経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

読売の傑作社説の誤謬

2011年12月14日 | 経済
 他紙で恐縮だが、昨日の読売の社説は「傑作」だったね。日本のリーダーが、なぜダメなのかを端的に示していた。これから、税と社会保障の一体改革に伴う消費税増税の決定や来年度の予算編成に際して、日経も社説を書くことになると思うので、反面教師にしてもらおうと思う。

 読売は「消費税引き上げ・財政再建は先送りできない」を掲げて、それは待ったなしだと言う。おそらく、多くの人にとって、「そうだろうね」、「良く聞く話だ」くらいのものだろう。この「待ったなし」は、どういう意味なのだろう。実は、この財政赤字に対する「焦り」が問題なのである。

 もし、本当に「待ったなし」の状況であったなら、今年の日本は、震災で国債の増発を余儀なくされたのだから、国債の長期金利は、敏感に反応し、高まっていただろう。ところが、実際には、一時1%を割るというような低金利が続いている。政府は四次補正をするようだが、その財源は、低金利で余ることになった国債費1.3兆円を充てるほどなのだ。

 今度の四次補正は、2.5兆円規模で、この余った国債費と税収上ブレ分1.1兆円を充てるらしい。もし、イタリアなら、こんなバラマキ財政をするようでは、長期金利が急騰して万事休すだろう。例えるなら、借金の使い残しや思わぬ収入があったときに、借金の返済に充てずに、浪費してしまうような体質を表すからである。

 要するに、日本経済は「待ったアリ」なのだ。むろん、財政再建が不要と言っているのではない。震災ショックからの成長回復も確認できない今の段階で、再来年の2013年には消費税を一気に3%も上げ、経済成長の増加分を上回る所得の吸い上げを決定をしなければならないほど、追い込まれた状況にあるのかということである。

 先日、GDPの基準改定が行われ、今年度の落ち込みが大きく評価し直されたことによって、各調査機関は、2012年度と2013年度の経済成長の見通しを下方修正している。第一生命は、1.4%と1.2%、ニッセイは、1.8%と1.4%である。この程度の成長率では、消費税3%アップなんて土台無理で、1%だって難しいだろう。

 民主党の藤井税調会長は、「2%成長なら消費増税」という趣旨の発言をしたが、それでいけば、消費増税は断念しなければならないことになる。それとも、増税の方も基準改定しますかね。藤井会長のバックには、当然、財政当局がいるはずだから、彼らの経済運営の能力も酷いものだ。とても日本経済の舵取りを任せられるシロモノではない。

 読売の社説に戻ろう。社説は、「3年連続で新規国債発行額が税収を上回る異常事態で、国の借金は11年度末に1000兆円を超える見通しだ。国内総生産(GDP)の約2倍に上り、先進国で最悪の財政状況」とする。前にも書いたが、こういうことを言う人は、財政当局の宣伝の受け売りをしているだけで、自分で財政状況を調べたり考えたりはしてないことを公言するようなものである。

 事実を述べると、税収は、決算ベースで、2010年度は、前年度より2.8兆円も増収になっているし、先に述べたように2011年度は、予算額より税収が1.1兆円も上ブレし、国債費は1.3兆円も下回っている。読売の言う「異常事態」は終わっているかもしれないと疑わなければならないだろう。とても社説で大書きなどできない。

 「国の借金」の評価を残高のGDP比でしかできないのも、当局に洗脳されている証拠だ。8/4にも書いたが、財政収支の赤字を、一般政府ベースのGDP比で見ると、2010年は、日本が-8.1%なのに対し、米国は-10.6%、英国が-10.3%だった。これを聞いたら、読売は目が点になるのではないか。財政赤字の評価は、言うまでなく、多角的にしなければならないもので、財政当局が世界最悪の指標だけをアピールしていることが分からないのかね。

 もし、日本が2013年度に恐慌でもない限り消費税の3%アップをすると決定したら、それこそ「日本売り」になりかねない。現状では、なんとか長期金利を上回る成長の見通しが出ているのに、それを叩き落とすことになるからだ。成長しなければ、「国の借金」のGDP比が悪化するだけでなく、返済力も失ったと見られかねない。まさに、イタリアは、債務残高や財政収支より、成長力や輸出力が問題視されているのである。

(今日の日経)
 通信を大容量化。ヒッグス粒子の発見へ前進。上場企業も半数超が増益。グアム移転費を日本も削減。GPIF・巨象をにらむ国際市場。電源別コスト提示。高速無料化継続へ。四次補正原案・エコカー3000億円、農業強化1600億円、中小資金7400億円。東南ア、内需刺激策強める。カナダが京都議定書から脱退表明、原油生産推進で達成難。中韓造船業に欧州危機直撃。ユーロ安、伊国債6.7%、ECB期待で売り込まれず。太陽光EV、カーボンハーフビル。積水化学・全新築を次世代自由宅に。長期金利1%割れ。経済教室・TPP・田中均。

※提示されたコストを見ただけで、意図する計画が分かる。※中韓にも大波がきたねえ。※ECBへの期待が残っているんだよ。※省エネの芽を育てたいね。

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