many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

海景酒店

2022-02-27 18:33:01 | マンガ

関川夏央/谷口ジロー 1986年 双葉社アクションコミックス
ときどき妙に谷口ジローの画がみたくなるときがあるんだが、かといって集めだしたりすると大変になりそうなんで、いままでに持ってるものだけでガマンすることにしてるんだが。
これは、つい最近古本屋で見かけて、聞いたことないタイトルだったし、関川夏央との作だと、お、「『坊っちゃん』の時代」のコンビ、とか気になっちゃったんで、衝動買いしてみた。
「海景酒店」って、なんて読むかとおもったら、HOTEL HARBOUR-VIEW(ホテル ハーバー ビュー)だという、香港のホテルの名前ってことで。
表題作は、そこに泊まってる日本人の男の話、しょっちゅうバーで飲んだくれてて、なにかを待っているらしい。
待っていたのは自分を殺しにくる殺し屋で、とうとうその女性がカリフォルニアからやってきて、男は最後に撃ち合いを望む。
ほかの作品も、パリにすむ伝説の殺し屋の男を始末しにきた女性の殺し屋とか、殺された娘の仇をとるためベネズエラに乗り込む男とか、ちょっと芝居がかったハードボイルド系の話の作品集。
しかし、それにしても谷口ジローの描くオッサンはいいよね、「殺し屋」ぢゃなくて「もと殺し屋」を描かせたら、やっぱ右に出るひとはいないと思う。
収録作は以下のとおり。
グッド ラック シティ
海景酒店
迷子通りのレストラン
つかの間の恋 SCENE 1
つかの間の恋 SCENE 2
東京式殺人 原作/アラン・ソーモン(潤色/関川夏央)

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黄金旅程

2022-02-26 19:24:26 | 読んだ本

馳星周 二〇二一年 集英社
これは去年の年末近くになったころだったか、書店で積んであるのを見かけて。
黄金旅程ってステイゴールドの香港馬名だったよなー、ってことはすぐ気づいたんだけど、なんでいまステイゴールドがと不思議だった。
近寄ってみると、どうやら小説らしい、それでしばし迷ったんだけど、買ってみることにした。
なんで迷うかっつーと、競馬のフィクションものは現実の競馬と比べたらおもしろいとは思えないんで。
それで読んでみると、ほんとにステイゴールドを題材にした話だった、まんまモデル、お話のほうの馬は栗毛だけど。
主役の馬名はエゴンウレアといって、これはスティービー・ワンダーの『ステイゴールド』をバスク語に置き換えたものだという、私はバスク語知らんけど。
で、この馬が、2勝目をあげたあとは、ちっとも1着がとれなくて、でも重賞の2着が多いんでオープン馬であり、ジャパンカップとか有馬記念を使うことを何の躊躇もなく選択肢にしていることから、収得賞金はかなり持ってるらしい。
ただ勝てないんぢゃなくて、GIハナ差2着の実力ありながら、斜行するのはあたりまえ、並んで走ってる馬に噛みつきにいったり、GIIで1位入線4着降着やったり、いろんなことやらかすんで、そこでかえって人気がある。
関係者にとっては、レースだけぢゃなくて、調教んときとか手入れのときとかにも油断すると噛んだり蹴ったりしてくるんで、接近注意である、猛獣。
>人に抗い、人を馬鹿にし、人に攻撃さえする。それなのに、人を引きつけてやまない。
>エゴンウレアはそういう馬だった。(p.255)
そういう設定とされている、引きつけられるのは馬券買う側の人たちだけぢゃなくて、たずさわる人たちのほうでは、こいつが本気で走ったら絶対すげえと、能力を信じてる側面も含まれる。
そんなひとり、若馬のときに触って筋肉とか関節に感心した、語り部の「わたし」は、浦河で養老牧場をやっている装蹄師。
もと競馬学校騎手課程生徒で、体重で退学、装蹄師の道に進んだが、ホッカイドウ競馬で開催終了後に騎手をぶん殴って、故郷に戻ってくることになった。
やってる牧場は、幼馴染の両親が経営してた生産牧場を継承したんだが、その幼馴染はいっしょに騎手過程に入った。
そちらはめでたく騎手になって、天才とまで言われてたんだけど、覚醒剤の使用で廃業、2回目の逮捕で実刑、最近刑務所から出て、日高に戻ってきた。(覚醒剤とは極端な設定だな、もうちょっとおとなしい非行でいいのに、と私は思った。)
主役の競走馬エゴンウレアは、「わたし」の国道挟んだ向かいの牧場の生産馬、種付料2000万の種牡馬をつけて勝負をかけたこともあり、社長のこの馬への期待は並大抵ではない。
やっぱそこか、日高か、と私なんかは思ってしまうが。だって、競馬のフィクションって、地方から中央への挑戦とか、小さな牧場の夢とか、モチーフがありきたりなのがおもしろくないから。でもここは種牡馬奮発したのはよしとしましょう、地味な血統の安い馬が大手のエリートを負かすとかいうのもあるあるパターンでしらけるし。
「わたし」が養老牧場(といっても物語の始まりでは繋養馬自己所有の1頭だけだが)やってるってのが、もうひとつのテーマで、競走馬の余生を考えましょうってことで、ただの競馬で勝った負けたってだけの話にならずにいる、向かいの牧場の娘さんなんかは馬は好きだけど競馬は嫌いってことになってるしね。
地名は実在だし、人・団体はモデルがすぐ浮かぶものもあるし、なんか読んでっと小説というよりドキュメンタリーみたいな気がしてくるんだが。
ときどき、厩舎ことばや北海道弁を登場人物が使うと、そのあとに、これはこういう意味であるって説明が入たりするんで、このせいかもって思った。


