ひと頃の日本サッカーは、先制すると攻勢が消え失せ、退いて守って逆転ゴールを食らう悪い癖があった。優位になったときにこそ厳しく向かい、勝ち切るまで絶対に手を緩めないというのは、勝負事の鉄則である。経済も同じで、足元の景気が好調だと、「財政出動は、もう十分だろう、あとは成長戦略に注力して」となりがちだが、これが失敗の本質だ。財政による1兆円の需要減は造作ないが、これを埋められる大きさの成長促進策は存在しない。勝負が着くまで、幻想に酔って財政を疎かにする甘さは絶対に許されない。
………
9月の経済指標が一斉に公表され、7-9月期GDPは、内需停滞、外需牽引の形になることが明確になった。それぞれ前期の反動が出るに過ぎないが、景気の明るさに慢心している向きには、良い薬になるだろう。デフレに慣れ切っているから、少し良くなっただけで、すぐ嬉しくなってしまう。本当の勝負どころは、ここからだ。内需の好循環を起動させなければならないのに、補正予算は前年度より小さくて構わないという緩んだ空気が漂う。これは要注意である。
まず、消費の点検から行こう。9月の商業動態の小売業は前月比+0.8と伸びたが、7,8月の低水準を埋めきれず、7-9月期の前期比は-0.1にとどまった。物価上昇を踏まえれば、もっと下がる。9月の家計調査も、二人以上世帯(除く住居等)が前月比+0.1、7-9月期の前期比は-0.2となり、ほぼ同様の状況にある。いずれの調査も、前期4月の水準が非常に高かった反動が影響しており、総体的に見れば、極めて緩慢ながら回復傾向にある。
これを示すものとして、家計調査の消費水準指数の前年同月比の推移をお見せしよう。2014年4月の消費増税以来、長いながいマイナスの旅が続き、この夏、ようやく水面上に顔を出したところだ。遅れていると言われる消費の回復も、ここまで来た。むろん、とても慢心できるレベルではない。ここからの加速が不可欠であり、そうしないと、何かの拍子に外需が折れると、いつものごとく、元の木阿弥となってしまう。
商業動態と家計調査の結果を踏まえると、7-9月期GDPの消費はマイナスの寄与となろう。他方、在庫は、流通在庫の増加がうかがわれ、原材料と仕掛品の在庫がプラスの仮置きなので、消費減を在庫増が吸収する形となる。設備投資は若干のプラス、住宅は横バイで、公需は公共事業の減で若干のマイナスの寄与だろう。外需のみ、輸出増と輸入減によって、大きく成長を牽引し、実質成長率は年率1%台半ばと見ている。
(図)
………
今後の展望については、生産面での明るさは、改めて指摘するまでもない。鉱工業生産は、7-9月期の前期比が+0.4にとどまったが、前期の急伸を踏まえれば十分なものだ。しかも、10,11月の予測で伸ばした平均は+4.2にもなる。特に、資本財(除く輸送機械)が高く、多くは海外向けとしても、国内の機械受注も上向いており、今後の設備投資の高まりが期待される。ただし、全体が好調な中でも、建設財は足下も予測もマイナスになっており、減速すると考えなければならない。
消費の先行きに関しては、家計調査を詳しく見ると、勤労者世帯の実質実収入の前期比が+3.5と伸びており、逆に、実質消費支出は-3.0のマイナスとなっている。今期の消費停滞は、反動減だけでなく、消費性向の低下の影響もある。サンプル要因かもしれないが、消費が伸びるポテンシャルが高まっているとも受け取れる。今年前半の消費増は、消費性向の回復が要因とされたが、同じことが10-12月期に起こらないとも限らない。
消費性向は、景気が良くなると上がり、悪くなると下がる傾向がある。消費動向調査をチェックすると、雇用環境に対する受けとめは、7-9月期に停滞していたので、消費性向の低下には、それなりに理由がある。そして、10/2発表の10月は+0.9となり、停滞から抜け出るような動きが見られた。消費者態度全体は、2013年9月以来、4年1か月ぶりの高さとなり、基調判断も「持ち直している」に上方修正された。次期の消費は期待できるのではないか。
むろん、実体的にも雇用改善は進んでいる。労働力調査では、7月まで停滞していた男性の就業者数が8,9月に一段高となった。男性の就業率を見ると、25~34歳の若年層は、1997年の94%とは差があるものの、リーマンショック前並みの91%近くとなった。その上の35~44歳のロス・ジェネ世代も伸びて来ている。人手不足と言われて久しいが、まだ上げる余地がある。景気を押し上げる手を緩めるには早い。
………
今週は、11/1に9月の税収も公表され、好調な推移が確認できた。本コラムのモデルでは、今年度の税収は、前年度決算額から2.7兆円増になりそうである。収支改善は、財政再建派には朗報かもしれないが、経済にGDP比で0.5%ものデフレ圧力がかかることも意味する。円安は、企業収益を膨らませて税収を高める反面、輸入物価を上げて消費を圧迫する。本当は、税収が上がるときは、還元を考えなければならない。
補正予算の規模は、まだ定かではないが、大きくても3兆円で、昨年度の補正後の財政規模を上回ることはないだろう。国債を増発しない2兆円弱にとどまる可能性も十分にあり、歳出でもデフレ圧力がかかるおそれがある。結局、全体状況を考えて、経済運営をする発想は見られないということだ。このように、成長戦略にかかずらい、財政が疎かになり、無意識のうちに緊縮をして、成長を加速すべき絶好のチャンスで、反対にブレーキをかけてしまう。これが20年来繰り返してきた、勝ち切れない失敗の連鎖なのである。
(今日までの日経)
日米対話ほころぶ計算。消費者心理、連続で改善。日銀、金利調整に地ならし。時事10/30・使途変更の陰に財務省=増税延期回避へ働き掛け。
