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年収5000万円もザラ、米AI人材のヤバい報酬
シリコンバレーでもAIがわかる人材は希少
2017年11月01日
http://toyokeizai.net/articles/-/195366
人材獲得競争で、シリコンバレーにあるスタートアップ企業は、業界の大手企業よりもこれまでつねに有利な立場にあった。就職の際に自社の株式を提供し、「会社が成功したら、その株式であなたは金持ちになれる」と言うことができたからだ。
しかし、その有利な立場も、テクノロジー業界が人工知能(AI)を取り込もうと競う中で弱まりつつある。少なくとも、AIに非常に詳しい人材に関しては――。
驚くほどの給料を支払っている
業界の大手企業は人工知能に大きく懸けており、顔認証のスマートフォンや対話型スピーカーから、医療のコンピュータ化や電気自動車まで、さまざまなものへの応用に期待を寄せている。こうした未来を描く中で、これまで最高の人材には堂々と惜しみなく大金を提供してきた大手企業も、さらに驚くほどの給与を支払い始めている。
大学で博士号を取得したばかりの人や、それほどの学歴がなく仕事の経験も数年程度の人であっても、AIの専門家であれば年間30万~50万ドル(約3300万~5500万円)、あるいはそれ以上の給与と会社の株式を手にすることができる。この数字は、大手テクノロジー企業に勤める人、あるいはそうした企業から仕事の誘いを受けた人、合計9人に話を聞いた結果得られた。9人全員が、今後のキャリアに影響しないよう匿名を希望した。
AI分野でよく知られている人々は、4~5年間の給与と株式を合計した報酬額が100万ドル台、あるいは1000万ドル台だった。どこかの時点で、彼らは契約を見直したり、交渉し直したりしている。まるで、プロのスポーツ選手のようだ。
AI人材の中でもトップに位置するのが、AIのプロジェクトを率いた経験がある人だ。グーグルは、同社の自動運転車部門の元リーダーで、2007年からグーグルに勤務していたアンソニー・レバンドウスキーが、1億2000万ドル(約132億円)以上の報酬を手にしたと、今年の訴訟の中で明らかにした。レバンドウスキーは自身が共同設立した企業がウーバーに買収されたことからウーバーに参画し、ここからウーバーとグーグルは知的所有権をめぐって法廷で争うことになった。
報酬額が急上昇しているため、なかにはAI人材にもNFL(全米フットボール連盟)方式の年収額の上限制度を設けるべきだと冗談を言う人もいる。マイクロソフトの採用担当マネジャーのクリストファー・フェルナンデスも「そんな制度があったらずっと簡単なのに」と話す。
専門家は本当に少ない
このような巨額の報酬を招く要因はいくつかある。たとえば、自動車業界は自動運転車を開発するために、必要な人材をシリコンバレーと奪い合っている。また、フェイスブックやグーグルなどの巨大テクノロジー企業は、報酬として支払える豊富な資金を持っており、AIで解決できると考えられる課題も抱えている。たとえば、スマートフォンや他の機器のデジタルアシスタント機能の開発や、有害なコンテンツの発見などだ。
なかでも最も大きな原因は人材不足で、大手企業は可能な限り多くの人材を確保しようとしている。難しいAIの問題を解決するのは、「今月のおすすめアプリ」を開発するのとはわけが違う。モントリオールにある独立系研究所のエレメントAIによると、本格的なAI研究に取り組める人材は、世界全体で見ても1万人を下回るという。
カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスの学部長を務めるアンドリュー・ムーアは言う。「いま起きている状況は、社会にとって必ずしもよいものではない。しかし、企業にとっては合理的な行動だ」。ムーアは以前、グーグルで働いていた。「企業は(AIに取り組める)わずかな人材を確保しようと必死なのだ」。