※おまけ(2013年7月)

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双六で東海道

2022-02-20 19:06:06 | 丸谷才一

丸谷才一 2010年 文春文庫版
丸谷さんの随筆集、古本を買ったのはもう2年以上前になる、なんかヘンな言い草になるが、もったいないような気持ちになってしまい、読まずにとっておいたような状態が続いてた。
単行本は2006年、初出は「オール讀物」の2005年から2006年にかけての連載だそうだけど、一遍あたりがけっこう長めの分量に思える。
そのせいか話題がいろいろと横道にそれる余裕がある、なので、しょっちゅう、「本筋に戻します」とか「余談終り」とかって言い方が出てきたりする。
それどころか、
>そんなのは厭だ、筋違ひであるとおつしゃるかもしれないが、まあ、いいぢやないですか。わたしの文章なんか読んでる所を見るとお暇でせう。つきあつてよ。(p.122-123)
とか、
>これも学問のうちと、我慢してつきあつて下さい。もちろん、おいやでしたら、ほかの読物にお移りあれ。わたしは平気ですよ。ちつとも気にしない。(p.252)
とかって調子で語りかけられちゃうと、なんだか談志家元がときどき噺をはなれて違うこと話題にしはじめるときのような芸を感じちゃう。
もっとも、『桜もさよならも日本語』の文庫巻末解説で、百目鬼恭三郎さんが、
>概して丸谷氏の文章には座談風の趣きがあるため、思い浮かぶにまかせて奔放に書きなぐったように想像されがちだが、その実は驚くほど綿密な下調べと精緻な計算によって成り立っている文章なのである。
と評してますが、まさにそのとおり。
本書でもいろんな文献で調べたことをさらっと披露したうえで、御自分の意見を述べてくれますが、それやられると読んでみたくなる本がまた増えてしまうのは困ったもんだ。
その名も「必読の書」と銘打った一遍であげられているのは、生方敏郎『明治大正見分史』(中公文庫)なんだが、若手の日本近代史研究者は必読だという。
新聞記者として働いていた著者が、明治天皇大喪の日に乃木将軍が殉死したって情報が入ると、新聞社内では、乃木さんはバカだとか、忙しい日に余計なとか、みんなブツブツ文句言ってたのに、翌日の朝刊を読むと軍神乃木将軍に尊敬をこめた美辞麗句の記事がいっぱいだった。
だから、自分でその時代を体験してないのに新聞報道の史料だけで研究をするのはあやうい、言論の自由なんか無かった時代のことはなおさらだというわけだ。
「一冊もののエンサイクロペディアとしては最高ぢやないでせうか」とすばらしい出来をたたえてる『コロンビア百科事典』にも興味もたされるんだが、これはバクスターの家では本をドア・ストッパー代わりに使ってたという話からの余談。
>本のかういふ使ひ方はわたしもしてゐます。
>『コロンビア百科事典』の第四版を、ベッドのマットレスの下に置いて、頭部を持ち上げてゐる。胃液の逆流を防ぐにはこれがいいと主治医の先生に教へられて実行してゐるのです。もちろん先生は、辞書を使へとはおつしやらなかつた。(p.123)
という具合なんだが、さらにバクスターがグレアム・グリーンの『ブライトン・ロック』を愛読してたことの余談として、
>『ブライトン・ロック』はわたしがはじめて訳した本です。(略)
>わたしは読み出した途端、第一章のすごさに興奮した。それで会ふ人ごとに「すごいぞ」としやべつてゐるうちに、何しろ当時はみんなが新文学に飢ゑてゐたから、筑摩書房の石井立さんが出してくれることになつたのです。(p.125)
なんて紹介してくれちゃうんで、余談とはいえまったく油断がならない。
あと、本題としてとりあげてるなかで、読んでみたくなるのは、
>森さんは日本の代表的な考古学者ですね。文章がいいのでわたしは敬愛してゐます。それに食べ物に対する関心が強いこともわたしの趣味に合ふ。
>数多い著書のなかで、とりわけわたしのお気に入りは『食の体験文化史』123(中央公論社)。食物を入口にして考古学と歴史を語る。(p.227-228)
とか、書評にとりあげる適当な本が見つからないときに、
>(略)名前の知らない著者の、(略)装釘もあまり冴えない本を読み出すと、意外や意外、これがじつにおもしろい、第一、文章が生きがよくて、景気がいい。わたしは立つたまま十ページ以上も読み、それから仕事部屋に戻つてベッドに寝ころび、息もつがずに最初の章を読み終へ、念のためもう一章読み、この本に決めた、と思つた。
>これが高島俊男著『水滸伝の世界』。
>絶讃の書評を書いたが、ちつとも評判にならない。
>これほどの本を書く人物が世に知られてゐないのは残念だと思ひ、ジャーナリストに会ふたびにこの本とこの著者を褒め、彼に何か書いてもらへとすすめた。(p.287)
といったところ、たぶん探してみることになるだろう。
コンテンツは以下のとおり。
遅刻論
必読の書
ほら、ほら、あの……
宴会の研究
たまにはお金の話
桜餅屋の十五の娘
ワイン・グラスの話から本の話になつて
周恩来も金日成も田中角栄も
ハンモックの研究
春嶽と小楠
男女の仲
森浩一さんの研究を推薦する
読初め
蝶が夢みる
孔子とコノワタと大根おろし
ヤガーばあさんの研究
「おしまいのページで」の創案者

