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1990年ベルリン国立歌劇場公演のスケジュールはここ。
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1990年ベルリン国立歌劇場のトリスタンの公演は渋谷で2回、名古屋で1回の合計3回。
渋谷の2回を聴いてみた。
最初がこれ
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1990年10月28日(日)4:30PM
NHKホール
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トリスタン/ハイッキ・シウコラ
マルケ王/テオ・アダム
イゾルデ/イングリット・ハウボルト
クヴェナール/ハンス=ヨアヒム・ケテルセン
メロート/カールシュテン・メーヴェス
ブランゲーネ/ローズマリー・ラング
羊飼い/ペール・リンツコーク
若い船員/ラルフ・エッシリッヒ
舵取り/ハンス=イェリク・ベルトラム
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エアハルト・フィッシャー プロダクション
ハインツ・フリッケ指揮
ベルリン国立歌劇場
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日曜日の4時半という中途半端な時間帯からの開始。
キャストは半分ぐらいがダブルキャスト。
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ここでテオ・アダムのマルケ王が見れるとは思わなかった。白くシルバーに輝く髪をなびかせ、威厳が有り余るその歌声で、圧倒的存在感を示してしまった。
しかし、聴かせどころが多い役ではない。
シウコラの歌うトリスタンの熱演に最終的には感服した。
エアハルト・フィッシャーのプロダクションはここでもシンプルであるが、ワーグナー、特にこのトリスタンには合う。
何もない舞台に血の尾をひくように最初から苦しげなトリスタン。
イゾルデとの熱演は2回目まで待たなければならないが、今日はトリスタンが舞台を引っ張っていく日である。
何もないところで聴衆の耳目を集め、それなりに歌えてしまうのは実力だけではなく経験。
この大舞台で頼れる人は自分しかいない。
あとは指揮者との駆け引きだけ。
何年か前にアバドがベルリン・フィルと来日し、トリスタンとイゾルデを上演したことがあったが、あのとき、この3幕物があっという間に終わったような気がした。
聴く方の集中度ももちろんあるが、大舞台を聴かせてくれる役の人というのはいるもので、今回のベルリン国立歌劇場公演も始まったら終わったという感じで、ストーリーの長さを全く感じさせないハイレヴェルな舞台であった。
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素晴らしさは歌い手だけではない。
オーケストラの妖艶とでも言うべきつやつやした色合いの音。黒く光輝くサウンドはまさしくビロードのような肌ざわり。
前奏曲が既に終曲の愛の死を想起させる含みのある音、古酒の味わいのブランデーに似たなんともいえない響き。
出だしの音の柔らかさは、4時間後、また別の味わい、芳醇な香りを放つサウンドに変化する。
愛の死がこんなにふくよかで甘美で豊満でいいのだろうか。
あまりにも見事な演奏に開いた耳がふさがらない。
おわり