2014年にグーグルは、ディーブマインドという名のAI研究所を推定6億5000万ドルで買収し、約50人を雇用した。その研究所にかかる費用にも、この問題が表れている。同社が最近イギリスで発表した年間決算によると、同研究所では人員が400人に拡大しており、その昨年度の「人件費」は1億3800万ドル(約152億円)だった。1人当たりに換算すると34万5000ドル(約3800万円)となる。
テクノロジー人材のスカウト会社、サイバー・コーダーズのジェシカ・カタニオは、「特に小さい企業の場合は、これに匹敵する額を提示するのは難しい」と話す。
大学での教育に影響も
あまりにAIの専門家が少ないので、大手テクノロジー企業は学術界からも、優秀で頭脳明晰な人材を採用している。しかし、それによってAIについて教えられる教授の数が減ってしまうということにもなる。
2015年にウーバーは、同社の自動運転車プロジェクトのために、カーネギーメロン大学の画期的なAIプログラムから40人を採用した。過去数年間で、学術界で非常に著名なAI研究者4人が、スタンフォード大学の教授職を離職、または休職した。ワシントン大学では、AIを専門とする教授20人のうち6人が、外部の企業で働くために休職、または部分的に休職している。
「学者がどんどん企業に吸い取られていく」。こう話すのはオレン・エツィオーニだ。彼はワシントン大学の教授職を休職し、非営利のアレン・インスティチュートでAI事業を監督している。
教授たちの中には、両立の方法を見つける人もいる。ワシントン大学のルーク・ツェタルマイヤーは、グーグルが運営するシアトルの研究所への誘いを断った。彼によると、そのポジションに就いていたら、現在の報酬(公開データによると18万ドル)の3倍以上の収入が得られただろうという。その代わりに、彼は大学での指導も続けられるアレン・インスティチュートのポジションを選んだ。
「こうすることを選ぶ教授も大勢いて、企業での時間と学術界での時間をさまざまな割合で分けている」とツェタルマイヤーは言う。「企業の給与のほうがずっと高いが、学者でいることを心から大切にしているから、そうするのだ」。
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年収5000万円もザラ、米AI人材のヤバい報酬
シリコンバレーでもAIがわかる人材は希少
2017年11月01日
http://toyokeizai.net/articles/-/195366
人材獲得競争で、シリコンバレーにあるスタートアップ企業は、業界の大手企業よりもこれまでつねに有利な立場にあった。就職の際に自社の株式を提供し、「会社が成功したら、その株式であなたは金持ちになれる」と言うことができたからだ。
しかし、その有利な立場も、テクノロジー業界が人工知能(AI)を取り込もうと競う中で弱まりつつある。少なくとも、AIに非常に詳しい人材に関しては――。
驚くほどの給料を支払っている
業界の大手企業は人工知能に大きく懸けており、顔認証のスマートフォンや対話型スピーカーから、医療のコンピュータ化や電気自動車まで、さまざまなものへの応用に期待を寄せている。こうした未来を描く中で、これまで最高の人材には堂々と惜しみなく大金を提供してきた大手企業も、さらに驚くほどの給与を支払い始めている。
大学で博士号を取得したばかりの人や、それほどの学歴がなく仕事の経験も数年程度の人であっても、AIの専門家であれば年間30万~50万ドル(約3300万~5500万円)、あるいはそれ以上の給与と会社の株式を手にすることができる。この数字は、大手テクノロジー企業に勤める人、あるいはそうした企業から仕事の誘いを受けた人、合計9人に話を聞いた結果得られた。9人全員が、今後のキャリアに影響しないよう匿名を希望した。
AI分野でよく知られている人々は、4~5年間の給与と株式を合計した報酬額が100万ドル台、あるいは1000万ドル台だった。どこかの時点で、彼らは契約を見直したり、交渉し直したりしている。まるで、プロのスポーツ選手のようだ。
