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前回のブログの続きです。
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リザネックのメト25周年記念公演のニューヨーク・タイムズ評は二日後の28日(火)にでました。
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1984年2月26日(日)8:00pm
メトロポリタン・オペラハウス
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レオニー・リザネック
メトロポリタン・オペラハウス
デビュー25周年記念
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ワーグナー/パルジファル第2幕
クンドリー/レオニー・リザネック
パルジファル/ペーター・ホフマン
クリングゾル/フランツ・マズーラ
他
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ワーグナー/ワルキューレ第1幕
ジークリンデ/レオニー・リザネック
ジークムント/ペーター・ホフマン
フンディング/ジョン・マッカーディ
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ジェイムズ・レヴァイン指揮
メトロポリタン・オペラ・オーケストラ
メトロポリタン・オペラ・合唱
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ニューヨーク・タイムズ
1984年2月28日(火)
オペラ
レオニー・リザネック25周年記念ゲイラ
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Byジョン・ロックウェル
レオニー・リザネックはありふれた普通のソプラノではない。そしてまた、日曜の夜メトロポリタン・オペラハウスで行われた彼女のMETデビュー25周年記念ゲイラ・コンサートはありふれた普通のイベントではなかった。
この日のプログラムはワーグナーのオペラからパルジファル第2幕とワルキューレ第1幕というもの。
リザネックと聴衆の興奮は、最後には喝采の爆発となった。リザネックは花束の集中砲火に身をかがめていた。
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リザネックのMETデビューはマクベス夫人で、1959年2月5日のことであった。今までにベートーヴェン、ヴェルディ、プッチーニ、ワーグナー、シュトラウスなどの18役どころに216回出演、ツアーをいれるともっと多数となる。このMETでもっともしばしば歌ったのは、さまよえるオランダ人のゼンタ、それに影のない女の皇女である。
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しかしながらこの日のゲイラにリザネックがえらんだのはMETで7回しか歌ったことのないジークリンデと、来シーズンMETで初めて予定されているクンドリーだ。おそらく、リザネックは今、他の素朴で純粋な作曲家よりもワーグナーのドラマが良く合っていると感じているに違いない。ジークリンデは彼女の極端で派手な本能がよく反応することができる部分だ。そしてクンドリー役の大部分を聴くのは魅惑的だ。バイロイトの報告によると、1982年来、ジェイムズ・レヴァインの棒のもとクンドリーを歌っており、それはもっとも熱のこもったものであり、また、彼女の最も偉大なもののひとつとして記憶が約束されているものだ。
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リザネックは現在57才で、今日はいつもと同じように魅力的な歌であった。この日はフェアウエルではなかった。
彼女の声は不思議なもので、底の方に反響し、大きく輝かしく広がるような声だ。高音域は少し正確さに欠けるかもしれないが、低音域は高音域のそれを補って余りある。リザネックはヴォーカル・ラインを強調する歌い手でもないし、抽象的観念的なベルカントの長所を強調する歌い手でもない。彼女は表現的な女優だ。感情の動きの強調のもと、裂くような意味深い言葉を与え、さらに、必然的に歌うことにおいて体をもぎ取るような、また腕を切り落とすようなことをする。しかし、その結果、マンネリのことはさておき音楽に混乱はなく劇を強調することとなる。
彼女のマンネリはオーバーで目新しさのないおきまりの苦痛の表情やしぐさからなるのであって、それよりもなによりもよく知られているのは、リザネックは金切り声をあげるのだ。この日曜の彼女の最初の一音は、誤った警察のサイレンのようでもあり、二つの耳をつんざくような嘆きの声、それはクンドリーの苦痛の目覚めを暗示している。そして、ほとんど最後の局面、つまりジークムントが木から剣を抜くとき、もうひとつの嘆きの声がでる。このときはエロティックな満足感だ。それはクンドリーの金切り声と全く同じだ。苦悩かエクスタシーか、リザネックにとってそれらは全て赤裸々な感情表現だ。
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しかし、その激しさがこの日の公演の企画と同じように明白であり、さらにその歌声が充実していれば、多少の言い逃れで彼女を許すことは簡単だ。
リザネックはジークリンデの「あなたこそ春です。」から最後までまさにその役のフレーズを見事に歌った。
しかし、心を打つ最も印象的なものは彼女の歌うクンドリーであった。普段この音楽を試みて奮闘しているメゾらしくなく、リザネックはクライマックスを妥当化するような輝かしい高音をもっている。そして、この役の性格が集約されている空虚な孤独感を響かせて、素晴らしい表現のために、より低音域の音符を響かせることを学んでいる。
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メトはリザネックのそれまでの公演出演を誉めたたえた。パルジファルとジークムンドはペーター・ホフマンが歌った。彼はこれらの役では今までの誰よりも見た目がいい。また、天性の理解をもって歌うが、真の効果的な印象を作り上げるような関心をひく、長く続く、力強いテノールには少し欠ける。
フランツ・マズーラはペーター・ホフマン同様バイロイトのパルジファル公演のメンバーであり、素晴らしいクリングゾルであった。ジョン・マッカーディの声は朗々と響きわたり、気難しいフンディングを好演した。
メトのオーケストラはステージの上、ソロ歌い手たちの後ろに陣取った。(パルジファルにおける女声合唱と6人の花の乙女たちと同様)
このバランスは驚くべきことになんの問題もなかった。ブラスが最後の場面の剣のモチーフで2,3か所うまく演奏できなかったにもかかわらず、全体の演奏は非常に美しいものであった。両方の幕ともにレヴァインの棒は、彼自身の最もレベルの高いものであり、それはイデオマティック、協力的、真剣で強烈な演奏であった。
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