yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

瀬戸の夕凪 2

2007-10-07 17:51:42 | 創作の小部屋
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倉子城物語
  瀬戸の夕凪


 江戸時代、この村は床屋が火消しの役を兼ねていたから、人の出入り、細々とした噂も沢山集まった。嘉平の頭の中には、倉子城村の総ての人の事情が入っていた。誰がどのような暮らしをして、何処に住んでいるということも知っていた。道筋、路地の幅、天水桶の場所、家並みと、生き字引であった。

「はるばるこの倉子城に来て病に・・・」と聞けば放っておく事は出来ない。嘉平は縄文顔の四十を少し過ぎた男であった。備中の人には稀な人情家でもあった。

 話を聞くと、嘉平はじっとしておれず、何度か尋ねて面倒を見た。事情を尋ねたが、訳を言わなかった。

「作兵衛と言う人を尋ねてまいりました」

 おさよは嘉平の親切が本物だということが分かったのか、ぽつりと頬を赤らめて言った。やつれて頬が少し窪んでいた。

「作兵衛!」と返して考えたが、嘉平の記憶にはその名はなかった。

「この半年くらい前から、流れ者がどこかへ住みついたって話は聞かねえかい」

 嘉平は髭をあたりながら船倉の川人足の甚六に聞いた。

 甚六は仕事のない時には賭け将棋をして小遣い銭を稼いでいるという男だ。一年くらい前にどこからか流れつき、居心地がいいのか腰を落ち着けていた。筋の張り方で元は武士であると嘉平はにらんでいた。

「聞かねえょ。あんたが知らねえのに誰も知るめいよ」甚六はそう言って、

「今度の代官は飯より将棋が好きだということだが、本当かい」と問った。

「らしいな、なんでも倉子城村の名うての将棋指しを集めて大会をやるって噂があるんだが、おめいも出てみる気はねえか」

「あっしなんかその資格はねえょ、それに肩の凝ることは御免だからな。・・・ああ、さっきの話だが、この前四十瀬の土手で・・・」

 甚六は思い出したように言った。

「おい、それから・・・」嘉平は急いだ。

「擦れ違った男だが、旅の男ではねぇ、・・・何か匂った・・・」

「それをなんで早くいわねぇんだょ、それで・・・」

「焼けるような・・・鍛冶屋じゃねぇ。この村の人ではねぇ」

「四十瀬か」と、何かを思いだそうとしているのか、少し手を止めた。

 行ってみるか、嘉平は何でもいい糸口が欲しかった。

 おさよのことを思うと、じっとしている自分がいたたまれなかった。


皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

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