コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

子供にやさしい協力

2009-02-07 | Weblog
トーゴを再び訪れた。トーゴの小学校の建設と修復、診療所の設備の向上を、国連児童基金(UNICEF)が進めていくという協力計画に、日本政府が出資することになった。その合意を正式に行うために、日本政府を代表して私が、マコーリーUNICEFトーゴ代表との間で、合意書に署名して交換する式典を行う。

UNICEFの作ったこの協力計画は、「子供にやさしい(child-friendly)環境作り」と題されている。総額約4億6千万円の資金を日本が出し、小学校については18校を建設、42校の建物を修復、診療所については60ヶ所の設備の向上を内容とする。この協力計画は、トーゴの北から南まで、広い地域にわたって展開される。日本の協力が全国にあまねく知られることになる。

トーゴの田舎では、小学校の建物も伝統的な村落の家々と同じ建築である。つまり、泥壁に藁葺きの建物なので、大雨が降るとたちまち雨漏りがし、壁も崩れてひどい状態になる。おまけに、一昨年(2007年)にトーゴ中部を襲った洪水は、多くの小学校の建物を壊してしまった。多くの児童が、ぼろぼろの校舎で勉強している。もっと落ち着いて勉強できる教室を、子供たちに提供しようというものだ。

また、診療所も医療設備が全く不十分であり、貧困の中で子供が病気になると、たちまち命に関わる。100人の新生児のうち、6人は1歳になるまでに死ぬ。10人に1人は5歳の誕生日を迎えられない。妊婦1000人のうち、5人は出産時に死亡する。エイズ・ウイルスに感染した子供(14歳以下)は、全国に1万人いると推定されている。だから、診療所の医療設備を整える、それも基本的な施設を整えてやるだけで、多くの子供たちや母親の命が救われる。

トーゴの首相府で行われた署名式を終えて、私はマコーリーUNICEF代表と一緒に昼食をとる。私は彼女に、案件の表題につけられた「子供にやさしい」というのは何ですか、子供を対象とした案件という意味ですか、と聞く。
「この概念は、UNICEFの中で以前から取り上げられているものです。子供がほんとうに歓迎する施設、ほんとうに望んでいる支援を、提供しなければならないということです。」
彼女の説明では、案件を作り上げていく過程で、子供の声を聞いて、子供の考えを取り入れることも考える、という。
「フィリピンやペルーの診療所建設で試みたところ、当初考えていた診療所とはずいぶん違ったものが出来ました。子供にとっては、診療所は怖いところでした。それを、待合室を広く明るく、集会場のように寛げる場所にするべきだ、ということになりました。机を低くして、威圧感がないようにするといった工夫もしました。」

聞きながら私は、ちょっと違うんじゃないかな、と思う。トーゴの子供たちは、雨が降っても授業を中断しなくてもいい校舎になるだけで、嬉しいと思うだろう。診療所は、治療できる場所になるだけで大きな前進なのであって、遊園地になる必要はない。「子供にやさしい」という哲学が一人歩きする、ということはないか。私はマコーリー代表に言う。
「コソボで、UNICEFとの間でこういうことがありました。校舎を建設しようとしたら、UNICEFが“欧州基準”を持ち出して、事実上、案件実施の足を引っ張ってきた。困難に直面する現場の必要から見て、ニューヨーク本部のオフィスでの理想論が的外れになっているということが、得てしてありますよ。」

私がコソボに行ったとき、村々の小学校はミロシェビッチの軍隊により、徹底的に破壊されていた。学期が始まっても、校舎がない。そこで、日本の支援で、UNICEFを通じて校舎を建て直そうとした。UNICEFは、建設する校舎は「欧州基準」を満たさなければならない、と主張した。生徒一人あたりの床面積は最低何平米。教職員の休憩室の整備。防音と日照の確保。冷暖房の完備。モデル校舎の設計図を見せられた。ガラス張りの六角形の教室が並んでいる。コソボの子供たちには、とにかく授業ができる場所が必要だった。人々は、少しでも多くの学校を、一日も早く復旧したいと言った。ガラス張りのサンルーフ付では、1校建てるだけで、3~4校分の予算が吹っ飛ぶ。電気のまともに来ないコソボで、冷房はほとんど意味がないだろう。

マコーリー代表は、自分もながくアフリカ各地で勤務してきた、本部で考えることが現場の必要に全然適合していない、ということを、自分自身でも多く経験している、と述べつつ、次のように言う。
「しかし、これだけは常に重要です。現地の人々がほんとうに必要だと考えるものが何かを把握しようとする姿勢です。決してこちらの思い込みで案件を進めてはいけない。子供にとって本当に何が必要かを考えなければならない。それが、“子供にやさしい”という表題の真意でしょう。」

そういうことなら、「子供にやさしい」という視点は、受益者の人々の求めるものに即した協力を作り上げる鍵となりうる。トーゴの人々が必要としているものが、きちんと実現してこそ、末永く大事に使ってもらえる。学校建設や診療所の整備は、これから半年から一年のうちに、どんどん仕上がっていく予定である。出来上がれば、そのうちのいくつかを訪れてみよう。今から楽しみである。

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