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パリ協定離脱、それがなにか?

2017年06月04日 | トランプのアメリカ

  みなさんはホイッスル・ブロアーという言葉をご存知でしょうか。組織内で不正があったような時に、動かぬ証拠をもって内部から権力者を告発する人達のことです。ホイッスルつまり警鐘を鳴らす人の意味です。近頃は、政府や会社のトップでヤバイことをしている人たちはさぞかし戦々恐々としていることでしょう。

  日本では加計学園をめぐり文部科学省内から盛んに内部のメールなどが暴露され、知らぬ存ぜぬを決め込む政府が次第に追い込まれています。安倍記念小学校や加計学園問題により、この政権の本当の姿が見えてきています。今後この問題がどうなっていくかが見ものです。

   アメリカではトランプ政権の内部からも毎日様々なリークが出ていて、大統領府は連日火消しに追われています。例えばパリ協定からの離脱問題でも娘のイヴァンカと国務大臣のティラーソンは反対し、戦略補佐官のバノンは賛成していて内部は割れているというような情報は、リークによってもたらされたに違いありません。そしてなによりもロシア疑惑のリーク合戦です。

   政権内部はトランプのいい加減なツイッターへの対処だけでもたいへんなのに、味方からも裏切られ、ホイッスルが鳴りまくっています。そのたびにトランプは責任者を「ファイアー」していますが、やればやるほど疑惑は高まり、リークは出まくることを理解していません。トランプは今後も就任中ずっとホイッスル・ブロワ―に悩まされつづけることでしょう。我々は毎日なり続けるホイッスルを子守歌に、トランプの末期を楽しく見届けましょう。

   では今回のパリ協定からの離脱をどうみるのかについてです。

  「あー、恥ずかしい」

   私のアメリカ人の友人たちは、例外なくトランプの離脱宣言を「アメリカの恥だ」と言い切っています。ホワイトハウスへのデモ隊もみんな SHAME! と書いたプラカードを掲げていました。

   では、私の勝手な見方を紹介させていただきます。

   一言で言えば、離脱は選挙中から言っていたことだし、議会の承認を受けずに済むことなので、既定路線。

   「離脱、それがなにか?」

  という程度のことだと私は思っています。

   これまでも必要な議会の承認が取れなかったり、裁判所にくつがえされるなど、大統領令では敗北続きなのですから、自由になるパリ協定からの離脱くらい、好きにさせてあげましょう。実際の影響など軽微だからです。

   彼は一番効果的なタイミングを見計らって宣言するに違いないと、私はにらんでいました。何故今が効果的タイミングなのか。理由はもちろん自分が追い詰められた時の最後の切り札だからです。

   イタリーのG7では6対1でさんざんやり込められ、国に帰ればロシア疑惑とそのもみ消し疑惑で追い詰められるのは目に見えています。それらから目をそらせるには、世界中がひっくり返るほどの大ニュースになること間違いなしのパリ協定離脱宣言が一番効果的なのです。

   世界のマスコミはもちろん、政治家、経済界、セレブがこぞってこれを取り上げ反対を表明し、トップニュースになっています。独仏伊3国の首脳も共同で非難声明を出しました。

  しかしトランプにしてみれば、「してやったり!」とほくそ笑んでいるのです。非難ごうごうこそ、まんまと彼の術中にはまったということなのです。

   テスラモーターズのCEOイーロン・マスクとウォルト・ディズニーのCEOアイガーが離脱宣言に即座に反応し、トランプ大統領の経済アドバイザーを降りると表明。私に言わせれば「トランプのひどさなどわかりきったことなのに、なんでアドバイザーになったのか」と言いたいところです。

  テスラモーターズの車こそ、地球温暖化防止の切り札なのに、トランプのアドバイザーを務めるなんて、もってのほかです。もちろん彼は「あらゆる手立てを尽くしてトランプを説得したが、成功しなかった」と言い訳は言っています。

   ご存じない方のために。テスラモーターズは03年に設立されたシリコンバレー発のベンチャー企業で、プラグインの電気自動車を製造販売しています。地球にもっとも優しい、しかもカッコいい車を作っています。そしてベンチャーなのに株式の時価総額は最近世界のビッグスリーGMを抜き去ったという超ツワモノで、日本でも自前で販売しています。トヨタはテスラに以前から出資していて、4WD車を共同開発していましたが、一昨日テレビでテスラ株を売却し提携を完全解消した、というニュースが流れていました。イーロン・マスクはかなり気が強い専制的経営者なので、穏やかなトヨタの気風とは合わなかったのでしょう。

   先ほど「離脱?それがなにか」と申し上げました。その理由です。すでに報道されているように、実際の離脱は次回大統領選の投票日20年11月とほぼ同時という、とても先のお話です。しかしだから「どうってことない」のではありません。

   もっと大事なこと、そして何よりも強調しておきたいのは、世界の先進国とその消費者は環境に対するコンシャスが非常に強いことです。それが今や中進国の国民にも波及しつつあることです。

