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結婚生活の期待水準を上げると逆効果になる、と

2010-03-23 19:55:57 | 読書ノート
赤川学『子どもが減って何が悪いか!』ちくま新書, 筑摩書房, 2004.

  少子化対策に関する議論の検証と提言。以下要約。

  まず前半を使って、男女共同参画社会をつくることは、少子化対策とはならないと説く。男女共同参画社会は、男女平等社会、特に女性が働きやすい社会をつくることを目指すものである。その推進者はそうした政策の充実が子ども数を増やすと主張するが、著者はそれが統計的に支持されないものであることを明らかにする。女性が社会に進出すれば、子どもの数は減る、これが各国比較から導かれる常識的結論である。

  後半では、少子化対策の難しさを認めて、女性の社会進出が避けられないならば、少子化を折り込んだ社会制度を作るべきだと主張される。著者は先進国で子ども数が減ることは避けられないとし、男女が平等である社会を支持している。問題とされているのは、本来相反する目標である男女平等と子ども数の増加を結びつけるトリッキーな議論なのである。

  政府が育児支援を積極的にするべきという議論は永らく存在するが、それに対する反論として下記は面白かった。

結婚支援や子育て支援が、これから結婚や子育てをしようとする人たちの、結婚や子育てに対する期待水準を不可逆的に高めてしまい、かえってそれを遠のかせる(中略)。結婚や育児に対する支援を増大したり、仕事と子育ての両立ライフを支援することは、結婚生活や家庭生活に対する期待水準を高めてしまう。(p.145)

  子どもを持った場合の平均的な生活水準(だと人が予想するもの)が上がれば、結婚や育児に対するハードルが上がるという議論である。一種の所得効果があるということだ。おそらく、育児支援の難しさはここだろう。財政難によって育児支援が維持できない時、すでに社会の期待水準は上がってしまっており、少子化の程度は以前の水準に戻らず、酷い落ち込みを見せるかもしれない。恐ろしいのは、既に財政的に維持可能でないと有権者が見透かしている場合である。育児への支援は出生数に影響せず、貯金にまわるだけだろう。そして支援を止めたとたんに、期待水準上昇のせいで出生数が激減する。期待したほどの効果が無いばかりでなく、害もあるということだ。
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