窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

地域自立・自走の人づくり、仕組みづくり-第152回YMS

2023年07月13日 | YMS情報


 7月12日、「夢・あいホール」にて第152回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は、株式会社ジェイアール東日本企画の林聖子様。「地域の自立・自走を目指す伴走型支援」と題して、地域創生の取り組みについてお話しいただきました。「地域創生」をテーマとしたものとしては、第143回YMS「主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~」も併せてご覧ください。

 さて、林さんと地域との関りは、最初の会社を退職後、事務局長を務めたNPO法人で様々な地域活性の取り組みをしたときに端を発するそうです。その後、農水省の関連会社を経て、現在は冒頭のジェイアール東日本企画のソーシャルビジネス・地域創生本部というところにいらっしゃいます。今回はそこでの福島県における地域創生の取り組みに事例についてお話しいただきました。

 ジェイアール東日本企画はJR東日本グループの一員の主に広告代理店です。鉄道のイメージが強いJR東日本ですが、そこから派生し、67ものグループ会社がありとあらゆる分野で事業を手掛けています。地域創生本部は、そうしたJR東日本の持つ強みを活かし、地域創生事業に取り組んでいます。例えば、駅を利用した産直市、社内販売の衰退によりスペースの空いた新幹線車内の車販準備室を有効利用した新幹線物流などです。この新幹線物流は、僕も何かの報道で聞いたことがありますが、高速かつ時間に正確である、揺れが少なく例えば活魚などにストレスを与えにくいといった新幹線ならではの強みが活かされています。

 地域創生事業は今回のタイトルに「伴走型支援」とある通り、単なる企画ではなく、地域の自立・自走を目指し、以下の4つの原則を大切にしています。

1.人づくり
2.主体性
3.事業化
4.地域性

 今回事例として取り上げられたのは、経産省から受託した「令和4年度『地域経済産業活性化対策委託費(6次産業化等へ向けた事業者間マッチング等支援事業)』」の一環で、東日本大震災とそれに続く原発事故で避難を余儀なくされ、今なおその爪痕が残る福島県の浜通りと呼ばれる地域の活性化支援事業です。そこには、これからお話しするように先の4つの原則がしっかりと貫かれています。

 さて、支援の背景をご説明しますと、震災での避難により同地区で多くの企業の事業がストップし、その間に取引先が失われてしまいました。その仕入先や販売先の寸断が、避難指示解除後も事業再開の障壁となっていました。地域の特徴としては、食品加工業が多く約6割を占め、その他は伝統工芸などが多い構成です。なお、避難された方の中には域外で事業を再開された方も多く、そうした方々も支援の対象となりました。

 もちろん、様々な方面の専門家や協力会社とも連携して支援事業は進みます。地域の自立・自走への道は、以下の三段階を経て行われます。

1.経営への動機付け(勉強会・交流会の開催。小さな成功事例の積み上げ。営業力・商品力をつける)
2.事業者の力がついてきたら、ネットワーク化
3.地域ブランドの創出、ネットワークを機能させるハブの育成、自立自走へ。

 さて、寸断された取引先を再構築するため、様々なマッチングに取り組んだものの、当初は上手くいきませんでした。その過程で次のような課題が浮かび上がりました。

1.卸価格が高く、売れる商品がない
2.製造者の想い先行で、差別化が弱い(購入側に訴求できない)
3.継続しない(お付き合いで買ってもらえても、売れないので続かない)

 そこで、変革の基本として3つの軸を設けました。事例をいくつか見ていきましょう。

1.売り物を変える
2.売り先を変える
3.売り方を変える

 地元産の荏胡麻油がありました。元々、「かどやの純正ごま油」のような容器に入っていましたが、ゴマ油やサラダ油と違い、荏胡麻油はそんな大量には使いません。健康や美容に良いとして人気はある者の、使用量が少ないので、時間が経つと酸化してしまいます。そこで、容器を小型化して売り出すことにしました(売り方を変える)。これは類例がなく、山形県の有名なシェフにも評価されたことから口コミで広がり、ヒット商品となりました。

 高級食材として人気のある川俣シャモを使った「鶏ジャーキー」は、最近一般人にも人気が高まっているアスリート食として訴求し(売り方を変える)、そこから派生して、それまで食品をおいていなかったアウトドア用品店に販路が広がりました(売り先を変える)。
 
