yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

味噌蔵・・・3

2007-10-22 00:16:06 | 創作の小部屋
new_bikan.jpg

img56318be3c9spqo.jpg
 

倉子城物語

      味噌蔵



 将棋は奈良、平安の頃に中国から流れてきた遊びであった。大きさもまちまちで、今の形態になったのは江戸時代である。が、名人、王将などという位はなかった。 江戸時代に、将棋を支配していたのは、大橋、大橋西、伊藤という流派で、幕府の庇護の元、大名、武士、裕福な商人に教えていた。将棋好きは三家の何れかの門下生であった。庶民は見様見真似で覚えた将棋で賭けをしていた。

 中には、家名を賭けての将棋対局、一門の名誉を賭けての三家の対局、色々と将棋で決めることが多かったのだ。大橋、大橋西、伊藤の力は大きかったのだ。

 櫻井は幼い頃より伊藤に学んだ門下生であった。空き地に線を引いて覚えた将棋ではない。商人が商談を兼ての手慰みでもなかったから、櫻井にかなうものはいなかった。

「倉子城には指し手がおらんのう」と櫻井は嘯いた。

 名うての将棋指しが苦もなく駒を投げた。


「おやじ、誰かつえい者はいねえかい?」

 と嘉平に髷を結って貰い乍ら薬問屋の林不一が言った。

「旦那はどうだったんです」

「五十手も保たなかった」

「旦那が相手でもね、そりゃあたいしたもんだ」

 嘉平は感心したように言った。日頃の人を見下す姿勢はなかった。

「あの高くなった鼻をへし折ってくれれば百両出してもいい」

 林は負けたことが悔しいのか、言葉に忌ま忌ましさを乗せて言った。

「船倉に甚六という男がいますが、なかなかの指し手だと睨んでおりますが・・・」

「甚六、あの賭け将棋ばかりしている奴か、あいつは駄目だ」

「知っていなさるんで・・・」

「ああ、甚六に勝った奴が盤の前に座ったが三十手も持たなかった」

「へえ、そうですかい、それじゃああっしにや心当たりはありませんやぁ」

「何でも甚六は金が賭けると滅法強くなる・・・と言うことは聞いたが・・・」

「旦那、甚六は根っからの人足ではありませんな。なにか訳が・・・。将棋好きが名乗り出ないのも妙なものですよ」

 嘉平は桂馬を飛ばした。

「うん、たしかに、どうにかして代官の前に座らせたいな」

 林は王の頭に歩を指したような言い方をした。

「金のためには指すかも知れませんょ」

「うん、金の薬を盛るか」林らしい言葉が出た。

「百両お出しになるんですね」と嘉平は林に詰め寄った。

 林は大きく頷いた。

「決まった。それじゃ、嘉平が段取りをつけてくれるのですな」

「へい、金の中は取りませんが、なんとか甚六を・・・。備中が江戸に虚仮にされたんじゃあ腹の虫が納まりませんからな」

「それじゃあ、頼みましたょ」林は一見好々爺のように見えるが強かな男だった。

「へい」帰って行く林を見送りながら、あのけちがよくもと思った。

 林の話に嘉平が乗ったのは、櫻井の日頃の横柄な態度が気に喰わなかった事と、林から百両出させて鼻をあかしてやりていと言う、両方の気持ちが動いたからだった。

 こうなりゃ、どうしても甚六に代官と勝負をさせなくちゃいけねえ。指せるだけでなく勝たせなくてはならない。嘉平は思案にくれた。


hyakusen1.jpg

皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
らくちんランプ
K.t1579の雑記帳さん
ちぎれ雲さん