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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

畑の文化

2008-11-06 | Weblog

キャッサバ(仏語ではマニオクmanioc)の畑に出ましたよ、と言われても、ただの草藪である。え、どれが、とよく聞いてみたら、目の前にある人の背丈ほどのひょろひょろした潅木が、キャッサバの木なのだ。確かに同じ潅木が、ぎっしりと重なりながら、藪のようになって広がっている。案内のスタッフが、一株の根元を掴んで引っこ抜くと、ダリアの球根芋を大きくしたようなキャッサバ芋が、4~5本固まって付いている。芋を折ると、真っ白い中身が瑞々しい。
「収穫したら、あとはこの枝をこう折って」と10センチほどの枝切れを作る。それを、芋掘りの後の地面に埋める。
「はい、これであとは雨を待つだけ。雨が降れば、芽が出て、6ヵ月後にはまた収穫できる。」これだけですか、耕したりはしない。「草引きは時々しますがね。」なんとも簡単な農法である。

次に野菜畑に行く。これまた、どこが畑か分からない。ただ草叢が広がっているだけ、と良く見たら、草叢の中にある一本に、ナスがぶら下がっている。その隣に、唐辛子の苗も植わって、赤く細長い実を付けている。近くには、オクラやトマトが雑草にまぎれて雑然と生えている。いくつもの種類が、混ぜこぜにして植えられているようだ。スタッフが、足元で草引きをした。雑草を取ったのかな、と思ったら、落花生の苗だった。株から根が沢山出ていて、その先に落花生の殻が一つずつ、鈴なりになって育っている。ナスの枝にからみついている蔓草がある。これは山芋の蔓です、という。雑草の中に、何もかもが折り重なっている畑。どうして、混植するのですか、と聞く。
「日照りになったり、雨が降りすぎたり、天気は分からないからね。ある野菜が駄目でも、ほかの野菜は大丈夫ということです。」
畑というと、一つの種類を畝を作って植えるものだと思い込んでいる私には、とても新鮮な発想に思えるが、これは生産効率の上から合理的なのだろうか。

アブラヤシの林に行く。蘇鉄を太くしたような幹の上のほうに、房になって果実が付く。房はサッカーボールほどの大きさ。親指ほどの赤い果実が、一房に何十個も付いており、これを集めて絞れば油が出る。油は、石鹸などの原料にする。農作業といえば、落ちてくる房を拾い集めること。アブラヤシの木が、何千本、何万本と植えられた、広大なプランテーションだ。下草は生え放題で、とくに手入れをしているようには見えない。この広さでは、こまめな手入れなどは出来ないだろう。歩き回って、ただ房を集めるだけですか、と聞く。
「そうですね、棒で引っ掛けて落すこともありますが。」
バナナでもそうだ。森の中に自然に実る果実を、ただ採集して回るだけの、のんびりした農業である。

トウモロコシ畑は、湿地混じりの緩やかな斜面にあった。緑の葉を伸ばした苗が、腰の丈くらいまで育っている。ここでも畝はなく、ただ雑然と散らかって植わっている。あるところは背が高く、別のところは背が低い。
「まず雑草を取り除くために、除草剤を撒きます。雑草が枯れ始めたら、種を蒔きます。草は枯れて、トウモロコシは育つ。トウモロコシが大きく葉を広げれば、もう日陰になって雑草は生えません。」
耕すとか、雑草取りとか、そういう手間暇はかけない。地面に起伏があるので、高いところは水が来ず、低いところは湿潤で、それぞれ苗の育ちが悪い。種を全体に蒔いて、上手く育ったところからだけ収穫できる。ブルドーザーで全体を平らにすれば、どこでも平均に収穫できていいじゃないか、と思うが、それは集約農法の固定観念なのだろう。なにしろここは、土地に余りある開拓原野なのだ。

稲田は湿地帯にあり、もう収穫した後だった。といっても、そこらここらに若い稲穂が伸びている。日本人が想像するような田圃とは、およそ異なる稲田である。畦道も代田も用水路もない。単なる湿原が広がり、雑草のように稲が生えているだけ。一部はそのまま、沼に続いている。稲は時期になるとどんどん生えて、穂が出て実るとまず刈り取る。刈り取った後や落穂から、また芽が出て、また穂が出て実ると、また刈り取る。考えてみれば、ここには秋も冬もないのだ。苗代、田植え、草取り、稲刈りと、季節とともに歳時記があるわが国からみれば、なんと呑気な話だろう。

アワさんは、私に言った。原始的でしょう、人々は農業を知らない。ここに本当の農業を導入したい。土地は肥沃だ。生産は必ずや拡大するはずだ。私は心の中で思う。確かにそうだろう。でも、そもそもコートジボワールの村の人々は、畑を耕し、畝を作り、水を引き、肥料を施し、間引きや草取りをするといった農作業についていけるのか。ここの畑の文化を見ていると、採集から耕作への、心理的な障壁があるように思える。

キャッサバ(マニオク)の畑

キャッサバ(マニオク)を抜く

野菜畑

ナスを収穫する

油椰子の林

 広がる稲田

 稲が生えている畑

 収穫された籾


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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 (地球)
2008-11-17 20:21:33
ことなる環境を印象付けるお話ですね。
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