yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

瀬戸の夕凪 6 完結

2007-10-13 16:24:51 | 創作の小部屋
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倉子城物語
  瀬戸の夕凪


 嘉平の店に作兵衛が尋ねてきたのはそれから半月ほどしてであった。

「このあしに何か御用で、親方に何度も脚を運んで頂いて・・・。西に行ってやしたもので・・・申し訳ありやせん」

 作兵衛は丁寧に頭を下げ挨拶をした。

 まだ若いが、一つのものを極めた者が持つ風格があった。鋭い鷹のような目の奥に優しい輝きがあった。

「これを返してくれと頼まれたもので・・・」

 嘉平は奥へ入り大切に仕舞ってあったおさよから預かった簪を持って来て、作兵衛の前に出して言った。そして、作兵衛の仕草を見詰めた。

「この代金は頂いてやす」

 きっぱりと言ったが、指先が震えていた。

「この簪を持って来たお人のことは尋ねないのかい」

 嘉平は少し意地悪を言った。

「関係が御座んせん。その人に言っておくんなせい。この簪は、ひと鏨ひと鏨この簪を挿す人の幸せを願って打ちやした。・・・幸せになっておくんなせいと・・・」
「おめいさん、本当にそのお人の幸せを考えるなら、職人としてそこまでやてはいけないね・・・」

「ええ!」作兵衛は俯いていた顔をあげた。

「この簪を挿すお人のことを考えたら、この簪には魂を入れちゃあいけなかったのではありますまいか。この簪を挿すお人はどんな思いで挿せばいい・・・。おめいさんは恨みでもあるのかい」

「ああ」何かに気が付いたように作兵衛は声をあげた。「ここはこの私に任せてはくれないかい」

 作兵衛はうな垂れて耐えていた。

「何もかも捨てて、風の頼りでおめいさんが倉子城にいると聞いて訪ねて来たおさよさん。簪を挿そうとしても挿せなかった辛さ、この鴛鴦、もう帰るところなんかありませんからね」


 今、この簪は倉子城のある家の箪笥の中に大切に仕舞われている。


皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

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環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
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太鼓橋 8 完結

2007-10-13 01:28:43 | 創作の小部屋
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倉子城物語
太鼓橋(たいこばし)


 8

「嘉平さんは器用なお人だったね」
 お鹿は嘉平が倉敷でいろいろな仕事をしながら床屋を開いたことを言った。
「知らぬ土地に来て西も東もわかりゃあしない・・・川人足から船頭、魚屋、大工となんでもやったよ」
「そんなお人が床屋をね・・・」
「おたねが大店で下働きをしていたときに習っていたらしい・・・」
「おたねさんがね・・・それは・・・」
「疑っているのかい」
「うちが本町の空き家の世話をして・・・」
「店を持ったのは十五年前・・・」
「真面目に働いて繁盛し村人からも信用され・・・今じゃ町火消しの頭領までに出世した・・・」
「みんなお鹿さんのおかげだよ」
「嘉平さんの人柄だわよ・・・似合いの仲の良い夫婦床屋と・・・」
「これから時代も変わるよ・・・江戸幕府は屋台骨がぐらぐらし始めている・・・薩長が勢いを付けてきて・・・」
「また戦いかい」
「代官も高杉晋作が作った芸周口の岩城山の南奇兵隊への見回りに出かける日が多くなっているよ」
「そう言うと嘉平さんも時々倉子城を留守にするらしいね・・・」
「何が言いてんでえ」
「止めとくよ・・・野暮なこった」
「あっしゃ、ただの床屋の嘉平・・・」
「おたねさんをそのままにしていてはいけないよ・・・なにもかも水に流して本当の夫婦になって子供を作りここに根を張らなくては・・・」
「お鹿さんにはかなわねえよ・・・雨が上がった様だ・・・そろそろ、邪魔をしたな」

 その頃おたねは汐入川にかかる太鼓橋の上から川面に映る姿を眺めていた。
おたねは一度嘉平にどうして抱いてくれないのかと聞いたことがあった。
「人殺しの子を産ます訳にはいかないよ」
「だってそれは私を助けるために・・・」
「どんな訳があろうと人を殺めちゃいけねえものさ・・・それに、いいやこれだけは幾らおたねにも言えねえことだ」
 嘉平は苦しそうに言った。
 それからおたねは世間には夫婦を装い兄妹の様な暮らしを続けてきたのだった。

 太鼓橋で川面に映る姿を眺めている所へ嘉平が帰ってきた。
「濡れなかった」
 おたねは聞いた。
「おたね、今まで悪かった・・・なにもかも捨てて・・・その上に心に有る秘密も捨てて今日から本当の夫婦になろう」
 嘉平は少しくぐもった声で言った。

 嘉平にどのような秘密があるのかそんなことはどうでもいいおたねは体を熱くしていた。

 嘉平とおたねがその後どうなったか・・・。

 今倉敷川沿いの大原美術館の側にある太鼓橋は男女の出会い橋としてこの町では言い伝
 えられている。橋の下を二羽の白鳥が仲良く泳いでいる姿が見られる・・・。


皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

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あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

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