電脳筆写『 心超臨界 』

勇気とは恐怖に抵抗してそれを支配することである
恐怖が消えるわけではない
( マーク・トウェイン )

ものづくり経営学の活動と成果は、日本に偏在する傾向がありそうだ――藤本隆宏さん

2008-11-28 | 08-経済・企業・リーダーシップ
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経営学のフロンティア「『ものづくり経営学』の本質」
東京大学教授・藤本隆宏

  [1] 現場、現実を重視
  [2] 発信力強化 急務に
  [3] 良い設計・良い流れ
  [4] 組織能力論の系譜
  [5] 統合型能力の進化
  [6] アーキテクチャ
  [7] 設計立地の比較優位
  [8] 今こそ能力構築を


「『ものづくり経営学』の本質」――[1] 現場、現実を重視
【 やさしい経済学「経営学のフロンティア」08.11.27日経新聞(朝刊)】

これから8回、ものづくりにかかわる経営学を紹介する。仮にそれを「ものづくり経営学」と呼ぶなら、恐らくそれは経営管理論の一部で、生産管理や技術管理が中核となろうが、広くは経営戦略論、経営組織論、国際経営論、管理会計論、組織経済学、進化経済学、そして工学系の生産工学、設計論などとも関連する。その意味で分離融合の学際領域といえる。いまだ確立した学問でも学派でもないが、本稿ではこの呼称で通すことにしたい。

ものづくり経営学の特徴は、現場・現実の重視にある。一般に、顧客に向かい付加価値、あるいはそれを担う設計情報が流れる空間のことを「ものづくり現場」と呼ぶ。そうした現場での実体観察、当事者への聞き取り、生データの収集などを主にチームで行い、それを学問的考察の出発点に据えることが、ものづくり研究者の基本動作となる。筆者もほぼ週1回のペースで生産、開発、購買、販売、サービスなどの現場を踏査している。

ものづくり経営学の活動と成果は、世界的に見ても日本に偏在する傾向がありそうだ。その意味で、日本から世界発信できる経営学の1つではないかと筆者は考えている。そもそも「ものづくり」とは何なのかは、後で説明するとして、ではなぜ、ものづくり経営学が21世紀の日本から発信可能なのだろうか。

その一因はほかならぬ経済のグローバル化にある。グローバル化は国境を越えて物財・情報・資金などが活発に動く世界的な現象を指すが、それが進む時、むしろ「国境を越えにくいもの」が一国一産業の比較優位を左右するというのが、D・リカード以来の貿易論の洞察であった。

そうであるならば、グローバル化の進む21世紀前半、各国の産業構造は均質的ではなく、むしろ異質化へ向かうのではないか。そもそも産業とは空間を共有し、同種の設計情報を生み出す「現場の集合体」であり、各国の産業構造の分化とは、要するに国ごとに異なるタイプの現場が偏在する傾向を意味している。国や地域により現場の能力が異質化するとき、現場に密着する実証経営学も当然、地域により特色が分かれる傾向を免れない。その流れの先に、日本発・現場発のものづくり経営学があると私たちは考えている。

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藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)
55年生まれ。ハーバード大学院博士。専門は技術・生産管理論。
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