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脅迫された継娘

2022-02-19 19:01:27 | 読んだ本

E・S・ガードナー/宇野利泰訳 昭和60年5版 ハヤカワ・ポケットミステリ版
また古いペリイ・メイスンシリーズのつづきを読んだ、なんかブログネタがなくなりそうになると出してくる気もするけど。
原題「THE CASE OF THE STEPDAUGHTER'S SECRET」は1963年の作品、日本語タイトルには「ままむすめ」ってルビがある。
メイスンの依頼人は有力実業家のバンクロフト氏、めずらしいことで、たいがいは若い美女が依頼人なんだけど。
その事業の大きさは、メイスンの秘書デラによれば「支配下にある会社の数は、犬にたかっているノミよりも多いくらい」だという、税金関係だけで弁護士7人使ってるそんな金持ちが刑事事件弁護士に何の用があるのか。
依頼人の話では、彼には隠している過去があり、若いころには自動車泥棒で刑務所入りしたこともあるという。
7年前に結婚した夫人の連れ子の娘は23歳になって、現在名家の子息と婚約中、お約束の若い美人はここにいたわけだ。
娘の様子がおかしいので、留守中に部屋をさがしてみたら、家族の不名誉が明らかにされたくなかったら1500ドル用意しろ、って脅迫状を見つけた。
これは自分の若いころの経歴を知ったものが、自分よりも家族のほうが強請りやすいと狙って送ってきたんぢゃないかと、娘は要求に応じてしまうだろうと。
あくまで自分の過去を家族にも打ち明けるのはいやだし、警察沙汰にして世間に知られるのもいやだしって依頼人に、メイスン弁護士は恐喝者と取引するには四つ方法があると答える。
第一に素直に金を払う、これはきりがない、第二は警察へ届ける、そして相手を罠にかけて捕まえてもらう、第三は恐喝者のほうを勝手なこと言えない立場に追い込む、第四は恐喝者を殺してしまう、これは推薦できませんって一応ちゃんと言うけど。
警察に届けるのがダメってことで、このメイスンに任せるというのなら、第三の方法をとりますよ、多少の危険があっても戦う、ってことで依頼者の了解をとる。
脅迫状のなかみが、紙幣1500ドルと銀貨10個をコーヒー罐に入れて密封して用意しろとあったのと、依頼人が湖畔に別荘を持ってそこに滞在してる状況から、これは金の入った罐を湖面に浮かべさせてそれを回収する作戦だと見抜く。
継娘が金を湖に投げ入れるところを監視しといて、ボート釣りか何かに見せかけた仲間の探偵がそいつを先に拾っちゃう、それで警察に届けちゃえば、犯人は困るだろう、って計画を立てる。
メイスンの見込みどおり、犯人に電話で指示された継娘は湖に罐を投げ入れ、探偵と一緒に水上スキー遊びのふりをした女性がすぐにその場へ行って回収に成功する。
