経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

未来の後知恵

2013年09月21日 | 経済
 東郷外相が辞任して抵抗していれば、日米戦争は回避できたとする説がある。12月8日の日米開戦の直後、ドイツはモスクワ攻略戦に失敗して敗北への分水嶺を迎えたから、日本が開戦に手間取るうちに、ドイツに加担して参戦する機運は失われた可能性があるというわけだ。おそらく、それだけで阻止するのは難しかったろうが、時流に抗うには、狂おしささえ必要ということなのだろう。

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 産経(9/18)の田村秀男さんによれば、安倍首相は、消費税率の上げ幅を2%に圧縮する案も考えたが、政府や与党内の大勢を押し返せなかったらしい。もはや、尋常な指導力では変えられないところまで来ていたということだ。成長率の条件を付けたにしても、法律にしてしまえば止められないという、財政当局の政治的な読みは正しかったことになる。

 もし、消費増税によって景気が失速し、7-9月期まで低迷が長引けば、来年秋の自民党総裁選での続行はなくなり、第二次安倍内閣は、集団的自衛権の憲法解釈変更くらいを功績として費えることになる。歴史的意義を考えれば、20年に及ぶデフレ脱却を果たせば、名が残せたと思うと、誠に残念である。

 たまに、筆者は、失敗したという結果を設定し、その時点に立って「過去」(それは、すなわち「今」である)を振り返り、「過去」の判断は「結果」を正当化できるか考えたりする。いわぱ、予め「後悔」をしておく手法だ。デフレ脱却の失敗と退陣という「現実」を目の前にしたとき、「過去」において、非常識な行動はやはり取り得ないものだったと、思い返せるだろうか。

 東郷外相は、悲惨な敗戦という未来を知っていても、言語道断の行為に走ることはなかったのかもしれない。アラブの政治家に見られるような、往生際の悪さや潔さの欠如、目的のために手段を選ばすというのは、日本人になじまないからだ。それは、美点でもあるが、火急の場面に立って、何でもやれるかは、信念を試されているようにも思える。

 それにしても、日本では、首相ですら、一気の消費増税という「悪い戦略」は変えられず、景気対策や法人減税という「戦術」でカバーしなければならないものらしい。日本における戦略は一度立てたら変えられないと分っていたとすれば、自党の壊滅という犠牲を覚悟しても一気の増税を仕込んだ野田前首相は、信念において勝っていたことになる。

 日本経済を「取り戻す」には、信念に遅れをとっては成し得ない。歴史的評価は、野田前首相は捨て身で必要なことを成し遂げたが、実施段階で経済に合わせる調整をすべき任にあった安倍首相は強硬派に流されて失敗したとなるのではないか。野田前首相は濱口雄幸のような評価を受け、安倍首相は未だ高橋是清たり得ずという形だ。

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 ところで、先に開催された消費増税の検討会議は、何だったのだろうか。結果から眺めれば、「予定通り増税すべきだが、補正や減税を十分に」という声を集めるためだったとなろう。補正や減税という「戦術」のテコだったわけだ。そして、未来の「結果」から眺めれば、国民はこぞって一気の増税という愚行に賛成した、つまり、みんなで決めたことで、失敗は誰の責任でもないという証拠を残すことになる。

 終戦後と同じように、一億総懺悔が繰り返され、「我々は当局に踊らされていた」と叫ぶのかもしれない。しかし、今回に限っては、大衆は踊っておらず、「給料も上がってないのに、増税なんて」という直感に従い、予定通りの増税の変更が圧倒的多数だった。妙に納得していたのは、新聞、有識者、各界代表、政界要路という当局の御説明の及ぶ範囲だけである。

 むろん、消費増税による景気失速は、可能性の一つにしか過ぎない。ドイツが増税したときには、輸出が急増して助けてくれたし、米国が財政の「坂」に落ちた今は、金融緩和による住宅の値上がりが消費を支えている。日本だって、輸出増や資産高という「神風」が吹くかもしれない。筆者だって、そうあってほしいと願っている。

 安倍首相が公式に断を下す10月1日には各種の景気指標が公表されるが、それらは「景気拡大も一服」というものと予想している。筆者のように「これがピークになり、今後は伸び悩むのでは」と心配する向きは、まったくの少数派だから、予定通りの増税が変わることはあるまい。あとは、反面教師でない形で、クルーグマンの言う「日本が世界の希望になる」ことを祈るのみである。

(今日の日経)
 かんぽの宿を売却。米の優柔さがアジアに影。脱デフレへ賃上げ訴え・政労使会議。賃上げ攻防・インドネシア。ロシアが予算縮小。中国粗鋼生産12%増。8月コンビニ1.4%減少。大機・米緩和縮小論の不思議・カトー。エコノ探偵団・消費増税前の買いだめ。

※探偵団の「欧州では物価高の国ほど少ない」という指摘はおもしろいね。やはり消費増税への抵抗感はインフレ度によるという証左だろう

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