経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本の固められし道

2011年11月06日 | 経済
 本コラムは、日本の財政当局の経済運営の無能さには呆れているのだが、反面、政治力の凄さには、いつも舌を巻いている。三次補正のメドもついたところで、いよいよ、政治日程が固まりつつあるようだ。

 まず、今回のG20では、消費税増税を国際公約にした。諸外国から特に求められてもいないのに、わざわざ約束したのは、「国際公約に反したら、日本売りになる」というような根拠の薄い話で、抵抗勢力を脅かすためであろう。日本人にはコンプレックスがあるから、諸外国からの「要求」と言われると弱いのだよ。

 次は、選挙日程との調整である。これは来年夏にあると思わなければならない。衆院は前回選挙から3年経てば、いつあってもおかしくない。自民党は、早期の解散総選挙を求めているし、公明党は、再来年に延びて参院選や都議選と重なることを嫌うから、参院で少数与党の民主党は、予算関連法案などと引き換えに、解散総選挙を約束せざるを得ないだろう。

 そうすると、昨日の日経にあるように、消費増税準備法案を、来年3月に国会に提出し、2012年度予算の成立後、消費税法案の採決をする必要がある。つまり、消費税増税を決めてから、選挙ということだ。民自公の賛成で決まっているのだから、選挙結果がどうなろうと、予定通り2014年1月から消費税は上がることになる。

 財政当局は、もう一つ、予定を変えさせない仕掛けを用意している。基礎年金の国庫負担分を「つなぎ国債」で賄うことにするものだ。いわば、財源を予約するようなものであり、予定を変えて見送りをしようとするなら、すかさず、「年金財政に穴が空く」と言って怖がらせるつもりなのだ。

 専門家からすれば、それで年金積立金が減ったところで、大したことはないのだが、素人を転ばすには十分だろう。ちょっと分かっている人には、「積立金を減らせば、世代間格差が広がる」などといったセリフで煙に巻く。無理な増税で景気を失速させれば、勤労者所得をベースにする保険料が入らなくなり、積立金にはマイナスなのだが。

 また、景気が悪化した場合の危険を説く人には、消費税増税法案の付則に「見直し規定」を設けることで懐柔するつもりのようである。むろん、そんな規定があっても、時期が迫れば、民間でも事前準備が進むから、見直すことなどできなくなる。見直しされるのは、第二次リーマンショックのような極端な場合に限られよう。

 もちろん、2年後、日本経済がデフレを脱し、力強く成長しているのなら問題ないが、10月末に公表された日銀の展望レポートでは、2013年度の成長率は1.5%程度、物価上昇率は0.5%しかない。消費税を2%上げれば、成長の大半が吹っ飛ぶ計算だ。物価がこの程度では、消費税の転嫁は大変な苦労を強いられるだろう。中小企業はモロ被りだな。

 日本の財政当局は、一体、どんな経済展望を持っているのだろう。まさか、経済展望もなしに、消費増税を決めようとしているのではあるまいね。日銀の展望並みの成長率だと、消費税を上げなくても、自然増収だけで1.5兆円くらいにはなる。この頃には、復興費も剥落しているだろう。緊縮財政だけで、成長分を上回るのではないか。

 1997年のハシモトデフレの失敗は、消費税そのものも然ることながら、同時に、定率減税をやめたり、公共事業を削減したり、社会保険料を引き上げたりと、緊縮財政の「悪乗り」も酷かった。最近、当局が出している「研究報告書」なるものからすると、増税に伴う弊害を緩和する措置を取るつもりは毛頭ないようだから、似たようなことが繰り返されよう。

 日本の財政当局は、経済運営の無能さと凄い政治力を併せ持つ。従って、景気が今一つの状況であっても、政治的に踏み止まることができないまま、「バンザイ突撃」が敢行されることになるだろう。そのために国民を隊列に加える準備が着々と進められている。ちっょと、例えが古かったかな。日本って国は、本当に反省がないということだよ。本当に財政再建を果たそうというのなら、必要なのは、焦りを排し、状況を読む、「持久戦」である。

(今日の日経)
 日系の中小企業の3割停止・タイ洪水。社説・節電の励みになる料金制に。復興債償還30年に言及・自民総裁。ユーロ安圧力続く。冬のボーナス1.2%減。米企業の高収益は家計と断絶・藤田和明。多数を操縦する超群ロボット。読書・危機の指導者チャーチル。

※発電所の分社化どころか、料金制すら手付かずか。役所がダメなときの日本の政策企画の能力の薄さを感じるよ。※戦争の時代にチャーチルが優れた指導者たり得たのは軍人であったからでもある。経済危機の時代には、指導力のみならず、経済への素養も欠かせない。

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