罐を開けると脅迫状と1500ドルが入ってたんで、メイスンは脅迫状の文句を3000ドルに書き換えて、自分の財布から1500ドルを足して計3000ドルにしてしまい、タレント志望の若い美女に、水上スキーやってたらこんなものを拾ったと届けさせろと指示する。
新聞にでかでかと報道されたんで、依頼人は名前は出てないけど湖畔に別荘もってるから詮索されるって怒るんだけど、弁護士から、要求額が最初と変わってるって報道をみて、脅迫者たち内部で仲間割れが起きるだろう、犯人を追い込むのだと説明されると納得して、今後も任せるという。
そのあとにメイスンの事務所には、いよいよかの継娘ロージーナが乗り込んでくる、父が私あての脅迫状を見たこともわかってるし、ここに相談しに来たことも知ってるけど、この件は私が対処するんだから余計なことはしないでちょうだい、とカンカン。
そのまたあとにメイスンの事務所には、ロージーナの母であるバンクロフト夫人がくる、娘の婚約者には素行のよろしくなかった弟がいて、空軍に入って死んだと思われていたが実は名前を変えて生きていて、最近また何か強盗事件に関わっているらしい、この不名誉を伏せておきたかったら1000ドル出せって私は脅迫された、夫がここに相談しに来たことも知ってるけど、余計な大騒ぎを起こしてくれたがために事態が複雑になっちゃった、そういうことを知っといてよ、とこれまた不機嫌。
それを聞いてメイスン弁護士は、依頼人がゆすりのネタを誤解していたことに気づくんだが、翌朝になって依頼人がやってきて、夫人が昨夜脅迫者を殺してしまったという。
所有するヨットのなかで脅迫犯人と出くわして、船が大きく揺れた拍子に、護身用に持っていたピストルの引き金をひいて撃ってしまった、こわくなって船上から海に飛び込んで家まで帰ってきたと。
すぐ警察へ届け出れば正当防衛を主張できたのにとメイスンに言われても、錯乱した状態で警察に行かせたくなかったとか深みにはまるような判断をしてしまった依頼人に、いつものとおりメイスンは、自分には真実をすべて言え、警察や新聞には何にも言うなってアドバイスをする。
誰のどんな質問にも答えないのは心証を悪くするんぢゃないかって心配する依頼人に、「それが正しいことはまちがいない。しかし、論理だけでは、けんかに勝てませんよ」とメイスンは言ってきかせる。
かくしてバンクロフト夫人を被告にした予備審問が始まるんだけど、保安官たち捜査陣がヨットのあったと思われる場所の水中を捜索しなかった手落ちを指摘して、メイスンは逆転をねらう。
しかし、しかるべき時がくるまで被告は何も言いませんって態度を貫いてきといて、明朝まで審理を延期してくれれば、このあと被告は記者会見をします、ってのはシリーズ内でも珍しい荒技だと思う。

