選手の特性を考えた組合せや配置も考察してやっと本質的とこが分析できるかと…

すみません。戻りまして、
学者や専門家は思考の枠組みやマクロな統計分析力は素晴らしく、実務家はメカニズムに関して勘…いい意味でアート…が働くので重宝されますが、重要なのは互い罵り合うことではなく、議論を多いに発言してもらうなかでマクロとミクロの止揚をし程度問題の指標を造り挙げてもらうのとが重要かと思います。
そのための議論の場、マスコミやいまの名前連呼の選挙制度以外に議論の場自体と議論をする習慣をもっと作るまたそういう利害関係者が一緒の席付ける場を支持しないといけないかもしれないですと思うしだいです。
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Unknown (asd)
2015-05-18 12:16:47
同じ記事を読んでても、私なんかは「なんで日本はこんなバカばっかなんだ! バカと大バカが議論してんだから世話ないわ!」とイラつくだけです(笑)
blog主さん優しすぎますよ~
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