倉子城物語
瀬戸の夕凪
6
嘉平の店に作兵衛が尋ねてきたのはそれから半月ほどしてであった。
「このあしに何か御用で、親方に何度も脚を運んで頂いて・・・。西に行ってやしたもので・・・申し訳ありやせん」
作兵衛は丁寧に頭を下げ挨拶をした。
まだ若いが、一つのものを極めた者が持つ風格があった。鋭い鷹のような目の奥に優しい輝きがあった。
「これを返してくれと頼まれたもので・・・」
嘉平は奥へ入り大切に仕舞ってあったおさよから預かった簪を持って来て、作兵衛の前に出して言った。そして、作兵衛の仕草を見詰めた。
「この代金は頂いてやす」
きっぱりと言ったが、指先が震えていた。
「この簪を持って来たお人のことは尋ねないのかい」
嘉平は少し意地悪を言った。
「関係が御座んせん。その人に言っておくんなせい。この簪は、ひと鏨ひと鏨この簪を挿す人の幸せを願って打ちやした。・・・幸せになっておくんなせいと・・・」
「おめいさん、本当にそのお人の幸せを考えるなら、職人としてそこまでやてはいけないね・・・」
「ええ!」作兵衛は俯いていた顔をあげた。
「この簪を挿すお人のことを考えたら、この簪には魂を入れちゃあいけなかったのではありますまいか。この簪を挿すお人はどんな思いで挿せばいい・・・。おめいさんは恨みでもあるのかい」
「ああ」何かに気が付いたように作兵衛は声をあげた。「ここはこの私に任せてはくれないかい」
作兵衛はうな垂れて耐えていた。
「何もかも捨てて、風の頼りでおめいさんが倉子城にいると聞いて訪ねて来たおさよさん。簪を挿そうとしても挿せなかった辛さ、この鴛鴦、もう帰るところなんかありませんからね」
今、この簪は倉子城のある家の箪笥の中に大切に仕舞われている。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
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