遠いいこえ
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逢沢は育子の義母と同化した義憤が創作への原動力に変わっていくのを羨ましく思えた。そこには、作者の必然が波打っていたからだった。
「いい作品にきっとなるよ。期待している。私のことなど忘れて戦時下へタイムスリップして子供達の瞳の輝きを書き上げてほしいんだ」
「今、各国で沢山の子供達が食料危機や自然の淘汰の前で、また戦争で尊い命を落としているわ。どうしてその子等の命を救えないの、助け合おうとしないの。日本が敗戦して母さんと母親が何を一番にしたかは、進駐軍に子供達への学校給食に力を貸してほしいという嘆願だったと聞いたわ。その貧困を経験している日本がどうして一番になって手貸し手を差し伸べようとしないの」
育子は腹立たしく言葉をそこら中に播き散らした。
「その通りじゃ。子供らは飢えに苦しみ、目だけをギョロギョロとさせ、痩せこけて、腹の辺りだけが異様に脹くらんどったものじゃ。それらを知っとるこの国の国民がせんで誰が出来るというのじゃ。今のこの国にはそれが出来る。嘗てアメリカ軍が施してくれた脱脂乳とコッペパン、それでどれだけの子供達が飢えから救われたか愚かなこの国の国民は忘れたのじゃろうか・・・」
房江の声が障子の外でした。
「かあさん、何時からそこえ・・・」
育子は声を弾ませて言った。
「雄吉さん、育子さん、私はボケようとしたがボケられなんだ。ボケられたらなんぼか楽じゃろうと考えたんじゃが・・・・。そんなことで私がして来たことが心の中から消えるものではないって事がわかったから・・・。育子さん、明日から忙しくなるぞ、私の腹にあることをこの手で掴み出してぶち播けるからな。耳も目も使い過ぎて多少くたびれとるが、頭ははっきりしとる。『あの瞳の輝き永遠に』とか言う物語を、この私の生きてきた道、よたよたしながら転んだり躓いたりして通った道を、育子さんと遡ろうかね」
「ええ、母さん。本当の生きた言葉で綴りたいわ」
「義母さん、どうぞ入ってください」
逢沢の周囲に立ち籠めていた空気が何だか暖かくなったように思えた。その一方で、房江の抑制が外れたのだろうか、これからが本当の意味でのボケの始まりになるのだろうか、ふと逢沢の心の隅に生まれた不安は否めなかった。それをそーと隠すように頬を少し緩めた。
愛読下さいましてありがとうございました・・・この作品は「となり」の続編です・・・。
フリーページにありますから合わせて読んでいただけたらと・・・。
今日から夏休みを頂きます・・・。なにかあったら更新します・・・。
その間に書かなくてはならないものを書き進める予定・・・。
暑さに負けずに健やかにお過ごし下さい・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。
恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
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山口小夜著「青木学院物語」
作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん
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環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
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