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21 Lessons

2022-02-13 19:03:21 | 読んだ本

ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之訳 二〇二一年 河出文庫版
サブタイトルは、「21世紀の人類のための21の思考」。
ユヴァル・ノア・ハラリについて私は『サピエンス全史』しか読んでなくて、その次のやつ読まなくちゃなとか思ってはいたんだけど、去年の12月だったか、そのまた次の本書が文庫になってんの見つけて、それならとサクッと買った。
単行本が2019年刊行だったというのでずいぶん早い文庫化だと思うが、そういうのはありがたい。
現在の世界の問題にどう立ち向かうかってなかで、おそらく著者の最大の関心事はAI人工知能が発達して利用されてったら、人間どうなっちゃうのってとこらしい。
産業革命のあと労働者階級の搾取が起きたとかってよりも、今後はAIがぜんぶ仕事引き受けたら「無用者階級」が増えちゃうってことのほうが問題大きいんぢゃないかと。
自身の著書の宣伝文をつくるときでも、担当者は人を対象としてなくて、グーグルのアルゴリズムに注目される言葉を選択するようにしてる、なんて経験も明かしてますが。
古代では、土地が重要な資産で、土地を支配するために争った、近代では、機械と工場が重要で、そういう生産手段を支配するために争った、と歴史をひもとき、
>もし、一握りのエリート層の手に富と権力が集中するのを防ぎたいのなら、データの所有権を統制することが肝心だ。(略)二一世紀のもっとも重要な資産はデータで、土地と機械はともにすっかり影が薄くなり、政治はデータの流れを支配するための戦いと化すだろう。(p.138-139)
と説明してくれる、データをもってるのが貴族、データもってないのは庶民、と階級が分かれるってか、ふーむ。
私にとっては政治の話が興味あって、自由主義と民主主義はいいんだけど問題点もいろいろあるんだよって指摘をしてくれてるのがとても刺激的。
イギリスのEU離脱の国民投票について、「どう感じますか」と人々に問うたのであって「どう考えますか」ぢゃないという。
>国民投票や選挙は、人間の合理性にまつわるものではなく、つねに感情にまつわるものだ。もし民主主義が合理的な意思決定に尽きるのなら、すべての人に同じ投票権を与える理由は断じてない。(p.90)
とかって、それ言っちゃいますか、って感じだが真理だ。
人間の意志決定って、合理的な分析なんかぢゃなく、情動と経験則でくだされる、って公共選択とかの数理モデルの講義で意見したら退場を命ぜられちゃうかもしれないが。
べつのとこで、
>合理性だけではなく個人性というのも神話だ。人間はめったに単独では考えない。私たちは集団で考える。(p.350)
ってフレーズもあるんだけど、これも素敵だ、なかなか言えることぢゃない。
でも、現実の目の前の政治についてのアドバイスもあって、
>次の選挙が巡ってきて、政治家が自分に票を入れるように請い求めたら、彼らに次の四つの質問をしてほしい。
>もし当選したら、核戦争の危険を減らすためにどんな行動を取るか?
>気候変動の危険を減らすためにどんな行動を取るか?
>AIや生物工学のような破壊的技術を規制するためにどんな行動を取るか?
>そして最後に、二〇四〇年の世界をどう見ているか? あなたの考えている最悪の筋書きはどんなものか? 最善の筋書きは、どのように思い描いているか?(p.213)
ってことで、この疑問に答えない政治家には投票しちゃダメだという、だいじょうぶかな我が国は、「差し控えさせていただきます」一点張りで逃げそうなひとがいる気がする。
政治だけぢゃなくて、古来から神話とか宗教とか想像上の秩序があってこそ人は社会を作ってこられたってあたりのことは前に読んだ本にもあったと思うけど、
>優れた物語は、私に役割を与えなければならないし、私の視野の外まで延びていかなければならないものの、真実である必要はない。物語は純粋な虚構でありながら、それでも私にアイデンティティを提供し、自分の人生には意味があると感じさせることができる。(p.447-448)
みたいに物語が崩れたら大変って指摘してくれるところが、けっこう印象に残った。
コンテンツは以下のとおり。
I テクノロジー面の難題
 1 幻滅――先送りにされた「歴史の終わり」
 2 雇用――あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない
 3 自由――ビッグデータがあなたを見守っている
 4 平等――データを制する者が未来を制する
II 政治面の難題
 5 コミュニティ――人間には身体がある
 6 文明――世界にはたった一つの文明しかない
 7 ナショナリズム――グローバルな問題はグローバルな答えを必要とする
 8 宗教――今や神は国家に仕える
 9 移民――文化にも良し悪しがあるかもしれない
III 絶望と希望
 10 テロ――パニックを起こすな
 11 戦争――人間の愚かさをけっして過小評価してはならない
 12 謙虚さ――あなたは世界の中心ではない
 13 神――神の名をみだりに唱えてはならない
 14 世俗主義――自らの陰の面を認めよ
IV 真実
 15 無知――あなたは自分で思っているほど多くを知らない
 16 正義――私たちの正義感は時代後れかもしれない
 17 ポスト・トゥルース――いつまでも消えないフェイクニュースもある
 18 SF――未来は映画で目にするものとは違う
V レジリエンス
 19 教育――変化だけが唯一不変
 20 意味――人生は物語ではない
 21 瞑想――ひたすら観察せよ

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