コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

職業訓練学校の視察(1)

2009-05-21 | Weblog

私たちを出迎えてくれたのは、布で頭から足の先まで身をつつんだ道化であった。頭の上に作物と、手には弓矢や人形を持った従者たちを従えている。太鼓の激しいリズムに合わせて、地面の上ででんぐり返りをする。傍らの人が、これはカバチャ(kavacha)といって、偉い人が来たときに出迎える儀式だ、と教えてくれる。

偉い人とは、他ならぬ私たちのことである。ここは、フェルケセドゥグ(Ferkessédougou)、つまりコートジボワールの最北部、ブルキナファソとの国境近くの町である。私は、ドッソ技術教育・職業訓練相や、他の大使たちと一緒に、代表団を組んでこの町を訪れている。目的は、職業訓練学校の視察である。

話は半年前にさかのぼる。あるレセプションで、ちょっと日本大使と話がしたいといって近づいてきた大臣がいた。ドッソ大臣であった。会場では落ち着かないので、改めて私から大臣の役所に出向きましょう、といって別れた。後日、大臣の執務室を訪れたら、大臣から私に、次のような事情について説明があり、日本に協力してもらえないか、ということであった。

「コートジボワールには、職業訓練学校が全国にあり、機械工や左官、電気技師などの、幅広い分野での職人を育てています。こうした学校は、青年たちの手に職をつけて、付加価値の高い職業に就職できるようにするだけでなく、地元の経済の需要に応じた人材育成を行っていくために、とても重要です。ところが、そうした訓練学校になくてはならない実習機材が、すでに老朽化して使えなくなっており、あるいは建物や設備が不足しているという問題を抱えています。学生たちは、授業で知識を得ることは出来ても、実習を通じて技術を向上させることが出来ないのです。」

そうした職業訓練学校をふたたび蘇えらせ、腕利きの職人たちを沢山生み出せるようになれば、国家の復興にも力になるだろう。大臣は続ける。
「職業訓練の強化は、別の面からも重要なのです。この間までの紛争で従軍していた、多くの兵士や民兵たちが、軍服を脱いで市民生活に戻りたいと考えています。しかし、手に職も無くただ村に戻れといっても、たいへん難しいのです。多くの兵士たちは、基礎教育や職業訓練の機会が得られないまま青年時代をすごした若者たちです。国として、職業訓練学校をつかって、こうした旧兵士たちの社会復帰を助けていこうと考えています。」

職業訓練学校への協力、それは経済・社会支援というだけでなく、今のコートジボワールの平和復帰を支援することになる。若者を対象とする支援ということで、日本が手をつけやすい分野、日本の顔を見せやすい案件である。日本国民も、なぜ日本が乗り出すのか、その意味を理解してくれるだろう。これは有意義な話だ、というのが私の直感である。

何より、この協力案件を持ってきたドッソ大臣が面白い。彼は、なんと北部側の人間。それも、この間まで反乱軍であった「新勢力」の幹事長をしていた人である。ワガドゥグ合意で、南北合同の暫定政権が出来、彼は大臣として入閣した。それだけではなく、とにかく頭が切れて活動的、合理主義の能吏であると、外交官の間でも評判が高い人物である。

「日本という国に、期待をかけています。お金がありそうだからというのじゃない。日本は、資源も無いのに世界第二の経済大国だ。これは、教育や技術力で国を導いてきたからだ、とコートジボワールの誰もが知っており、大変な敬意を払っています。職業訓練学校の復興は、そういう日本という国にこそ、手伝ってほしい、と考えます。」
ドッソ大臣にそう言われると、私は改めて向き直る。よろしい、ひとつ検討してみようではないか。私をまず連れて行きなさい、その職業訓練学校に。

お互いの日程が合わなくて、視察旅行はなかなか実現しなかった。ドッソ大臣は、その間も私に熱心に働きかけてきた。3月の日本映画祭には、開会式に自らやってきて、山田洋次監督の「学校」を最後まで見てくれた。こういうところは、やはりドッソ大臣は心憎いばかりである。この大臣のために、何かしないわけにはいかない、とこうなる。

この度やっと調整がついて、ドッソ大臣と一緒に、全国各地を1週間かけてまわることになった。この半年の間に話が広がって、スペイン大使とノルウェー大使も、チームに加わっている。世界銀行の代表も参加しているのは、この分野での開発協力に世銀も関心があるのだ。そして職業訓練学校への支援計画を練り上げるために、国連工業開発機関(UNIDO)など国連の諸機関も代表を送ってきた。総勢30名を越える代表団になっている。

そういうわけで、私たちの職業訓練学校視察の旅がはじまった。一行が、フェルケセドゥグの職業訓練学校に到着すると、学校の生徒たちや先生たち、それに地域の顔役たちや住民たちが、学校の校庭にテントを建てて、歓迎式典を用意してくれていた。この視察は、私にとっては赴任後はじめて、コートジボワールの北部地域を訪れる旅ともなっている。

(続く)

 フェルケセドゥグ職業訓練学校の学生たち
手前は、ドッソ技術教育・職業訓練相

 職業訓練学校の女学生たち

 カバチャ登場

 カバチャの従者たち

 カバチャの踊り

 カバチャの踊り

 フェルケセドゥグ市長の挨拶


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