   たとえば中国でさえ、あまりにもひどい環境・大気汚染に対して政府への批判が渦巻いています。例えばPM2.5への対策に個人も企業も国も真剣に取り組み始めています。一昨日李国強首相がトランプを批判し、環境問題ではパリ協定を順守し「中国は国際的責任を果たしていく」と高らかに宣言。いったいどこの国の首相の宣言だろうと思わせるほどのきれいごとを述べました(笑)。←ほんとに実行してね。

   アメリカ国内でもすでにカリフォルニア、ワシントン、ニューヨークの3州は独自にパリ協定を実行していく旨を知事自ら宣言しました。トランプがパリ協定反対の立場を取れば取るほど、みんなますますエコな商品を選び、エネルギーをセーブし、炭酸ガスを極力排出せず、きれいな空気と水を保つ努力をしています。トランプがどう騒ごうが、「そんなのかんけいねー」のです。

   「恥ずかしー!」と言っているアメリカの友人たちは、この期に及んで石炭を新規採掘し使用するぞと言っているトランプはとんでもないとも言っています。

  もちろんアメリカ人の中にはガスガズラーと呼ばれる巨大な四駆ハマーや巨大ピックアップトラックに一人で乗り、炭酸飲料を大量に買いこみ、ペットボトルを捨てまくる人もいます。しかし普通の人たちはヨーロッパの人たちを見習い自然食品にこだわり、自転車に乗り、自動車でもテスラやプリウスを選び、なるべく温暖化ガスを排出しない生活を心がけています。それこそがクールな生き方だということを多くの人が理解し、実行しています。日本でもエコは商売上のキーワードになっているほど浸透しています。心配はいりません。

   トランプのかわゆいところは、自分が吠えれば吠えるほど反面教師だということを理解していないところにあります(笑)。

   元FRB長官コミーの証言が近づいてきました。この際みなさんで、ロシアゲートの進展をお祈りしましょう!

 

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2 コメント

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Unknown (Owls)
2017-06-04 18:35:06
こんにちは

トランプに批判が多いし、私も個人的には嫌いです
しかし、まだまだもっともだと思ってる人も多いのです
私が非常に気になるのは知性的な人とそうでない人の
意識の差が大きく、知性的な人がそうでない人の意識をあまり読めていないことだと思います

何度も書いてますが日本人の多くは将来に不安を感じています
しかし、それは少々節約すれば何とかなるといった程度の意識でしかなく
少しでも辛いことや嫌な事は先送りができるという考えが支配的です

そうした民意の中で生まれたのが安部政権であり、
その民意を反映する金融政策を行う為に登場したのが黒田総裁です
当然のことながら痛みの伴う財政問題への対処を
先送りしたいという民意と政権の意向が金融政策に反映されます

言ってることはごもっともで反論しようがないのですが、
良識派の知識人の方々はあまりに黒田金融政策を
建前の景気対策としての金融政策として論じすぎるきらいがあります
代表的なのが効果がないから止めろという奴でですね

立場上言えないのかもしれませんが、
財政問題も無かったことにしたいという民意と政治の
非常識な意向が反映されているのを軽視し過ぎているように思います
もちろん、そんな都合の良い話は無く悲惨な結果になるでしょう

つまり、自分自身の護身を考える上では
政治的にどういう政策が取られていくかということを予測する必要があります
知識人の人には理解に苦しむ無知で非常識な人たちが何を選択するかを知る必要があります
日本人の意識がいまのままだと安易な選択をして悲惨な結果というコースが濃厚です
返信する
困った人たち (シーサイド)
2017-06-05 14:49:06
トランプさんがNATO会議でモンテネグロ大統領を手で押し退けて前へ進み出た動画は笑えました。人間性が分かり易すぎです。
日本では日銀の出口戦略について関心が高まっていますが、日銀金融政策審議委員の原田泰氏の発言も人間性が分かり易すぎです。

以下、抜粋
[岐阜市 1日 ロイター] - 日銀の原田泰審議委員は1日午前、岐阜市内で講演し、金融緩和政策の出口局面で生じうる危険性を否定した。付利を引き上げた場合に日銀が赤字を抱える可能性は認める一方、長期的には「日銀が損失を負うことによる危険など存在しない」と指摘。金融緩和政策は「素晴らしい成果を上げている」とし、一部で浮上する政策批判を退けた。原田氏はまた、「デフレ派かと言われてそうだと答える人は現在いないと思う」と述べ、「今や皆、物価を引き上げ、景気を良くすることを望むリフレ派だ」と締めくくった。以上

最近、見た「ベン・ハー」のリメイク映画の中で、戦車競争で義兄弟であるローマの司令官メッサーラに勝利した主人公のジューダ・ベン・ハーをエルサレム市民が歓喜で称える光景を見たローマの執政官マルクスが言った言葉が印象的でした。
Take a look. People want blood. They are all Romans.

いつの世も権力を持つ人達がとる行動は、「承認欲求」というやっかいな人間性が突き動かしているような気がします。
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