AI人材の中でもトップに位置するのが、AIのプロジェクトを率いた経験がある人だ。グーグルは、同社の自動運転車部門の元リーダーで、2007年からグーグルに勤務していたアンソニー・レバンドウスキーが、1億2000万ドル(約132億円)以上の報酬を手にしたと、今年の訴訟の中で明らかにした。レバンドウスキーは自身が共同設立した企業がウーバーに買収されたことからウーバーに参画し、ここからウーバーとグーグルは知的所有権をめぐって法廷で争うことになった。
報酬額が急上昇しているため、なかにはAI人材にもNFL(全米フットボール連盟)方式の年収額の上限制度を設けるべきだと冗談を言う人もいる。マイクロソフトの採用担当マネジャーのクリストファー・フェルナンデスも「そんな制度があったらずっと簡単なのに」と話す。
専門家は本当に少ない
このような巨額の報酬を招く要因はいくつかある。たとえば、自動車業界は自動運転車を開発するために、必要な人材をシリコンバレーと奪い合っている。また、フェイスブックやグーグルなどの巨大テクノロジー企業は、報酬として支払える豊富な資金を持っており、AIで解決できると考えられる課題も抱えている。たとえば、スマートフォンや他の機器のデジタルアシスタント機能の開発や、有害なコンテンツの発見などだ。
なかでも最も大きな原因は人材不足で、大手企業は可能な限り多くの人材を確保しようとしている。難しいAIの問題を解決するのは、「今月のおすすめアプリ」を開発するのとはわけが違う。モントリオールにある独立系研究所のエレメントAIによると、本格的なAI研究に取り組める人材は、世界全体で見ても1万人を下回るという。
カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスの学部長を務めるアンドリュー・ムーアは言う。「いま起きている状況は、社会にとって必ずしもよいものではない。しかし、企業にとっては合理的な行動だ」。ムーアは以前、グーグルで働いていた。「企業は(AIに取り組める)わずかな人材を確保しようと必死なのだ」。
2014年にグーグルは、ディーブマインドという名のAI研究所を推定6億5000万ドルで買収し、約50人を雇用した。その研究所にかかる費用にも、この問題が表れている。同社が最近イギリスで発表した年間決算によると、同研究所では人員が400人に拡大しており、その昨年度の「人件費」は1億3800万ドル(約152億円)だった。1人当たりに換算すると34万5000ドル(約3800万円)となる。
テクノロジー人材のスカウト会社、サイバー・コーダーズのジェシカ・カタニオは、「特に小さい企業の場合は、これに匹敵する額を提示するのは難しい」と話す。
大学での教育に影響も
あまりにAIの専門家が少ないので、大手テクノロジー企業は学術界からも、優秀で頭脳明晰な人材を採用している。しかし、それによってAIについて教えられる教授の数が減ってしまうということにもなる。
2015年にウーバーは、同社の自動運転車プロジェクトのために、カーネギーメロン大学の画期的なAIプログラムから40人を採用した。過去数年間で、学術界で非常に著名なAI研究者4人が、スタンフォード大学の教授職を離職、または休職した。ワシントン大学では、AIを専門とする教授20人のうち6人が、外部の企業で働くために休職、または部分的に休職している。
「学者がどんどん企業に吸い取られていく」。こう話すのはオレン・エツィオーニだ。彼はワシントン大学の教授職を休職し、非営利のアレン・インスティチュートでAI事業を監督している。
教授たちの中には、両立の方法を見つける人もいる。ワシントン大学のルーク・ツェタルマイヤーは、グーグルが運営するシアトルの研究所への誘いを断った。彼によると、そのポジションに就いていたら、現在の報酬(公開データによると18万ドル)の3倍以上の収入が得られただろうという。その代わりに、彼は大学での指導も続けられるアレン・インスティチュートのポジションを選んだ。
「こうすることを選ぶ教授も大勢いて、企業での時間と学術界での時間をさまざまな割合で分けている」とツェタルマイヤーは言う。「企業の給与のほうがずっと高いが、学者でいることを心から大切にしているから、そうするのだ」。
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