 コロナで観光がなくなり大打撃を受けたご当地グルメのなみえ焼きそば。こだわり系の高級スーパーへ(売り先を変える)中身が見えるようにパッケージを変え(売り方を変える)ヒット。首都圏のみならず、関西圏、福岡にも広がる。

 続いて、ネットワーク化として域内のマッチングを増やしていった例です。従来域外で加工していたものを域内で加工だけでなく、そこから新たな商品を生み出し差別化していきました。

 原発事故で大きな被害を受けた牛乳・乳製品の製造販売会社。主力商品は「アイスまんじゅう」といって、地元で60年以上親しまれてきました。しかし、アイスクリームは冷凍のため販路エリアが限られるという欠点もありました。そこで牛乳を使った常温商品はできないかということで、県内の常温で120日もつという技術を持つプリン製造業者とマッチング。地元で知名度のある同社の社名を冠したカスタードプリン(売り方を変える)を発売しました(売り物を変える)。常温で120日もつということは、小さな商品のために特別な設備を必要とせず補完できるということです。これが強みとなり、大手コンビニエンスストアにも販路が広がりました(売り先を変える)。

 さらに、地元で150年続く醤油味噌店とコラボレーション。県内限定(売り方を変える)で醤油プリン、山塩プリン、ピーナッツプリンなど地元の食材を掛け合わせた変わり種プリンを次々とシリーズ化させました(売り物を変える)。



 さて、ここまでは地域の自立・自走のための第二段階までを主にお話ししてきました。後半は作り上げたネットワークを持続可能なものとする第三段階のお話しです。地域活性化支援のありかたを「公助」、「共助」、「自助」に分類するとするなら、伴走型支援は「共助」にあたります。老子のいう「人に授けるに魚を以ってするは、漁を以ってするに如かず」ですね。ネットワークを俯瞰してコーディネートできるハブ(地域商社)をプロジェクトの中で同時に育成していきます。さらにはそうしてできた浜通り、中通り、会津の地域商社を連合させ、全福島で機能する仕組みに育てていきます。

 そうした、地域間連携の例をいくつかご紹介しましょう。

●ドッグカフェ×水産加工業者=未利用魚を使ったペットフードの開発
●コーヒーショップ×和菓子メーカー=コーヒーにあう羊羹の開発
●水揚げ地×水産加工業者でそれぞれの強み弱みを補完=震災でタコが採れなくなったいわきの水産加工業者で相馬のタコを加工
●水産加工業者×2=給食需要がない時の余力を観光向け魚肉ナゲットの製造に

 このようにネットワークを俯瞰的に見て、どこが困っているかを把握し、つなげるのが地域商社の役割です。伴走型支援は、このように走りながら同時に人材の育成にも取り組みます。

 さらには、JR東日本自身がもつ様々なリソースを活用できるのも強みです。例えば、2020年3月、被災した常磐線が全線開通(復旧)しました。そのイベントに載せて、福島の様々な食材でオリジナル駅弁を作りました。その駅弁は「駅弁グランプリ」に出展され、その他の商品も「JR東日本お土産グランプリ」に出展されました。こうしたところでの受賞歴は、地元商品のブランド力向上に貢献します。

 また別の例では、たまたま震災を生き残った唐辛子の苗をみんなが元気に語れるような話題として活用しようと、地元の女性の発案で唐辛子をみんなで育てる「唐辛子プロジェクト」が始まりました。これが拡大するにつれ唐辛子の収穫量が増えたので、地元のお土産商品とするだけでなく、駅構内のお蕎麦屋さんで「ごま辣油つけそば」としてメニュー化してもらいました。さらに蕎麦と言えばお酒、大堀相馬焼の徳利と猪口、福島の地酒もお店で扱ってもらうことができました。逆にJR東日本は販路を持っていますが、こうした新しい商品を自ら見つけることができないのです。そこをこちらが補うことができます。

 最後に。伴走型支援を成功させるには、何といっても自立・自走を目指すわけですから、地元の中に推進役、そして外部からの協力者を引き入れられる人がいることが重要だそうです。YMSに参加されていた何人かの方もおっしゃっていましたが、さまざまな地域でさまざまな人たちそれぞれ努力して何とか地域を活性化しようと奮闘しておられます。しかしながら、そうした努力も閉じられた世界の中で行われているために発展しない、あるいは持続しない例が多くあるそうです。そうした点では、今回のお話しは大変参考になるのではないかと思いました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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