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トランポノリスクとアベノリスク その2

2019年08月03日 | トランポノリスクとアベノリスク

  トランプが嵩にかかって人種差別発言を強め、アメリカ社会の分断を図っていますね。大統領が国を分断し、それを与党共和党が支持するなんて、まるでこのアメリカという多民族国家の終末を見ているようです。著名な黒人議員の非難をする際、彼の選挙区であるボルティモア市をネズミだらけでメチャクチャと言い放ち、「差別発言だ」と非難されると、「事実を言っただけだ」と開き直る。サイコパスのサイコパスたるゆえんを自ら示しています。

   しかしワシントンポスト紙もそれに反論し、「汚いのはホワイトハウスも同じで、ネズミだらけだ。大統領夫人がプールで泳いだら、となりでネズミが泳いでいたことがある」と報道しています(爆笑)。


   一方でトランプはFRBの利下げに対しても噛みついています。「もっと下げろ」の大合唱です。日経ニュースを引用します。

 トランプ米大統領は31日、米連邦準備理事会(FRB)のパウェル議長が今後の継続的な利下げを明言しなかったことについて「いつも通り失望した」とツイッターでなお不満を表した。「私は確かにFRBから多くの助けを得られない!」と強調し、今後も米経済を下支えするため追加の利下げを長期的に続けるよう圧力をかけた。

   パウェル議長はトランプの圧力をものともせずに我が道を行っています。心配なのは理事会メンバーが今後任期ごとに徐々に入れ替えられ、トランプ色を強め、トランプの圧力に屈しやすくなることです。パウェル議長は利上げ後の声明で、「アメリカは好調を維持しているが、世界経済は通商問題からスローダウンの兆しがあるので予防的に利下げをした」と表明。

  これをもっとはっきり言ってしまえば、「大統領、あんたの貿易政策のおかげで世界は不況への淵に立たされた。あんたが勝手にリスクを大きくしたんだから、後始末はあんたがしろ。FRBじゃない」ということです。FRBの独立性の意味を知らない無知な大統領がこうした発言をすればするほど、世界はリスクを積み上げることになります。

 

  そのリスクの好例が一昨日のNYダウの暴落とドルの暴落です。トランプのツイッターで600ドルを超える大暴落となりました。発言の中身は他でもない「中国からの輸入品に10%の関税を上乗せする」という発言です。その発言までは300ドルの上昇でしたが、発言後一気に600ドル暴落したのです。すると早速トランプは自分のせいなのにFRBに転嫁するため、「利下げが足りないからだ」と発言。あおりを食って日本の株式も一時600円の暴落となり、終値も453円安でした。また米国債10年物金利も一気に2%を割り込み、1.9%台に突入。それに影響を受けドル円レートはNYで109円台を付けたのですが、日本では106円台となりこの数か月では最大の下げ幅です。株式投資をされている方は、大変ですね。

 

  さて本題のトランプリスクです。前回はトランポノミクスとそのリスクを簡単に説明しました。それは減税やインフラ投資などで成長を促し、輸入に関税を課して製造業を復活させれば、結果として国は成長し税収が上がるはずというバラマキ政策でしたが、実際には全く成果を上げられず、ひたすら政府は赤字を積み上げる結果になっている、ということでした。

     トランプのリスクは経済面だけではありません。世界に放火して回ることで地政学上のリスクも大きくなり、それらが一気に噴き出す危険性があるのです。これまでの放火実績はシリアへの直接爆撃、エルサレムへの大使館移転、ロシアと結んでいたINF(中距離核ミサイル)削減協定の一方的破棄、北朝鮮の締め付け強化などがあります。そして今世界が注目しているのがいわれなきイランへの締め付けです。これは世界中が大迷惑をこうむりかねません。

  その一環でボルトン米安全保障担当補佐官とポンペイオ国務長官が世界中を巡って有志連合への参加を募っています。有志連合が組まれたらまず最初にやるべきことは何か。それは軍事行動などではなく、みんなで声を揃えて、

 

「おいトランプ、放火はいい加減にしろ」と叫ぶことです。それがホルムズ海峡の波を鎮める唯一の平和的方法です。

 

  トランプがこうしたバカなことをしなければ報復の連鎖などなく、ホルムズ海峡に波など立たず有志連合など不要で、世界が身構える必要などないはずです。

   ホルムズ海峡を通過するタンカーの輸送量は世界の石油需要の3分の1程度です。日本に限っては8割と飛びぬけて高くなっています。1973年、第4次中東戦争がきっかけとなった第1次オイルショックでは、OPECの原油公示価格が3か月余りでバレル当たり3.01が11.65ドルと約4倍に上昇。そして79年のイラン・イラク戦争をきっかけとした第2次ショックでは価格が40ドルと、さらに4倍近くに上昇し、この間世界は石油価格に翻弄され続けました。私のいたJALでは、第一次オイルショック後、全コストに占める燃油費が1割から3割に上昇、大赤字を計上しました。

   その後価格は落ち着き、00年代は20ドル台で推移していたものが、中国などの新興国の爆買いや投機マネーの流入で08年には瞬間ですが最高値147ドルに達しました。ところが直後に起こった世界的金融危機で40ドル台まで大暴落。その後いったんは100ドル程度に回復したものの、アメリカのシェールオイル増産により現在は50~60ドル前後で推移しています。

   こうしてみると価格変動はすさまじいのですが、供給がストップするようなことはありませんでした。それがもしホルムズ海峡の閉鎖で世界の3分の1の供給がストップされるとどんなことが起こるのか、なかなか想像はつきませんが、影響度を測るため、日本の石油への依存度を見ておきましょう。数字は資源エネルギー庁の「日本のエネルギー17年度版」を使います。

   そもそも日本全体のエネルギー消費に占める石油の割合は40%、石炭が25%、LNGが24%と続きます。依然として化石燃料に9割を頼っているのが日本の実態です。そして一兆事が起こった時のための石油備蓄がどの程度かと申しますと、国家備蓄が約100日分、民間備蓄が約70日分で合計170日分と、かなり潤沢です。このため、ホルムズ海峡の閉鎖があったとしても、約半年は持ちこたえられるといえるでしょう。

   ただ私が恐いのは日本人のパニック買いです。73年のオイルショック時に起こったトイレットペーパーの奪い合いや、93年の米騒動など、日本人特有のパニック買いが恐ろしい。ホルムズ海峡が閉鎖されれば、日本中でガソリンの買い占め騒ぎが勃発しそうです。

 つづく

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