経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費回復への甘い期待と法人減税への依存心

2014年09月07日 | 経済
 9/5のロイターの「焦点・政府の増税判断で秋データも」を読むと、財政当局は、消費の落ち込みを、本気で天気のせいだと思っているようだね。7月毎勤の賃金は良かったので、気持ちも分からなくはないが、大規模・製造業に重心のある速報値だし、そもそも、ボーナス要因は一時的だ。サンプル数が1/5で振れがあるとは言え、家計調査の動向を見ると、あまり期待してはいけないと思う。

 こういう図の作り方は普通しないけれども、二人以上世帯の実質消費支出と勤労者世帯の実質実収入を重ね合わせると、こうなる。消費の低迷は、駆け込みの反動による買い控えではなく、増税でお金が減ったことでの減退にしか見えない。消費や収入の前年度平均である100前後の「水面」まで6ポイントも差がある。このギャップを埋めるほど、賃金を高めるには長い時間がかかる。

 8月分の「消費税率引上げ後の消費動向等について」が判明したが、車は低迷し、家電も飲食料品も7月に輪をかけて悪かった。百貨店が多少良かったのは救いだが、高所得者や外国人旅行者が買い物をするのだから、他より消費増税の悪影響が薄いのは当然だし、1997年もボーナス後の8月は良かったというのが気がかりだ。甘い期待を持って、成長失速への対応が遅れたりしないかと心配になる。

(図)


………
 これだけのギャップがあるのに、日経によれば、補正予算の編成は年内のようで、今年のうちに所得減税を打つという切迫感はないようだ。規模が報じられるとおりの4~5兆円とすると、前回並みでしかなく、前年比較での財政規模は変わらない。それは、すなわち、「想定外」の成長低下に何の手当てもしない上、来年の再増税を、緩和策を講じないまま迎えることを意味する。

 2015年度は、今年度のゼロ%成長に引き続き、GDP1%相当を抜く消費増税へ突進することになりそうだが、携える武器は法人減税くらいのものだろう。8/25の日経ビジネスは、「売れるクルマは安物ばかり」という現場の嘆きを書いたが、こういう状況になると、法人減税でカネが余るにしても、企業が付加価値を高めるような設備投資をするかは疑問である。法人減税で成長促進とは、他の要因を考えない机上の空論ではなかろうか。

 9/1に、2013年度の法人企業統計が公表されたが、全産業は、売上高が前年比2.5%増、経常利益が23.1%増、利益率は0.7上昇の4.2%に達した。付加価値を見ると、人件費は-2.5%、租税公課は-0.1%の一方、営業純益は7.0兆円増で21.6%も伸びた。設備投資は2.3兆円増で+6.6%ではあったが、減価償却を1.4兆円、4.1%上回るに過ぎない。これに対し、現金預金は6.1兆円、流動資産の有価証券は4.5兆円も増えている。

 こんなに資金に余裕があるのに、1兆円程度の法人減税で、設備投資が目に見えて加速するとは信じがたい。実は、資本金10億円以上の大企業の設備投資は1.7%増に過ぎす、売上高の4.6%増を下回った。設備投資を増やしたのは、供給力に余裕のない資本金10億円未満の企業であり、規模が小さいほど伸びは大きかった。法人減税のために、外形標準課税の強化と組み合わせるらしいが、盛んに設備投資をしている中堅以下の企業を不利にしかねない。

………
 消費の急回復に願いをかけ、威力も知れぬ法人減税を頼み、消費増税に踏み切るのは危険である。どうしても言うのなら、増税直後の来年12月の年末調整までに、大規模な所得減税ができるよう、早急に財政当局に検討させるべきだ。それは、低所得者に還元するため、給付つき税額控除のような制度になろう。番号制度の前でも、社会保険料に応じて給付する形なら可能と思われる。有能なる財政当局のお役人は、増税のためなら、どんなに難しかろうと、答をものにしてこよう。

 まあ、現実的には、前回並みの補正予算と幾ばくかの法人減税をセットにして、消費増税は予定どおり実施するというのが一番あり得るシナリオかな。「財政再建バンザイ」と叫びながら、増税の崖へ突撃する姿が目に浮かぶよ。この歳になって、また、こういう光景を目にしなければならないとはね。秋の青空のお陰で景気が良くなり、「なんだ年寄りの杞憂だったじゃないか」で終わってくれたら、これほど有り難いことはない。


(昨日の日経)
 楽天が米ネット通販買収。8月米雇用14.2万人。進む円安、輸出増どこまで、家計に重荷、中小は減益。一致指数改善も「足踏み」。成長率予測0.48%に低下。補正は年内編成を検討。

(今日の日経)
 景気回復もたつく、増税・天候が消費に影。省力化や物流で設備投資増。景況感3か月ぶり悪化・帝国データ。公的年金維持のために・清家+小塩・聞き手山口聡。

※とうとう日経も増税が影響と明記したか。※10地域すべて悪化だから、全国的に天気が悪かったのかな。※バーの論には少子化緩和が欠けているんだよ、山口さん。※読書・ブラックスワンの経営学。

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