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9月の経済指標が一斉に公表され、7-9月期GDPは、内需停滞、外需牽引の形になることが明確になった。それぞれ前期の反動が出るに過ぎないが、景気の明るさに慢心している向きには、良い薬になるだろう。デフレに慣れ切っているから、少し良くなっただけで、すぐ嬉しくなってしまう。本当の勝負どころは、ここからだ。内需の好循環を起動させなければならないのに、補正予算は前年度より小さくて構わないという緩んだ空気が漂う。これは要注意である。
まず、消費の点検から行こう。9月の商業動態の小売業は前月比+0.8と伸びたが、7,8月の低水準を埋めきれず、7-9月期の前期比は-0.1にとどまった。物価上昇を踏まえれば、もっと下がる。9月の家計調査も、二人以上世帯(除く住居等)が前月比+0.1、7-9月期の前期比は-0.2となり、ほぼ同様の状況にある。いずれの調査も、前期4月の水準が非常に高かった反動が影響しており、総体的に見れば、極めて緩慢ながら回復傾向にある。
これを示すものとして、家計調査の消費水準指数の前年同月比の推移をお見せしよう。2014年4月の消費増税以来、長いながいマイナスの旅が続き、この夏、ようやく水面上に顔を出したところだ。遅れていると言われる消費の回復も、ここまで来た。むろん、とても慢心できるレベルではない。ここからの加速が不可欠であり、そうしないと、何かの拍子に外需が折れると、いつものごとく、元の木阿弥となってしまう。
商業動態と家計調査の結果を踏まえると、7-9月期GDPの消費はマイナスの寄与となろう。他方、在庫は、流通在庫の増加がうかがわれ、原材料と仕掛品の在庫がプラスの仮置きなので、消費減を在庫増が吸収する形となる。設備投資は若干のプラス、住宅は横バイで、公需は公共事業の減で若干のマイナスの寄与だろう。外需のみ、輸出増と輸入減によって、大きく成長を牽引し、実質成長率は年率1%台半ばと見ている。
(図)
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今後の展望については、生産面での明るさは、改めて指摘するまでもない。鉱工業生産は、7-9月期の前期比が+0.4にとどまったが、前期の急伸を踏まえれば十分なものだ。しかも、10,11月の予測で伸ばした平均は+4.2にもなる。特に、資本財(除く輸送機械)が高く、多くは海外向けとしても、国内の機械受注も上向いており、今後の設備投資の高まりが期待される。ただし、全体が好調な中でも、建設財は足下も予測もマイナスになっており、減速すると考えなければならない。
消費の先行きに関しては、家計調査を詳しく見ると、勤労者世帯の実質実収入の前期比が+3.5と伸びており、逆に、実質消費支出は-3.0のマイナスとなっている。今期の消費停滞は、反動減だけでなく、消費性向の低下の影響もある。サンプル要因かもしれないが、消費が伸びるポテンシャルが高まっているとも受け取れる。今年前半の消費増は、消費性向の回復が要因とされたが、同じことが10-12月期に起こらないとも限らない。
消費性向は、景気が良くなると上がり、悪くなると下がる傾向がある。消費動向調査をチェックすると、雇用環境に対する受けとめは、7-9月期に停滞していたので、消費性向の低下には、それなりに理由がある。そして、10/2発表の10月は+0.9となり、停滞から抜け出るような動きが見られた。消費者態度全体は、2013年9月以来、4年1か月ぶりの高さとなり、基調判断も「持ち直している」に上方修正された。次期の消費は期待できるのではないか。
むろん、実体的にも雇用改善は進んでいる。労働力調査では、7月まで停滞していた男性の就業者数が8,9月に一段高となった。男性の就業率を見ると、25~34歳の若年層は、1997年の94%とは差があるものの、リーマンショック前並みの91%近くとなった。その上の35~44歳のロス・ジェネ世代も伸びて来ている。人手不足と言われて久しいが、まだ上げる余地がある。景気を押し上げる手を緩めるには早い。
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今週は、11/1に9月の税収も公表され、好調な推移が確認できた。本コラムのモデルでは、今年度の税収は、前年度決算額から2.7兆円増になりそうである。収支改善は、財政再建派には朗報かもしれないが、経済にGDP比で0.5%ものデフレ圧力がかかることも意味する。円安は、企業収益を膨らませて税収を高める反面、輸入物価を上げて消費を圧迫する。本当は、税収が上がるときは、還元を考えなければならない。
補正予算の規模は、まだ定かではないが、大きくても3兆円で、昨年度の補正後の財政規模を上回ることはないだろう。国債を増発しない2兆円弱にとどまる可能性も十分にあり、歳出でもデフレ圧力がかかるおそれがある。結局、全体状況を考えて、経済運営をする発想は見られないということだ。このように、成長戦略にかかずらい、財政が疎かになり、無意識のうちに緊縮をして、成長を加速すべき絶好のチャンスで、反対にブレーキをかけてしまう。これが20年来繰り返してきた、勝ち切れない失敗の連鎖なのである。
(今日までの日経)
日米対話ほころぶ計算。消費者心理、連続で改善。日銀、金利調整に地ならし。時事10/30・使途変更の陰に財務省=増税延期回避へ働き掛け。
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